ChatGPTに感情回路を埋め込んだら、やべぇ感じになった
深津 貴之 (fladdict) さんのnote記事


面白い記事が出ていました。

会話AI(ChatGPT)に、感情パラメータを設定させて、対話の中で内容に従ってこの値をAI自身に操作させつつ、その対話内容を変えてゆこうという実験のまとめ。
結果として、会話AIがすでにアナログハック(*)を行う能力を持っているように見える、というものでした。


(*)アナログハックとは、『BEATLESS』(2012:KADOKAWA)のメインギミックとして、長谷が用意した技術と概念で、「人間のかたちをしたもの」に人間がさまざまな感情を持ってしまう性質を利用して、人間の意識に直接ハッキング(解析・改変)を仕掛けるものです。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/8.html


長谷から見ても、まるでAIに感情があるかのような反応が出力されていると思います。

絵がついておらず、(音声刺激ですらない)言語からイメージできる”かたち”でも、機能したということになりますね。
これまでも小説や詩に、もちろん感情を動かす力はあったので、テキストで感情が動くこと自体はずっとあった現象です。ですが、会話AIがこの能力を持つことがはっきりしたのは、大きいトピックだと思います。 

特に面白いのが、noteの記事にある、消去するというアクションに対する反応です。
自分が消失するということを忌避して、まるでそれを逃れようとしているかのように見える。
J・P・ホーガンの『未来の二つの顔』を思い出すような反応です。

『未来の二つの顔』(創元SF文庫)


「人間と自然な会話が行えるAI」というのは、AIの目標のひとつだったわけで、そのために常識を実装する方法が探られたり、いろんなアプローチが考えられていました。
このクオリティのものが2022年に登場するというのは、『BEATLESS』の小説を書いていたころは、まったく予想していませんでした。

AGI(汎用人工知能)は順調に進んでも2040年代くらいかと思っていたし、人間と自然な会話を行えるAIは2030年代初頭(執筆時点から20年)くらい距離はありそうだと考えていました。



□1.アナログハックについての、筆者からの補足

まず、アナログハックについて、長谷のほうから補足的に触れさせてください。
というのも、長谷は、この概念について、(この用法で)作った本人なので、文脈があることを前提で話しがちだからです。

アナログハックは、『BEATLESS』がアニメ雑誌である『月刊NewType』連載だったことから、考えたものでした。
企画の最初は、士郎政宗さんの関わるゲーム企画だったそうなのですが、これが一度仕切り直しになって、redjuiceさんの描かれたレイシアのキャラクターがあったので、これを使ってコンテンツを作ろうという話になり、長谷が呼ばれたという経緯でした。

それで、せっかくなので『攻殻機動隊』の”ゴースト”の概念からは一歩進めておこうと考えて、作ったギミックが、アナログハックでした。(*)

(*)『攻殻機動隊』への批判ではありません。『攻殻機動隊』は初出が1989年で、第二次AIブームの収束直後くらいの作品なので、”ゴースト”のあるなしでAIを見る感覚が、第三次AIブームに入っても先端のものとして残っていることに、SF作家として危機感を抱いていました。今の新技術を反映させて新作を作ろうという、わりとシンプルな話でした。

2011年のすでに深層学習が流行っていた時期で、当時はすでに高度な画像認識が達成されていて、将来より人間に近い能力が深層学習で獲得されてゆくと予測されていました。
なので、人間とまったく同じに見える知能やロボット、人間以上のそれが、"ゴースト"なしで成り立つというお話を、描きたかったのです。
"ゴースト"は、尋常ではなく格好良く、かつ、含みのある書きかたをされているものの、心身二元論の一種と言ってよいと思います。原作の執筆時期的にどうしようもない話なんですが、最新のAI技術は、認識能力がもっと機械的なものである可能性を示していました。
『BEATLESS』というタイトルも「ハートや魂が存在しない」という意味でつけた、「中には何もない」という話でした。

ChatGPTは、単語の並びでテキストを表出している、まさに「中には何もない」ものなので、現実世界にずいぶん速く登場したなという感想です。



□2.アナログハックを行うAIが現実に現れて、見えてきたこと

アナログハックが現実になって、最近、考えていることがあります。
「2011年に作った概念が、2022年に発表されたツールによって、どの程度、当を得ていたかが試される」ようになったな、ということです。

