2019年08月07日
Toy boy's story・43
瞬く間に5ヶ月が過ぎた。
「はい」
わからないように渡せ、と言われている言葉の通りに冬夷は、セレ袋の上に両手を乗せ、ただ伸びをしただけ風に來人に携帯料金を渡した。
「ん」
冬夷の手に、來人の両手が被さり、手品のようにミッキーマウスのセレ袋が消えた。
「ね、しよーよ、そろそろ」
「またな」
「あ、そ」
いつもの返事を聞くと、目の前で自分のドリンクを作る來人と会話もせず、冬夷は俯きスマホを弄る。
5ヶ月前の約束の日―
結局、パスポートは偽造だし、プリペイド携帯にしようと思ったが
「へ?何で?やっぱし家出なんちゃうん」
と笑われ、少し意地になってしまって普通のスマホを求めた。
そして当然のごとく住所を書けと言われ、ああ、とパスポートを見ながら辿たどしく書き写していると、目の前に座り、ウットリと冬夷を見つめる女店員の肩を叩き席を立たせ、上役らしき男性が担当を変わった。
そして
「お客様。こちらには、郵便物の届く住所をお願いしておりますが、大丈夫でしょうか?」
と、じっと目を見られて聞かれてしまい
「ああ、大丈夫。…最近、引越したから、覚えてないんだ」
と何とか答えたが、盛大に怪しげになった。
金は払ったが、何せ頼んだ人間と、そういい関係だったわけでもないし、いかにも適当な感じのヤツだったから俄然、不安になってきて
「また今度でいい」
とカウンターを立つと、來人が、ちょっと待っとけ、とカウンターに戻り、まだそこにいた店長に何か言って、手続きを始め、無事スマホを購入し
「よお解らんけど、スマホ要るんやろ?」
と、驚く冬夷に新しい真っ白なスマホを手渡して来たのだ。
「ありがと。何で白?」
「は?電話は白やろ?」
意味も何もない会話で少し笑い。
「俺名義やけど金はもらうで。俺お前のパパちゃうし」
―お前…
「ハハ、なんだそれ。金は払う。俺、持ってるし」
「うわ、何っか感じわるー」
「何が。じゃあ、はいこれ。どうもでした」
冬夷はスマホの購入料金を來人に手渡した。
関西弁だから仕方ないと思っても、來人に自分、自分、と言われるのがどうも嫌だった冬夷は、自分に対する來人の二人称が「お前」になったことが少し、嬉しかった。
「はい、毎度あり。お前ラインやってる?」
「は?わかんない」
「便利やから入れとくわな」
「ああ、うん」
「俺の、繋げとくな。お前の情報も入れといてええ?」
「ああ」
俯いてスマホを操作しながら何気なく聞かれ、返事をする。
それからラインのやり取りを教わった。
「ロイ…と。あ、お前名字何?」
「は?」
「名字よ、名字。俺、フルネームで登録する派」
「あ、ああ。えっと鈴木」
「なんか間開いたな。偽名ちゃうやろな」
ニヤニヤしながら來人はスマホを触り続ける。
―偽名です。
心で言って、冬夷はニッコリ微笑む。
「その顔で知ら~ん顔してオトコ落としてんやなー、いっつもなー。この性悪子ネコはなー。えーっと…毎月1日に店に金持って来い。その月の料金ラインで知らせるからな」
相変わらずニヤニヤ顔の來人が言った。
冬夷は、へへ~…と笑い返し、今までの誰との関係とも、また違う方向に向かう予感を、來人に感じていた―。
スマホを手にしてから、駅前にあった不動産屋に入り、部屋も決めた。
営業マンと一緒に、数件を見たが、どれも気に食わず
「適当に作り変えるから、飲み屋のハコとかがいいんだけど」
と言ってみれば、営業マンが目を丸くしつつも、じゃあ、と、夜の三宮で、かつては1番賑わっていたらしい東門街の古いビルの2階に、元々は広めのスナックだった20坪足らずの店舗を、エステサロンにする、と言ってスケルトンにし、作り替えたが、全く客足が伸びずに、半年で閉めた店へ連れて行ってくれた。
エステ器具やベッドは運び出されていたが、シャワールームとやたらセンスのいいパウダールームがある。
