2017年08月05日

宮内勝典『永遠の道は曲りくねる』に感嘆

fd8c9473.jpg新聞記事で紹介された内容に興味を覚え、『永遠の道は曲りくねる』(河出書房新社、2017)を読みました。著者の宮内勝典さんのことは、初めて知りました。1944年ハルピン生まれ、若き日、そして壮年時代にかけて、アメリカ始め、ヨーロッパ、中東、アフリカなどを放浪した体験を持っておられる方らしい。その体験を生かした執筆であり、骨太な小説になっています。読み手としては、メッセージを受け止める心構えも必要だと感じます。主人公はもちろんですが、自己主張をもった登場人物たちの魅力が炸裂します。

物語の導入はみずみずしく、何が始まるのだろうか、期待を持たせてくれます。主人公は、作者を彷彿とさせる「有馬」、彼が沖縄の海でダイビングの練習をしている場面からスタートです。島の言葉で「若夏」という季節、知己である副院長の田島からの呼びかけに応えて、島の病院「精神科うるま病院」の雑役係として勤め出したばかりです。病院で有馬は奇妙な老婆に出会います。「乙姫さま」と呼ばれていますが、「ユタ」というシャーマンの一人らしい。乙姫さまは病人として来院しているのではなく、精神を病んでいる娘を「カミダリー」(神がかっている)とみなして、病院から引き取り「ユタ」に育て上げている方なのだと知らされます。

病院長の霧山は肝臓ガンで余命半年の宣言を受けていますが、治療のため節制している様子は見られません。仕事は副院長の田島に譲って、平屋の一軒家ですごし、安保闘争や、南島の精神医療について書き物をしています。

霧山は戦争のあとの沖縄について語ります。あちこちに精神病院が出来たが離島は放置されていたので、慶良間にも久米島にも通ったという。心を病んだ人のうちには座敷牢に入れられていた人もいたが、日本復帰して、医療制度が適用されたことから、座敷牢も開放できたのです。

ところで、この霧山という人物にはモデルがいることを、著者の宮内さん自身が語っています。私より一世代前になるので、名前だけしか知らなかった方ですが、60年安保闘争の全学連リーダーであった島成郎さん(故人)です。実際に沖縄で精神科医として地域医療に取り組まれた方です。

「島さんは日米安保条約の本質は沖縄基地問題であることに気づいたものの、阻止できなかった。そのことに責任を背負い込んで、安保闘争の後、沖縄や離島で医療活動を地道に重ねたんです。男の中の男ですよ」と宮内さんは語っているほど、惚れ込んだ人物であり、この作品に反映されています。

物語に戻りましょう。乙姫さまは女性シャーマン集団のリーダーで、社殿は「波照間宮」と名付けられていますが、皆は龍宮城と呼んでいます。かつて、島々を結ぶ海中道路建設が進められた際には、御嶽の森を守るために断食闘争を繰り広げたのが、乙姫さまだったと、霧山から伝えられます。有馬は、龍宮城に招かれ、乙姫さまから身の上話を聞かされます。疲れを知らない彼女に、有馬はアメリカインディアンの呪術師と似た気配を感じとります。波照間で生まれた彼女は、9歳の時本当に移りましたが父親は招集されて、戦死したようです。アメリカ軍の攻撃から逃げるうちに母親を見失いますが、「雷神ガマ」に入り、幸運にも生き延びることができたのです。

物語としては、この「雷神ガマ」が舞台となってきます。米軍基地とつながっているという設定になっていて、新たな登場人物がさらに物語を膨らませてくれます。基地側の精神科医フローレスと。ガマで合流するとジェーンという女性を伴っています。スー族の血を引いていることは知らされますが、実は、オサマビンラディンと生活を共にしたことが後日明かされます。作品の中盤から、エンディングまで、波乱万丈の展開で飽きさせません。終盤、有馬はビキニ環礁に辿り着きますが、被爆の人体実験にされたロンゲラップ島民のエピソードは、重く切ない。
 
【参考】ビキニ環礁の被爆について感じたことを、2015年06月01日のブログ、「潮見教会と第五福竜丸記念館を訪ねて」に記しています。
http://blog.livedoor.jp/sawarabiblog/archives/2015-06.html


sawarabiblog at 12:28│Comments(0)

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