2009年04月28日

『スペードの女王・ベールキン物語』 プーシキン5

『スペードの女王・ベールキン物語』
プーシキン 神西清訳 / 岩波文庫

『スペードの女王』と、ベールキン物語より『駅長』を読みました。
 まあ『駅長』は歴史の流れ的な意味でなるほどなっていう感じではありましたが、『スペードの女王』が強烈ですね……。かなり衝撃を受けました。

 一種の霊モノって言えばそうですね。もし現代風にアレンジしたら世にも奇妙なとかの雰囲気に近いかもしれない。
 章だての切り方、クライマックスへの盛り上げ方、ラストのオチ(?)、最終段でのひき方、全部うまいと思います。   
Posted by sasaboushi at 23:49読感 

2009年04月27日

『オネーギン』 プーシキン4

『オネーギン』
プーシキン 池田健太郎訳 / 岩波文庫

『エヴゲーニイ・オネーギン』ってタイトルの方が日本では有名な気がしますが、岩波文庫ではこのタイトルです。

 プーシキンの足フェチぶりは聞いていましたが、実際にプーシキンが足を語るくだりを読んだのは初めてで、おおすげえ足フェチだと思いました。

 ドラマ性としてはなかなか良かったと思います。なんでもこのタチヤーナはその後のロシア文学界における「ロシア的ヒロイン」の原型になったらしく、ドストエフスキーを読んだ感じでは、確かにそんな雰囲気があるなぁと思いました。
 また、この独特の語り口というか、語る部分のテンポっていうか、カメラの向け方みたいなものが、あまり今まで読んだことのない感覚で、おもしろかったです。本筋になる部分に関しては、ハッキリ言って多くを語ってはいない。読者の想像にゆだねている部分が大きいと思います。その代わりに、作家の語りが入ったり、自然描写(やっぱりプーシキンは自然描写が繊細かつ濃密)が入ってたりして、うまくテンポを持っていっている。

 しかし韻文小説って、散文小説よりさらに翻訳不能ですよね。これは散文訳ですが、やっぱりなんか変な独特の雰囲気が出てしまいます。かといって新たに日本語で散文にして訳すのも、かなり創作を加えないと無理で、通常の翻訳の範囲を逸脱してしまうでしょうね。ロシア語で読めるのが一番ですが、現状では僕には不可能です。
 そもそも翻訳という行為自体かなり難しいものがあって……言語が変わると世界が変わりますから、作品の内容によっては、映画化、ドラマ化、漫画化、アニメ化なんかより難しくなり得るものですよね。大変だ。純文学の翻訳者の人たちって、仕事においてものすごいジレンマみたいなものを抱えてるんじゃないでしょうか。

 あとは僕はバイロンを読んだことが無いので、何とも言えない部分が多々ありました。   
Posted by sasaboushi at 20:34読感 

2009年04月25日

『生命とは何か 物理的にみた生細胞』 シュレディンガー4

『生命とは何か 物理的にみた生細胞』
シュレディンガー 岡小天・鎮目恭夫訳 / 岩波文庫

 レポート書くために読みました。
 何でこの人こんなすごいこと書いてるんでしょうねぇ。まあ「紹介する」という目的でやってる部分が少なからずあるので、どこまでがシュレディンガーが考えたことでどこまでが引用的な部分なのかがいまいちわかりにくかったりしたんですが、でもこの時期にこれだけのことをわかりやすく解説してるのはすごいと思いました。

 これを、入試では物理と化学を選択した人が多い僕たちに課題として出す先生もうまいなぁと思ったり。   
Posted by sasaboushi at 22:48読感 

2009年04月21日

『哀れなリーザ』 カラムジン4

『哀れなリーザ』
カラムジン 金沢美知子訳 / 彩流社
(『可愛い料理女―十八世紀ロシア小説集』より)


 教授(ロシア文学)の紹介で。

 まず語り手(私)=作家の構図っていうか形を使うことによって、一応主人公をリーザにしつつもエラスト側の情報も書けるわけですね。
 さらに、リーザ視点で書いてしまうとどうしても「リーザに対する感情移入」を誘う形になり、そこから「読み手=リーザの悲しさ(作中のリーザの心内語の内容の悲しさ)」を誘発するわけですが、作者の狙っているのは「読み手→リーザの悲しさ(作中の語り手=作家の書いている悲しさ)」ですから、リーザを外から見れる語り手=作家の手法はその点うまく使われていると思います。
 ちょっと教授が言っていたこととは違うわけだけど、僕が考えたのはこういうことでした。

 前どっかに書いた「最近のラブコメは主人公に感情移入させない」みたいなのと若干通じないでもない。そうするとロシア文学はやっぱり日本文学っていうか日本文化の大分先を行っていると言えないこともある。さすがに強引すぎる。

 あとはなんか処女信仰っていうか清純じゃなきゃダメみたいな宗教的力が強く感じられますね。時代でしょうか。

  
Posted by sasaboushi at 22:21読感 

2009年04月15日

短編第79期全感想

 短編第79期全感想(初読)です。いやー久しぶりですね。なんか投稿数が異常に多く感じますが……まあいってみます。

 なんかずいぶん偉そうな感想の書き方ですいません。あと総じて短いですけど、投票するときにはその作品についてもうちょっと長く書くつもりです。それでも何かの参考になれば幸いです。



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Posted by sasaboushi at 22:41短編 

2009年04月12日

タイムバタフライ

 ガガガガガ、と凄まじい音を立てて、巨大な円環が回転を始めた。ヒュンヒュンヒュン、と、空気を切り裂く音がだんだん高く速くなってゆく。チタンコートのリングは直径10メートル。中心にはスチールチェアがぽつんと置かれている。八方からの光線で、その背もたれはメタリックシルバーからクロムグリーンへ。
「あの椅子に座ってこの装置を動かす」
 白衣の男が説明する。
「臨界点を突破すると、椅子の上の生命は過去へ転送される」
 男が電話帳のようなものを僕に半ば投げつける。
「それに基礎理論は書いてあるから君も読めばわかる」
 数式なんて見たくもない。
「ただしさっきも言った通り問題がある」
 そう、人間のような体積と質量をもった生命はうまく過去座標で凝固できず、蒸発する。
「そこでこれが役に立つ」
 男が第二のパネルのボタンを押す。今やカドミウムオレンジに輝くスチールチェアの上方から、やや小ぶりの第二の円環が降下してくる。人間の座高より少し高い空中で、天使の輪は静止する。
 キキキキキ、と不気味な音を立てて、第二の円環も回転を始める。パチパチパチ、と、ターキーレッドのリングから火花が散る。
「あれで転送対象を蝶に縮小、リビルダブルなサイズにする」
 男が投げつけた第二の電話帳を僕はかわす。
「その基礎理論は難しいから君には無理だ」
 男は白衣のポケットからウルトラマリンブルーのハンカチを取り出し額の汗をぬぐう。
「……本当に行くのか?」
 今日初めて親友と見つめあう。轟音を立てる第一のリングが10回転。僕はうなずく。

 決行は三日後。僕は施設を後にして、歩く。
 夕暮れの川沿いに伸びていく小道。早くも足元を照らして進む自転車。苦しそうに走る中年男。鞄で羽ばたく小学生。鯉と菓子を分けあう少女。見つめる白鷺。流れる川面。高架を叩いて去る電車。夕日に浸る栗の木を揺らす風。水田で大勢騒いでいる雨蛙。仄明るい雲の合間で少しずつ輝きを増し始めた宵の明星。
 自分の現在と未来を捨て、蝶になってまで過去に行く。一体、蝶で何ができる。羽ばたくことができる。羽ばたいただけでは何も変えられない。……と、誰が言い切れる。証明好きの悪魔はカオス理論をどう考える。
 残照の銀朱の中、一羽の大きな紋白蝶が、どこからかひらひらと飛んできた。
「時をかける蝶々、か」
 傾く日の中で必死に宙を漂う魂に、僕は問う。それで君は、そんなに一生懸命に羽ばたいているのかい。

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Posted by sasaboushi at 00:00短編 

2009年04月09日

『芥川龍之介の小説を読む』 関口収4

『芥川龍之介の小説を読む―『羅生門』、『蜜柑』、『蜘蛛の糸』と『カラマーゾフの兄弟』論』
関口収 / 鳥影社

 三編の論文です。論文? 著者の人の専攻は写真とか映像芸術みたいですけれども。

 羅生門と蜜柑については、僕もそう考えていて共感できるという部分もあり、なるほどと思わされた部分もあり、一方でそれは無茶な読み方だろうと思うところもあり、まあいろいろでした。けれど読み物としては十分面白いと思います。

 蜘蛛の糸とカラマーゾフについては、じつはこの問題――蜘蛛の糸のストーリーと、カラマーゾフの兄弟に出てくる挿入話的なネギの話が酷似していることについて――は僕自身前から気になっていて、ちょっとばかりネットで調べたり、学校の国語の先生に質問したりしていました。その先生は論文をどっさりと印刷してくれました。そういえばまだ目を通したぐらいでしっかり読んでいない。
 ただどっちにしろ、この本の中ではその問題に直接向き合っているというよりも、両者を比較した上で蜘蛛の糸について考察している、という感じだったので、単純に楽しめました。

