2007年10月01日
#001 【はじまりのはじまり】
4月。
地元の高校に進学したあたしは、大した期待もないまま入学式を迎えた。
先生の挨拶が続く中、真新しい制服で緊張している空気。
あたしは、この3年間をどうやってやり過ごすかと、ぼんやり考える。
目立たない存在でいるか、思いっきり羽を伸ばすか・・・
きっと、他の人の目からは澄ましているように見えただろう。
入学式だもの、少しでも先生たちの印象を良くしようと思っていい子にしている人もいるのだし。
でも本当はものすごく緊張して、全神経を耳に集中させていた。
何故なら、あたしが挨拶するより早く、相手に『ああ、あのお家の』と言われることが多かったから。
あたしの家は、地元ではそれなりに『いいとこ』らしい。
だからあたしは『いいとこのお嬢様』ってことになる。
だからといって、いわゆるお嬢様な習い事の定番であるお茶もお華も習ったことはないし、どこかで行儀見習いをしてたわけでもない。
それに『いいとこ』といってもあくまでも地元での話だし、子供たちの世界には関係ない。
なのに父さんも母さんも、世間体を無駄に気にする。
「立派なお父さんよね」
「素敵なお母さんじゃない」
まだほんの小さな子供の頃なら、その言葉を素直にそのまま受け止めていた。
でもそのうち、1ヶ月2ヶ月と月日が経つうちに嫌でも気付かされる。
憧れとも嫉妬ともつかない視線で、彼らはあたしを見、心もち遠巻きにしてあたしと付き合うようになるからだ。
あたしは家の付属物じゃない!そう否定しても無駄なのは、嫌というほど知っている。
晒し者にされるなんて、無視されるよりもみじめだわ。
どうせなら最初から構わないでくれればいいのに。
毎年のように繰り返される『それ』が始まることを恐れて、あたしは少しだけ身を硬くした。
『学校』という籠の中の、規則でしばられたかりそめの『自由』であっても、今のあたしにはとても大切なものだから。
世の中では『白』でも、気に入らなければそれは母さんにとって『黒』になる。
母さんが『駄目よ』と言ったら、それで終わり。
だからあたしは、普通の中学生がするような遊びも、読むような雑誌も、何も与えられなかった。
進学だってそう。
あたしは、電車で3時間掛かる街にある高校に行きたかった。
レベルはかなり高かったけど、先生も推薦するって言ってくれたし、初めて見つけた『夢』の入り口だった。
集団行動が苦手なあたしが、下宿生活でも寮生活でもなんでも来い!という決心までつけていた。
でも受験の直前に、母さんの一言で白紙に戻った。
「あそこは治安が悪いから、駄目よ」
あぁ・・・また『駄目よ』だ。
まるで悪い魔女が唱える呪いの呪文。あたしの世界のすべてを消してしまう、強力な呪い・・・
そして結局、地元で進学せざるを得なくなった。
家から遠くて、学校行事が盛んで、なるべく制服が可愛い所を選んだのが、この時の精一杯の抵抗。
それでも母さんは渋い顔してたけど。
普段のあたしの生活は、お茶を淹れたり、食器を下げたり、それ以上やろうとすると母さんが横取りしてしまう。
「お母さんが後でやるからいいの!触らないで、置いといて!」
まるで、キッチンが自分の最後の砦なのだと言わんばかりの剣幕で。
実際、1日のほとんどをダイニングキッチンで過ごしているけど。
機嫌がいい時の母さんは、お茶を飲みながら言う。
「さやかは、なぁんにもしなくていいからね」
でもね母さん。あたしは、『なぁんにもしなくていい』んじゃなく『なぁんにもさせてもらえない』んだよ。
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地元の高校に進学したあたしは、大した期待もないまま入学式を迎えた。
先生の挨拶が続く中、真新しい制服で緊張している空気。
あたしは、この3年間をどうやってやり過ごすかと、ぼんやり考える。
目立たない存在でいるか、思いっきり羽を伸ばすか・・・
きっと、他の人の目からは澄ましているように見えただろう。
入学式だもの、少しでも先生たちの印象を良くしようと思っていい子にしている人もいるのだし。
でも本当はものすごく緊張して、全神経を耳に集中させていた。
何故なら、あたしが挨拶するより早く、相手に『ああ、あのお家の』と言われることが多かったから。
あたしの家は、地元ではそれなりに『いいとこ』らしい。
だからあたしは『いいとこのお嬢様』ってことになる。
だからといって、いわゆるお嬢様な習い事の定番であるお茶もお華も習ったことはないし、どこかで行儀見習いをしてたわけでもない。
それに『いいとこ』といってもあくまでも地元での話だし、子供たちの世界には関係ない。
