ロバート・キャパ写真展「キャパ・イン・カラー」(日本橋三越)

今日から始まったロバート・キャパ展に行ってきた。
「やらせ」論争を引き起こしたスペイン内戦の「崩れ落ちる兵士」や、ブレ&アレが臨場感をいや増すノルマンディー上陸作戦などの名作写真で知られるキャパ。キャパといえばモノクロ写真というイメージがあったが、実はカラー写真もかなりの量、撮影していたということを、横木安良夫のノンフィクション『ロバート・キャパ最期の日』で知った。キャパが撮るカラー写真はどんなものだったのか。
まず、カラーの色鮮やかさに目を奪われる。1930年代〜50年代の写真であるにもかかわらず、経年変化による褪色が見られない。これはたぶん、デジタル処理による復元だろう。しかし、復元されることによって、まるで昨日のことのように数十年前の光景を見ることができるという衝撃を感じた。
戦時中の従軍取材からすでにカラー写真を撮影していたことにまず驚かされるが、カタログによれば、モノクロ写真では「ライフ」にかなわないと考えたライバル誌がカラー写真で差別化を図ろうとしたことが理由のようだ。そして、あのキャパでさえ、「ライフ」の仕事かがあぶれ、他誌の要請でカラー写真を撮らなければならなかった、ということも意外だった。
カラー写真は感度わずかISO25*(付記参照)ほどと低感度で、キャパも撮影には苦労したようだ。昼日中の写真でも、レンズ開放近くで撮っているらしく、被写界深度が浅い。ボケが印象深く、そのことが逆に不思議な風合いを写真に与えてもいる。
感度が低いこともあったのだろう。写真はすべて日中だ。わずかにヘミングウェイ家族を撮影した写真に傾きかけた日差しが感じられるくらい。いずれにせよ、晴れている。空は青く、彩度が高いこともあって、気持ちのいい写真だ。キャパがどこまで色のことを意識していたかはわからないが、案外、カラー写真が性にあっていたのではないかとも感じた。つまり、高感度カラーフィルムがあれば、キャパはよろこんで使ったのではないだろうか。大量にフィルムを消費し、乱写気味だったという証言(前掲の『ロバート・キャパ最期の日』)もあるキャパだが、なるほど、カラー写真でもかなりのカット数のなかから選ばれたのではないかと感じるさりげないショットが多い。とくに日本の写真で、子供の目線まで降りて撮影しているローアングルの写真が印象的だった。
そして、点数はそれほどなかったが、ヘミングウェイ一家の狩に付き添って撮影した写真がなかなかいい。リラックスしたムードの中で、ヘミングウェイと息子たちが狩を楽しんでいる。キャパはそこにいないかのように、自然に被写体を捉えている。スナップの名手、キャパの面目躍如たるシリーズである。
展覧会にはカラー作品のほか、わずかだが、モノクロの代表作も展示されている。キャパをよく知らない人にも楽しめるだろう。20日までと会期が短いのでお見逃しなく。
*キャパが使っていたカラーフィルムについては横木安良夫さんのブログが参考になる。
2月15日(火)〜20日(日)
日本橋三越新館7Fギャラリー
<付記>
ISO25*はISO12の間違いだというご指摘を横木安良夫さんからいただいた。展覧会のカタログを見ると、「略歴」欄の1936年の項に「スチルカメラ用35ミリコダクロームが発表される。デイライトタイプの感度はISO10だった」とある。コダクロームについては横木さんのブログ記事「僕のコダクローム その1」に詳しい。