 ちなみに大学の図書館で借りた本第一号です。芥川だけで棚ひとつある勢いだから凄い。そして図書館はなんか居心地がいいので空きコマにはほぼ常に入り浸っています。   
Posted by sasaboushi at 21:36読感 

2009年04月06日

『侏儒の言葉』 芥川龍之介5

『侏儒の言葉』
芥川龍之介 / 新潮社

 実は同じ文庫に『西方の人』も収録されているんですが、そっちはまだ読んでいません。この本は高校で大変お世話になった国語の先生からいただきました。
 その先生には一時期マンツーマンで教えていただいて、その時に題材にしたのが芥川の『骨董羹』でした。先生の考えでは、この『骨董羹』はのちに書かれた『侏儒の言葉』へとつながる部分があるということで、加えて先生は『侏儒の言葉』が大好きだそうで、そんなこんなでくださいました。ありがたいです。

 芥川的厭味が強烈ですが、でも好きです。なんか芥川の塊みたいな感じがしますね。何度も読み返したいと思います。   
Posted by sasaboushi at 20:06読感 

『日本の文学 29 芥川龍之介』(前半)5

『日本の文学 29 芥川龍之介』(前半)
芥川龍之介 / 中央公論社

 去年の初夏くらいからちびちび読んでたんですけど、感想の時間が空きすぎるのもあれなので(実際書いたときの記憶がすでに大分抜け落ちている)、前半だけ載せておきます。作品別の感想は、去年パソコンをあまりつけなかった時期に読むたびに携帯にメモっていたものを、ほぼそのまま載せているので、文章としては情報量がかなり少ないです。携帯だから適当だし。まあ一応載せます。
 あと作品ごとに☆つけました。最大三つ。

 全体として言えば、やっぱり芥川ってすごいですよね。


羅生門☆☆
 あいかわらず一つ一つの文章がすごい。老婆がともしている火の描写、にきびの話、物語全体。

鼻☆
 また鼻が長くなる夜から最後の部分が好き。

孤独地獄
 仏教のことがわからないとわからない?


 おもしろい。

酒虫☆
 炎天の描写がうまい。でも最後もうちょっとしっくりきてほしい。

芋粥
「〜のう」の口調がなんか面白い。これはもっと深く読みたい。

手巾☆
 これは外国人にはなかなか理解しにくい作品とかどっかに書いてあったけど、確かにそんな気もする。ストリントベルグの使い方がうまい。特に最後。

偸盗☆☆
 前半の炎天下の死のイメージ、後半の激しいシーン、最後のまとめ方、全体的に好き。もっとよく読みたい2。

或日の大石内蔵助
 やっぱり文章がうまいのをそこここに感じる。

戯作三昧
 馬琴のテンションのアップダウンがよく見えて面白い。最後の方の、馬琴がスーパー戯作タイム発動するあたりの書き方とか。あと芥川が(?)なんて使ってたのはちょっと意外。

首が落ちた話
 今じゃこれって「中国に対する差別」とか言われてしまうのか? けど最後の木村少佐の言葉はでかい。

袈裟と盛遠
 作り方がうまい。

蜘蛛の糸☆☆
 子供に朗読してあげた時に効果が大きそうな感じのする表現があった。

地獄変☆☆
 謎分が適度で良くできている。

開化の殺人☆
 反語だらけなのがいい味だしてる。遺書形式もうまい。

奉教人の死☆
 この、「」で囲ってひらがなを使うのはわざとやっているのか? だとしたらなかなか。

枯野抄
 これはもっとどろどろした作品かと思っていた。

きりしとほろ上人伝☆
 クリストファーとはだいぶイメージが違うけど、それは今視点だからか? 元ネタを研究しなきゃわかんないかなぁ。元ネタは実在するのか?

蜜柑☆☆☆
 主題レベルでなくて、もっと細かい、単語レベルでのメタファーっていうかそういう使い方がうますぎて困る。今んとこ芥川で一番好き。   
Posted by sasaboushi at 19:58読感 

2009年03月09日

『日本の子供と自尊心』 佐藤淑子3

『日本の子供と自尊心』
佐藤淑子 / 中公新書

 小論文のために新書でも読むかな、と。
 セルフ・エスティーム(自尊心)が適度に高い事は重要だと思います、はい。   
Posted by sasaboushi at 15:59読感 

2008年11月15日

都市精彩

 ブログ3周年記念。詳しくは上のエントリを。




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Posted by sasaboushi at 00:00短編 

2008年09月17日

『虹物語』 杉山久仁彦 高橋真澄3

『虹物語』
杉山久仁彦 高橋真澄 / 青菁社

 こないだの「月の本」に続いて(まあ直接の関係はないでしょうが)、これも虹の写真が一杯載ってて、虹に関することが色々書いてある本です。
 写真がすごくきれいで癒されます。ここまで鮮やかできれいだと一歩間違うと下品なくらい……っていうと失礼ですが。でもホントきれいですね。

 あとは虹を擬人化した神の話とか、虹の根元に宝が埋まってる伝説の話とか、民俗学とか神話系の話がなかなか面白いです。
  
Posted by sasaboushi at 21:46読感 

2008年09月10日

『チグリスとユーフラテス』 新井素子3

『チグリスとユーフラテス』
新井素子 / 集英社文庫

 話としては、とても面白い小説だった。
 だが。
 だが、やはり私には、この文体がちょっと気に入らなかった。いや、ちょっとなんてものではない。

 私にはどうしても。
 受け入れられなかったんだよう!

 まあこういう文体でした。一人称の時の文体が気に入らなくでも、「これはキャラ作りだ」と思ってやりすごしつつ読んでいけるんですが、三人称っぽく書いてあるシーンでも使ってあると若干……。しかし自分でもなんで気に入らないのかよくわかんないんですけどね。単に慣れてないからかもしれませんしね。
 でも物語の作り方としてはおもしろいなぁと思いました。下巻(レイディ・アカリを起こしてから)は、結構面白くなってきたので、後半は楽しく読めました。しかしルナちゃんっていうキャラはうまく作りましたねぇ。   
Posted by sasaboushi at 21:47読感 

2008年08月10日

『症例A』 多島斗志之5

『症例A』
多島斗志之 / 角川文庫

 三読目くらい。

 多重人格モノなのですが、なかなか好きです。
 前に読んだビリー・ミリガンは、一応ノンフィクションだったわけですが、こっちは完全にフィクションです。それによって、ビリーがダニエル・キイスによって脚色されつつも構成が重くなってたりしたのに対し、こっちは適度なフィクション性で、小説としても読んでて面白いです。
 しかもこの小説はそれでいて、リアリティも結構重視してます。巻末の参考文献の量からもそれが見えるし、実際精神医療の現場に携わっている人たちからの評判もいい“らしい”です。小説なんだからリアリティなんてどうでもいいっちゃどうでもいいんですが(ましてや素人が知らない分野ですしね)、まあ悪い感じはしませんよね。その辺のバランスが取れていていい感じです。
 ガリバー旅行記の引用であったり、作品中何度も出てくる、主人公の精神科医榊の精神分析に対する懐疑であったりといった要素が、作者の背景知識を感じさせて読んでて満足感が得られる、みたいな感じでしょうか。

 後はまあ、全体として、多島さんはキャラクターにしても構成にしても綿密に書いているのが見えて、読んでて好感が持てましたね。   
Posted by sasaboushi at 23:52読感 

『ノルウェイの森』 村上春樹5

『ノルウェイの森』
村上春樹 / 講談社文庫

 三読目くらい。初読じゃなくても読感に今まで書いてないやつは積極的に書いていくことにしました。

 村上春樹の他の長編と比べると、何となく文章が甘い(固まってない)気がしたり、主人公ワタナベ君に対する好感が他の長編の主人公たちと比べて弱かったりします。そういうこともあって、この本がめちゃくちゃ売れたのがちょっとよくわかりません。いや、僕は好きですけど、何百万部も売れて何百万人が良いって思うような小説なんだろうか、という気が。
 その後この本の記録を抜いて「世界の中心で」とかは、まあ買った人だったら評価したんじゃないかな、という気もするんですけどね。あれに良いイメージを持たないタイプの人はそもそも買わないと思うので。

 今まで読んだ時は、この二人なら絶対緑だろと思ってましたが、今回読んでたら案外直子も良いんじゃないかと思ってきました。が、やっぱり最終的には緑の方が好みですかね。
 この二人を、それぞれ生の世界と死の世界の代表なんだ、って言う風に考えてこの小説を読む人が多いみたいなんですが、実際どうなんだろう……。


 今更映画化が決まったらしいですが、絶対ダメな気がします。というか誰が演じるにしてもワタナベ君は無理。   
Posted by sasaboushi at 23:38読感 

2008年08月06日

『渋滞学』 西成活裕4

『渋滞学』
西成活裕 / 新潮選書

 車の渋滞、人間の渋滞から、アリ、インターネット、広告、お金、森林火災、細胞……と、あらゆる渋滞を「渋滞学」というアプローチで考察している本です。面白い。
 理系で昔プログラミングで遊んでた自分としては、セルオートマトンとかフロアフィールドモデルの話がとても面白かったです。これは簡単に言うと、色んな渋滞をシミュレーションするためのモデルの仕組みの話です。これが面白い。
 シミュレーションなんていうと、最近はものすごい処理能力・速度をもったパソコンがどんどん出来てくるものだから、ありとあらゆる要素を計算しまくるのを僕たち素人は想像してしまうわけですが、そうじゃなくて、計算を速くやるために簡略化する方向にシミュレーションやモデルは考えるんですよね。出来るだけ簡略化されたモデルで、かつ現実に出来るだけ近い挙動をするモデルを考えるわけです。まあ実際世界全部の粒子とか計算できるとしたら(ラプラスの魔的な)、ほとんど世界が作れちゃいますよね。そりゃあ無理ですからね、今のところは。

