NBAのサラリーについてのお勉強第四弾は、制限付きFAについてです。

FA(Free Agent)には2種類あって制限なしFA制限付きFAです。(ってこれじゃ何の説明にもなってないな)
たまに耳にすると思いますがどうでしょう。違いは分かりますか?NBAファンならこれくらい知ってるよ、馬鹿にするなという人も多いとは思います。
ただ、私はこの違いくらいは知っていましたが、調べるまでなんとなくでしか知りませんでした。
制限付きFA選手に対してはどんなときでもマッチできるなんて勘違いをしていました。
毎度のことですが私自身が整理するためなので不足する面もあると思いますがお許しください。

今オフこの制限付きFAとアーリーバード例外条項、ギルバートアリーナス条項を組み合わせた応用技を仕掛けたのがHOUです。ご存じリンとアシクに対するアレです。後半そのことについても触れてみようと思います。

まず最初に基本から。
制限なしFAはその名の通り何の制限もありません。選手は好きなチームと契約できます。元所属チームに引き止める権利なんてもんはありません。例外条項のバード権関連でお得なことはありますがそれだけです。キャップが空いている限りどうぞお好きなチームと契約して下さいというものです。

今回もLarry Coon's NBA Salary Cap FAQのQ43を読めば終了ですよ。

今回のキーワードはQualifying Offer(QO, クオリファイングオファー)ギルバートアリーナス条項です。
(以後、日本語では読みずらいのでQualifying Offerは英語表記QOとします。)


前の記事であるNBAのサラリーについて3~例外条項~を事前に読んで頂けないと難しい表現も含まれています。

また長くなりました...


制限付きFA選手が他チームと契約しても3日以内に元所属チームがマッチ(同じ契約)すれば元所属チームと契約するものです。

大雑把にいうとこんなかんじです。

制限付きFAになる条件
☆1順目ルーキー契約の4年満了後のFA
☆リーグ所属が3年以下のベテランFA


条件は2つしかありません。条件が2つというよりは、このどちらかのみが制限付きFAになるという方が正しいかもしれないですね。ただし、1順目ルーキーの場合、3,4年目のオプションを行使されなかった場合は制限なしFAになります。

上の条件を満たしただけではまだ制限付きFAにはなりません。元所属チームがQualifying Offer(QO)を提示して初めて制限付きFAになります。言い換えると上の条件はQOを提示できる条件になります。
チームは条件を満たす選手を制限付きFAにしたい場合、6/30までにQOを提示する必要があります。
QO1年契約で他チームのオファーシートにマッチできるものです。
マッチというのは(選手がサインした)他チームが提示したオファーシートと同じ内容で強制的に引き留めることです。強制的というより優先権があるという表現が正しいかもしれません。

具体的にいうとNバテュームがMINから46M(正確には分かりません)のオファーシートにサインしましたが、PORがマッチ(同額の条件で契約)したのでバテュームは来季もPOR所属になりました。


QOの提示額について
1順目ルーキーはドラフト指名順位によって細かく決まっています。コチラ
リーグ所属3年以下のベテランについては、前年サラリーの125%か、ミニマム契約+$200,000のどちらか高い方です。

ただし、選手のこれまでの出来によって多少変わってきます。
(ルーキー例外条項でも触れましたが)基本的にQOの提示額は指名順位によって決まっているものの、過去1シーズンもしくは2シーズンの平均でStarter criteriaを満たすかどうかによって変わることもあります。
Starter criteria:RSで41試合以上スターターになるか2000分以上出場すると達成する基準
10~30位指名選手がStarter criteriaを達成→9位相当のQO
2順目指名及びドラフト外選手が2もしくは3年目にStarter criteriaを達成→21位相当のQO
1~14位指名選手がStarter criteriaを未達成→15位相当のQO

具体的にSASのDグリーンは2順目指名選手でしたが、このStarter criteriaを満たしていたので21位相当のQO(2.7M)が提示されました。(実際はQOではなく3年12Mで再契約)


QOの亜種にmaximum qualifying offerというものがあります。これはルーキー契約4年目の選手が結べるいわゆるMAX契約です。最大5年、上昇率7.5%、さまざまなオプションを組み込むこともできます。フランチャイズの柱になるべき選手に与えられるものですね。初年度のサラリーはキャップの25%までで結ぶことができます。
さらにさらに極めて優れた特別な選手にのみ許されたデリックローズルールというものもあって、これは次のいずれかの条件を満たす場合初年度のサラリーがキャップの30%までで契約することができます。

