シングルマン (字幕版)
コリン・ファース
2013-11-26




総合評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️
脚本 ⭐️⭐️⭐️⭐️
配役 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
演出 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
映像 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
音楽 ⭐️⭐️⭐️

 

孤独な雰囲気にどうも惹かれて、コリン・ファースのシングルマンを観ました。

コリン・ファースといえば、「高慢と偏見」ではイギリスの資産家、イギリス王のスピーチでは王様役を演じたイギリス紳士を体現するかのような俳優に見えます。180cm以上ある長身にピシッとしたスーツ、メガネを合わせると、典型的な格好良い顔立ちではない気がしますが、独特の色気がある気がします。

父親が歴史学の教授、母親が大学講師という知的な家系に生まれた品の良さがあるのかもしれません。シングルマンでは、そんな彼が同性愛者の大学教授を演じています。実際には、コリン・ファースには子供もいて結婚もしています。



この映画の監督トム・フォードは、グッチやイヴ・サンローランで活躍したファッション・デザイナー。

そのため、登場人物達の衣装は完璧で美しいです。監督が同性愛者なので、どうみても女性より男性が美しく描かれています。

彼と恋人の出来事を映画にしたそうですが、悲しい別れから、この監督は何を表現したのか。



突然の交通事故で同性パートナーを亡くし孤独になった主人公は、近所の家族連れをトイレの窓の隙間から彼はいつも覗き見ています。

しかも、向こうの家族には気づかれてしまっているのか、主人公はその家族から繰り返しディナーに誘われていましたが、一度も参加していないようでした。なんだか惨めです。

主人公は、スコッチを飲み、うつうつとし、拳銃を買い、身辺整理をすると、繰り返し自殺を試みています。うつの演技が、表情乏しく動作も緩慢でぼんやりとしていて、なぜかリアルでした。



「今日1日を生き抜け」とそんな主人公が自分を励まし、一日一日をかつかつ生き延びる姿に胸を打たれました。

こんな悲しみの中で混乱した時期に見舞われ、強く死にたいと思ったことのある人も、厚生省の平成20年の調査によると、日本では1800人の男女のうち19%いたように、5人に1人には響くのかもしれません。

女性に多く(実際に自殺するのは男性が多い)、20-30歳代の希死念慮が多いですが、40-50代男性の自殺もは、日本でも多いです。どうにか乗り切ることを祈る時期もありますが、酒を好む日本のお父さんを眺めていると、危ない時期なのだと感じることもあります。

このまま主人公も自殺してしまうのでしょうか。それとも、女性か男性の恋人ができて立ち直るのでしょうか。予想を軽く逸らした結末に洒落た印象すら受けました。



主人公は、一流大学からの引き抜きを断り三流大学の大学教授として建築家の男性パートナーと暮らしていましたが、突然のパートナーとの別れを迎えて、死にたくなってしまいます。

女性とも付き合う努力をしたことはあり、女性から愛されましたが、別れて男性パートナーと付き合い始め、主人公は本来の自分で居られる安らぎ感じていました。また、2匹の犬を飼っていました。

しかし、ある日突然、犬達を連れて帰郷したパートナーが、雪道で交通事故を起こし即死したのだという、親族からの連絡が入ります。パートナーの家族は、同性愛者の主人公に、息子の死の連絡すら許さず、2人の関係を知る親族がそっと連絡をくれたのでした。

同性愛者である主人公は、息子の葬式への参列することを認められませんでした。問い合わせても、犬の行方も分かりません。

パートナーや犬達とお別れする機会がなく、情報不足のなか喪失体験をした主人公は、悲嘆反応が正常に進みません。亡くなった現場を想像し続け、妄想の世界に入り浸っています。失恋のうつ状態から抜け出せず、主人公は、酒を飲み自殺未遂を試み始めます。

なお、自分のスーツに「ネクタイはウィンザーノットで」と遺書をしたためるのが、ファッションデザイナーの監督らしい、と感じました。

様々なイベントから受ける精神的ストレスを点数化した人もいましたが、配偶者の死が最高のストレスだったはずです。しかも、突然の別れは、人を酷く傷つけるとか。さらに、主人公は、遺族からの偏見にさらされ、配偶者の死に直面化できない状況にいました。ダメージが大きくても不思議はありません。



この主人公は、誰からも愛されない人ではなく、周りから愛されていても、その愛情にすら戸惑い、失恋から抜け出せずにいました。

元彼女で別れて他の人と結婚して離婚した今は友人の女性からも、復縁を迫る電話がかかってきては、一緒にダンスを踊ったりして、主人公は自殺を思い留まっていました。

心配した若くて美しい男子学生は、教授の自宅を秘書から探り、裸になり主人公に迫ったので、主人公は惹かれて戸惑ってしまいます。次の恋に踏み出せないながらも、自殺を思い留まっていました。

