2008年09月04日

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎


人はピエロのように重力を感じさせないことが可能だろうか?
背負った荷物を運び続け、DNAという人の鎖からは逃れられない。
それでも人間は何にも捉われない自由を求めていると思います。


泉水と春、英単語によるとspringとなるちょっと洒落た兄弟。
こんな二人が織り成すとても軽快で快活な冒険が本から溢れんばかりに繰り広げられています。
まず何気ない二人のエピソードのようなものから話はスタートしていて、話に溶け込みやすいのですが、
そこから二人の生まれた背景、発展していく物語と流れるように展開していきます。
仙台市内で頻発している放火事件と落書きの中には、あるメッセージがこめられていて
謎解きをしていくうちに二人は事件の核心に迫っていきます。


特徴的なのは、短編小説のように数ページごとに小題がつけられていて切り替えられていること。
その転換が絶妙で、ときにはサイドストーリー的なものを散りばめながら常に読者を飽きさせず
よいクッションの役割を果たしていると思います。
とにかく読みたいと思わせる全体的な話の作り方と文章構成には舌を巻くばかりですね。
もし、最初からこのような作りにしたいと決めて作品を書き始めたのなら天才としか言いようがありません。
これだけ心地よい読後感の残る作品は久しぶりでした。






(評点 ★★★★★ 5点 amazon平均 4.1点)


satoshi0528 at 02:02|PermalinkComments(0)TrackBack(0)本レビュー 

「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

2008年、新潮社・本屋大賞受賞。
直木賞候補に挙がるも執筆活動の優先を理由に辞退、と何かと話題を振り撒いている
伊坂氏。今年いちばん注目を浴びている作家と言えるかもしれません。
僕の周りで誰に聞いてもこの「ゴールデンスランバー」は賞賛の声。
普段ハードカバーしか買わない僕ですが読んでみたい衝動に駆られ、古本屋で買ってきました。


内容は、仙台で凱旋パレードを行っていた首相が爆弾で殺されるところから始まります。
主人公の青柳はその殺害犯に仕立て上げられ、警察に追われながら自分が無実である
証明をしようと奔走しますが、友人や仲間が傷つけられどんどんと不利な立場に追い込まれてしまう
彼に逆転の一手はあるのでしょうか。というお話
途中で謎の少年の出現や、警察との格闘などドキドキする分岐点が多く出てきます。
まさに走り読みしたくなるくらいのスリリングな小説です。


伊坂作品は仙台が舞台となっていることが多く、
フィクションを盛り込んだややSF的なプロットは著者の得意とするところですが、
この作品でも現実的でありながら近未来の街という印象を受ける場面が稀に出てきますね。
また、場面の転換や文章のバランスが絶妙でさすが!といった切り口ですね。
伊坂ワールド満載の作品を読むならこれ!といった一冊になること請け合いです。








(評点 ★★★★☆ 4点 amazon平均 4.3点)


satoshi0528 at 01:57|PermalinkComments(0)TrackBack(0)本レビュー 

「インストール」 綿矢りさ

彼女が芥川賞を受賞したとき、本の内容よりもその容姿が話題となりました。
ピアニストの松下奈緒さんなども顕著な例ですが文化的な事柄の才覚がある
女性というのは非常にそそられますね


それはさておき、本の内容はその容姿からは想像できないほどギャップがあるものです
とある日、部屋を整理していた女子高生の朝子がおじいちゃんにもらったパソコンを
捨てる決意をするのですが、同じマンションに住む子供にそのパソコンをくれと
せがまれます。
後日、パソコンが直ったことを知った朝子はその子供と一緒に
アダルトチャットの代理役ということでアルバイトを始めることになります。
受験勉強からくる虚無感におそわれていた彼女はアルバイトを引き受け
学校をサボり毎日のようにパソコンの画面に向き合います。
感受性が豊かな女の子がみた世界感が綴られていて、実は結構深い印象を受けました。


