2016年08月09日

長篠の戦いと落合左平次道次背旗

e1c41d0d.jpg5か月前のことになりますが、3月12日、明治大学博物館友の会主催の講演会『織田信長と長篠の戦い』を聴講しました。講師は、東大史料編纂所准教授の金子拓氏です。

長篠の戦いはよく知られていることですが、、天正3年(1575)5月21日、長篠城をめぐる信長・家康連合軍と武田勝頼軍との戦いを指すのですが、講師の金子先生は、なぜその戦いが起こったか、そしてその結果、何があったかを述べたいと、前置きされ史料を駆使してのお話でした。ポイントだけを記しておきます。

信長と武田信玄とはもともとは同盟関係にあったのですが、突然信玄の方から破棄されたことで、信長は大激怒し「信玄の所業、前代未聞」とののしっています。元亀4年=天正元年(1573)、信玄は亡くなり勝頼へと家督継承されます。長篠城は信玄の時代には、武田の手にあったのですが、家康に奪われてしまいます。天正2年、城を奪い返すため勝頼は遠江の高天神城を奪うなど攻撃をしてきます。ところが、なぜか信長の動静が不明、空白期間があってなかなか援軍を出していないのです。その理由として、これまで信長軍としては、兵糧や兵の招集遅れがあったのではないかと推測されていました。
次いで天正3年、武田軍による足助口攻撃の報を受けた際にも、信長は河内攻めをおこなっていて、すぐに援軍を出していません。やはり空白期間があるのです。
このように2年にわたって、信長が慎重な行動だったのは、実は勝頼をおそれていたのではないかと『甲陽軍鑑』が伝えています。信玄側の記録ですので、すべて正しいとは言えませんが、考えられないでもないようです。信長の基本方針は、まず自軍を敵方へ見えざるように配置し、出来る限り武田軍との全面対決や消耗戦は避けたい考えだったように見えます。
当日の戦いは、勝頼軍が「有海原」に進軍したのを好機とし、酒井忠次率いる徳川軍による蔦の巣山砦攻撃が挙行されています。長篠城を囲んでいた勝頼がここで動いたのは、信長の兵力を少なく見積もったか、臆していると考えたためではないかと、考えられます。いずれにせよ、長篠の戦いにおける信長・家康連合軍の勝利は、勝頼の判断ミスと信長の決断が重なった結果であったと言えるようです。

お話しの最後に、金子先生が、鳥居強右衛門の磔図の修復による新発見について語られたことに興味を持ちました。この日のお話は、長篠の戦の共同研究の成果を述べられたのですが、この共同研究の一環として東京大学史料編纂所が所蔵する「落合左平次道次背旗(おちあいさへいじみちつぐせばた)」の研究も行われたそうです。

かつて、歴博では2000年に開催された「天下統一と城」という企画展において、この背旗を頭が下で足が上になるという「逆磔図」説を有力であるとして、展示していました。それがとても印象深く記憶に残っていました。

「長篠の戦い」の直前、武田軍に包囲されていた長篠城から脱出し、信長・家康の援軍が来ることを確認した鳥居強右衛門(とりいすねえもん)という武士が主役ですが、強右衛門は、来援を確認して長篠城に戻ろうとしたとき武田軍に捕らえられ、味方に援軍が来ることを伝えたため、磔にされたと伝えられています。落合佐平次という人物は、武田方か徳川方かは目下のところ不明の人物だそうですが、鳥居強右衛門の義に感じてこの旗を作ったと言われています。落合家は、のちに紀州徳川家に仕え、子孫もおられるということです。その落合家を調査したところ、2代目、3代目も同様の旗を作っていたことが分かったのだそうです。歴博の展示では、これらの史料も展示されていました。ご子孫の所蔵する旗を見ると、逆さ磔ではなかったようです。史実はどうあれ、磔図として作成されていたことは間違いないようです。旗には血痕も残っていて、実際に戦場に臨んだものだという生々しさを感じることができます。これまで掛け軸の形にされていたのですが、今回修理され裏面も見られるようになり、合わせて科学的な調査も行われたということです。

この「落合左平次道次背旗」は今日から、歴博で展示されていますので、さっそく見てきました。ギャラリートークが行われていて、調査についてお話を聴くこともできました。

「もの」からみる近世「戦国の兜と旗」(第3展示室)は9月19日(月・祝)まで開催。旗と共に、調査結果もパネルで展示されています。歴博所蔵の変わり兜の展示もあり、興味は尽きません。なお、背旗の実物の展示は8月21日(日)まで。その後は複製品の展示に切り替わるそうです。実物をご覧になりたい方はお早めに。(東京大学史料編纂所所蔵資料は、写真撮影ができませんので、パンフレットの一部を載せました。)

sawarabiblog at 17:31│Comments(0)TrackBack(0)

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