罠の戦争 ファイル
ノーブランド品




草彅剛さんの戦争シリーズが懐かしかったです。

初めは、銭の戦争という、私の大好きな俳優パク・シニャンが主演をしていた韓国ドラマのリメイクでしたが、政治を舞台にした罠の戦争はオリジナル作品でしょうか。面白かったです。政治のブラックな世界のドロドロした話でしたが、観賞後の気分も悪くならない良い脚本でした。

何より、酔っ払って保護されてしまったこともある草彅剛さんだからこそ、この役を演じられるとハマるな、と思いました。ただ、権力依存はお酒より、違法薬物よりも依存性が高いといいますから、この脚本のようにあっさりと回復などしないものかもしれず、少し認識が甘いのかな、と思いました。

今は解散したSMAPは大人気で、木村拓哉派か稲垣吾郎派かに分かれる中高生だった私は、休憩時間にキャッキャとアイドルの見た目に興奮して騒いでいて、草彅さんの魅力に気付けませんでした。40代になると、演技派で努力家の草彅剛さんの才能に魅力を感じています。



誠実で有能な政策秘書、鷲津は、息子が事件に巻き込まれ意識不明になったことを機に、政治家に隠蔽された事件の真相解明を目指し、自ら支えた国会議員を裏切り、その選挙区から国政に出馬します。

国会議員になると、犯人を探し出し、息子の事件を隠蔽した政治家を辞職に追い込み、意識不明の息子は目を覚まします。そこまでは、ハッピーエンドに見えました。

しかし、政治の世界はヤクザな世界でした。出馬の際、市議に渡すよう指示され従った裏金を当選後に刑務所へ送ると脅されてしまいます。悪いことをあえてさせて、それをネタに自分へ従わせていました。

いつ罠に嵌められ首を切られるかわからない恐怖のなか、彼は権力に依存し始めてしまいます。人を助けられる快感が権力という解釈が目から鱗でした。医療従事者や司法関係者、忙しくて離婚率が高い仕事は社会的地位が高く、権力を伴うのでしょう。

総理に呼ばれたからという正当化で仲間や家族の話をきかなくなり、人への感謝を忘れ物のように扱い、相談者を専門外だからなどと理由をつけ正当化して選び始め、自分に尽くしてくれた部下の首を簡単に切り、罪を部下になすりつけようとし責任を放棄し、友人に罵声を浴びせ裏切るようになっていきます。

遂には、妻から離婚を切り出され、息子とは会えなくなってしまいました。最期は素敵な再開で幕を閉じていましたが、現実的には、そんなに簡単にこの人が権力に依存する体質は変わらず、一生つきあうものだろう、と考えました。



政治の世界が描かれていて、現実の世界の政治をどこまで反映しているかは謎でしたが、そんな世界なのかもしれないと思いました。

新米秘書の眞人が、友人に選挙前に300円代の牛丼を奢ったことで、落選の危機に見舞われていました。眞人を「切ろう」と講演会会長に言われて、彼は走り去り、戻ってこないものと考えられていました。しかし、友人達を訪ね、奢った費用を再度回収して回り戻ってきていました。

「切るぞ」という台詞。大昔、政治関連の世界に関わった際、言われたことがあるな、と懐かしさすら覚えました。業界用語だったのでしょうか。そう言われても、上司を信じて戻ってこれる眞人は、意外と情に熱いと思いました。

鷲津さんやその部下達、人のために権力を使うため権力を大きくするという大義名分のため、どんな非道徳的行動であってもしていて、マキャベリズムのようだ、と思ってしまいました。そんな人が、適応しやすい環境なのでしょうか。嫌がらせのビラ、スパイ行為、闇献金、ハラスメントだらけでした。

ただ、鷲津さんが、仲の良かった恩人の鷹野議員を貶めようとスキャンダルを探すよう部下に命じた時、部下はその仕事に従いませんでした。彼女は一見、マキャベリズムに従うようで、人の心がある人でホッとしました。

記者との関わり、イメージを操作したり、管理者に圧力をかけ記事を潰したり、そんな世界なのかどうかはよくわかりませんでした。警察の捜査もしかりです。

鷹野議員や鷲津秘書の先輩のように、セクハラや不倫など女性スキャンダルも描かれていて、性依存や躁病を抱えるキャラクターも多いのかもしれないな、と考えました。

主人公の息子の事故を隠蔽しようとした幹事長は変わりませんでしたが、元厚生大臣、元犬飼議員は、辞職後の方が、イキイキと暮らしているような描写でしたから、立場や環境が人を狂わせてしまうこともあるのかな、と眺めていました。

政治は法を変える仕事なので、ひょっとするとアウトローな人が当てはまりのよい職場なのかもしれないと考えてしまいました。



最後に、鷲津の離婚した善良な妻が国政に参戦していました。

政治家の夫に、忙しさで正当化され、物のように利用されて、放置されて、話もできず会えなくなった妻の気持ちを察しました。きっと同じ世界に行くことで、気持ちや立場を理解したい面もあったのかな、と彼女の夫への愛情を感じ、依存に巻き込まれないよう自立する姿を素晴らしいな、と眺めました。

