チョ〜久しぶり!
十分な準備の余裕がなかったので、本番は原稿を読む形で発表することにした。しかも、発表の時間は20分で質疑応答5分と決められているけれど、原稿を読む練習をする時間もなく、はっきりした所要時間がわからない。原稿が少し長めのような気がしたので、本番は猛スピードで原稿を読むことにした。もちろん、すべて英語で行う。オーディエンスも大半は英語のネイティブスピーカー。大学で英語を教えている人がほとんどだ。
私の発表開始。最初に、「学術発表は久しぶりなので、原稿を読む形をお許しください。」と断ってから、原稿を予定通り読み始めた。発表を始めてから、まだ数人会場に入って来たようだったが、私は脇目も振らず一心不乱にという感じで、英語の原稿をフルスピードで読み続けた。練習不足にも関わらず、かなり流暢にスムーズに英語で原稿を読み上げた。結構、調子いい!ひたすら読む、読む、読む。。。
ところが突然、アメリカ人と思われる、遅れてきた観客の中の一人が、いきなり私の発表をさえぎった。質問?っと思ったら、
「あなた、この発表のために一生懸命準備した?」
「ゲッ!あまりの内容のなさに、厳しい指摘?!もっとまじめにやれってこと?止めろってこと?キビシイ〜!」と一瞬ドキッとした。
意図を測りかねてポカンとしていると、次の言葉が続いた。
「一生懸命準備したんでしょうから、それをみんなに伝えるように、原稿を読むのではなく、話してください。私たちは原稿を持っていないので、読み上げられたのではよくわかりませんから。」
「あっ、そういうこと。良かった〜!一生懸命やったとは思えないくらいくだらない内容だから止めてしまえ、ではなく、単に速く原稿を読むだけではよくわからないから、観客がわかるように、読まないで話せ、ということね。まだ、発表続けてよいわけね。助かった〜、と思いながら、そこで原稿を置いて、内容を話し始めた。アタフタはしたが、なんとかこなすことができた。時間も、ほぼちょうど良いくらいに終わり、オーディエンスからの質問も適度に出た。久しぶりの発表をなんとかこなして、ホッした。まあ、こんなもんだろう。
その後、別の発表を聞いたり、大学院の同期の人たちと久しぶりに会ってロビーで話をしたりしていた。すると、さっきの私の発表の時に聞いてくれていた日本人女性と目があった。
「すみません、さっきは、最初の方読んじゃったから、わかりにくかったでしょう。」と、私。
「いいえ、そんなことないですよ。ちゃんとついていってれば、わかりましたよ。」
「そうですか、ありがとうございます。でも、すみませんでした。」
そんな会話を交わしていると、別の日本人女性が話しかけてきてくれた。
「さっきの発表、素晴らしかったですね。」
えっ、冗談??それとも皮肉??と思ったが、そんなでもない様子。
「かっこ良かったです。プロフェッショナルな感じがして。あんなアカデミックな感じになりたいと思いました。憧れます。」思いも寄らない褒め言葉である。さらに彼女の言葉は続く。
「NOVAですか、すごいですね。よくわかんないけど。」って。NOVAって英会話スクールのことじゃない。ANOVAという統計手法のことを言おうとしている様子。
「いや、あれは、NOVAじゃなくて、ANOVA(アノーバ)っていって、統計では基本的な手法で、MANOVA(マノーバ)のソフトがなかったから、ANOVAを使っただけなんですけど。」
「はぁ、MANOVAっていうのもあるんですかぁ。」
明らかに、彼女は統計学の素人だが、それでも最悪な発表をしたと思って落ち込んでいた私の気持ちは、救われた。そして、人懐こそうな彼女は、さらに続けた。
「あ〜、そうなんですか。でも、発表のとき、なんか失礼なこと言った人がいたけど、その対応がものすごくよくて、人柄の良さが伝わりました。『あっ、すいません、すいません。』って感じで言われてたでしょう。そのあとの発表がとても良くて、まさにピンチをチャンスに変えた瞬間だったと思いました。こうやってお話ができて、とても良かったです。」
予想もしていなかった褒め言葉に、私は舞い上がった。
研究の内容は決して良くはなかったけれど、久しぶりに論文を書いて、とにかく次につながる第一歩を踏み出すことができた。アカデミックな雰囲気も悪くないな〜。また、勉強しよう!とにかく、長らく筆を止めておいた博士論文をまた進めよう。