2013年12月14日

上州に「菊地徳」という女侠がいた

fb3a35bb.jpg11月2日、高橋敏先生の講演会に参加しました。(明治大学博物館友の会主催の講演会)
『菊地徳 国定忠治を男にした女侠』という講演タイトルが示しているように、一昔前までは講談の主役でとして誰もが知っていた赤城村の国定忠治がらみのお話です

かかあ天下と空っ風、上州を表現するのによく聞かれる表現です。上州は厳しい自然環境と農政への苛斂誅求への対応策として養蚕を選択することで、生き抜いてきたことが知られます。水田に頼らないこうした農家経営がもたらしたものは、女性の労働力の重要性でした。いわゆる「女工哀史」として語られる悲惨体験のみで理解されては、女性の労働力の経済力というファクターを見失ってしまうと、講師の高橋先生は力説されていました。弱々しいイメージで語られることの多い女性とは異なるタイプの、「主張する女性たち」が育まれた地が上州だったといえましょう。

とりわけ、「菊地徳」さんは、中風を患い召し取られたあとの忠治を励まし、歌舞伎仕立ての見事な最期を演出した女性として特筆すべき生き方をしています。五目牛村の茶屋の娘として生まれたのですが、「鷙悍ヲ以テ愛セラル」と記述されるほどの女性でした。「鷙悍(しかん)」とは、猛禽類のような男優りの侠気を意味し、それで男をほれぼれさせたという意味です。忠治の正妻ではなく、妾の一人と理解していいようですが、夫であったのは忠治の子分の千代松、その千代松が亡くなった後では一家を支え、養蚕経営を自立して担いつづけた女性です。

忠治が捕縛され江戸送りとなる時から、徳の演出は始まっていたらしい。徳自身も囚われの身になりながら、貸金取り立てを図るなど金の工面をしています。特別誂えも丸籠に、着物や布団も特注しているのですから念入りの演出の始まりです。お上は見せしめのために信州街道大戸宿での公開処刑を決めますが、徳は歌舞伎仕立ての、セレモニーを演出するのです。特製の唐丸籠の中で、衣装は上州特産高級絹織物で仕立て、長崎渡りの唐更紗二枚と紅一枚の三枚を重ねた蒲団に座らせたという。見物人は「役者」忠治に魅了された。板橋の宿での別れた際には、もう一人の妾であったお町さんは「声くもり等これあり」という状態でしたが、徳は「いかにも気丈もので、必ず尋常に御公儀さまの御用になされるようにと、述べたと伝えられています。立派に刑死することで、ヒーローとしてよみがえることを演出した女性にほかなりません。

この菊池徳に先行する自立女性として、高橋先生はいくつか事例を紹介されましたが、それらも興味深いものです。

(顕州廓(1806)、「くめ」という女性が婚家の舅を家督相続違反で訴えた事例。・・・「くめ」は四人の子供を授かったのですが、夫が急逝する不幸に見舞われ離縁、婚家には長男をのこしたものの死なれてしまいます。ここで婚家と縁が切れてしまいます。跡取りが夫の兄弟になったことをめぐって、この女性は示談に応ぜず執拗に訴えを続けます。最終的に、ものにしたのは遺産相続に相当する田畑だったのですが、したたかな女性像が見てとれます。

縁切り寺に駆け込んだ事例。・・・徳川家康の孫娘千姫にかかわる由緒のある満徳寺は縁切寺として著名になっていたのですが、その特権を悪用した事例を紹介。後家となった「なみ」が、将来の不安から娘「たき」に添わせた夫には非はないのですが、満徳寺に母娘二人で駆け込んだという。原因の一端は、娘に愛人が出来たためだったらしく、この事例は、か弱き女性が逃げ場として選んだ行動ではなかったようです。

H喃箍悉「はつ」が天保13年(1842)が一通の願書を出した。(「御上様江はつ口上書」)・・・越後の貧農の娘で、奉公に出されたものの病で苦しむ実情を訴えています。この訴えが出される背景に、幕政が建前としては仁政を謳っていたことがあげられるという。この女性は少なくとも、読み書きができ知恵もあった。ただ逃げたところで解決にはならないことも知っていた。遊女も黙ってはいないことを知ってほしいと、高橋先生はここでも力説されます。

な顕州暁(1809)のこと。定次郎の孫娘が栄蔵との恋仲となったが、孫娘に縁談が持ち上がり、駆け落ちを決意、栄蔵と懇意の名主五郎左衛門が手引きして、実行した。この一連の出来事に怒りをあらわにした定次郎に対する五郎左衛門の言い分が残っています。「当人同士の心に叶わなければ破談になるのが当世の村事情である。・・・・」お上が、村の恋愛にまで口出しすべきではないと突っぱねています。現代にも通ずる出来事ともいえましょう。

(講演されたお話をもとに、高橋先生の著書『国定忠治を男にした女侠 菊地徳の一生』朝日選書、2007 を参照して記述しました。)

sawarabiblog at 20:06│Comments(0)TrackBack(0)

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