 話はそれますが、最近、CGとかVR(ヴァーチャルリアリティー)の勉強をしているある大学生に聞いた話によると、CGやVRの分野でもそういう事をやってるらしいです。例えば風景のCGをリアルタイムで描画して、その中でカメラ=自分が動き回れる、というようなシステムを作るとして、そこでありとあらゆるものの動きを計算して描画していくとどうしても大変なんだそうです。もちろん理論的には樹の葉の一枚一枚から地面の砂ひとつぶひとつぶまで全部計算できるわけですが、そんな事をやってたら計算が追いつかなくなって逆にかくかくすると。
 だから、「遠くのものはどうせ人間にはよく見えてないんだから適当に計算を省いてしまえ」とか「人間の目は真正面はよく見えるけど、周りは見てるようで見えてないから計算適当でいいや」とかって処理を省いて高速化するらしいです。そしてそれはコンピューターにとっては逆に難しかったりする、と。

 なんというか、たまたま別の二分野で似たようなアプローチを見かけたので、面白かったです。


 さて本の話ですが、まず人間やら車やらに対して「非ニュートン粒子」なるアプローチが出てきた時点で僕はすごく興奮してしまいました。要するに人間を粒子という単位でみても、ニュートンの運動の法則が成り立たないっていう話です。作用反作用の法則とか。人ごみの中で、別に僕たちは接触しなくても無意識に他人をよけながら歩いています。それを考えたりシミュレーションしたりっていう……めちゃくちゃ面白いですね。

 最初の方、ちょっとそういう理系くさい話が多いので興味ないと読みにくいかもしれませんが、その後の具体的な話は面白いですよ。群衆の話とアリの話が面白かったです。あとは時々出てくる著者の西成さんの個人的なエピソードが地味に面白い。   
Posted by sasaboushi at 22:54読感 

2008年07月25日

『ハリー・ポッターと死の秘宝』 J.K.ローリング4

『ハリー・ポッターと死の秘宝』
J.K.ローリング 松岡佑子訳/ 静山社

 先生、35章からセカイ系的生死観の香りがします!   
Posted by sasaboushi at 22:12読感 

2008年07月20日

『月の本』 林完次3

『月の本』
林完次 / 角川書店

 サブタイトルが"perfect guide for the MOON"とあるように、「文学、天文学、社会学、人類学、美術など、さまざまな角度から月の謎や魅力を各分野の専門家が分担執筆した」本です。写真がきれいだったから手に取り、中もろくに見ずに図書館で借りてきたのですが、なかなか面白かったです。

#1 LUNER DESTINY -運命- (短編小説/林望)
 あんまり好みじゃなかったです。写真はきれい。

#2 TALES OF THE MOON -月のはなし- (月の登場する神話、小説の一部、詩、歌詞)
 神話はすごく面白かった。月が善い存在になっていたり、悪い存在になっていたり、あるいはどっちでもなかったり、地域によって差が大きくて面白かったです。
 小説と詩と歌詞は、特に文化的考察とかを無しに集めた意味はよくわかりません。自己満足っぽくなってしまっていると思います。でも北原白秋の「白き月」は気に入りました。
 写真はきれい。

#3 THE MYTH OF THE MOON -月の神話- (月交代説とか月空洞説とか月宇宙船説とか/小笠原邦彦)
 ハッキリ言って最低です。これを神話的考察としてやるなら最高に興味深かったんですが(そういうオカルトっぽいやつは大好きですからね)、しかしこういう“科学の皮をかぶった”やつは大嫌いです。
 あるある大辞典的科学というのは、一理系として非常に毛嫌いしています。魔法の力で健康になるのは結構。けどマイナスイオンで健康になるなんていうのは最悪です。この章は後者でした。
(けど、こういう印象を持たせるための章なのかもしれない、とも思います。嘘を嘘と(ryって言う事なのかもしれないですしね)

#4 THE APPROACH TO THE MOON -月の科学- (科学的に観た月、月面観測、着陸の歴史/林完次)
 月の観測の歴史とか、月面図の発展の話は面白いですね。

#5 MYSTERIES OF THE MOON -月の神秘- (月とバイオリズムについてなど/竹内均)
 こういう程度の書き方なら(内容が胡散臭くても)、好感を持てます。科学的証明はありませんよ、でも面白いでしょ、だからまあ適度に楽しんでくださいね、っていう姿勢が読み取れていいです。最後の狼男になる方法の書き方で、あえてオカルトチックに雰囲気を変えてきたところも、まさにそんな感じでいいです。
 と思ったら東大の教授でNewtonの編集長さんでした。さすが。

#6 ICONOGRAPHY ON THE MOON -月の図像学- (月に関する図像を通して、月の捉え方の文化的変遷など/高山宏)
 この章が一番面白いように思います。この章だけ拡大して一冊書いて欲しいくらい。

#7 EXPRESSIONS OF THE MOON -月のことば- (月に関する言葉、諺など)
 これもちょっと自己満っぽい。あいかわらず写真がきれい。   
Posted by sasaboushi at 23:49読感 

『アラスカ 風のような物語』 星野道夫5

『アラスカ 風のような物語』
星野道夫 / 小学館文庫

 なんでこんなに印象的な文章が書けるんでしょう。時々、一つの文章のなかの最後の一文がものすごく魅力的で、ふわっと来たり、ぐっと来たり、がつんと来たりします。ひねくれた見方をすれば、「なんかあざとくてあれな文だな」ってなってしまいそうなのですが、不思議となりません。それは多分、星野さんが実際にアラスカを何年も歩いた重みのようなものがあるからなんじゃないかと想像します。写真からもそういうものがイメージできます。
 あくまでイメージであって、実際の星野さんが感じてる事とか、あるいはもし僕が実際にアラスカに行ったとしたらそのときに感じる事とは、また全然違うのでしょうが。
 癒されました。

  
Posted by sasaboushi at 23:46読感 

2008年07月06日

『人形の家』 イプセン 矢崎源九郎訳3

『人形の家』
イプセン 矢崎源九郎訳 / 新潮文庫

 新たな時代の女性の姿、ですか……。ノラの行動については、なんかあんまりピンと来ませんでした。ヘルメルにも問題はある、というか最低なやつだと思いますが(といっても歴史的に見て彼個人の責任は問えないのかもしれない)、でもノラもよくわかりませんでした。
 けどそのよくわからなさ具合をわざとやってるかもしれないなぁとか、あとは女の人が読んだらノラに共感するのかもしれないなぁとか考えました。

 しかし、戯曲としては画期的らしいですね。戯曲の歴史とか知らないのでよくわからないのですが。社会劇。

 とりあえずランクとクログスタットのポジションは重要な気がしました。
    
Posted by sasaboushi at 19:44読感 

2008年06月30日

『主な登場人物』 清水義範4

『主な登場人物』
清水義範 / 角川文庫

 清水義範さんは結構好きです。昔、「面白くても理科」とかで一時期ハマりました。まああれは西原さんが面白かった影響も大きいですが。

 あとがきにも書いてありましたが、これに収録されているエッセイやショートショートはどれも『言語』について考えている部分があって、単純に笑えるという事だけではなくて興味深いですね。

 気に入ったのは、「私は船戸川事件をこう見る」(ネタも面白いけど『それっぽい文体』のトレース力がすごい)、「陽光キラキラ霊場ガイド」(同じく)、「覆面座談会」(これは単純にネタが)、「注釈物語」(同じく爆笑)でした。   
Posted by sasaboushi at 18:50読感 

2008年06月22日

『おれに関する噂』 筒井康隆5

『おれに関する噂』
筒井康隆 / 新潮文庫

 やられました。
 一番最初に、「蝶」という短編小説が入っていて、これは文庫本見開き一ベージに収まるくらいの短いショートショートで、多分1500字もない作品なんですが、これがやばい。ちょっと衝撃的でした。正直、筒井康隆がこんなの書く人だと思ってませんでした。1000とか2000くらいの文字数で小説をかこうとした時の、一つの目指す方向としてこの作品は際立ってるなぁと思いました。何言ってるのか分かんないですね。でもともかく衝撃が大きかったです。それだけで星5つにしてしまおう。こんな事だから星付けが甘いんですかね。

 後の作品は、まあ面白かったんですが、やっぱり「蝶」の衝撃がでか過ぎてかすんでしまっていました。強いてあげるなら「だばだば杉」と「通いの軍隊」が面白かったです。でもこれくらいの長さになってくると、中盤で十分面白いがためにオチが弱く感じられてしまいますね。   
Posted by sasaboushi at 22:33読感 

『半分の月がのぼる空』 橋本紡

『半分の月がのぼる空』(全八巻)
橋本紡 / 電撃文庫(メディアワークス)