なんというか作品を読んでいて思ったのは計り知れないほど感性が鋭く、
勘が良いですね。無駄な文章がないのでテンポよく読めるし、
読書がどうしたら読みやすいかとか、どういうことを書いたら惹きつけられるか
というのを無理なくそつなく分かっている気がします。
次作の「蹴りたい背中」で芥川賞を受賞するわけですが、小説が詳しい人には
実力的にはまだまだという意見もあるでしょうが、僕は決して話題先行ではなく
彼女の受賞は必然の要素を踏まえていると思いました。
当然「蹴りたい背中」も近々読んでみたいですし、現在は専業作家として
新作をぜひ読んでみたいと思わせる作家の一人です。






(評点 ★★★★★ 4点 amazon平均 3.6点)


satoshi0528 at 01:55|PermalinkComments(0)TrackBack(0)本レビュー 

「オシムの言葉」 木村元彦

「作り上げるのは難しい。
 でも、作り上げることのほうがいい人生だと思いませんか」


イビチャ・オシム日本代表監督が倒れてはや半年。
この本を読んで彼のサッカーに対する思いを感じるとともに、
やはりアジア諸国と欧州ではサッカーへの情熱が違うと思い知らされました。
一応誤解がないように言っておきますが、
僕は現代表監督の岡田氏も本やメディアなどを通じて尊敬すべき監督であると思っています。
本心で岡田さんならアジア予選、及びW杯で素晴らしい戦いを見せてくれるでしょう


話は逸れましたが本書には、オシムという人物が母国でどれだけ愛されているか
またヨーロッパでどれだけ有名な監督か、そのような監督がどのようにして
日本のサッカーに興味を持ったかが綴られています。
以前、親善試合の名目でレアル・マドリーがジェフ千葉と対戦しにきたことがありましたが、
それはレアルが監督就任を断られたオシムが作った東洋のチームはどのようなものなのかに
興味があったからだそうです。
このエピソードひとつを取っても彼がどれだけ欧州で注目を浴びている監督なのかが伺えます。


戦火のサラエボで指揮を執ったユーゴスラビア時代。
民族紛争が巻き起こる中、まさに命をかけてサッカーをしてきた男の言葉
一言一言が重みを感じさせます。
そんなオシムが3年かけて作り上げたジェフ千葉は大きな躍進を遂げましたが
同じように3年計画で日本代表を彼が手掛けたらいったいどんなチームになっていたのでしょう。
サッカーファンはぜひとも読んでほしい一冊です







(評点 ★★★★★ 5点 amazon平均 4.4点)


satoshi0528 at 01:51|PermalinkComments(0)TrackBack(0)本レビュー 

2008年08月28日

「天空の蜂」 東野圭吾


ある企業で極秘プロジェクトとして進んでいた軍事用ヘリが盗まれます。
犯人の要求はヘリを原発に墜落させたくなければ日本にある全ての原発を
停止させろというもの。
そんな折、ヘリの中にはプロジェクトチームの子供が乗ってしまっていたという
まったく意図しなかった事実が微妙にストーリーに影響を与えていきます。
子供の救出、ヘリコプターの墜落阻止は叶うのでしょうか


東野作品の中期にあたるこの小説は、説明の通りミステリーではなく
社会派のプロットが強い作品であると言えます。
ミステリーが多かった東野作品が徐々に社会派のテーマに移行していく
過程の作品といってもいいと思いますが、当作品もドラマ仕立ての進み方ではなく
どちらかというか原発に焦点が当てられていて、原発の必要性・生産性や
原発の不安要素、国民の先入観などがこと細かに書かれています。


工学部を卒業してエンジニアとして社会人の経験のある東野氏ならではの
作品ですが、あまり日常生活しているだけでは知りえない知識も織り交ぜられていて
とても興味深い作品であることは確かです。



(★★★★☆)






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「眠りの森」 東野圭吾

若き敏腕刑事・加賀恭一郎シリーズです。
「どちらかが彼女を殺した」「悪意」「私が彼を殺した」などは過去に読んだ
ことがあるのですが、この作品はそれ以前の作品ですね

