2017年07月16日

佐藤正午『月の満ち欠け』から伝わる切なさ

3e04ea3f.jpg佐藤正午さんの話題の新作『月の満ち欠け』(岩波書店、2017)ですが、図書館貸し出しは待ちきれず、購入し読了しました。読み終えて(特にラストシーン)、とても切ないラブストーリーだった!という実感でした(特にラストシーン!)。先に『鳩の攻撃法』を読んだのは、この作家に慣れておこうと思ったためでしたが、作品の趣としてはかなり違った印象を持ちました。

この作品の主人公の一人は、青森県八戸出身の三角哲彦という人物です。今年、大手建設会社の本社総務部長に就任したエリートと紹介されていますが、順風満帆と思える人生の中で、大学は卒業までに5年かかっているのです。この1年間の「無駄」とは?

大学生だった三角が正木瑠璃という女性に出会ったのは、高田馬場のバイト先のレンタルビデオ店、ビルの地下街にあるその店の前にその人は立っていました。店に用事があるのではなく、雨宿りをしているという女性が、雨に濡れていることに気づき、着替えのために持っていたTシャツを、差し出します。このあたりの描写がみずみずしく感じられます。三角が八戸出身と知った女性が、「いちご煮」について質問します。・・・その会話は遅れてバイト先にやってきた同僚の出現で中断してしまいます。気になりますね。でもこの会話の続きは、後日、実現します。二人は恋愛関係になるのです。

瑠璃さんは、既婚者でしたから、この恋は危険なものでもありました。その瑠璃さんは、不思議な話をします。

自殺した会社の先輩の男性が、「ちょっと死んでみる」と遺書を残していたというのです。そして、自分も試しに死ぬ覚悟があると、怖いことを言うのです。
「あたしは月のように死ぬ。・・・・月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す。」

この物語には、瑠璃という名前の家族を持つ人物が、ほかにも登場します。もう一人の主人公といえる小山内堅も八戸市の生まれ。結婚相手は、高校の後輩にあたる女性で、娘が一人います。その娘の名が瑠璃、7歳を過ぎたころから奇妙な行動をするようになります。お気に入りのぬいぐるみにアキラと名付けて親しげに話しかけたり、瑠璃が生まれる前のヒット曲である黒ネコのタンゴや黛ジュンの夕月を歌ったという。

時代が交錯していますし、瑠璃という名を持つ女性が、次々に現れますのでますので、注意深く読み進めないと多少混乱しますが、物語は人が「月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す」ということがありうるのか、というテーマに収束することになります。

小山内堅の娘の瑠璃ですが、高校の卒業式を終えた後、母親の運転する車で交通事故に遭い、二人とも亡くなってしまいます。その死から15年後、小山内堅の前に三角哲彦が現われます。この事故は、小山内の妻と娘が三角に会いに、東京に向かう途中で起きた事故だったと知らされます。

謎解きの面白さも堪能できますし、主人公たちの人生ドラマにも、興味がそそられます。人生における出会いの神秘を、伝えてくれる作品と言えるのではないでしょうか。

sawarabiblog at 17:00│Comments(0)

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