2017年02月22日

『屋根をかける人』がおもしろい

cb7f9288.jpg門井慶喜さんの小説『屋根をかける人』を読みました。

主人公のウィリアム・メレル・ヴォーリズ(以後、「メレル」と表記します)という人物についての認識はまったくありませんでしたので、新鮮な驚きで読了しました。物語のハイライトは終盤にありますが、それはこれから読む方のお楽しみですので、書くのは控えます。

メレルは明治末期にキリスト教伝道のために来日したアメリカ人ですが、日本では、教会建築を始め多くの西洋建築を手がけています。さらに、ヴォーリズ合名会社(のちの近江兄弟社)の創立者の一人としてメンソレータム(現メンターム)の製薬事業を展開させた実業家として知られています。

物語は、日露戦争の最中、明治38年(1905)1月29日に日本の土を踏んだヴォーリズの船上の姿を映しだします。酒、たばこをたしなまず、倫理観の強い一人の若者がアメリカYMCAの伝道者として日本に渡ってきたのです。

メレル青年の赴任地は近江八幡、商業界に一大勢力をきずいた近江商人の根拠地の一つですが、気分よくこの街の豊かさや、美しく清らかな街並みに好意を持ちます。メレルは、語ります。

「この街の民家のつくり。あれは世界に示すに足るものです。黒板塀にりっぱな瓦屋根をかけ、その上へさらに庭の松の枝をのばしている。さながら塀そのものが一軒の横長の家であるかのようで、世界に類例がありません。」

哲学の学位を持つメレルですが、建築家をこころざしたことがあると、赴任先の商業学校の教頭に告げます。

同僚の英語教師の宮本文次郎がキリスト教信仰をいだいていることも、気分を前向きにさせてくれます。小気味のいいテンポでメレルの日本での生活が描かれていて、読み進めることができます。

順調に教育者として活動をしていましたが、しかし2年後、突然、職を失ってしまいます。校長の人事異動に伴い、日本の社会システムが背景にあることを知らされます。

アメリカへ帰国するという選択肢があるのですが、メレルは、めげずに日本に残り建築の仕事を始めます。その現状を見るに見かねて支えてくれた教え子の吉田悦蔵とその母の存在は、すがすがしい。信仰に対して決して教条的でないところが、メレルの特長のようですし、むしろ商人としての才が発揮されることになります。ほどほどというか、ある程度淡白なくらいな信仰観でいたほうが、信仰生活が長続きするようにも思います。もっとも、メレルのことは宣教者ではなく伝道者であると、伝えています。

建築家として成功するものの、日米開戦はメレルに大きな決断を迫ります。結局、日本に留まり帰化することを選びます。華族の身分を捨てて結婚相手となった一柳真喜子が支えになります。終戦を迎えて、メレルは大切な役割を与えられるのですが、それが物語のハイライトです。

とても読みやすいのですが、考えさせられることの多い作品でした。

sawarabiblog at 10:21│Comments(0)TrackBack(0)

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