 ラノベ読んでここに感想書く事を想定していなかったので星のつけようが無いんですが……。今までラノベ読んでもここには書いていなかったので。普通の小説とラノベじゃあ読み方も違うし評価の基準も違うよなぁ。
 けどじゃあ普通の小説とラノベの境って何なんでしょうね。普段僕は便宜的に出版社(というか文庫の種類? レーベル?)で線を引いてしまいますが、実際、内容で見れば新潮文庫にだってラノベっぽい作品はあるし(あくまで内容がって意味ですよ!)、講談社文庫にも集英社文庫にも角川文庫(普通の方)にも「これラノベだろ」みたいな作品はいっぱいあるわけで、そうするとラノベって何なんでしょうね。
 今Wikipediaで引いたら、案の定「ライトノベルの定義論争」っていうのがありました。まあこの辺は定義できないんでしょうね。あ、でも挿絵に関しての定義は割と具体的な線引きかもしれない。
 あとこんな事も書いてありました。『これらの混乱は、読者の大部分が個々の作品や作家のファンでしかなく、ジャンルとしての「ライトノベル」に関心を寄せているわけではないということにも由来する。』……なるほど。

 で、なんでラノベなのに読感を書く事にしたかというと、単純に面白かった(『ラノベに限っての』星付けなら文句無しで星5つ付けます)というのと、もう一つ作品の本筋と全然関係ない事を書きたかったからです。まあほとんどが後者です。

 それでも内容についての感想を一応書きますと、まず小夜子さんがとてもいい、それからファンタジー的な病院の書き方がうまい、あと小夜子さんがすばらしい、それと親父さんの回想シーンの使い方がありきたりだけどうまい、それから小夜子さんが非常にツボ、あと亜希子さんがかっこいい、小夜子さんが神、文学ネタとかプロレスネタとか写真ネタとか伊勢ネタとか微妙に色々入れてくるのが面白い、小夜子さんが神、小夜子さんが神、小夜子さんが神、……。
 と、まあラノベの感想を書くと好きなキャラ話に終始してしまって非常につまらない事が改めて確認されたので、以降この読感でラノベの感想は再び自粛しますね。あ、じゃあ『感想を語ろうとした時に好きなキャラの話題に行ってしまう小説』がラノベでいいんじゃないんですか? でもそれは最近のラノベがキャラ萌え文化に取り込まれたからとも言えるし微妙か……?


 さて、本題です。
 僕が何の話をしたかったのかというと、小説とかラノベとか、あるいは映画でもドラマでもアニメでも漫画でも良いんですが、そういう物語とかお話の中での『方言について』です。

 この作品の舞台は伊勢で、伊勢というと基本的には関西弁のエリアです。昔は伊勢弁というのもあった、という話をたまたま最近聞いたりもしましたが(語尾の「〜けつかる」とか)、基本的には関西弁がベースなはず。
 しかしまあ、もちろんというかなんというか、登場人物たちは(大半が伊勢生まれ伊勢育ちのはずだけど)標準語で話しています。

 ちなみに僕は、この事に対して違和感を感じるとか、おかしいと思うとか、リアリティにかけてて最悪とか、標準語至上主義で方言を認めない明治の悪しき文化圧殺政策の名残だとか、そういう事を言うつもりは全くないです。まあそういうもんだと思うし、あるいは翻訳済みなんだと思って受け止めるので全然問題ありません。素直にイメージを重視します。

 一般の小説でもそういうのはよくありますよね。今ちょっと例がぽんと出て来ないんですが。地の文は良いとしても、会話文で口調とか口癖の要素はあるのに方言の要素は大抵は除去されてますよね。とくに登場人物の過半数が方言を話しているはずの場合に。

 例がないので、代わりに僕の母親がかつて言っていた事を書いてみたいと思います。僕の母は村上春樹があんまり好きじゃなくて、彼の事をこんな風にちゃかして言ってました。
「大体村上春樹がな、神戸から東京へ出てきて銀座線に乗るやろ、それで昔の地下鉄やったから線路のなんかが切り替わる時にちょっと電車の中の電気が消えるんを見てやな、『どうして電気が消えるのだろう』って思うわけあるか? 『なんでこれ電気消えんねやろ』ってホンマは思うたに決まってるやろ。それをなんかかっこ付けてやな標準語で書こうっちゅうのが(ry」
 ちなみにその話は村上春樹のエッセイのネタのはずです。(ちょっと話が脇道にそれますが、僕の心内語は基本的には標準語です。それが母親からすると信じられないらしい。家庭内で大阪弁で話していても、学校とかでは標準語を話しているバイリンガルな僕としては、自我形成のメインが外の社会で行われるんだから当たり前じゃないかと言いたいのですが、まあ納得いかないみたいです)

 そういう、『本来設定からして方言がしゃべられていてしかるべき状況だが標準語で書かれて/話されている』という事はなぜ起こるんでしょうか。考えられる理由としては、単に読みにくいから、印象がキツい(方言に対して多くの人が先入観がある)から、っていうのが最有力でしょうね。当たり前か。当たり前だ。

 でもなんでそんな当たり前な事を改めて思ったかというと、この「半月」が結構伊勢を押し出してきたからなんですよね。現実の伊勢とは若干違って、あくまで作者の思い出の中の伊勢なんだという事にはなってますが、実在する場所が出てきたり、赤福の話とか伊勢うどんの話とかが出てきたりして、そうとう伊勢という土地を見せてきてるんです。単純に設定上の地名っていうだけじゃないんです。
 そうすると、ここからが僕の妄想なんですが、作者の橋本さんはもしかしたら方言ネタもやりたかったのではないだろうか、とこう思うわけです。「お前伊勢に住んでるのに赤福も食った事無いのか?」とかって台詞が出てきたような気がしますが、「お前伊勢に住んどるのに○○(方言)って分からんのか?」とかって感じで方言を紹介しちゃったりするようなネタも出来たはずで、というか実はやりたかったんじゃないんですか橋本さん?
 まああくまで僕の妄想なんですけどね。でももし本当にそうだとしたら、橋本さんはちょっとしたジレンマを抱えたんじゃないかなぁと思いました。それでこんな事を長々と書こうと思った次第です。


 ちなみに女の子の方言としては北海道と広島を押したい。   
Posted by sasaboushi at 22:31読感 

2008年06月12日

自己責任

 このごろの季節は日が落ちるのも早くなり、もう空は真っ暗である。男の子は塾からの帰りで、一人夜道を歩いていた。まだ半袖で通している男の子には、少し肌寒い。この長い坂道を上りきれば家につく。さあ、早くおうちに帰らなきゃ。

 突然、男の子の背後で、バシッ、と鞭で地面を叩くような音がした。驚いて男の子は振り返る。すると、後ろに、包丁を持った男が立っていた。ギラギラした目、包丁を持ちかすかに震える手、一目で危険と分かるような男だ。突然の事で、男の子は足がすくんでしまい、後ずさろうとするも転んでしまう。口を開けても声は出ない。

 道の反対側で、バシッ、と音がした。男の子と男は音の方を向く。すると、銃を持った男が立っていた。包丁の男と同じ、黒いテカテカした服を着ている。持っているのはゲームに出てきそうな細い銀色の銃だ。銃の男は、包丁の男に銃を向けた。包丁の男は、それに驚くと、一目散に坂道を駆け下り逃げて行った。

 包丁の男が角を曲がって消えて行き、あたりが静かになった。男の子は、助かったと思った。しかし今度は、銃の男がにやりと笑って、銃を男の子に向けてきた。包丁が銃に変わったのでは、状況が悪くなっただけだ。

 バシッ、と、今度は銃の男の向こう側で音がした。直後、キンという人工的な音が響いて、銃の男がふらつき、スローモーションでドサリと崩れ落ちた。倒れた男をまたいで、また別の、テカテカした青い服を着た男が現れた。
「あ、いや、眠らせただけだよ。お前、怪我は無いか?」
 男の子は怪我はしていなかった。青い服の男が助け起こしてくれた。
「お前なぁ、ホント俺ってやつは本当にとんでもない事をしてくれるよ」
 そう言って青い服の男は、何やら携帯電話のような黒い装置を取り出して、倒れた男の体にあてがった。と、次の瞬間には倒れた男の体はバシッという音とともに消え去っていた。青い服の男はポケットから取り出した、既に火のついた銀色の煙草をくわえて、話し始めた。
「今から十五年後だけどな、お前とんでもない事思いついちゃうんだよ。まあ禁止されたらしたくなるってのは今でも自分の事のように分かるけどな、これが後々面倒なんだ。なんだって過去に戻って過去の自分を」

 そこまで言ったところで、バシッという音がして、男は消えてしまった。煙草の煙も消えた。男の子は、忘れていた肌寒さが戻ってきて、身震いした。はやくおうちにかえらなきゃ。   続きを読む
Posted by sasaboushi at 06:00短編 

2008年05月21日

『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー5

『カラマーゾフの兄弟』
ドストエフスキー 原卓也訳 / 新潮文庫

 長かったですが、ついに。
 長かったと言っても読むのにかかっていた時間が長かっただけで、内容の感じでは長いという感じは全然しなかったですし、むしろこれだけのものならまだまだ読めるぞ、という気がします。