加賀はあるバレー劇団に入った強盗事件を担当することになるのですが、
バレー団のプリマがその強盗を殺してしまうんですね。
刑事たちの見解もおそらくは正当防衛…ということで落ち着くのですが、
そこへ第2、第3の事件が起きていき事態は複雑になっていきます。

東野作品、及びこの加賀恭一郎シリーズを読んだことのない方々は
いわゆる刑事モノという想像を働かせてしまいがちですが、
なんというかそうではないんですね。東野圭吾さんという作家は!
さまざまなところに楽しめる要素というか物語を楽しめるエッセンスが
含まれていると思うんですよ。
描写とキャラクターとストーリーが絶妙にマッチしていますね
どれかひとつでも傾倒してしまうと味が濃すぎる小説になってしまうのですが、
ライトというかサラっとコクがある読み物に仕上がっているのが特徴だと思います。


肩入れしている作家さんだけに毎度レビューが賛辞に終始してしまうのが
申し訳ないんですが、面白いです。
ラストは結構グッときます



(★★★★★)







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「ブルータワー」 石田衣良


高層マンションに住み、人並み以上に富と名声を手に入れた主人公。
しかしながら彼の体は病魔に蝕まれていて、余命数ヶ月との人生でした
転機が訪れたのはある日突然、病気による痛みから彼の意識は遠くに飛び
夢か幻かまったく知らない世界へ降り立ちました。

そう、「ブルータワー」はSF小説なのです。
石田衣良氏は比較的空想的な内容の小説を書いている印象があるものの、
本格的なSF小説は僕の知る限るでは初めてだと思います。

未来の世界では新型のインフルエンザが横行していて、
世界の人口は急激に減っています。安全の約束された「塔」に人々は押し込まれていて
そこでも富裕層を除く人々は様々な危険と隣り合わせになりながら生きているのです。
現実と同じように「高層階」に住む主人公は時を超えてこの危機を突破できるのか
というのがストーリーですね

わりと正統派のSFだと思います。
現代と未来の恋人と主人公の関係も見物です。
自分はこれを読んで未来の世界が混沌としているという設定が似通った
「北斗の拳」(文庫本で全巻所持)を読み返したくなりました(笑)



(★★★☆☆)






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「さまよう刃」 東野圭吾


かけがえのない娘を殺された父親が殺人犯へと変わっていく物語です。
少年法という檻に守られた犯人たちを前にして父親は自ら制裁を加えるという
行動に出るわけですが、ストーリーの進み方がなんともドラマティックで
読む者を飽きさせません。
また、犯人やその仲間、警察など関わる者すべてがそれぞれの立場で
自分の都合のいいように考えたり、利己的な行動をとったりするところが
痛快ですね。もし自分がその立場にたったらそうなってしまうのではないか…
という心理に掻き立てられなんとも言えない同調感が生まれてしまいます。
最後の方には父親の復讐が成就してほしいと思っていましたしね


ちなみに僕がこれを買った新宿の紀ノ国屋では、
東野氏自身はこの本を「いちばん思い入れのある作品」と評しているという
冠がついていました。これについては賛否が分かれそうです。
本人がそう言っている以上は否定する材料などないのですが、
僕自身は他にもいい作品や感動を与える作品はいくらでもあると思います。
ただ取材や書く段階を踏まえて「思い入れのある」ということかもしれませんし、
なんとも言えません。
ひとつだけ言えるのは、最高の小説であると同時に非常に生々しいものである
ということです。その生々しさを不快と感じる方は読まない方がいいかもしれませんね


さて、犯人を探し出すのは警察が先か父親が先か、
そしてこの物語に介入してきた者たちの将来はどうなるのか、
とにかく最後まで読者でなければこの物語は完結しないのであります


(★★★★☆)






satoshi0528 at 01:58|PermalinkComments(0)TrackBack(0)本レビュー