なのに父さんも母さんも、世間体を無駄に気にする。
「立派なお父さんよね」
「素敵なお母さんじゃない」
まだほんの小さな子供の頃なら、その言葉を素直にそのまま受け止めていた。
でもそのうち、1ヶ月2ヶ月と月日が経つうちに嫌でも気付かされる。
憧れとも嫉妬ともつかない視線で、彼らはあたしを見、心もち遠巻きにしてあたしと付き合うようになるからだ。
あたしは家の付属物じゃない!そう否定しても無駄なのは、嫌というほど知っている。
晒し者にされるなんて、無視されるよりもみじめだわ。
どうせなら最初から構わないでくれればいいのに。
毎年のように繰り返される『それ』が始まることを恐れて、あたしは少しだけ身を硬くした。
『学校』という籠の中の、規則でしばられたかりそめの『自由』であっても、今のあたしにはとても大切なものだから。
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母さんが『駄目よ』と言ったら、それで終わり。
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進学だってそう。
あたしは、電車で3時間掛かる街にある高校に行きたかった。
レベルはかなり高かったけど、先生も推薦するって言ってくれたし、初めて見つけた『夢』の入り口だった。
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でも受験の直前に、母さんの一言で白紙に戻った。
「あそこは治安が悪いから、駄目よ」
あぁ・・・また『駄目よ』だ。
まるで悪い魔女が唱える呪いの呪文。あたしの世界のすべてを消してしまう、強力な呪い・・・
そして結局、地元で進学せざるを得なくなった。
家から遠くて、学校行事が盛んで、なるべく制服が可愛い所を選んだのが、この時の精一杯の抵抗。
それでも母さんは渋い顔してたけど。
普段のあたしの生活は、お茶を淹れたり、食器を下げたり、それ以上やろうとすると母さんが横取りしてしまう。
「お母さんが後でやるからいいの!触らないで、置いといて!」
まるで、キッチンが自分の最後の砦なのだと言わんばかりの剣幕で。
実際、1日のほとんどをダイニングキッチンで過ごしているけど。
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この記事へのコメント
1. Posted by 小説小僧 2008年05月15日 22:13
初めまして、『小説の匣』の管理人の小説小僧と申します。
『小説の匣』はオンライン小説の登録、検索サイトで、まだ立ち上がったばかりの若いサイトです。
そのようなわけで、まずは、作者さんの作品登録をお待ちしております。
なにぶんスタートしたばかりなので、不備、不具合もあろうかと思いますが、順次改善整備をしていきたいと
考えています。
貴サイト(ブログ)は内容が充実されていると感じさせていただきました、是非ご参加くださるようお持ちいたしております。
オンライン小説ランキング・小説の匣
管理人/小説小僧
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2. Posted by three 2008年05月25日 10:42
初めまして、threeといいます。
面白いですね。読んでいるとすごく引き込まれてしまいました。
このお話は、yuzuさんの実体験ですか?
もし、よろしければyuzuさんのブログをリンクさせていただけませんか?お願いします<(_ _)>
面白いですね。読んでいるとすごく引き込まれてしまいました。
このお話は、yuzuさんの実体験ですか?
もし、よろしければyuzuさんのブログをリンクさせていただけませんか?お願いします<(_ _)>
3. Posted by るる 2009年01月29日 12:52
はじめまして。
とってもなごむブログですね。リンクさせていただきます。よかったら相互リンクお願いいたします。
とってもなごむブログですね。リンクさせていただきます。よかったら相互リンクお願いいたします。
4. Posted by rain 2009年03月13日 10:40
懐かしいあの頃を思い出しました。
私もさやかのような生徒だったなあ・・・
また、読みにきます♪
ブログをやっているので、よかったら遊びに来てくださいね(^0^)☆
5. Posted by なつみ 2009年04月18日 16:17
とってもpmpしろかったです。 また続き書いてください。