 やっぱりこの小説はすごいですね……。相変わらず、登場人物一人一人の持っている思想や世界が濃いです。そして、彼ら一人一人の中の心の側面一つ一つが見えてくる。人間が絶対持っている矛盾とか葛藤みたいな物が何度も何度も描かれてますし、ドストエフスキーが人生かけてるのがよくわかります。
 罪と罰を読んだ時も思いましたけど、含んでいるテーマの量もとても多いです。明確な一つのテーマに絞って書かれた小説は、分かりやすいとは思いますが、明確な一つのテーマに絞って人生を生きる事が出来ない以上、しょせん小説なんだと思います。でもカラマーゾフは、神や教会の問題から、信仰、生死、国家、貧困、恋愛、そしてもちろん親子、兄弟等、テーマを含みすぎてて大変な事になっています。
 さらには、さんざん言われている事ですが、ものすごく鋭い部分が多分にあって(『大審問官』しかり)、書かれてから100年以上たっているとは思えません。まさに『現代の予言書』。

 あとがきを読むまで、この作品が(本来は)未完の作品であるという事は知らなかったです。第二部を読みたい気持ちもありますが、確かにこれはもう「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」ですし、これで良いのかもしれません。

 思想的にはイワンが、キャラクター的にはアリョーシャが好きです。キャラ的にはリーザも良かったんですがあんまり登場しなかったのであれ。

 何回も読み返したいです。「世界文学の傑作の一つ」に同意。   
Posted by sasaboushi at 20:33読感 

2008年05月12日

短編第68期全感想

 短編 第68期全感想です。
 全感想を一番乗りで書いてしまえば、他の方の感想に影響される事も無いし、自作解説をなさる方がいようとも影響がないので、自分の感想が書けるんじゃないか……なんていうのは後付けの理由で、本当はさっさと書けてしまったのでさっさと公開してみる、というだけでした。寝かしても別に意味はなさそうですし。
 あ、作品が公開されてからの時間は短いですが、読む+感想書くのに掛けた時間は多分いつもとそんなに変わりません。手抜きとかでは絶対にないです。自分の中での感想第一稿みたいな感じです。それでもやはり稚拙な感想ではありますが、どうか生暖かい目で読んでください。

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Posted by sasaboushi at 23:24短編 

血流

 若い娘の血はうまい。でももう選んでなどいられなかった。血が騒ぐのだ。ともかく吸わなければならない。目覚めたときから頭が痛く、立ち上がって動く事ももう出来ない。気が狂いそうだ、いや、既に狂っているのか。左腕はすっかり噛み尽くし、手首には骨が覗いている。赤が白の表面をすべっている。まだ滑らかな右の二の腕に噛み付いて、吸う。
 そこら中が赤く染められた蒲団の中で、不気味に白い天井を見上げ、俺は、濃くなった吸血鬼の血を吸い続けていた。


 夜のJRで見かけた、おとなしそうな女子高生に目を付けた。やや長い紺のスカート、白いブラウスに白のセーター、手には文庫本、幼くて素直そうな口元、小さめの眼鏡、ぱっちりした目、肩にかかる黒髪。こういう大人ではなく子供でもないのが、一番うまい。人影もまばらなプラットフォームの闇。虚ろに赤い電光掲示板を過ぎ、白く輝く自販機の前を過ぎ、彼女の後を追って階段を降りる。彼女のうなじが目に入り、唾液がもうどうにも止まらなくなる。これはうまそうだ。吸血鬼の血。騒いでいる。早く噛み付くんだ。

 やはり若い娘の血はうまい。吸血体質になってからもう長いが、女子高生の血が一番うまい。成熟し始めた身体のとろりとした甘い血の味は、吸うともう忘れられない。吸血因子の逆流入は俺にとって憎むべき悪運だったが、しかしこの味が楽しめるのはその呪いのおかげなのだ。運命を完全には憎みきれない。それくらいうまい。これもまた、呪いなのだ。

 生温い六月の風。街灯が照らし忘れた路地裏。襲いかかり、ブラウスとセーターを引き剥がしはだけさせ、後ろから肩に噛み付く。顔を殴って暴れるのをやめさせる。若い娘の血を吸うときは鎖骨に噛み付く。それが一番うまい。柔らかく弾力のある肌にゆっくりと牙を差し込んでゆく。彼女の体が震える。甘い肉に牙が分け入り、とろとろの血を舌がすくう。香りが口の中に広がる。苦悶の声がきこえてくる。俺には悦びの声にきこえる。頭に血が上る。世界が白熱し、赤熱し、暗転する。これが一番うまい、うまい、うまい。



 吸血鬼の血は一旦は静まった。頭がくらくらする。
 へたり込んだ女子高生が、後ろから、吐き捨てるように言う。
「馬鹿みたい」
 振り返ると彼女は、電車の中の姿からは想像できなかった、蔑むような嫌悪を目と口元に浮かべ、尖った歯を見せていた。飛び散った血がセーターになにか描いている。俺は口元を拭う。

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Posted by sasaboushi at 06:00短編 

2008年02月13日

短編第65期全感想

短編 第65期全感想

 久しぶりに全感想を書いてみました。稚拙な感想ですが、自分の中だけでもってるよりは、書いた方が作者の皆さんのために役立つかもしれないということで、書きます。
 例によって☆は適当につけてますが今期は2つ星をつけませんでした。64期や今までと比べるとがつんと来る作品がなかったように感じたからです。
 僕の好みの問題が書いてある部分はあくまで僕の好みなので、一人の読者の好みとして読んでいただければいいと思います。


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Posted by sasaboushi at 22:50短編 

2008年02月12日

横断者

 スクランブル交差点では、歩行者信号が青になっている時間が普通より長い気がする。スクランブルだと歩行者にとっては青になるまでに時間がかかるからだろうか。だが、「長い間待たせたので、渡る時間も長くしました」と言われて歩行者の持ち時間が長くなっても、そう嬉しく感じない。
 そんな事を考えながら待っていたので、歩行者信号が青に変わった事に一瞬気づかなかった。僕は駅の出口から銀行側へ、スクランブル交差点を斜めに渡ろうとしている。歩行者の持ち時間が長くても、その分が僕自身の人生の時間に上乗せされるわけではない。僕は時間の浪費を避けようと、冬の暖かな日差しの中を歩き出した。
 アルファルト上に二歩目をついたとき、四方から交差点に流れ込んだ群れの中に一人の男の姿が見えた。あ、と僕は声をあげそうになった。
 そこに横断者がいたのだ。
 男は猫背気味にうつむいて、肩をかくかくさせて不自然に大きく腕を振り、足は膝の関節をあまり曲げずにきびきびと、こっちに向って横断を続けていた。濃い緑のズボンとセーターを着ている。本当に横断者だ。本当にいたんだ。
 歩行者信号をもう一度見ようとしたが、青信号はぼんやりしていてよく見えない。緑色が光っている事は分かるのだが、彼の姿はつかめない。はっとした。あそこから抜け出したんだ。なぜ?

 人の流れに乗ると、逆らうのは難しい。気付くと横断者は僕の前に迫っている。スクランブル交差点の中央。駅前の百貨店のビルが空を裂き、しかし太陽は輝いている。スカイスクレイパ―。よく言ったものだ。意味を持たない他者たちが周りを流れて行く。僕と横断者以外は、ここではエキストラ、虚ろな人々。その濃い霧の中で、僕は進む方向を半ば失っていながら、進み続けるほかない。
 横断者は目の前で立ち止まった。僕はこのまますれ違うかと思った。だが目の前で立ち止まられてしまったら僕も立ち止まるほかない。横断者は眼鏡をかけていた。近くで見ると余計に猫背に見えた。かがんだまま顔を僕の方にむっくりと上げて、少し疲れたにやけ顔で言った。やつれた顔は緑っぽい。
「交代の時間です」

 ここでは僕の先輩で、頭上につったっている停止者が教えてくれた所によれば、この仕事は大体一ヶ月ほどの任期をもって交代しているらしい。交代相手は自然に決まるのだという。まだ君の方が体動かせる分楽だよ、と毎日のように愚痴られる。任期は三週間残っている。   続きを読む
Posted by sasaboushi at 06:00短編 

2008年02月10日

『拳銃の神様』反省会

 拳銃の神様 (短編

 久しぶりに反省会でもしてみましょうか。
 まずは、掲示板、投票で、作品に対する感想をくださった皆さんに感謝申し上げます。内容に参考になる事が多いだけでなく、そもそも感想をいただける事自体、自分の作品が読んでもらえたことの現れですから、嬉しいものです。
 そして今回は決勝に進出し、しかも決勝でも3票(3位タイ!)の投票をいただいて……なんていうか、嬉しいですねこういうの(笑

 今回は推敲期間が長かった(実際、一回封印しておいたものなので)ため、文章を丁寧に練ったという点に関しては今までよりは自信がありました。(ちなみに来期の作品はその点に関してちょっと自信が……)
「なっちゃん」「超立体」「ワルサー(推定)」とかも色々考えた上でいれてみる事にしました。なんかありがちでうざいかなぁとかも思いましたが、今まであんまりこういうのを書いていなかったので、試しにという意味も込めて。特に「なっちゃん」については賛否両論の感想をいただき、それぞれに「なるほどなぁ」と思っているところです。

 ただ自己評価で判断しきれなかったところがやっぱり話の終わり方でしょうか。最初は拳銃を貰うことにしようかと思っていて、かいてみたんですが、何となくしっくりこなかったんです。拳銃を貰う設定で書くのであれば、あと1000字は欲しいかな、と思って、やっぱり貰わないことにしました。この青年は拳銃を貰うことなんてできません。皆さんの感想を全体的に読ませていただくと、貰わないことにしてよかったような気がしてきます。

