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2008年03月24日

#106 【虚像 #006】

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「東雲、お前面白いな・・・でももうちょっと落ち着けよ。俺の呼び方は、好きに呼んで構わねえから」

 マサキはおしのちゃんの肩をぽんと叩く。おしのちゃんは本当に嬉しそうに笑った。


 それを見て、あたしの胸の奥がちくんと痛む。多分、子供っぽい焼き餅・・・でも、どっちにだろう?



 おしのちゃんのマシンガントークにも耳を貸さなかった美晴が、ようやく携帯から顔をあげた。

「今日はまだ更新もコメントもないみたい・・・どうしたの?」

 美晴はあたしを見て心配顔になる。いつもと違うと思ったようだ。

 あたし、今どんな顔してるんだろう。

「どうもしないけど・・・なんかちょっと疲れただけ。それよりも今日は先輩たち遅いねぇ」

 笑って誤魔化し、机に突っ伏すようにして携帯をいじってみる。

 やっぱりまだ持て余すような気がする便利ツール。


 『さーやん』の日記も、美晴が確認したばかりだからあたしが見る意味もないし・・・

 そう思いながら適当にボタンを押すと、カメラが起動した。

 なんとなく美晴の方に向ける。おしのちゃんと話しているその様子は、画面を通してみると1枚の絵のようにも見える。


 カシャリ。


 無意識にシャッターを切っていた。その音に驚いたのは美晴たちだけじゃなく、あたし自身も。

「あ〜・・・ごめん、ついうっかり」

 うっかり撮ったというのも変な言い訳だけど、あたしはそう言って謝る。

「え〜?どんなとこ撮ったの?見せて〜」

 おしのちゃんが寄って来て携帯を覗き込む。

「あぁ・・・これ、いいねぇ。美晴ちゃん見て見て。これ保存した方がいいよねぇ?」

「あたし、写真撮られるのは苦手なんだけど・・・」

 美晴がちょっと不機嫌そうな顔で画面を確認する。でもその表情はすぐ和らいだ。

「ふぅん・・・これなら悪くないかな。さやかって、ほんとに写真のセンスあるかも」

 美晴の言葉に、おしのちゃんもうなずく。

 そしてあたしに保存の方法を教えてくれる。と、いっても、もう一度ボタンを押すだけだったけど。


 柔らかな陽射しを受けて、少しうつむき加減に向かい合う美晴とおしのちゃん。

 リラックスしている笑顔で、画面から楽しげな笑い声が聞こえて来そうだ。

「写真って、こんな風に撮れるのね・・・」

 実際見ていた風景よりも、その静止画には物語が含まれているようにも見える。

「自分で撮ったのに、さやかちゃんてば」

 おしのちゃんが笑う。

「あ〜、思い出した。さぁやにカメラ選んでやれって言われてたんだ。ミハルは?どうする?」

 あたしたちの会話を聞いて思い出したのか、マサキが少し慌てたように立ち上がる。

「あたしはちょっと古いけど自分のカメラがあるから大丈夫。それよりも、ここ留守になったら困るんじゃない?」

 美晴はおしのちゃんと一緒に、部室の留守番役になるつもりらしい。

 マサキは小さくうなずくと、あたしを急かすように写真部の部室へ向かう。


「せぇんせー、アキラいる?」

 準備室のドアを開けながら、部屋の奥に呼びかける。

「今はおらんよ。『休憩室』にお客さんらしいから・・・そうだなぁ、あと30分は戻らんだろうなぁ」

 暗室のランプは消えていた。返って来た声を聞いて、マサキは言う。

「そっか・・・じゃあ、暗室入っても大丈夫だな。さぁや、こん中にカメラがあるから。良さそうなの見繕ってやるよ」



 マサキにうながされて、あたしは初めて暗室の中に入った。

 暗室の中はつんとする匂いが充満していて、赤く暗いランプがひとつだけ灯されている。


「足元、気をつけろよ。コードとか色々あるから、つまづかないように」


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sato_yuzu at 18:27│CM(0)TB(0) * 目にはさやかに見えねども * | さやか 6

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