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超ネタバレ注意


書いてあることが現実に起こってしまう魔法の本と、それに関わることになってしまった主人公たちの物語・・・といった感じのストーリー。

●シナリオ
全体に伏線が張られており、ラスト付近の伏線回収はなかなか驚かされた。
死生観というか、人の死について触れる場面も多く、明るいとはいえない物語。

一応、物語自体は瑠璃の視点で進むものの、瑠璃は設定上主人公というよりもヒロインみたいなポジションで、各章ごとに主人公が代わると思った方がいいと思う。
正直1章と2章はストーリーの構造が分かりやすかったが、体験版をやらずにプレイしたので、3章の展開にかなり驚いた。
3章で瑠璃が妃の思考を真似て真実を逆算していき、クリソベリルが現れたことで役者が舞台に揃う。
1章と4章が続きものだったのは驚いたし、実は1章と4章でかなたが瑠璃に惹かれたこと自体が伏線になっているとは思わなかった。
6章で理央が退場することで物語はほとんど予想できなくなり、個人的にはここから面白くなってきた。
6章は理央エンドに分岐するが、理央ルートは初見だと全く意味が分からないで終わるが、ある程度情報が開示された状態で読み直すと、理央と瑠璃が魔法の本だから都合よく操作されたということが分かる。
8章で妃が魔法の本として再登場したが、汀が妃に告白するシーンは、叶わないと知りながらケジメをつける汀が印象的だったし、このシーンは12章での夜子の告白シーンと対になっているのも感慨深い。
8章で分岐する妃エンドは、クリソベリルの思惑を外すことに成功してしまうあたり、妃はクリソベリルの天敵であることを印象付けるエンディングだった。(終わった後でよく考えれば、この時点で瑠璃は既に魔法の本になっており、本自体が傷つかない限りは瑠璃は死なないことを考えると、心中に失敗してしまったと想像できるが・・・)
9~10章(11章?)は真相編という感じで、張ってきた伏線の回収を行う展開はなかなか面白かった。
特に、「妃が開いた本はサファイアではなくオニキスだった」→「ではなぜ夜子はサファイアが開いていると感じたのか」→「なぜかなたは瑠璃を主人公に据えた本を2冊も開くことになったのか」という、これらの点が線で結ばれる展開は秀逸なものだったと思う。
夜子エンドは微妙に儚さを感じる終わり方で個人的には嫌いじゃないが、まさか夜子がメインヒロインじゃないとは思わなかったので驚いた。
12章は閉じこもった夜子の成長物語だが、この時点の夜子は、親友は自分のせいで死んでしまっている、母親も自分を救うために命を使い切った、好きな人も実は死んでおり、魔法の本として再び現れたのに自分以外に恋人を作っているなど、不幸すぎてかわいそう。だからこそ、汀と妃の言葉に背中を押されて、瑠璃に振られると分かっていながら告白して前に進むという展開は、夜子が自分の力で現実に向き合い始めるという成長に感動した。
夜子がクリソベリルの本を破くと決めた場合はかなたエンドへ進む。かなたエンドは個別では唯一の幸せに終わるルートで、かなただけでなく、夜子も救われて終わるのは良かった。
夜子がクリソベリルの本を破かないと決めた場合は13章に進み、クリソベリルの過去を見る。クリソベリルは、本作の「悪役」を演じていたのだが、そのクリソベリルを悪役のまま終わらせず、言い換えれば、都合の良い黒幕に責任を押し付けないという選択をした上で、妃の望んだ日常のシーンで終わるのは、登場人物全員の成長を感じることができ、かなり後味が良いエンディングだったと思う。

プレイしていて「Dies irae」の主人公である藤井蓮の台詞である「死んだ人間が、願ったり、なにかと引き換えに戻ってくると願うのは、それこそ自分で大切なものの価値を貶めている」っていうのを思い出した。
あと、シナリオ構造上、登場人物を演じるというメタフィクション要素があり「うみねこのなく頃に」も思い出した。
うみねこの場合は「差し手とチェス盤と駒」、かみまほの場合は「作者(紡ぎ手)と本と登場人物役」という関係があり、どちらも上位存在の意思により役割を演じているという点では似ていた。
ただ、個人的な感想としては、かみまほの方がより洗練されており、広げた風呂敷も畳み、主人公やヒロインらが物語の先に未来を見出す結末であったことから、作品としての出来が良いし面白いと感じた。