 1000字という非常に限られたスペースの中で小説を書くとき、技巧っていう軸と話の内容っていう軸が、2つの一番見えやすい要素としてあると思います。どっちを優先して目指すのか、どっちもというのはどこまで可能なのか、じゃあ良い小説ってなんだよ、そんなことを最近考えてみたりします。


 ところでこないだ「白いなっちゃん」なる製品を見かけ、なっちゃんブランドが乳性飲料に進出したという衝撃の事実を知りました。今後も頑張ってもらいたいと思います。ちなみになっちゃんを始めとする100%でないオレンジジュースはあまり好きではありません。   
Posted by sasaboushi at 06:00短編 

2008年02月01日

短編第64期

 拙作、「拳銃の神様」短編第64期の予選を通過。ありがとうございます。

 正直、予想外でした。僕が投票させていただいたのは「沼蝦」 「そして私は月光の道をたどり、この場所へ帰ってきた」 「剥がれてしまったので」の三作品でした。僕の予想では予選通過は川野さんと三浦さんがまず間違いなくて、それにqbcさんハンニャさんわたなべかおるさんが続き……という展開を想像していました。まあ予想の前半は当たりましたが……。

 予想外、っていうのは謙遜で言ってるとかじゃなくて本当に予想外だったわけですが、でも実際自分の作品が予選を通過した事はとても嬉しいです。優勝作品は今度こそ(僕の中で)順当に、予選得票の上位二作品のどちらかになるとおもいますが、でもやっぱり予選を通過しただけでもう一度読んでもらえたりといった事はあると思うので、嬉しいですね。
 あ、あと掲示板や投票で感想をくださった方々には感謝しています。タイミングを逸したのでとりあえずここでお礼を申し上げておきます。見てもらえるかどうかは分からないですが、まあ。ありがとうございました。

 こうなると突然次期への意欲が高まるのですが、意欲が高まってもアイデアが降りて来ないことには……。
  
Posted by sasaboushi at 20:54短編 

2008年01月27日

『回転木馬のデッド・ヒート』 村上春樹3

『回転木馬のデッド・ヒート』
村上春樹 / 講談社文庫

 やっぱり短編書くと村上春樹はうまい気がします。(あ、でも一度でも長編を読んだ事がある人じゃないと「なにこれ」ってなるかもしれない……でも結局は好みですかね)

 本人は実話だと言ってますが、一応小説であるととらえて読みました。というか実話だとしても、ある程度の面白みがあれば、それを話としてある程度文章力(広い意味での文章力)がある人間が書く事によって、小説と言えるのではないでしょうか。村上さんが「はじめに」で書いている時に使っている「小説」という言葉とはまた違った意味で。

「レーダーホーゼン」と「雨宿り」という話が気に入りました。あと「ハンティング・ナイフ」が一番村上春樹的ですかね。
  
Posted by sasaboushi at 22:11読感 

2008年01月25日

『罪と罰』 ドストエフスキー5

『罪と罰』
ドストエフスキー 工藤精一郎訳 / 新潮文庫

 いやあ、この小説、ヤバいですね。二回目の通読でしたが、相当なものがぶつかってきます。
 すごい小説になればなるほど、ここに書く事が浮かばなくなります。でもがんばって書こうと思います。

 月並みな事ですが、この小説は全体でひとつの世界を作っているし、そしてその中の登場人物たちが全員彼らの世界を作っている、と、そういう風に感じます。
 今更言うまでもなく、登場人物が本当に魅力的です。ラスコーリニコフにはもちろん彼の世界があり(彼の世界がこの小説で中心に描かれているわけですが)、ソーニャには彼女の世界があり、ドゥーネチカもラズミーヒンもスヴィドリガイロフもポルフィーリイもカテリーナ・イワーノヴナもピョートル・ペトローヴィチも……彼らの世界をもっています。そしてその世界ひとつひとつが、もうなんというか、読ませる読ませる。引き込みます。
 そして思想です。彼らは世界を持ち、そして思想をもっている。

 本当に、今読んでもこれだけ衝撃的なわけですから、書かれた当時にはものすごい力を持っていたに違いありません。
 出版は1866年ですから、これはそれから140年先の僕に対してこれだけの衝撃を与えられる小説なのです。(しかし先日の修学旅行の夜、まじめな文学トークを友達数人としていた時間があったのですが、そのとき、マジで小説家を目指している、芥川が好きな友人に「罪と罰」の話を振ったら、彼は「登場人物の名前覚えにくいよな」的な事を言いました。んまあ確かにそうですが……やっぱり小説に対する感じ方は千差万別。彼の何かが悪いとかそういう話では全く無くって……むしろ彼の事は尊敬している面も多いですから)

 あともうひとつ、この作品をロシア語で読めないのが非常に悔やまれます。僕が読んだのは「罪と罰 ドストエフスキー作 工藤精一郎訳」であって、「Федор Михайлович Достоевский. Преступление и наказание」ではない、というか……。
 つまり、文学にしろなんにしろ、元々の言語とか文化から切り離してしまったらもはやその芸術性は変質してしまう、という考え方からだ、と言ってしまうと単純ですが……まあでも、そういう事ですね。やっぱり原語でなければその作品の本当の世界は感じ取れないでしょうし。(この作品が口述筆記で書かれたらしい事を考えたとしても)

 まだあと何回でも読みたい小説です。今まで衝撃的だった小説ランキング世界編、暫定一位です。
  
Posted by sasaboushi at 19:47読感 

2008年01月12日

拳銃の神様

 男が僕に拳銃を向けていた。
「な、なんですか」
「拳銃の神様だ。いいから入れなさい」と男がマスク越しに言う。
 マスクだけじゃない。サングラスにグレーのハンチング帽、服は背広の上にコートで黒ずくめ、危ない匂いがぷんぷんする。確認もせずにドアを開けたのを後悔しても遅い。
「え、いや、神様? 拳銃?」
 ずしりと重そうな拳銃を前にして、もうほとんど腰を抜かしている僕を半ば押しのけ、男は家の中へ入った。薄汚れた畳にどっかと腰を下ろし、早くもその空間になじんでいる。正直、こんなのになじまれたのが悔しい。
「まあ君も座れ」と自称拳銃の神様は言った。

 男は、とりあえず出してみたオレンジジュースを飲んだ。出しといて言うのもあれだが良い年してなっちゃんをそんなおいしそうに飲むな。
「それで、あなたは、その……」
「拳銃の神様だ」
「拳銃にも神様が?」
「ああ、何にでも神様がいる」
 男は白いハンカチで口を拭き、マスクをつけ直す。花粉症用の“超立体”のようだ。それ、今の季節売ってるんだ。やがて彼は黒っぽい布で拳銃を磨き始めた。

「拳銃の神様って何をしてるんですか?」こう見えて僕は沈黙に弱い。
「拳銃の普及の推進だ」

 神様との一問一答と短い沈黙との繰り返しは、しばらく続いた。結果、神様の趣味とか家族構成とかが分かったけど、僕は次の質問を考えるのに精一杯で、聞いた事は片っ端から忘れていった。元々汚れていたようにも見えなかったのに、拳銃はどんどん鈍い輝きを増していった。えーと、あれはワルサーってやつかな。ドイツ製?

「それで、どうして拳銃の神様が?」
「ああ、この拳銃を、お前に」神様はサングラス越しに上目使いに僕の方を見て、拳銃をかすかに持ち上げる。
 ワルサー(推定)が鈍く光る。全然その気はないのに、誘惑されているような気がする。
「そ、そんなとんでもない。僕いりませんよ、拳銃なんて」

 まずかったかな、とすぐ思って、そっと神様の顔色をうかがった。彼は一瞬悲しそうな目になったが、すぐに神様に戻って「そうか」と言った。

 神様は立ち上がり、帽子をかぶり、ワルサー(推定)もコートの内ポケットにしまった。この格好でそんなとこに拳銃隠してるのは相当まずいと思う。
「突然すまなかった」
「いえいえ、とんでもないです」
 古いアパートのドアを開け、冬の曇り空へと出て行く神様の背中は、なんだか悲しげだった。いや、それでも拳銃は貰えないよなぁ。   続きを読む
Posted by sasaboushi at 06:00短編 

2007年12月14日

『旅をする木』 星野道夫5

『旅をする木』
星野道夫 / 文藝春秋

 かなり長い事ちょびちょび読んで、やっと最後までいきました。と言っても、短編のエッセイ集なので、別にバラバラに読んでも困るものではありません。というか、だからこそ読むのがゆっくりになってしまったのですが。

 星野さんは文章もうまいですね。優しいです。「自分に個人的に送ってきてくれた手紙を読んでいるような気持ちになる」とレビューを書いていた方がいましたが、確かにそういう感じがしました。

 アラスカ行ってみたいですねぇ……。
 アラスカに限らずどこか遠くへ行ってみたいです。この間オーストラリアまで行きましたが、友達と一緒だし、街に日本語あふれてるしで、正直海外旅行としては微妙でした(修学旅行としてはとても楽しかったですけどね)。

