タイニー島の花火大会も終わりを告げた。
8月の下り。
未だに蝉は鳴き続け、
夕暮れともなれば蜩の鳴き声が
紅の空に夕闇を落としてくる。

私はスカウトとしての能力を開花させるべく
Lv上げに励んでいた。


私(ミルクピッチャーもいい加減卒業しないとかな・・・。
  資金もこれだけあれば足りる・・・かな・・・。)

今後Lvが上がる度に装備を揃えて行かなければならない。
しかし、私はECOのアイテムの目利きが身に付いていなかった。

いわゆる「相場」というものである。
今はそんなに高価なものは手に入ることは早々に無いため、
不要な能力ではあるが、
今後力を付けていった場合には
自分にあった装備を買う為や
自分で手に入れた希少なアイテムを売ったりするのに
必要といえる能力である。

さらに相場を知るというのは
一朝一夕には出来ないものである。

買取・販売と二つあるが、
そのどちらにもほぼ共通して言えるのは波があるということ。

・売りの満ち引き
・買いの満ち引き

というものである。

平日は主に物価価値が下がり易い
但し、物が希少なもので
その中でも取分け希少であると高いままであったりする。

休日は主に物価価値が上がり易い
但し、物が容易く入手可能で
その中でも大量入手し易いとなれば安いままであったりする。

さらにそれぞれの日で
早朝・朝〜昼・昼〜夕・夕〜夜・夜〜深夜
と別けても動きがある。

何もそこまで特化して相場を把握する必要はないのではあるが
私の場合には
そこに一種の「娯楽」がある為
ゆくゆくは把握していきたいと思っている。

歩く相場帳簿という別称もかつてはあった。


私(ふふ・・・懐かしいな・・・。)

そんな事を思い出しながらも
新たな狩場を探すべく、
一度アップタウンへと戻る。

情報収集に徹するも
結局「効率」よりも新しいマップで面白そうな敵に興味が湧く。
しかし単独で動く以上あまり遠征は難しい。
近場でまだ未開拓なマップをピックアップしていくと、

・北方
「スノップ追分」「ノーザリン岬」

・西方
「キラービー峠」「モースグ崖」

・南方
「アクロニア河口」

この辺りなら行けそうな感じを覚えた。

私(実際問題・・・序盤で尻込みしてても仕方ないから
  とにかく体で覚えていくしかないかな。
  北かぁ・・・避暑にも打って付けかな。)

行き先を決めると、
腰を上げ怪盗マスクを締め直し
北アクロニア平原を目指した。

途中、気になる看板があった。

【マンゴ5k大量】

と立てられたゴーレムショップ。

私(マンゴ?なんだろ。そんな食べ物あるのかな。
  マンゴーとかかな?
  それにしてもどんな高性能な回復アイテムでも
  5kじゃ・・・・。)

それでも見てみない事には解らないと思い、
覗いてみると。

マンゴーシュ 5,000

がずらりと並んでいた。




私(・・・。)





装備可能と気付き、早速購入。

マンゴーシュを手に
アップタウン北可動橋を駆け抜ける。


ふと冒険者たちがギルド商人前に腰掛け会話をしている。


「藍だけはまだー。結晶全種とかきつい」

「あーそうだね」

「あんまり性能よくないし」

「他のネコマタのがいいな」

「山吹でしょふつー」

「山吹か」

「やっぱ山吹しかないな」


という会話が聞こえてた。
私は走りながら流し聞きしていた。

私(ネコマタの話か。
  内容的にどうやらネコマタは複数いるのか。
  んー・・・。後々調べてみるか。)


軽く念頭に置いておくことにした。
長い街道を走り抜けスノップ追分へとやってきた。

私「はーっ・・・。」

吐いた息が
小さな雲のように白く浮き出て
空に溶けるように消えた。

私(大分冷えて来てる証拠かぁ・・・。
  今は走ってるから大丈夫だけど、
  止まってる間に体が冷え込みそう・・・。)

そう思いながらスノップ追分の街道を走っていた時だった。

反対方向から
赤いドラゴンに跨った如何にも高レベルそうな冒険者がやってきた。


私(ん・・・こんなペットもいるのかな・・・
  それとも職限定とか?んー・・・ペット関連は・・・ん?!)