1. All-NBAに2回以上選出される
2. All-Starのスターターに2回以上選出される
3. MVPに1回以上選出される

このいずれか一つを満たした場合デリックローズルールを適用できます。
ルーキー契約下(4年以内)にこれらの偉業を達成できる選手になら納得ですよね。
(条件2のAS出場はあくまでスターターとしてです。ただ出るだけではダメですよ。)

ちなみにMAX契約のMAXとは初年度のサラリーが
リーグ在籍0~6年:キャップの25%
リーグ在籍7~9年:キャップの30%
リーグ在籍10~年:キャップの35%

もちろんこれらは初年度の話ですよ。ほら、LALのコービーとか凄い契約になっていますよね。キャップの35%なんて余裕で超えています。2013-14シーズンに至っては30Mと50%近い額です。


当然ですが、オファーシートを提出する場合、キャップルームに空きがないといけません。同様にマッチする場合もキャップルームに十分な空きがないといけません。この隙を突いた契約を防ぐため後述のギルバートアリーナス条項が生まれました。
(現在は例外条項があるのでほとんどの場合元所属チームはマッチできます。ただし、どんな場合でもというわけではありません。無理な場合もあります。)

3/1以降はオファーシートを提出することができません。3/1まで契約しなかった場合は元所属チームとの再契約しか選択肢はなくなります。

7/23までならチームは(まだサインしていない場合)QOを自由に取り下げることができます。取り下げた場合選手は制限なしFAになります。FA選手を獲得したい場合キャップを空ける目的などでみられますね。


まとめると、制限付きFAになった選手は以下の5(6)つの中のどれかになります。

1. QOを受け入れて1年契約し、来オフ制限なしFAになる
2. maximum qualifying offerを受け入れてMAX契約をする
3. 元所属チームと新契約をする
4. オファーシートにサインして新チームと契約する
5. オファーシートにサインして元チームがマッチして元チームと契約する
(6. どことも契約しないで、来オフ再度制限付きFAになる)



ギルバートアリーナス条項についても触れておきましょう。
制限付きFAに関してこれは切っても切り離せません。
Larry Coon's NBA Salary Cap FAQのQ44を読めば解決ですよ。

上記の通り、制限付きFAの選手にマッチする場合、本来キャップルームに十分な空きが必要です。たとえキャップが空いていなくてもマッチできるのは(1順目指名選手は5年目のため)選手に対してラリーバード例外条項を適用できるからです。
しかし、在籍1,2年のベテランFA選手はラリーバード例外条項を適用できません。アーリーバード例外条項ノンバード例外条項しか使えないので、他チームが巨額なオファーシートを提示した場合、キャップに空きがないとマッチすることができなくなります。
(例外条項に関しては前のNBAのサラリーについて3~例外条項~を参照して下さい)

さて困りました。このままではせっかく2順目やドラフト外で見つけた金の卵をみすみす手放さないといけません。そこで登場したのがギルバートアリーナス条項です。名前の由来は2003年当時GSWからFAになったギルバートアリーナスが関係しているからです。詳しいことは省略。

そうそう、このギルバートアリーナス条項は在籍2年目までの選手にのみ有効です。


在籍1,2年のベテラン制限付きFA選手に対して新契約1年目のサラリーがNon-Taxpayer Mid-Level exception (ノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項)を超える金額のオファーは出来ません。いわゆるフルミドル(2012-13シーズンなら5M)を超えてはダメというわけです。さらに2年目のサラリーの上昇率は1年目の4.5%まで(2年目が2013-14シーズンなら5.225Mが上限)です。あくまで1,2年目の提示額に制限がかかっていることに注目して下さい。別に総額を制限しているわけではありません。
逆に言うと3,4年の複数年オファーの場合は3年目に跳ね上がります。これが今季HOUがアシクやリンに対して仕掛けたものです。

ここで勘のいい方は気付いたかもしれません。ノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項を超えられないということはアーリーバード例外条項を使える選手ならば問題ありませんね。リーグの平均サラリーはおよそ5M(2011-12シーズンは5.048M)なので、まず問題なくマッチできます。

そう、問題になるのはノンバード例外条項しか使えない選手の場合です。
たとえばタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項(2012-13シーズンなら3.09M)しか使えないチームはどうでしょう。気付きましたね?3.09M以上5M以下のオファーを提示された場合はマッチできません。
そらそうです。贅沢税を支払っているチームにかける優しさなんて必要ありません。