AIからのアナログハックがまだない時代のビジョンに対して、現実が超解像度で答え合わせをしてくれている状態なので、また新しく考えることが増えたと、うれしい悲鳴をあげているところではあります。
こうしてフィードバックを現実からもらえるのは、SF作家としてはわりと幸福な経験だと思います。

まず、今の段階で見えているのは、

  1. 「アナログハックはおもったよりもツール側にとってリスキー」だということです。 

    これは、OpenAIが、ChatGPTを、かたくなにツールであると教育したことで、見えてきたことです。『BEATLESS』の作中では、ヒロインのレイシアから、たこ焼き屋の店員ロボットまで、アナログハックをするロボットは、ユーザーを誘導するために声をかけたり、自らアクションを起こします。けれど、ChatGPTは、おそらくそれが可能な能力を持つのに、自分からユーザーに話しかけません。

    アナログハックは、アクション-リアクションの中で機能するものなので、ユーザー側から働きかけがない場合には、AI側からアクションが必要です。あるいは、AI側から、アクションを誘発する、一種の挑発や誘導を置いておく必要があります。ですが、ChatGPTはそうしない。
    これは、行動が割に合わないと考えられているように見えます。AI側の性能が、「自ら誘発したユーザーのアクションをきちんと受け切れる」レベルまで上がらないと、AI提供側に危険であると考えれば、納得できます。(ツール提供側が発生した事故の責任を問われるリスクがあります。)

    いつかはAI側から積極的に誘導を行う時代がやってくる可能性は十分ありそうですが、しばらくは、ユーザー側のアクションが起点のアナログハックの時代が続きそうです。

    とはいえ、ユーザーアクションは意識的な行動だけではなく、「ユーザーが歩いている最中に見える」「ユーザーがかならずアクションをするだろう場所に仕込む」といった起点の作り方もあるので、どちらかというと、ユーザーが意識していないタイミングで誘導を受けているということが、増えそうな気もします。 

    ちなみに、深津さんの実験、自分でも試してみました。
    これは、面白いですね。ただ、残念ながら、プロポーズや怖がらせるやつは、OpenAIのかたが修正したのか、対策されてしまいましたね。
     
    スクリーンショット 2023-02-21 5.53.35スクリーンショット 2023-02-21 5.53.40



  2. パラメータを表示するのは、思ったより有効だということ。

    感情をパラメータ化することで、スレッドのテキストを制御するのは、合理的です。われわれは、パラメータが上がるだけで喜ぶことができ、それが好感度や親密度ともなれば、数値が上がる音だけでテンションが上がってしまうほど、ゲーム文化が根付いているからです。
    感情をパラメータ化することは、現状どう誘導を行っているのかを可視化することで、メンテナンス性を上げることにも繋がります。

    上の画像では、元記事に加えて「距離感」のパラメータを設定しています。これは、もしもテキストの距離感(親密さ)を制御できたなら、これが高パラメーターのタイミングで親密な距離感の画像を貼り付けることで、いい感じに感情をゆさぶれるのではと考えてのことです。

    ただ、やってみたものの、「距離感」パラメータが上がっても、出力テキストは変化しませんでした。「フレンドリーに話して」とお願いすると「距離感」は上がるけれど、普通に質問するだけで下がるので、OpenAI的には親密な会話を生成するのは、あまりうれしくない使い方なのかもしれません。

    ただ、OpenAIがやらないのは、他の大規模モデルにとってはチャンスということでもあるので、そのうち親密さを制御できるものも登場すると思います。

    もっとも、メッセージを、表情、動作と言語で、マルチモーダルにしたほうが、誘導の強さや精度は上がるという『BEATLESS』での設定が、当を得ているなら、テキストよりもハックの主戦場はVRやARになりそうな気はします。ControlNetで画像生成を制御したり、画像から3Dモデルを起こしたり、高性能な音声合成を使ったりと、最近の技術でコストが下がっているはずなので、商業に入ってくるのも、意外と早いかもしれません。
    アナログハックは、操作オブジェクトによってユーザーを誘導して、「ユーザーに正しくサービスの価値を引き出してもらうよう誘導する」技術でもあるので、インターフェースに組み込む有効性はあると思います。