 最近、「やらなければならない事」が眼前に延々敷き詰められていて、ちょっと嫌気がさします。忙しい事って言うのはそれなりに充実してるってことだし、一番忙しい部活はやっててとても楽しいものなので、その内容自体が嫌なわけではないんです。勉強だって楽しいです。
 ただ、やっぱり、ゆとりがないし(別に皮肉でゆとりという言葉を使っているわけではありません(笑)、やりたい事がちゃんとできない、というか。来年の6月で部活は引退ですが、そしたら受験生しなきゃいけないし。
 やりたい事というのは、別に星野さんみたく一人で海外に飛び出して行きたいとか、そういうでかい事じゃなくて(いや、妄想としてはありですが)、もっと小さなことでもなんですよね。
 それで、例えば去年のうちにもっとこういう事をやっておくべきだったとか、今しかできない事をやらなきゃ後で後悔するかもしれないとか、そういう焦った気持ちになるというか……。でもこういうフラストレーションの事を青春って呼ぶんですかね? そんな気もします。

 本とあんまり関係ない事を書いてしまいました。
 しかしこの本を読んでると、忙しい生活の中でちょっとした安息が得られるかもしれません。実際に時間があるかといえばないのだから、それは想像力を駆使した代償行為に過ぎないのかもしれないけど、でもそれはそれでいいかもしれません。
 是非本棚に置いておきたい本なのですが、図書室で借りて何回も再貸し出しを繰り返した上、テストを挟んだせいで大分延滞して、督促状が教室に来てしまったので今日返してきました。まったく図書委員のくせに。
 機会があったら買うかもしれません。

  
Posted by sasaboushi at 21:32読感 

2007年09月01日

『Franny and Zooey』 J.D Salinger

『Franny and Zooey』
J.D Salinger / Penguin Readers

 こちらも学校の英語の課題で。ドリアングレイの方は学校から本が指定されたのに対して、もう一冊は自由に選べ、という事だったので、これを選びました。

 しかし正直ミスチョイスです。(表現的に)文学性が高すぎる小説を選んではいけませんでした。たまたまタダで英語のを手に入れたので、軽い気持ちで選んだのですが……。
 正直言って全然読めなかったんですよね。辞書引きまくって最初の方は大体把握したんですが、疲れました。何しろ英英辞典で引いても出てこない単語があったりしたり(辞書を駆使してどうやら造語であるという事の検討は付けたんですが。あとで日本語版を見たら「男根的」となっていました)、あるいは辞書に「特に意味はない」とか書いてある単語が出てきたり(最近の日本語で言うところの「なんか」とかでしょうかね)……。

 まあともかく大変だったんですが、多分そういうのこそが、(特に後者なんか)いわゆる「サリンジャー的」なモノを醸し出しているんじゃないでしょうかね。特に会話文においては。
 「ライ麦畑」を読んでいたので(もちろん文章作ったのは訳した村上さんなわけですが)、なんとなく雰囲気は想像で補えました。

 しかしそれでも話題が文学の話になったりするとついていけませんでした。さすがに。

 そういうわけで挫折し、Frannyのほうだけを読んで、レポートを書いて提出しました。まあ元々別々の短編小説だったしいいじゃないか、ということで。
 今度日本語で読んで、そしていつか改めて原書に挑戦したいものです。

 評価不能なので星は付けないでおきます。
  
Posted by sasaboushi at 22:02読感 

『The Picture of Drian Gray』 Oscar Wilde5

『The Picture of Drian Gray』(ドリアン・グレイの肖像) 
Oscar Wilde / Penguin Readers

 夏休みの英語の課題で、英語で読みました。(読んだのが元々のちゃんとした原書の文章なのかよくわからないんですが……)

 よくできた話だと思います。まず単純に怪談として面白いですね。悪に堕ちていくにも関わらず、その美貌を保ち続けるドリアン、そしてその代わりに醜くなっていく肖像画。そして最後には……! という、ありがちではあるんだけれども(ていうかこれをパクってありがちパターンが成立したのかもしれませんね)、洗練された、というか、話の展開がちょうど良いテンポでいいと思います。この話は小学校中・高学年くらいの国語の授業か何かで、先生が一日一章ずつ(日本語で)読んであげる、みたいな感じの話ではないでしょうか? なんとなくそんなイメージを持ちました。

 もうひとつ思ったのが、これは単に子供向けの話という風に片付ける事もできないな、ということです。
 例えば、ドリアンを享楽主義的な方向にすすめた発端となった人物、ヘンリー卿の台詞には、ちょっと鋭いところがあります。あとで解説しているサイトを読んだりしたら、「当時のイギリス保守層に対する批判」が入っているそうなのですが、そんな当時のイギリス保守層の考え方なんて知らない僕であっても、少し考えさせられるものがある言葉が多々ありました。

 強いて言えば、もう少しドリアンの悪事を具体的に描いて欲しかったかな、というのはあります。まあシビルの件はそこまででないとしても、バジルを殺した時点で十分極悪ではあるんですが、もう少しディテールが欲しいかな、と。でもそれを入れると話がダラダラするかもしれませんね……。

 面白い話でした。最初の1、2章を読んでる時「ひょっとしてこれは全体的にホモ小説なのか?」と思ってしまったのは内緒です(笑

  
Posted by sasaboushi at 21:48読感 

2007年08月08日

『こころ』 夏目漱石5

『こころ』
夏目漱石 / 新潮社

 学校の夏の課題で、夏休み中に読め、ということで。(感想文とかの提出は求められてません。もともと教科書に一部だけ載っている物を、全文読んでおけってことです)

 名作ですね。なんか名作になればなるほどここに書く事思いつかなくなる傾向が……。

 そもそも課題で読んだとはいえ、課題が出てよかったと思います。
  
Posted by sasaboushi at 22:02読感 

2007年05月18日

『人間は考えるFになる』 土屋賢二 森博嗣3

『人間は考えるFになる』
土屋健治 森博嗣 / 講談社文庫

 母親に貰って拾い読み。
 本来はこれは土屋健治さんや森博嗣さんのファンの人が読むものではないんでしょうか? 名前は知ってたけど本は読んだ事なかったです。まあまあ楽しめましたけどね。

 というわけで、そんなに熱心に読んだわけではないので内容とはちょっと関係ないはなしになるのですが。


 この本のあおり文句に、「絶妙文理対談!」とあったんです。これは土屋さんが哲学で森さんが工学で文理で、みたいな所から来ているようです。
 「発想も思考も思想も性質もまったく異なる二人が、(中略)トークセッション」とも書いてありました。僕は、『この二人が』まったく異なるのはいいとして、こう言う書き方で『文系の人と理系の人が』まったく異なる、みたいな印象を与えるのが気に入りません。(というか、そういう印象は既に他のメディアによってさんざん与えられていて、それを利用して興味を引いてるだけですけど)


 文系と理系という大区分が僕はそもそもあんまり好きではないのですよね。まだ人文科学社会科学自然科学のほうがいいです。なんていうか、その二つを「あまりにも違うもの」として区切る風潮のせいで、(それとプラス大学入試の仕組みってのもありますが)どっちかに決めると可能性が失われる気がするんです。


 具体的な例を挙げれば、僕が考えるに、例えば高校生が進学を前提に進路を考えるとき、

 1どんな職業につきたいのか?
 2そのためにどういう大学、学部にいきたいのか?(ここで文理が『結果的に』決まる)
 3そのために今自分はどういう努力をすべきなのか?

 というプロセスを経るのが本来のやり方であり、ものすごく当たり前の事だと思うのです。もちろん、高校生の時点で職業を決定する事はむずかしいし、大体決めたってそれになれるかは当然わからず、さらに気が変わらないという保証はないわけですが、それでも、何か目標がある事によって色んな事がスムーズに進むと思うのです。

 しかし、周りを見回すと、どうも、ねぇ。
 数学や物理が苦手だから文系、あるいは得意だから理系、みたいな感じで文理を最初に決めてる人が多いんですよ、現実。(逆バージョンで言えば、歴史が苦手だから理系、得意だから文系、みたいな) しかもその分かれ目を才能みたいな言い方をする(これは文系の人が多いですけど)。生まれた時点で数学がわかるやつとわからないやつに分かれているとでも言うように。
 そして文理を決め、『その後で』職業を考え、自分の偏差値に従って『行ける』大学を選び……。まあここまでアレな人はそんなに多くはないですが、でも少なくもないです。

 この『まず文理ぶったぎり』方式で進路を決定するのは、ある意味で合理的とはいえども、個別的に見ればとてももったいない事のように思えるのです。だから別に僕は友達に「それは間違っている!」とか言わないですけど、心の底で「自分だったらそういう決め方はしないよなぁ」「もったいないよなぁ」と思っているのです。そんな希薄な目的意識で努力できてる(あるいはできていない)人たちが不思議、とまでいうとかなり失礼ですが……。

 そしてそういうやり方によって文理を決めた人たちに取っては、様々なメディアによって植え付けられた意識が働く事になるでしょう。すなわち「文系と理系は『違う』」というものです。文系は理系を見下し、理系は文系を見下す、っていうなんていうかスゴくステレオタイプな関係ができあがる根底には、さっき言ったようなやりかたで進路決定をした事による、文理お互いへのコンプレックス的なものがあるんじゃないでしょうか?