●キャラ
好きなキャラは断トツでかなた。
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個人的には、本作の真の主人公にして、真のメインヒロイン。
瑠璃のクラスメイトで探偵部部長。
1章と4章のヒロインであり、4章以降は瑠璃の頼れる仲間という立場。
瑠璃が全編にわたって頼りない反面、かなたは雰囲気を明るくし、謎に挑むなど瑠璃よりも活躍していた。
終わってみれば瑠璃がヒロイン、かなたが主人公の物語といったほうがしっくりくる。
絶望を突きつけられても、折れずに立ち向かっていく、本作における人間の強さの象徴ともいえる存在でかなり魅力的。
宝石の輝きにも負けない強さと心の輝きは、結果的に夜子やクリソベリルを救うことになったあたり、ある意味登場キャラで最強のような気がする。
かなたで関係で一番好きなシーンは、12章の瑠璃の本がかなたを憎みよう書き換えられても、屈せずに立ち向かう場面。
好きな台詞、モノローグは
未来のない盤面に、可能性を探してみよう
サファイアはこれにて読了です
だって、面白いじゃありませんか!この程度の変化で、私の愛情を折るつもりだというのなら――私はこの愛情を、魅せつけていくだけです!


また、本作は夜子の成長物語ということもあり、夜子に感情移入する場面も多かった。
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夜子ルートのツンデレっぷりはなかなか可愛かったし、口では嫌いといいつつ、態度がデレデレというのは素晴らしく愛らしい。
全編を通して、夜子という女の子が恋に破れるまでを描いた話であり、最後に自分の恋に決着を着けて希望に向かって歩き出して終わるラストは本当に良かった。
夜子で印象深い台詞は
瑠璃色の輝きが、欲しかった
瑠璃「こんな日は、どういう小説がいいんだろうな。」 夜子「現実という、当たり前の物語なんていかがかしら


妃は、トリックスターみたいな立ち位置。
一番年下でありながら、最終的には瑠璃、夜子の背中を押してくれたのが印象的。
瑠璃以外を想うことになるのが嫌で、本のシナリオに逆らい自殺し、瑠璃への愛を貫く姿は美しいが、結果的に瑠璃を死に追いやり、図らずも「私と一緒に不幸になってください」が実現してしまうあたりは皮肉が利いていて切ない。
妃は、12章終盤、夜子が失恋できるように背中を押すシーンが印象的。夜子に失恋するよう言いつつ、夜子の未来を想っている場面は、親友を思いやる普通の女の子という感じがして好き。
一番好きな台詞は
恋に敗れて、死んでしまえ

理央は、他のヒロインに比べ影が薄いが、6章終盤の夜子との本音をぶつけるやり取りは良かった。あの場面は、夜子の望んだ対等な関係に一瞬だけでもなれた感じがする。

汀は格好良い兄貴分のキャラで格好良かった。
妃に対しての不器用な思いとか、夜子を見守る兄貴としての姿とか格好良い場面は多くあるが、何よりも格好良かったのは、12章で図書館に閉じこもってしまった夜子に声をかけるシーン。
「そういえば、と。現実の世界でも。最初に夜子の心を救ったのは、遊行寺汀だった。」という地の文は熱くなってしまった。
汀の「シスコンは卒業するもんじゃねえ。貫き通すものだ」という台詞は名言。

主人公の瑠璃は、序盤は主体的に動く良主人公だったが、中盤以降は状況に流され、ヒロインに助けられる状態になってしまったのは残念。
まあシナリオの構成上、主体的だったり、メンタルが強かったら、こうはならないだろうっていう立場だから仕方ない。


●サウンド
ボーカル曲なしでBGMのみという尖った構成。BGM自体は落ち着いた曲調が多く、結構好み。
好きな曲は「静かな決意」「紙の上の魔法使い」あたり。

グラフィック
一枚絵は若干安定しないものもあった気もするが、総じてきれい。


●システム
誤字は散見されるし、立ち絵の服装が同じ場面中に変化するなど、お世辞にもいいとはいえない。
現在はパッチが出ているから、ある程度は修正されていると思うが・・・


総評
本城姉妹の影が薄かったり、瑠璃が後半役立たずだったり、妃に救いがなかったあたりは、人によっては拒否反応があるかもなあとは感じたことや、ボーカル曲やOP映像がない点、システム面の不満はあるものの、シナリオ面では綿密な伏線回収もあり、かなり楽しめた。
魅力的なキャラも多く、最終的にはほとんどの登場人物を好きになった。
こういう潔いシナリオ重視型のゲームがあるから、エロゲは面白いし、やめられないと思った。
このライターの作品は初めてやったが、過去作や次回作にも期待したい。

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