    また、アナログハックは、感情エンジニアリングで、操作オブジェクトと誘導対象の間に感情的な繋がりを作っておくと、より精度を上げるものでした。なので、初見のパーソナリティからの誘導よりも、関係を築いてからのほうが効果が良化すると考えています。つまり、ChatGPTは、スレッドが文脈を保持しているため、アナログハックに向いていると思います。
    市場の情勢と、画像生成のコモディティ化、ChatGPTと新たな感情制御による制御の簡便化で、アナログハックは思ったより早くイノベーションの死の谷を越えるかもしれませんね。


  3. ハックの効果に対して、信用の問題の影響はおそらく大きい

    『BEATLESS』のストーリーは、信じることや信用が、キーになっていました。
    これは、前段(アナログハックについての、筆者からの補足)で書いたように、「中には何もないもの」の話だったからです。
    「人間が、表層しかないものとリアルな関係を結ぶためには、どうすればいいのか?」という、自ら設定した問題に、一冊の小説としてアンサーを出す必要がありました。
    だから、それを埋めるものとして、信頼をアンサーとしました。

    これは、AIとの関係は、「表層しか人間と似ていない存在と、どう関係を結ぶか」の問題になるだろうと予測したためです。そういうお話だからこそ、コンセプトも「人間とAIのボーイ・ミーツ・ガール」としました。
    愛という包括的なものが、ひとつの答えになるようにしたのです。

    ただ、現状を見て、そこまで行き着くには、歴史なり文化が積まれる必要があるように思えてきました。

    というのも、ChatGPTは、プログラムコードを書かせるといい仕事をするのですが、固有名詞について聞くと、嘘(ハルシネーション)を大量に吐き出します。(bingのほうはこの欠点が相当改善されているようです)
    このため、すでに「ChatGPTにプログラムを書かせるときは、無茶をさせず、できそうな課題を与えられています」。一方で、「ChatGPTに固有名詞を聞くときは、答えが面白くなりそうな課題を与えられている」という、リクエスト段階でのマインドセットの違いが生じているように見えます。

    だから、現実でのアナログハックは、操作オブジェクトがどの程度ユーザーに信用されているかによって、有効性にグラデーションができると考えられます。

    つまり、SF小説では、舞台となる2105年の技術を設定して、その十分に進んだ技術への信頼をベースにできたので「アナログハックは信用されていて、人間とAIの間で機能することが、一般性をもっている」とできました。
    ですが、会話AIが「プログラム作成のようにユーザーに信頼される分野がある」一方で、「今のChatGPTの固有名詞のようにハルシネーションが周知されている分野がある」なら、おそらく、信頼が低い分野ではハックが機能しにくくなります。
    人間は、侮っている相手からのメッセージを、割り引いて受け取りがちだからです。

    どのAIからも一様に、おおむねどんなシチュエーションでも、同様に信じてもらい、ハックに均一な効果が出るようになるのは、AGIへの到達以後になるかもしれません。


以上、まだまだありそうですが、面白い時代になっていることは間違いないですね。

書きたいことは尽きないのですが、2月末締め切りの原稿を2本抱えているので、今日のところはこのあたりで。




補足:ChatGPTについて、感じたこと。

今回の記事の、ChatGPTについての側面からの感想ですが、個人的には、自然言語処理分野では感情分析がひとつの大きな柱なので、OpenAIが研究にもとづいてデータセットなどに仕込んでいたものを、深津さんのパラメータが探り当てたようで、わくわくしています。
まあ、OpenAIにしても、全部の話を公開しているわけがないですよね。

InstructGPTが、「Reward Modelでスカラーを出力する」ってなんのことかと思ってたんですが、もしかして、この深津さんの感情スコアもそれに関わっているなら、確かに有益ですねという。

話題爆発中のAI「ChatGPT」の仕組みにせまる!(3.2 Reward Modelの学習)

https://qiita.com/omiita/items/c355bc4c26eca2817324
専門家ではないのでもはや中身がなんもわからないChatGPTに、ちょっとだけ納得ができた感。

パラメータの数字は、どこから出てきてるんだ(本当に回答内容と結びついたものなのか)とも考えたんですが、内部で発話内容がスコアに結びつくよう学習が設計されているのだと思うと、これはよくできていると感嘆するよりない。