 そんなわけで僕は文理という大きな枠組みでものを考えるのは嫌いです。


 なんかスゴく生意気に書きましたね(笑 この社会批判は別にこの本に向けた批判ではないですよ?(笑
 ちなみに僕は化学の方面に進みたいと考えています。このブログで文章書いたり小説書いたり(最近ご無沙汰;)してますが理系です。


 しかし、しかしその一方で、文理の性格の差というのは現実にはある程度(かなりの程度?)存在するようで。それをネタにして娯楽として楽しむのは僕は全然いいと思いますよ。
 ということで最後に紹介、Web漫画です。多分理系の人の方が笑えるのではないかと思いますが…。

 理系の人々

 最近は「理系」というより「SE」ネタが多くなって来たのが残念ですが、初期のはホントに的確についていて笑えます。ぜひ。
  
Posted by sasaboushi at 21:58読感 

『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹5

『ねじまき鳥クロニクル』
村上春樹 / 新潮文庫

 再読です。
 前に一度図書館で読んでおもしろかったのでいずれもう一度読みたいと思ってたんです。

 前回読んだときは長過ぎて構成の破綻感がちょっとしましたが、一応全部の筋を知っている状態でもう一度読むと、よくできた話だなという感じです。
 村上春樹さんの他の小説と比べて、この小説では主人公が明確な戦うという強い目的意識(「戦って、クミコを僕の手で取り戻す」)を持っているのが印象的です。その分感情移入度は強くなっている感が。特に終盤、主人公が井戸の壁を抜けてからのシーンはもうドキドキしますね。

 あとはまあ、笠原メイの存在がうまいです。アクセント的にいい味出してます。

  
Posted by sasaboushi at 21:16読感 

2007年04月24日

『陽気なギャングが地球を回す』 伊坂幸太郎4

『陽気なギャングが地球を回す』
伊坂幸太郎 / 祥伝社

 さらっと読める感じ。
 まあ、面白かったは面白かったんですけど、前評判ほどでは、っていう気もします。何がなのかはわからないですが物足りないっていうか。

 4人の特殊能力をもうちょっと立たせてもいいんじゃないかと思います。特に「演説の達人」って1人だけそこまで特殊じゃないじゃないですか。その分もうちょっと活躍してもいいかなと思います。あとは「嘘を見抜く名手」って反則すぎませんか? 「精巧な体内時計」っていうのはいいアイデアだなと思いました。「天才スリ」はまあ、ありがちなところ。
 そんなわけでもうちょっとそういうところでも遊んで欲しかったと思いますね。

 でも、面白かったです、ホントに。
  
Posted by sasaboushi at 22:25読感 

2007年03月04日

『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂幸太郎5

『アヒルと鴨のコインロッカー』
伊坂幸太郎 / 創元推理文庫

 伊坂幸太郎さんの小説を読むと、話にも引き込まれるんですが、いつのまにか小説自体よりも伊坂幸太郎さんに感心してしまっている事があります。こんなのよく書けるなぁって。今回もそれがありました。

 この小説の最大のトリック(で、いいんでしょうか。ミスリーディング、とは違いますよね。騙してるし)には、種明かしの場所まで気づきませんでした。よくできてます。
 帯によると5月に映画が公開されるそうですが、映像化したらそのトリックはどうするんだろうってことが気になります。

 でも僕は、そういうミステリー的なトリックよりもむしろ、“現在”での河崎の台詞が、あとから“二年前”を読んで意味が分かったりする、そういう仕掛けの方が好きでした。そういうのがとっても良くできている小説。
  
Posted by sasaboushi at 14:24読感 

2007年02月23日

『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』 星野道夫5

『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』
星野道夫 / 世界文化社

 川野さんに薦めていただいた「旅をする木」は学校の図書室に入っていなかった(今度リクエストして買ってもらおうと思ってますが)ので、入っていたものを借りて読んでみました。

 星野道夫さんは、シベリアで就寝中にテントをヒグマに襲われ亡くなりました。そのことは僕は知っていましたが、偶然にも(この本を手に取ったのは特に選んだわけではないので「偶然」という意味で)この本の元となった連載の取材中に、星野さんは亡くなったのでした。この本は元々月刊誌に連載されていたものですが、その事故によって未完となっています。

 やっぱり、写真も、文章も、うまいです。
 なんていうか、引き込まれるものがあります。
 題材となっている話題自体が、とても興味深いもので、どんどん読み進んでしまいます。その一方、星野さんが感じた“静けさ”の一部みたいなものが、写真や、文章から伺える星野さんの自然観によって再現されて、読みながら何とも言えない気分に浸ってしまいます。
 こんな場所が今も地球にあるんだ、と思うと、単純に深く感心してしまったり、行ってみたいと思ったり……。なんだか俗だとは思っても、地球温暖化その他もろもろの環境破壊は止めないと、みたいな事も漠然と考えさせられます。

 亡くなるすぐ前まで、付けていた日誌を読むと、これは星野さんの伝えたかった事とは多少違う、すくなくともその方法は違うのだろうけれど、生と死について考えさせられるのでした。


  
Posted by sasaboushi at 22:47読感 

2007年02月08日

『「ひとつ、村上さんでやってみるか」と…』 村上春樹3

『「ひとつ、村上さんでやってみるか」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける490の質問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』
村上春樹 / 朝日新聞社

 全部ではなくて面白そうなのを拾い読みしたんですが、面白かったです。いわゆる「村上春樹的表現」とか「村上春樹的冗談」とかが。
 猫トーク、あと猫マーロウさんも好きです。
  
Posted by sasaboushi at 20:42読感 

2006年12月05日

『LOVE in Alaska 星のような物語』 星野道夫5

『LOVE in Alaska 星のような物語』
星野道夫 / 小学館

 写真家の星野道夫さんのアラスカの写真集です。写真集なので「読」感かどうか微妙なラインですがまあいいや。
 図書室においてあって目についたのでつい借りてしまいました。自然はきれいだし動物はかっこいいしかわいいしもうアラスカ行きたくて仕方がありません。
 別にアラスカだけってわけじゃないですけど、旅がしたいです。遠くへ行ってみたいです。大学入ったら行きたいなぁ…。
  
Posted by sasaboushi at 17:57読感 

2006年11月14日

『ビリー・ミリガンと23の棺』 ダニエル・キイス5

『ビリー・ミリガンと23の棺』
ダニエル・キイス 堀内静子訳 / 早川書房

『24人のビリー・ミリガン』の続編です。
 あとがきにも書かれていた通り、ダニエル・キイスはかなりビリーに肩入れしてこの小説を書いているな、とは僕も思いました。でもまあ、それはいいんじゃないでしょうか。こんな特異な話を中立の立場から書くのは難しいだろうし、もし書いたらすごくつまんないものになると思います。
 そういうのもあって、かなりビリーに感情移入して読める小説です。前作に続いて、ノンフィクションだという事を忘れそうになるほど。
 ただまあ、ノンフィクションであるが故しかたないことですが、最後の方がちょっとあっけなかったかな、という気もしました。  
Posted by sasaboushi at 01:17読感 

2006年10月26日

『24人のビリー・ミリガン―ある多重人格者の記録』 ダニエル・キイス5

『24人のビリー・ミリガン―ある多重人格者の記録』
ダニエル・キイス 堀内静子訳 / 早川書房

 テレビでビリー・ミリガンの話しを見て興味を持ったので、本を読んでみました。
 しかし、これはすごい話しですね…。本当に起こった出来事だというのが信じられません。読んでいると小説のような気がしてきますが、実際ノンフィクションで。いやあ、ほんとなんか、不思議です。
 でも起こった出来事の正確な記録にとどまらず、各人格一人一人を生き生きと描いているのはやっぱりダニエル・キイスの力だと思います。アーサーやレイゲンに親しみが持てますもん。

 続編の『ビリー・ミリガンと23の棺』も読んでいます。  
Posted by sasaboushi at 21:51読感 

2006年10月03日

『希望の国のエクソダス』 村上龍3

『希望の国のエクソダス』
村上龍 / 文春文庫

 結構面白かったです。なんか読んでて、「俺ってもう中学生じゃないんだよなー高校生なんだよなー」なんて思ったりしました。
 スケールも大きいしよくできてるけど、「で?」って言っちゃうとそれで終わりな感じも。  
Posted by sasaboushi at 17:24読感 

2006年08月29日

『天使の卵 エンジェルス・エッグ』 村山由佳3

『天使の卵 エンジェルス・エッグ』
村山由佳 / 集英社文庫

 ありがちな登場人物、登場人物たちが持つありがちな過去、ありがちな話の展開、ありがちな表現(特に比喩)、ありがちなどんでん返し、ありがちなラスト……。ありがちな小説でした。
 でも僕はこの場合の「ありがち」を必ずしも悪い事ととらえていません。この小説の場合にはありがちなことによってとても読みやすくできているし、何よりありがちに徹する事でとてもストレートな小説になっています。
 映画化されて、今年の秋に公開されるという事なので、機会があれば見てみても良いかな、と思います。

 でも、暗示なしに主要登場人物を殺してラストへ、という手法が僕は嫌いです。なんか冷めます。  
Posted by sasaboushi at 06:00読感 

2006年08月27日

『スローグッドバイ』 石田衣良3

『スローグッドバイ』
石田衣良 / 集英社文庫

 まあまあ面白かったんですが、この短編集を現実に十分起こりうる話として読めば良いのか、それともあくまでファンタジー的に読めば良いのか、読み手としての立ち位置を確定できないうちに一冊読み終わってしまい、なんかしっくりきませんでした。これは読み方ひねくれてていけないんだろうか。  
Posted by sasaboushi at 06:00読感