2015年12月31日

東山彰良『流』が描いた世界

5cb00eaa.jpg直木賞受賞作『流』(東山彰良)を読みました。あまりにも評判がよいので、思わず手に取りました。祖父にまつわる物語という程度しか予備知識はなく、小説の舞台が台湾であり、さくしゃの東山さんは台湾出身の方だということも初めて知りました。
エピローグは、読み手としてはおかしみを感じさせる場面でありながら、祖父がかつて中国大陸で行った所業が浮き彫りにされるシーンを描き出します。小説のテーマを見通す、謎が提示されています。

本編は、1975年、蒋介石総統が亡くなり、「牧歌的」の蒋経国に権力が移行したころに、祖父が殺されるといういきなり波乱の幕開けです。
「祖父は山東省の生まれで、纏足をしていた曾祖母の腹から生れ落ちるや、まだ目も開いてないはずなのに、狐火を見たと言い張った。」という伝説を持っています。お狐様の予言に従い共産主義者と戦う戦列に加わります。祖父からは具体的な戦闘を聞くことはなかったものの、父から聞いたところでは、抗日戦争当時から、残薬を節約するために、捕まえた敵は生き埋めにしたとのこと。かなり華々しいアクションシーンが描かれる物語の展開のなかにあって、登場人物で、高校教師という父親の存在は影が薄いように思えるのですが、著者の東山さんの父親こそ、扉の次に載っている下記の詩の作者であり、小説の主人公に深く影響を与える設定になっていることに思い当たりました。

魚が言いました‥わたしは水の中でくらしているのだから
 あなたにはわたしの涙が見えません   王璇「魚問」より

大陸にいたころからの祖父の仲間だった李爺爺や郭爺爺が語る昔話に、歴史的背景を知ることが出来ます。「王克強(ワンコオチャン)」という日本軍の間諜となった人物によって多くの村がつぶされたという。祖父の親兄弟が殺された事件をきっかけに、今度は祖父が相棒を伴い王克強を殺しに行ったという。この連鎖を、どこかで断ち切らなければ終わらないのです。
読後に、戦争とは何かを考えさせられることしきりです。

sawarabiblog at 23:00│Comments(0)TrackBack(0)

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