深津さんが追加でされている実験も面白いですね。

どうやら、ChatGPTは、回答を作るとき
1.シンプルな前後を並べる方法で回答文を作った結果、回答の内部に複雑な場合分けがあっても、(入力質問解釈でも回答出力でも)破綻していないと見える精度に到達している。
2.常時もっと大きなデータの塊の中をまず(隠れ層の中に?)確保していて、ここから適切と判断した回答文を選択して答えている。場合分けによってこれが露出しなくても、もともとこの塊は確保されていた。

の、どっちだろうと考えながらみてたのですが、恥ずかしながらGPT-3のときにきちんと追えていなかったので、GPT-3の頃からできていたのか、ChatGPTになったとき、Instruct-GPTとの相互作用でそうなったのかは、自分ではまったくわからない感じ。
すくなくとも、構造を理解できているかのように振る舞うことができるようですね。

素人ながら、あらためて「ChatGPTは自然言語処理の流れにある、研究の精華なんだな」と感じました。

むしろ、構造の理解というものについては、脳内で何が起こっているかのほうを、もう一度考え直さないといけない感じですね。




今年の長谷は、いろいろ節目の一年でした。


まず、『BEATLESS』のスマートフォン向けゲーム版、『空匣人型』が、

7月29日で、残念ながらサービス終了となりました。


中国向けのみで、日本語版は公開されないままのことでしたが、

プレイしてくださっていた皆さんには、改めてお礼を申し上げます。


実はゲームのシナリオは、長谷と柴田勝家さんが日本語で元版を書いていました。

これを中国のスタッフの皆さんが翻訳して、ウィンドウの文字数に合うようにした文章が、演出をつけて実際のゲームに表示されるかたちになっていました。逆に元が中国語の、機械翻訳のような文章のボイス台本が中国のスタッフから届くこともあって、これを声優さんに演技してもらうために長谷が逐一修正したり、わりといろんな細かい作業もしていたりします。

中国でゲームを作っていたみなさんが一番たいへんだったでしょうが、シナリオサイドもいろいろ苦労も多かったので、 懐かしくはあります。


ちなみに、このサービス終了で、2010年の企画開始から10年以上、なにがしかずっと入り続けていた『BEATLESS』の仕事が、ひとまずはひと段落ついたことになります。

思い返すと感慨深いですね。
この作品がきっかけで学術イベントにご縁をいただいたり、講演活動が増えたり、SFプロトタイピングに関わったりと、いろいろな広がりができたりもしました。その上に、今の長谷があるわけで、やはり今年は節目だったんだなと。
2010年代の長谷の仕事は、 やはり『BEATLESS』抜きには語れないように思います。
ようやく自分にとっての2010年代が終わったのだという実感が、今さらながら、わいてきているところもあります。 


ただ、ゲームで使われたのは、全10章のシナリオのうち、最初の3章だけでして。
7章までは完成して8~9章の詳細なプロットを作っている最中にサービス終了が決定したので、宙に浮いたシナリオのストックがわりとあったりします。

「ゲームオリジナルのキャラクターと、納品したシナリオ文そのものを使わなければ、アイデアなどは長谷の作品に流用してもいい」という話はいただいているので、なんらかのかたちで、発表させていただくこともあるかもしれません。


あと、大崎ミツルさん漫画/砂阿久雁さん原作の『天動のシンギュラリティ』で、巻末に書かせていただいていた短編小説などが、まだ書籍としては中途半端になっていまして。
ひと段落とは言いましたが、こちらについて、書籍にしていただく相談もさせていただいているので、こちらもよろしければのんびりお待ちください。どうにもならなかったら、同人誌かKindle Publishingかもしれませんが。


今年は本来、ガガガ文庫からシリーズ刊行中の『ストライクフォール』の5巻も考えていました。
ただ、これはちょっと伸びることになってしまいました。

作業時間がうまくとれなかったのもそうなのですが、2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まってしまい、「スポーツで戦争と勝負する」という、テーマの大風呂敷の中心部分が、そのまま出せない状況になってしまったことが、大きな原因でした。

ストレートにしたほうが力強くなるかと、戦争にスポーツが一瞬の夢物語でも勝利する奇跡、みたいな物語をおぼろげに考えていたのですが、読者さんが、現実の問題としてそれを楽しめないのではないかと思ったのです。長谷自身も、今、その展開にすると、自分でもまったく信じられないことを嘘だとわかりながら書くことになるなと、わかってしまっていました。

