2009年10月01日

#233 【Stamp #013】

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 今まで何度も繰り返して来た決心を自分に言い聞かせるように、あたしは一人でうなずいていた。

 そもそも、何度もって時点で決心できてないような気もするけど。


 深く息を吸い込みながら、もう乾き始めていた涙をぬぐった。今日で終わらさなければ・・・そう思いながら。



 結局、高見先輩は戻って来なかった。

 副部長ということになってる司くんがその場を仕切って、簡単な反省会をする。
 と、言っても、お互い感想を述べたり周辺のごみ拾いや点呼をした程度だったけど。

 終ってみれば、あたしは他の部員さんたちとほとんど喋らず仕舞い。美晴や司くんを除く他の人たちも同様で、眼が合うと照れたように小さく会釈する程度にしか親密度が上がらなかった。

 でも何故かかんちゃん先輩だけは、柔道部の男子とすごく仲良くなっていて、帰り間際にもこそこそとお喋りをしては笑っていた。


「クーラーボックスはどうすればいいの?」

 解散した後もなんとなくその場にいたあたしたちに、美晴が困惑した声で質問する。司くんも少し困ったような顔をしながら答えた。

「公園の管理人さんの所で預かってもらうのが一番いいんだけど・・・生憎今日明日は休みで代理の人が来ているらしくて」

 馴染みじゃない人にはちょっと頼みづらいため、司くんは高見先輩と連絡がつくまでここにいようかと考えていたらしい。

「でもこの様子では何時になるのか・・・丸二日連絡が取れなかったこともあったしなぁ」

 司くんはため息をつき、あたしたちはお互いの顔色を窺うように見回した。あたしも気になってたけど、ひょっとしてみんなもそれが気掛かりだったのかしら。

「・・・じゃあ、学校まで持って行くしかないんじゃない?」

 しばらく考えていた美晴がもう一度みんなを見回して当然のことのように言うと、マサキがふっと笑いながら答えた。

「俺が行くわ。中の水とか捨てていいんだろ?んじゃ大した重さでもねーべ」

「あ、じゃあ俺も手伝うよ。どうせ帰る方向一緒だし」

 エリー先輩もそれに続き、司くんに笑顔を向けると、司くんもつられるように少しだけ笑顔になった。

 マサキはさっさとクーラーボックスのそばにしゃがみ込み、蓋を開けて覗き込みながら鼻を鳴らす。

「あ、食いもんとか残ってんだ・・・このまま運ぶのはやっぱ駄目だよな」

「そういえば・・・高見先輩が来たらと思って、いくつか残しておいたのよね。あとお茶も3本くらい」

 あたしが咄嗟に答えると、マサキが振り返る。

「じゃ、さぁやそれ運んでくんねぇかな」

「へ?あ、あたし?」

 眼を丸くするあたしを見てニヤニヤしながらマサキが続けた。

「こーゆー時に率先して名乗り出るミハルがなんも言わないってことは、急いで帰るとかなんだろ?その点、さぁやなら暇そうだしなぁ」


「申し訳ないけどその通りなのよね。マサキに任せるのは本っ当に不本意なんだけど」

 美晴が『不本意』を強調しながら言ってため息をつく。

「でも重くない?マサキ、自転車じゃないじゃない・・・そのまま持って行くの?」

 あたしとエリー先輩は自転車だけど、マサキはバスで来てるから駅から歩いて来たはずよね。

「水入ってっから重いんじゃね?中身出して水なげれば大した重さでもねーべ」

 澄ました顔でマサキが答える。確かにそうかも知れないけど、3人だけってなんか気まずい。せめて司くんも一緒に来てくれれば。



「よかった・・・じゃあお任せします。実は俺もちょっと都合悪くて」

「えぇ?司くんもぉ?」


 あまりにもタイミングがいいのか悪いのかという司くんの台詞に、あたしはつい声に出してしまう。


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2009年09月13日

#232 【Stamp #012】

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「えっと、ま、じゃあ俺はマサキの慰め役を引き受けるからさ、さぁやちゃんも頑張って・・・ってなんか変だけど」

 エリー先輩は慌てたように付け足して、あたしと眼が合うと照れたように少し笑った。


 心の奥がきゅうっと締めつけられる・・・込み上げて来る気持ちと一緒に涙が溢れそうになった。



 エリー先輩の笑顔に見送られながら公園の奥へ足を向け、少しだけ雲が晴れて来た芝生を高台から見下ろした。

 風の通り道を示すように芝生が波打って輝く。ひゃん、ひゃん、と飼い主を急かすような子犬の鳴き声。

 小さな子どもを連れた母親たちの姿は、午前に比べて随分減ってしまったが、代わりに友達同士で遊んでいる小学生や講習の帰りらしい制服姿が増えている。

 坂の途中にぽつりと佇んでいるようなベンチに腰掛けると、それらの人々がまるで一つの大きな絵を構成しているかのように見える。

「ここって、こういう景色を眺めるためにわざわざ用意された席みたいだわ」

 カメラを用意しながらつぶやく。

 午前中の景色もここから見てみると面白かったかも知れない。四角く切り取られた夏の午後には、見る人まで幸せになるような光が満ちているように感じられる。

 自分が感じたものを、ここにいない人たちにも届けたい・・・そう思いながら撮り続けていた。


 夢中になっていたのでどれくらい時間が過ぎていたのかは覚えていない・・・やがて、アスレチックの方から聞き覚えのある歓声が響き渡った。

「何やってんだかなぁ、あの人たちは。いい年して・・・」

 苦笑しながらレンズを向けると、望遠レンズの向こうには、ロープにぶら下りながら子どものようにはしゃいでる人たち。

 でもすごくいい表情・・・そう思いながらその瞬間を記録する。

 ・・・あたしもあの中にいたら、あんな風に笑ってるんだろうか。

 ファインダーの中にはマサキとエリー先輩の笑顔が並んでいる。

 その妬ましいほどの無邪気さに責められているような気がして、シャッターを切った途端視界が歪む。

 何やってんだろう、あたし・・・

 エリー先輩の笑顔があたしに向けられる瞬間を望んでる。でも同時にマサキの笑顔を壊したくないとも思ってる。そんなことできるわけないのに。


 溢れかけた涙がこぼれる寸前に、今度は何故か笑いが込み上げて来た。

 そもそも、エリー先輩にだって振られるかも知れないじゃない。

「・・・あ、そうよね。はは、付き合うって決まってるわけじゃないのに」

 それが怖いから告白ができないままでいるのに。エリー先輩が優し過ぎるから、つい期待してその気になっていたなんて莫迦みたい。

「マサキがかわいそうなんて偉そうなこと言う前に、自分のことを心配しなよって話よね・・・」

 言い聞かせるようにつぶやくと、さっきよりは少しだけ落ち着いて来た。


 エリー先輩の優しさは、あたしだけが特別じゃないこと、本当は知ってる。美晴にもおしのちゃんにも、あたしが知らないところでも同じように優しいんだと思う。

 確かに、好きな人に優しくされちゃうと勘違いしちゃうわね。

 今ならおしのちゃんのあの表情もわかる。頭で理解するんじゃなくて、なんて言うんだろう・・・身に沁みる?

 うん。こういうのはやめよう。はっきりしないまま悩んでたって何も変わらないし。



 今まで何度も繰り返して来た決心を自分に言い聞かせるように、あたしは一人でうなずいていた。

 そもそも、何度もって時点で決心できてないような気もするけど。


 深く息を吸い込みながら、もう乾き始めていた涙をぬぐった。今日で終わらさなければ・・・そう思いながら。


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