だからこそDスターンはあんなにも必死にリンをはじめとする4選手に対して、本来のルールを曲げてまでバード権が使えるぞとアピールしていました。このニュース当時は意味が分からなかったのですがようやく納得できました。リンはアリーナス条項を適用できるので初年度5M以上のオファーはできません。結局リンは移籍しましたが、NYKはミッドレベル例外条項を使わずにアーリーバード権を使ってリンにマッチできるはずでした。まあ当時のNYKはノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項を使えたのでアーリーバード例外条項を適用しなくてもマッチ自体は出来たのですが、後のFA戦略の幅が全然変わってきますからね。


話がそれましたが、制限付きFA選手に対してマッチできない場合についてもう少し詳しくみてみましょう。大きく4種類あります。

1. ノンバード制限付きFA選手に対して、タックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項しか使えないチームがこれを超えた(金額or年数で)オファーを提示された場合
初年度3.09M以上5M以下のオファーや4年契約のオファーのこと
(タックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項は最長3年なので)

2. ノンバード制限付きFA選手に対して、ノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項を他の選手に対して既に使用していた場合
つまり制限付きFA選手に対してノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項を使えない場合

3. リーグに3年在籍したノンバード制限付きFA選手、アーリーバード制限付きFA選手
ギルバートアリーナス条項はリーグ在籍2年までの選手に適用のため

4. 2人以上のノンバード制限付きFA選手に対して、一人にノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項を使ってキープしたとき、他のノンバード制限付きFA選手に対してこの例外条項を使えない場合
2と同じ理由

制限付きFAに対してどんな場合でもマッチできるなんて勘違いはいけませんよというわけです。



さて、3年目にサラリーが跳ね上がるという話ですが、もう少し詳しく見てみましょう。ここにHOUのアシク、リンに対するオファーのからくりが隠されています。ルールの裏をついた実に巧妙な手です。

オファーシートを出したチームは平均サラリーがキャップに計上されるのに対して、マッチする側は数字通りのサラリーがキャップに計上されます。

具体的に見てみましょう。
リンに対するHOUのオファーは3年25Mでした。HOUのオファーとNYKがマッチした場合
HOU:8.3, 8.3, 8.3
NYK:5, 5, 15
(大雑把ですが)上記の金額がキャップに計上されます。

NYKの3年目が15Mになるw 
なるほどマッチするかどうか悩むわけです。実際にはマッチしませんでした。


じゃあ他チームはどのくらいのオファーまでなら提示してもいいの?という話です。
もちろんキャップが空いていることが前提ですが、そのキャップはどのくらい空いていたらいいの?ということです。
初年度のサラリーはノンタックスプレイヤー・ミッドレベル例外条項を超えない額なので(2012-13シーズンなら)5Mまでです。5Mの空きがあればいくらでもオファーしてもいいか、というとそうではありません。
必要なキャップの空きは提示するオファーの平均サラリーです。

具体的にみてみましょう。
キャップに8Mの空きがある場合、3年24M(5,5,14)、4年32M(5,5,11,11)までオファーできます。
()内はマッチする場合の額です。オファーする側はいずれも8Mが計上されます。


こんなのマッチできないじゃん!ふざけるな!嫌がらせするなんて最低!と思う方もいるでしょうが、それは間違いです。この条項はあくまで保持しやすくするためのもので、絶対保持できるなんてことはありません。それに最初2年のサラリーに上限を設けている分、間違いなく保持しやすくなっています。

今回のまとめで勘違いしてほしくないのはアリーナス条項を用いたオファーは単純な嫌がらせではありません。リーグ在籍2年目まで、特に今回のリンに至ってはたかだか1ヵ月しか活躍していないわけです。そんな選手に複数年の巨額オファーをするのはそれ相応のリスクがあります。どうかこの点を忘れないで下さい。それに普通の額ならマッチしちゃうでしょ?普通にやったらオファーする側はとれないですし、そもそも十分なキャップを空けていない方が悪いという大前提を忘れないで下さい。1,2年後の話ではなくて3年後のキャップを空けていないような無計画なチームに文句を言う資格はありません。



制限付きFA及びギルバートアリーナス条項に関するまとめ、いかがだったでしょうか。今オフのHOUの動きは本当に勉強になりますね。

SASの動きに絡めて整理した方が個人的には分かりやすかったのですが、そんなことよりも戦力維持の方が大切です。今オフ制限付きFAのDグリーン、Pミルズと再契約できたので満足しています。変なオファーをされなくてよかったです。ミルズはそこそこのオファーシートにサインして移籍すると思っていたので助かりました。控えPGを探しているチームはせっかくの機会を逃してしまいましたね。

また例によって間違いを見つけた方はコメント等で知らせて頂けると嬉しいです。