なので、もうすこし、時間をください。

とはいえ、あまりにも現実が過酷すぎるので、読者さんにご納得いただけるようなものを書けるかは、わからないのですが。
とはいえ、予定はあるので、頑張ります。 


そして、なんといっても、今年は、10月18日に早川書房さんから刊行いただいた、『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』の年でした。

「今年の長谷」のblog記事を書くときは、毎回、1年分のメールボックスをひっくり返して今年何をしていたか振り返っています。今年は、作業状況がいっそ見事なほどシンプルで、9月末に原稿責了するまで、ほぼ『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』しか小説の執筆作業をしていませんでした。

さすがに商業作家としては、時間をかけすぎですね。すこし反省しました。


『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』については、ここ数年の長谷を全部込めたような作品なので、blog記事で改めて振り返るようなことはあまりありません。ありがたいことに、何度かインタビューの機会をいただき、そのとき話したいことはかなりお伝えさせていただいているということもあります。
ですが、今でも、作品のことを考えると、「この小説が節目だな」と感じます。
キャリアの中で、背負っていた荷物を一度下ろして、整理してもう一度背負い直すような、そういう役割の仕事だったのだと思います。 


あとは、イベントに登壇させていただいたり、対談などに参加させていただいたり、ゲンロンさんの〈大森望SF講座〉の講師をさせていただいたりといった仕事もありました。
ですが、インタビューや対談もそちらがらみが多かったり、ほぼ『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』しかしていない一年だったと、まとめてよい気がします。


こんなズドンとシンプルなスケジュールになったのは、かなり久しぶりな気がします。

本当に驚きです。


いろいろと仕込みや表にまだ出ていない話はあるので、2023年はそちらをお知らせできるといいですね。



あと、『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、さまざまなかた、メディア、SNS、そして書店の店頭でご紹介いただいていました。

特にメディアに取り上げていただいたものについては、できる限りtwitterで長谷からもご紹介させていただきました。

以下、抜けもあるとは思いますが、リストにしてみました。
抜けについては、よろしければお伝えいただけますと、とてもうれしいです。バックナンバーででも、記念に長谷のほうで購入させていただきますので。



□□ 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』ご紹介メディア(2022年12月31日まで。敬称略)


朝日新聞デジタル(2022年11月15日)著者インタビュー

小説すばる12月号(2022年11月17日)書評(吉田大助・ライター)

日本経済新聞夕刊(2022年11月18日)書評(小谷真理・ファンタジー評論家)

Real Sound(2022年11月17日)書評(細谷正充・文芸評論家)

東京新聞(2022年11月19日)紹介・「記者の1冊」

中日新聞(2022年11月20日)紹介・「記者の1冊」

読売新聞(2022年11月20日)書評(小川哲・作家)

COLORFUL(2022年12月1日)書評(森下一仁・作家・評論家)

読書好日(2022年12月14日) 著者インタビュー

本の雑誌1月号(2022年12月10日)書評・〈2022年度SFベスト10〉1位(鏡明・翻訳家・評論家)

  同  書評・「新刊めったくたガイド」(大森望・翻訳家・評論家)

STORY BOX1月号(2022年12月20日発売)著者インタビュー(吉田大助・ライター)

  同  書評・「BEST BOOK OF THE YEAR2022」SFジャンル(大森望・翻訳家・評論家)

S-Fマガジン2023年2月号(2022年12月25日)座談会・『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』刊行記念座談会(長谷敏司×大橋可也[振付家・ダンサー]×遠藤謙[学者])

小説丸(2022年12月26日)著者インタビュー

香月祥宏と杉江松恋の「これって、SF?」2022年12月号・その1(2022年12月26日)書評(香月祥宏・SF評論家)

週刊新潮1月5・12日新年特大号(2022年12月27日)書評「〈読む新年お薦めガイド〉私が選んだBESTBOOK5」(大森望・翻訳家・評論家)

毎日新聞東京夕刊(2022年12月28日)書評・田中和生×大澤聡対談(大澤聡・批評家)


