2017年04月06日

『おやすみラフマニノフ』を読みながら・・・

63daeb69.jpg図書館で何気なく手にしたのが、この一冊。中山七里さんの『おやすみラフマニノフ』(宝島社、2010) 、ミステリー作品ですが、クラシックの名曲が物語を彩ります。タイトルの通り、ラフマニノフのピアノ協奏曲二番が、物語の終盤に華やかに演奏されるシーンは読みどころでしょう。

プロローグでは、完全な密室状態で保管されていた、時価2億円のチェロ、ストラディヴァリウスが忽然と姿を消していたことが伝えられます。その謎をひもときながら、主人公の愛知音大生、城戸晶が巻き込まれていく事件の様相が描かれます。晶は実家からの仕送りが途絶えてしまい、学費の納入が出来ず退学の危機に直面しています。恋人に近い存在らしい柘植初音が登場していますが、この二人はなぜか一線を超えない関係であることが、描かれています。これが、謎解きのポイントのひとつでもあることが後でわかりますが、それは読んでからのお楽しみでしょう。初音はチェリストで、ジャクリーヌ・デュ・プレに心酔していることも、述べられています。晶の通う音大の理事長・学長である柘植彰良が、稀代のラフマニノフ弾きと呼ばれる名ピアニストで、日本音楽界の頂点に君臨する存在であり、初音はその孫娘という関係です。

ピアニスト岬洋介の演奏するベートーベン・ピアノ協奏曲<皇帝>の演奏に、酔いしれる場面が物語の導入です。晶はその演奏に、心から感銘し、別次元の演奏であり、奇跡とも感じています。確かに演奏会で受けた感動は、かけがえのないものですね。

音大生にとって、プロへの道のりは険しいもののようです。まして学費の納入にまで苦戦を強いられている晶、しかし、学長がソリストとしてラフマニノフのピアノ協奏曲第二番を演奏するコンサートでコンサートマスターをする機会が得られれば準奨学生という待遇になり後期学費は免除されるという特典が与えられるという。晶は果敢にチャレンジします。しかし入間裕人というオネエ言葉の主がライバルとして立ちはだかるのです。母が国際的ヴァイオリニストで、本人も国内コンクール常連という入間の晶は勝てたのでしょうか。ミステリー作品なので、ストーリーにこれ以上踏み込みむことは避けますが、この作品の中でメインテーマのラフマニノフのみならず、パガニーニが自作を隠し続けたエピソードや、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯をなぞっていることなどには大いに興味がそそられました。

デュ・プレは、天才少女でした。1945年生まれ、3歳の頃、ラジオでチェロの演奏を聴き魅了され「マミー、ああいう音を出してみたい」と言ったそうです。両親の理解がある音楽環境にも恵まれ、5歳でロンドンのチェロスクールに通い、16歳で演奏家として正式デビューします。ストラディヴァリウスから奏される音の美しさ、しかもイングリッシュ・ビューティと評された容姿でした。ところが、中枢神経を侵す難病、多発性硬化症を発症します。違和感を覚えたのは1971年のこと、チェリストとしての名声を誇れたのはわずか10年しかなかったのです。病と闘いながら1987年10月に亡くなります。幸いなことに多くの音源が残されていますので、私たちはその演奏を追体験する機会を与えてもらえています。

ラフマニノフですが、ピアノ協奏曲第二番の第二楽章と第三楽章を完成させたのは、1900年秋、しかし作曲中に極度のノイローゼにかかるなど、作品の完成までの道のりは決して平坦なものではなかったようです。しかし精神病の名医ニコライ・ダーリ博士の催眠療法が功を奏し、全曲が1901年5月に完成します。その年、ラフマニノフ自身のピアノによる演奏によって初演されています。

「この曲が大衆に受け入れられ絶賛されたのは、その旋律の美しさと壮大さもさることながら、曲全体に世紀末ロシアの空気が蔓延しているからだろう。」

クラシックの名曲を文章の力で、楽しめる作品になっていました。

sawarabiblog at 17:56│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by 神崎和幸   2017年04月07日 08:51
お久しぶりです。

自分も「おやすみラフマニノフ」読みましたよ。
いい作品ですよね。
演奏会の緊張感や熱気が伝わってくるところも良かったです。
そのうえ信用と信頼の違い、音楽性と人間性の違いが印象に残りましたよ。
2. Posted by さわらびT   2017年04月07日 12:20
神崎様、ご訪問いただきありがとうございます。私は音楽には全くの素人ですが、昨日の背景となっている音楽家のエピソードが面白かったです。あらためてアシュケナージのCDを聞き直しました。

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