2017年01月26日

原田マハ『リーチ先生』の感動

29612252.jpg原田マハさんの『リーチ先生』(集英社、2016)を読みました。

描かれている世界にひたっていたいと、じっくり時間をかけて楽しみながら読み進めました。主人公のバーナード・リーチという方の生涯を、まるで同伴しているかように感じながら、たどることができました。知られているようでいて、表面的にしか理解できていなかった『民藝』についても柳宗悦が登場人物になっていることもあり、認識を新たにしました。

主人公のバーナード・リーチという方の生没年は1887-1979年とのこと、ずいぶん長生きをされた方のようですね。「陶磁器をはじめエッチング・素描・木工作品などを創作した20世紀英国を代表する工芸家」と紹介される存在です。

物語は史実をベースにして、大分県の小鹿田(おんた)の陶工である沖亀乃介と高市という父子の存在を軸にして進行していきます。物語のスタートは1954年、すでに陶芸家として高名になっているバーナード・リーチが小鹿田を訪ねるという設定で、村人たちはもてなしの準備に忙しく、中でもリーチ先生のお世話をまかされたのが高市(こういち)でした。高市はお世話をするうちに、思いがけないことに、亡くなった父である沖亀乃介と先生が深いきずなで結ばれていたことを知らされます。

そして、作品の舞台は亀乃介の生きた時代、1909年にさかのぼります。実在の人物かと思えるほど、生き生きと描かれる亀乃介の処世に、読者としてはいつしか引き込まれていきました。高村光太郎との出会いがきっかけとなって、生涯の師となったリーチ先生とも運命的なめぐりあいが待っていました。

亀乃介はリーチの通訳と世話をしながら、リーチ先生が選択した陶芸の道をともに歩んでいきます。陶芸との出会いのシーンは、リーチが、富本憲吉と亀乃介を伴い「下村某」という芸術家の家に出向いた時の出来事です。絵付けを見学し、体験します。リーチは自らが絵付けした楽焼の仕上がりに、すっかり魅了されてしまいます。リーチが魅了され、感激した状況と思いを、原田マハさんは書いています。

「窯の中で燃え盛る炎、たちのぼる熱気。ゆらめいて舞い上がる火の粉。焼き上がった器が水につけられたときに放つ、じゅうっ、という心地よい音。釉薬をかけられて、いったんはきえてしまった絵が、熱せられ、また冷やされることによって、再び現れる不思議。窯から器が取り出されるときの、あの胸躍る感覚。」

リーチの感激を伝える言葉も、記憶に残ります。

「アテネの学堂じゃなくとも、大英博物館の一室じゃなくとも――芸術にまつわる啓示は、突然降りてくるものさ」

自分の窯を造り作陶するリーチに「尾形乾山」の名前を継いでほしいという申し出があったなどのエピソードも丹念につづられていて、興味をそそられます。作陶にあたり窯の火加減の難しさを伝えるエピソードには、ハラハラさせられました。窯ごと焼いてしまった亀乃介の大きな失敗を許してくれたリーチ先生のおかげなのか、神のいたずらなのでしょうか、すっかり破壊しつくされた窯から、素晴らしい作品があらわれるシーンはすがすがしい。読み進めながら、暖かい感情に満たされてくる作品です。

時代は、柳宗悦が「用の美」を提唱し始めていた時期でした重なっています。柳宗悦が意義を強調した「用の美」を生み出す場でもあり、リーチが提唱した「アーツアンドクラフツ」運動を実践するために、亀乃介はリーチ先生とともに、イギリスに向かいます。そして南西部の港町セント・アイヴズの地での作陶に奮闘することになります。1922年に工房として独立した「リーチポタリー(Leach Pottery)」ですが、その後多くの優れた陶芸家を輩出し、イギリス現代陶芸の礎となったとのことです。

なかなか、恋物語にはふくらまないと思いきや、物語の終盤、亀乃介はセント・アイヴズで出会ったシンシアとのロマンスが絡んできて微笑ましい。

読み終えてしまうのが、もったいないと思いながら少しづつページをめくる毎日でした。
原田マハさん、素晴らしい世界を堪能させていただきありがとうございます。

sawarabiblog at 17:54│Comments(3)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by 神崎和幸   2017年01月27日 16:58
こんにちは。

自分も『リーチ先生』読みましたよ。
いい作品ですよね。
陶芸に対する想いが本当に良かったです。
そのうえリーチ先生と亀乃助のつながりを素晴らしいと思いましたよ。
2. Posted by さわらびT   2017年01月29日 21:58
神崎様
コメントありがとうございます。感動を共有できて幸いです。これからもどうぞよろしくお願いします。
3. Posted by 神崎和幸   2017年01月31日 09:03
はい、またお邪魔させていただきたいと思います。

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