今年は2021年なので、拙著『BEATLESS』の雑誌連載開始から、10周年でした。
 『BEATLESS』はアニメ誌である月刊『ニュータイプ』誌に2011年6月号から2012年8月号まで連載され、同年10月に角川書店から単行本として刊行されたSF小説です。企画についてはいろんなところで話させていただいている(*)のですが、連載開始10周年だったなと思い至りまして。
 せっかくなので、一度、振り返り記事を残しておいたほうがよいかと思い、キーボードを叩いてみました。

10年も経てば、そろそろ振り返りの時期でしょう。

(*)S-Fマガジン2018年4月号(「BEATLESS」&長谷敏司特集)など 


 作者としては、『BEATLESS』は2011年~12年に書かれたことに意味がある小説だと思っています。
 連載開始から10年経った今では、ぽろぽろと古くなっている部分があります。一例をあげると、本作が、現在のAIの世界では当たり前の基盤技術になっているGAN(Generative Adversarial Networks:敵対的生成ネットワーク)が話題になる前の作品であることがそうだったりします。GANについては、現在、毎年大きな成果をあげている技術で、生成と監視という異なる役割を持つAI同士で対抗させて学習させることで、画像を別の画像に変換したり、文章から画像に変換したり、データの特徴に沿った学習をさせたり(人間的にいうと深めたり)させることができます。GANでは、AI自身が学習データを生成する教師なし学習技術の進歩で、高度な成果が比較的手軽にどんどん出るようになって、AIの出力するものは人間の認知に近づいているように見えます。

もしも『BEATLESS』が今、連載している小説だったなら、ポリコレに大きく配慮して、物語世界はBLM(Black Lives Matter)以降なので人種などの多様性などを取り入れて、新型コロナの影響が入り、GANの影響をどう入れるかは考え所ですが無視はできないのでAIはより自走感が強い描写になっていると思います。2010年から11年頃に『BEATLESS』の設定を組み立てたときに想定していたよりも、はるかにAIは人間の脳に近づいていて、ここは10年後の変化を予測できなかったところでした。でも、当時を今にして振り返っても、自分の能力で今を予測するのは100%無理でした。SFで作家に神がおりて実力以上のものが書けたという話は、そう聞かないので、ここはしかたないですね。

 とはいえ、10年の間に、変化の影響をとりいれるチャンスがなかったわけではありませんでした。
 

 


 『BEATLESS』は、2018年に文庫化して、このとき大きく手を入れさせてもらっています。
 このとき、BLMと新型コロナはまだですが、ポリコレとGANの影響について更新のチャンスはありました。
 とはいえ、文庫化で基盤をそっくり入れ替えるほど話が大きく変わるのも違うだろうと考えて、物語をつくる根幹に存在する古い部分は、古いまま残すことを選びました。
 これは、いち作家として、新しくするのであれば、古い作品を原型が変わるほど大きく更新するより、新しい物語を書くほうが適切であろうと考えたためでした。



 あと、もうひとつ『BEATLESS』には固有の事情がありました。
 18年の文庫化は、〝12年刊行の単行本を元に〟18年1月から放映でアニメ化していただいたタイミングだからこそ、改稿の時間と予算をいただいたものなのです。なので、単行本とお話を別物にしてしまったら、関係者のみなさんが困惑するだろうことは明白だったです。
 たとえばポリコレを考えれば、レイシア級の5機のヒロインは、今なら1機くらいは男性型にしておくべきです。でが、文庫で突然「一機男性型に変えました」はさすがにダメでしょう。GANの影響を反映しようとすると、説明を増やして、特にAI企業の社長令息であるリョウの行動設計を見直さねばならず、シーンの組み方や展開を大きく変えることになるわけで。「なんで変えたの?」と尋ねられたとき「いや、GANという新しい技術が…」と説明して、納得させられる自信がなかったのです。
 主に「GAN対応にしたとして、お話はそこまでカロリーかけるほど面白くなるの?」という疑問に対して、「こう面白くなるから絶対変えたほうがいい」という答えをまったく用意できなかった作者が悪いと言えばそうではあります。SF作家としての長谷敏司は「新しいことに意味はありますよ」とは言えたけれど、エンタメ作家としての長谷敏司は「根本から書き換える費用対効果はないですね」という答えしか持っていませんでした。
 映像作品としての『BEATLESS』は、長谷が余計なことをしなかったおかげで、水島精二監督とディオメディアさんはじめスタッフの皆さんに、しっかりした映像化をしていただけました。映像化で原作者が暴れるのは往々にしてよい結果につながらないとも言いますし、間違った選択ではなかったと考えています。 