結婚式の病める時も、健やかなる時も、という牧師の台詞が何度も頭に浮かびそうで、病を抱えた夫を見捨てる罪責感を覚え離れ難く、彼女が悩むのも当然だと思いました。

ただ、依存症やキャラクターの課題は一生もので、簡単には治らないので、彼を変えようとすれば、関係依存に巻き込まれた側が、解決しない課題にエネルギーを注ぎ続けた挙句に力尽きてしまいます。

だから、彼女のように距離を置く、という判断が正解だとわかっていても、何年も抜け出せない共依存から抜け出せない女性をよくみかけます。経済的問題、体力、子供、様々な正当化をしてしまいます。そこから抜け出せず病んで潰れて切り捨てられるより、潔いバウンダリーの守り方でした。

彼女のように、いくら相手を愛していても、離婚したとしても別れを告げることで、依存症を患う相手に影響を与える方法が必要な場面も人生には時に生じるのかもしれません。それでも、子供ももうけ、長年連れ添ったおしどり夫妻が離れ離れになるシーンに切なくなりました。

虐めや脅しの蔓延る環境のなかで、恐怖や孤独感に支配されず、権力に依存しすぎないよう、妻が働けるとよい、と祈るばかりでした。

ラストの元夫妻の再会は、ドラマチックでしたが、離れている期間に夫妻が成長をとげて、2人が依存関係を繰り返さないで済めば、と願うばかりでした。現実的には再会しない方がよいかもしれません。妻は共依存から抜け出しましたが、依存症体質な部分もあり不安や恐怖から権力に溺れないよう願いました。



実生活のなか、議員秘書の募集広告がハローワークに出ているそうで、ある青年が、格好よさそうだと興味本位に応募しようとしていて、私は心配したことが少し前にありました。

彼の人生ですから、挑戦すれば、失敗するのも自由です。ただ、前職に彼ではなく同僚を怒鳴る上司がいて、自分は怒鳴られていないのに嫌になり、彼は退職するほど正義感が強く、嘘も嫌いなキャラクターです。

そんな若い彼が政治関連の職につくと、知らずに法律違反をしたり、気付いたら罪を着せられ刑務所にいたりしないか心配だったので、ひょっとしたらこの作品みたいな世界かもしれないね、という話をしました。

彼はこの作品をみると、権力に惹かれて興味で仕事を選ぶより、自分の価値観にあう、正義感を貫け、週末休みがあり友情を大事にできる残業の少ない仕事を探すことを決意していたので、ホッとしました。

ひょっとしたら眞人さんのように純粋で発達障害傾向のある青年が新米秘書として適応していったように、うまくいく場合もあったのかな、とも思いましたが、大変な世界のようにも見えて、不適応を起こす可能性が高い印象をうけました。

興味や権力ではなく、彼にとって大事な友人と楽しく過ごしていくため、彼が続きそうな仕事を探すという方向転換をした選択も正解じゃないかな、と思いました。ただ、価値観の押し付けや私のトラウマからの誤った介入、余計なひとことかな、と反省しています。



権力依存は、医学用語ではないはずです。心理学者や経済学の方面で権力や依存関係の論文が出ているようで興味深いですが、詳しくありません。

ただ、不安や孤立を紛らわすため、権力による影響力の快楽をより求めるようになり、自分や誰かを傷つけても、より多くの刺激を求め、キャラクターがかわり、首相秘書と会談などの正当化で人への関心を失い物のように切り捨てる依存症の精神依存や耐性ににた症状をじっと眺めていました。

政治家は普段メンタルクリニックには現れません。現れるとしたら、その妻や家族です。



権力依存は、権力を振るう側だけでなく、指示を聞く側の部下の課題もあり、こちらは共依存症に近いな、と眺めていましたが、ドラマに登場した女性達は、病むことなく、うまく切り抜けているように見えました。

主人公の妻、果奈子はいつも夫に従い育児に励み良妻賢母で幸福な家庭を築いていましたが、夫が権力に囚われると、話ができなくなり、放置され、嘘をつかれるなか、共依存に陥ってしまいます。幸い外に女性支援のやり甲斐を見つけ、国会議員という新たな道を開拓し自立できました。

現実の世界では、夫のDVで妻殺害などの報道が出たり、不倫疑惑が出たりしますが、なかなか離婚しない夫妻も少なくないようです。

主人公を慕う女性秘書も、セクハラから主人公が助けてくれたことを機に主人公を支援していました。マキャベリズムでもあると順応できたのでしょうが、尾行や聞き込み、証拠集め、法律違反と人が嫌がるような汚い仕事も、人を助けるという大義のもとこなしてきました。

ただ、そんな業務が常習化し感謝すらされなくなり、トラブルが起きると鷲津に犯人として疑われます。遂には、鷲津が仲の良かった鷹野の粗探しを命じました。彼女は仕事をせずNoを伝え、自己主張し、辞職を申し出て距離をとりました。賢く権力に依存せず切り抜けるしなやかさ、健全さを感じました。

そんな2人が、鷲津さん変わってしまいましたね、と支えあえていてよい関係だと思いました。依存症など精神障害は才能も与えてくれる面もあるので、逆境においても、困難をかわしていけるしなやかさを持ち、才能を活かして暮らしていけたらな、と思いました。



この領域、予後は良くなさそうですが、もう少し資料を集めて学びたい分野だと思いました。



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