主人公も、街でスペイン系の俳優の卵をナンパしてみたり、どうにか抜け出そうともがいていました。しかし、若い美青年から新しい恋に誘われても、やはり主人公は次に移れません。



描かれているのは、トラウマかもしれない、と思いました。

些細な物音に過剰に驚く姿に過覚醒を見出し、生徒からの質問もスルーする不注意にノルアドレナリンやドパミンが狂ってしまったのだろう、と察しました。喫煙・飲酒に加え、過去の薬物乱用による幻覚妄想で眉毛を剃り落としたという主人公のエピソードも気になりました。

もう戻れない過去に戻りたくてたまらないことが、主人公の過去への回想から伝わってきます。

主人公は、引っかかっている過去に向き合い乗り切ることができるのでしょうか。それとも、彼に会うため自殺してしまうのでしょうか。



主人公は、2人に生かされて、どうにか自殺をせずハッピーエンドを迎えます。

ただ、この映画のハッピーエンドは、普通の映画のように明るくほのぼのしたものではありません。最後まで暗い映画です。

心臓発作を起こした主人公が、誰にも気付かれず、傍で男子学生がスヤスヤ眠るなか、生きたくて苦しみながら息をひきとるリアルな結末。パートナーの死によるストレスから抜け出せそうな矢先、生活習慣病で逝去というのはリアルでした。ストレスを受けた人には心疾患も少なくないという話も耳にします。

映画には描かれていませんが、主人公の願いは恋しいパートナーに会うことですから、自殺は失敗しましたが、病死するラストも実はパートナーに再会できるハッピーエンドなのかもしれません。

主人公は、あれほど死んだ恋人を悼み死のうとしていたにもかかわらず、最後は自分に好意を寄せる若い男子学生に助けを求めながら気付かれず亡くなるのです。そこに、生と死の葛藤を最後まで感じました。

複雑なラストは、後味が悪いものの、予想の僅かに斜め上をいく展開でした。



自殺における、人生に潜む一瞬の闇の怖さにも共感できるストーリーでした。

人が生きるのも死ぬのも、長い人生の中の、ある日の、ほんの一瞬で決まるものだと捉えています。その瞬間に、思い留まることができるかどうか、に命はかかっているのではないでしょうか。

大袈裟な手当や感情表現は必要なく、ただ呼び出されたり連絡がついたり側にいるだけで良いのかもしれません。誰もいない場合、切迫した自称行為が続く場合、薬で鎮静されたり、入院させられたりして乗り切る人もいます。

ささやかな人と人とのふれあいが偶然おきるなかで、自殺未遂の成否が別れるのだ、と理解しています。

だから、この映画で描かれる主人公の命の儚さにリアリティを感じてしまいました。



自殺対策に必要なことは何でしょうか。

まず、人との繋がりを大事だと思いました。希死念慮のある人を繰り返し訪問したり、連絡を入れたりする人がいるだけでも、助けを求めない自殺志願者も含めて生き延びることができるのでは、と思います。孤独を和らげるだけでも、様々な効果があると言われています。

また、快楽物質を求め過ぎることを控えることも大事ではないかと思いました。新しい恋愛がなくても、友人達と生き延びればよいのです。ただ、穏やかな友人関係ではなく興奮する快楽物質をもたらす恋愛を追求してしまう主人公は、お酒、タバコ、薬物と快楽を求めてしまうようでした。

特にお酒を飲んでいる時の自殺率は数十倍高くなるといいますから、主人公は、うつ状態の時に飲まない方が良いと考えてしまいました。

さらに、メンタルのクリニックやカウンセリング、循環器内科の定期健診に行けば、主人公は死なずに次の恋に移れたのではないか、と考えました。とはいえ、セルフケアが出来ない自殺志願者を病院へ連れて行くことは至難の技で、自殺を選ぶのも本人の自由だと考える人すらいます。

大学の授業中にあれほど注意散漫なら、生徒の授業アンケートでも大学がとっていれば、様子がおかしいと気付けたのではないでしょうか。大学に産業医がいるなら受診を勧めたら良かった、と思いました。

自殺を思い留めた2人も、洒落た人達なので、受診を勧めたりしません。お酒が好きな仲間なので、お酒を控えるような野暮なことも誰もいい出しません。亡くなったパートナーのため、タバコを禁煙していたのは、主人公の意志でした。

専門家を頼れないプライドの高さも、うつを難治化させているのかもしれません。眠れていないなら、お酒以外の処方薬を使えるとよいですが、難しそうでした。

飲んでしまうなら、影響を減らしたり、辞め方を学んだりするため専門病院を受診すればよい、と思いますが、お洒落な映画には、そんなところは一切描かれておらず、少し残念でした。



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