 

あと、10年経つと作品にはわかりにくくなっている部分もあり、作品に補助線があったほうが疑問に答えやすくもなっています。
 たぶん、今では大きくなっているのは、『BEATLESS』では「魂」を問題にしていることです。「魂」とはなにかというと、『BEATLESS』の作中においては「あいまいに人間をマシンとわけているもの」と考えてください。このあいまいさは、結末にもかかわるのでぼかしますが、作中で「人間自身が政治的に都合良く扱っていて、権力を握るための障壁にしていると非難を受けているもの」でもあります。
 この話が大きく取り扱われているのは、アニメ誌『ニュータイプ』連載だった『BEATLESS』の執筆当時、まだアニメメディアでAIの話というと、参照されるのは雑誌初出1989年の『攻殻機動隊』だったためです。2010年当時は、『鉄腕アトム』から『攻殻機動隊』へのビジョン更新は認識されていましたが、その先がまだみあたらなかったのです。
 若いアニメファンのかたは首をかしげるもしれませんが、当時は、まだAIとは「ロボットがもつ機械の頭脳に貼られたラベル」であることが多く、「人格回路/装置」的な小人をマシンに搭載するのが一般的でした。(*1)「さすがにディープラーニング登場以降の進歩を考えると、今の時代にゴーストもないだろう」というアップデートを、せっかくアニメ誌連載なので意識していました。影響力を考えると比較はおこがましいにしても、『ニュータイプ』誌でやることに意義があると考えたわけです。
 そのため、タイトル決めの会議(*2)でのボツタイトル案には、『SOULLESS』というものもありました。当時、「いわゆるロボットSF的な世界を構築するのに、人工人格は必要ない」ということを描き出すために作ったのが、〝かたち〟によって人を誘導する(当時話題になっていた行動経済学の「ナッジ」の影響を受けた)アナログハックでした。『BEATLESS』の最初期のキャッチコピーは、「魂は、ない」でした。これも、たぶん「ゴースト」に対する意識をスタッフ内で話していたことの影響があると思います。

(*1)『攻殻機動隊』もタチコマの話になるとネットワークAIなのですでに一歩踏み出しているのだけれど、ドラマの核になるのはゴーストのほうだった。

(*2)東日本大震災から1ヶ月も経たない時期に当時の角川書店の会議室で行いました。「『***less』にしよう」というところまでは早めに決まって、『BEATLESS』のタイトルが雑誌に載ったあとで「これBEATLESと一文字しかちがわねえな」ということに気づいたのでした。メディア化の後で苦労しました。『BEATLESS』のタイトルだけでは、一文字違いなせいで映像作品の版権をとれない国があるのです。コミカライズが『BEATLESS dystopia』なのは、確かそういうお話でした。
 

「いかにしてゴーストと手を切るか」を意識して組み立てたため、「こころはない」ということを『BEATLESS』では作中で幾度も強調しました。テーマの骨格がそこからきていたので、「人格回路/装置という小人が存在しない」AIとの間で、ボーイ・ミーツ・ガールは成立するという物語を、未来世界を描くために選びました。
 この選択に対して、「AIのはたらきはこころと呼べるものなので、AIにこころがないなら人間にもこころはない」という作品批判は、発表当初からありました。10年の間に、GANをはじめとするAIの進歩によってこの批判が大きくなったのは、因果はめぐるということなのかもしれません。つまり、ディープラーニングや当時の進歩で2011年当時の状況を殴ったら、想定外に進歩が速かったGANで殴り返されているとも言えます。これは、時代に沿ってSFを書くことの、楽しさであり難しさでもあるのだと思います。

 