「こんな場所ですからね。1階やったりしたらまあ、物販とか、何とかサロンとかでももしかしたらいけるかもやけど、2階やからねぇ…。もう3年このまんまですわ」
と、半笑いで営業マンは言った。
「いいじゃん」
「え?マジすか?」
ここなら《千流》まで歩いて5分程だ。
―何だかんだ言って來人を連れ込めるかも。
「マジ。よろしく」
なかなかな場所に部屋を手に入れた冬夷は、そこを拠点に千流以外にもゲイバーや、客は特定なしで、ゲイがやっているバーなどを調べ、数件、馴染みの店が出来た。
メニードーナツも三宮に見つけた。
目が覚めるとまず、スマホでニュースを見て、ヤクザの記事がなければ保存してある勝海の画像を見る。
それから適当に朝昼兼用の食事を取り、前日帰宅してポケットから出して小さな座卓に置いた金の中から札だけを尻のポケットに入れ、キャップを被って外に出る。
意外に物価の高いアブジャでも、全く困らない生活費をカルーに毎月渡されていた為、冬夷のタンス貯金ならぬナップサック貯金は4年前のまま残っていた。
きちんと数えたことはないが、パンパンに膨らんだ長形4号の封筒が20とちょっと。
それをナップサックに詰め、ミニボストンの端っこに入れている。
晴樹や客から渡される札を、《アザミ》のカウンターの内側の抽斗にあった封筒に適当に詰め込み、入らなくなったらまた新しい封筒に入れ、溜まった金だ。
最近は歩くのがけっこう楽しくなって、毎日東遊園地まで行って帰ってくるのが常になった。
今は《千流》へは、大体週1程度足を向ける。
相変わらず來人は釣れないので、堺に会えば堺と寝るし、他の男でも誘われて嫌でなければホテルへ行く。
何かの切欠で勝海が広がってしまい、堪え難い痛みが胸を襲うこともあるが、何とかそれをやり過ごし、大体は割に気楽に、そう悪い気分でもなく暮らせている。
偶然、來人を見て、僅かにチカッとした闘争心に従い、神戸に来た。
目的も、予定も、知る人も、何もない街。
だが、ここが、何となく自分の場所になっていく……
そうしている間に、あんな男もいたな、くらいでしか勝海を思い出さなくなる、きっと―。
「はいよ」
焼酎の水割りをトンとカウンターに置いて來人が聞く。
「ヤロウよ」
「しません」
「あ、そ」
「お前、飽きへんの?おんなじことばーっかり言うて」
冬夷は、一応考える素振りをし
「飽きない」
とお返事。
すると、返事を聞いて俯く來人が、冬夷の好きな顔で微笑する。
―この顔が見たい、ってのもある。
「俺はアカンの?」
ふいに冬夷の前に来たマスターが笑いかける。
―何だよ、急に。
「アンタネコじゃん。ダメ」
「リバやで?」
―はぁ?
「嘘つけよ。別嬪さんのバリネコさん」
「キツイなぁ、何か俺にはー。せっかく常連さんなってくれたのに、もうちょっと露衣くんと仲良くなりたいなぁ。來人好きなんは知ってるけどもうちょい、親しくなれたら嬉しいなー、とかな」
「何?この店って、客に注文すんの?」
「いや、ちゃうよ。お願いやん。アカンかな?」
「は、アホらし。却下。ネコに興味ない」
「チカさん。俺が」
來人がマスターの両肩に優しく手を乗せる。
「ハハ…來人。そやなー、俺、どうも嫌われてんなぁ」
「そんなんちゃいますよ。こいつ負けず嫌いやから、チカさんの美貌が嫌いなだけです」
「美貌て!俺そんなんちゃうで!そんなん、露衣くんの方が全然美貌やん!」
「いえ。チカさん、めっちゃ綺麗です」
「は?も、止めて來人!何、ほんま!」
「だって給料日ですから!」
「わ!そこ?!そっか、やられたー!一瞬落ちよったー!!」
「へへ!今月はちょっと色つくかな~」
「逆に減らすわ!恋ドロボー!詐欺師ー!」
明るく笑って、客のビールを注ぎにサーバーへ走るマスターの背中に
「落ちてみろや…」
と小さく吐いた來人の心を冬夷は聞き逃さなかった。
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sasorimama at 06:00│Comments(0)│Toy boy