先程の冒険者が過ぎ去った後から、
見たこともない数のバウがやってきたのだ。
距離的にその殆どが丁度私に標的を変え始めた。


「ヴヴ〜〜ッ!!」

私は直感で解った。
バウ程度に苦戦するレベルではない。
しかし、数が数だった。
20匹を超えるかもしれないその群れは
明らかに私を死地へと追いやることは明白だと。

買ったばかりだったマンゴーシュが吸った最初の血は
皮肉にも自身の血となった。

私(く・・・・そ・・・。擦り付けか・・・。
  この世界では当たり前なのか・・・?
  そもそもトレインとかありな・・・の・・・)


イラつきを覚えながらも
薄れいく意識
  



・・・・・。





・・・。



師との修行の日々の1ページが
急に私の脳裏によみがえった。

いつもの様に
ダンジョンで複数戦への対応の修行だった。

その中でモンスターをかき集めて倒す者がいたり、
或いは他人にモンスターを擦り付けてでも
別のモンスターを倒す者がいたりもした。


私「あー・・・煩わしい・・・。」

G.S.「はは。そう言うな。」

私「でも、周りに迷惑だし。
  場合によっては死者が出るし。」

G.S.「そうだな。
   でもさ、そこで心を乱してはダメさ。」

私「・・・・。」

G.S.「可愛いもんじゃない・・・。
   あんなに必死になって。
   子供なのさ。
   温かく見守ってあげるのが強き者の務めだ」

私「暗殺者の極意・・・ですか?。」



師は優しく笑いながら首を横に振った。
それは暗殺者としての誇り高き笑みでも
まして皮肉でも力を誇示したものでもなかった。

確かだったのは
そう思うことで苛立ちや妬みなどは消えて行った。





・・・。





・・・・・・。



復活の戦士
「おい・・・。おい?!」

私「う・・・?」

復活の戦士
「気が付いたか・・・。」

胸を撫で下ろす。

私「可動橋。そっか・・・バウの群れで。」

復活の戦士
「あそこはバウが多くいるから気を付けなさい。」

私「解りました。」



しばらくその場に座り込み体力が回復すると
私は再び同じ道を走り始めた。

スノップ追分へと。



また、沢山のバウを引き連れた冒険者が反対側からやってきた。

両手に鞄。

バックパッカーだとその時の私は気付きはしなかったが、
直感・・・だったのかもしれない。

自然と足を止め、
おそらく標的が私になるであろう場所へと逆走した。


この時
理解できないかもしれないが、
かつて別の世界で
暗殺者であった私自身が乗り移った様に
冴えた動きを見せた。


辺りに散らばる肉と骨。

私の体にはバウの歯型がつき、
また爪で掻かれた跡も残った。
瀕死は瀕死だった。
さっきと状況もほぼ同じだった。

しかし、威風堂々と私はそこに立っていた。


BPの冒険者
「すいませんでした><」

いつの間にか引き返してきていた冒険者。

私「いえいえ」

一礼すると冒険者は去っていった。
今思えばおそらく運搬クエストの最中だったのかもしれない。

私は傷が癒えるまで岩肌を背にすることにした。


私(・・・。)


この時何も考えられなかったのを覚えている。
傷が癒えると
私の足は北へと地を蹴り始めた。

やがて地面は雪に覆われ始めた。

私(どうしてあんなことしたんだろう。
  偽善?相手がか弱い者かもって思ったから?
  ・・・・・。
  何か違う・・・・。)


気が付くとノーザリン岬まで移動してしまっていた。
マップを移動することすら気付かなかった私がそこにいた。

ちらちらと舞い降りる水の結晶。

雪。

白銀の世界を見た私はようやく悟った。

私(あぁ、そっか。)

そこにはあの日の師と同じ笑みを零す私がいた。







-------------------------------------------------------

師よ。

少しずつ思い出が蘇ってきました。
改めて知ること。
どうしてこれが暗殺者の極意でないのか解りました。

                       SATANGEL

-------------------------------------------------------