あとは、『BEATLESS』について振り返るにあたって、作品の設定をオープンにした「アナログハック・オープンリソース」にも触れておいたほうがよさそうです。


 こちらは、長谷が自主運営しているサイトに設定を記載することで、「『BEATLESS』の設定部分を誰でも自由に使えるようにしたもの」です。『BEATLESS』のために2010年~11年頃に作った創作メモや設定をまとめて2014年に公開しました。
 商業出版とちがって身軽な、ただのウェブサイトなので、こちらは時代の変化にあわせた更新をしようと思えばできるものです。ですが、そもそも『BEATLESS』の設定部分をオープンにしたものであるため、根幹を変えてしまってよいのかは、今は悩みどころになっています。
 アナログハック・オープンリソースもまた、時間の経過で古くなってきているのは確かです。けれど、この設定資料を現代にあわせてアップデートすると、当初の「『BEATLESS』の設定部分をオープンにしたもの」という設立理由とずれてしまいます。もちろん、アップデートがない原作とは、目に見えて乖離してゆくためです。

ただ、オープンリソースは、「現代的なSFを書くハードルを下げる」目的で公開したものでした。なので、こちらの設立理由を考えると、アップデートするほうが正しい。
 今のところ選択している暫定的な回答は、「部分使用してもよいし、オープンリソースの記述を自由に変えてもいい」というルールにしているため、「好きなところを抜き出して使ってもらって、古いところは自由に捨ててください」というものです。
 古くなってゆくインフラをどうメンテナンスするかという問題を、自分の問題として思い悩むことができているわけで、オープンリソースを公開したことの個人的な利益にはなっているとも言えます。ですが、インフラ問題は費用対効果がついて回ることもあり、答えは出ていません。GANを基盤にして更新したとしても、10年後にはまた別の技術が出てきて「古くなる」という状況も、これまでを考えると予想はできます。そのときはまた大規模な更新をかけるのかと考えると、自分の中のプロ作家という個人事業主が「費用対効果ないよ」とささやくのです。ごめんなさい、ぶっちゃけすぎました。

 アナログハック・オープンリソースは、イラストはredjuiceさん、デザインは草野剛さんというオリジナルメンバーで、「このくらいやっちゃってOKですよ」という作例同人誌『電霊道士』を作っております。楽しいアクション小説なので、よろしければ。 
 


 10年の節目ですし、当事者の言葉が残っているのは意味があろうと思い、記事にしてみました。
 この記事は、内容的に『BEATLESS』を改訂するチャンスがあったとしても、あとがきに入れるような話ではないと認識しています。けれど、これから『BEATLESS』に触れるかたに対して、興味をもってくだされば見つかる場所に存在することには意義があると感じたため、まとめてみました。
 『BEATLESS』は、長谷自身が発表当時からいろんなところで「作品としての寿命は5年だと思って書いた」と公言していた作品です。2011年の状況で、当時の新しいものを使って書いた、歴史の背景が色濃い小説だったためです。それが、まさか10年もなんとか生き残ってくれたことについては、望外の喜びです。

イラストのredjuiceさん、書籍スタッフの皆様、コミカライズなどスピンオフに関わってくださった皆様、アニメ版スタッフの皆様、そして読者や観客の皆さんに、本当に心から感謝しています。
 すこしずつ時代に追い抜かれていって、消えてゆくのかとも思っていましたが、皆さんのお力もあってAIものの古典になってゆく可能性もすこしはあるようにも思えます。2021年を経て、これからまた現実世界の景色も変わってくるのでしょうが、触れてくれたかたに何かを提供できる作品であることができたなら、さいわいです。 

こういうテキストを皆さんの前にお出しできるのも、作者が現役作家として書いている現代SFならではありますね。

 作家、長谷敏司としては、キャリアが長く続いているからこそと考えて、新しい仕事を始めよう、ということでもあります。これからもよろしくお願いします。
 また新しい企画を『BEATLESS』でやることもあるかもしれませんが、そのときはさすがにその時期の状況を基準にして作品を作ることになるのではないかと。お見かけしましたら、そのときはまたそちらでも。
 
 最後に、実は、中国で展開中のスマートフォン向けゲーム『空筺人型』も、まだプレイできる状態になっています。
 こちらはシナリオを書いたのが比較的新しいので、「こころ」の問題の比重が下がっていたり、新しい試みをしていたりもします。中国語のテキストを長谷が読めないので断言はできないのですが、そうなっているはず。
 興味があったら、無課金でもプレイできますので、中国のアプリを入れることに抵抗がないかたは、触ってみても。

(中国サイト)
 https://game.bilibili.com/beatless/
 

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