2006年04月09日19:45

渡辺克巳さんを偲ぶ会

 渡辺克巳という写真家の存在が気になってならない。

 写真家の渡辺克巳さん死去というエントリーで取り上げてから、自分のなかで、思っていた以上に、渡辺克巳という写真家が気になる存在だったことがわかった。

 時すでに遅し。写真家のインタビューが生業の一部になっているぼくは、会いに行こうと思えば会えたはずだった。しかし、いつかそのうちに、と思っているうちに果たせなかった。

 しかし、生身の渡辺克巳を知らないから、気になっているのかもしれないとも思う。彼が残した写真と、彼について誰かが語る言葉によって、ぼくは、渡辺克巳の影を追っている。

 渡辺克巳さんを偲ぶ会に出席させていただいたのも、渡辺克巳という人間の匂いをかぎたかったからに違いない。たまたま、mixiで知り合うことができた神 峻さんのご好意で、生前、故人と一面識もないにもかかわらず出席できた。

 発起人は桑原史成、勝尾聡、菊池信夫、酒井猛、鈴木伸男、鈴木重造、武居大三、田邊順一の各氏。ぼくにわかるのは、ドキュメンタリー写真家の巨匠として知られる桑原史成氏くらい。あの水俣や韓国での粘り強いルポルタージュフォトをものした桑原氏の名前があることが、少し不思議でもあった(氏のスピーチの中で、桑原さんと渡辺克巳が暗室を共有していたことがわかった)。

 会場では、写真家の山崎博さんにお会いできた。山崎さんは渡辺さんと70年代にグループ展を開いたことがあるとか。「そのときのメンバーで亡くなった人も多いんだけど・・・・・・」と山崎さんがおっしゃっていた。

 山崎さんといえば「爛漫図」「Heliography」などのシリーズや写真集『水平線採集』などの実験的かつ思索的な作風で知られるが、その一方で、60年代〜70年代のアングラ・カルチャー・シーンともかかわりがあった作家でもある。当時、山崎さんと渡辺克巳が出会っていたということは、当時の写真シーンの豊かさを感じさせるエピソードだ。

 ほかに、ぼくが知っている顔といえば、不肖・宮嶋こと宮嶋茂樹さん。一度、「日本カメラ」で取材したという縁があっただけだが、渡辺克巳を報道写真家の先輩として尊敬しているとおっしゃっていた。事実、会場に並べられた渡辺克巳の写真集をいちばん真剣に見ていたのは宮嶋さんだった。このカットはストロボを使っている、このカットはこう撮っている、とやはり報道写真畑のお歴々たちと語っていた。

 そう。会場には写真家が大勢きていたが、彼らは週刊誌、月刊誌などの媒体で活躍する報道写真家たちだった。そちらの方面には疎い、ぼくのような人間は存じ上げない方ばかり。

 渡辺克巳は「Focus」や「Friday」をはじめとする写真週刊誌や、「週刊文春」などの一般週刊誌でカメラマンとして仕事をしていた。写真集『新宿』と『Hot Dog』しか知らないぼくにとっては、頭では渡辺が報道現場で仕事をしていたカメラマンだったということはわかっていたが、こうして、故人の「同業者」たちを目の当たりにすると、彼らに独特の雰囲気が渡辺にもあったのだろうかと不思議な気がした。

 報道現場でしのぎを削るカメラマンの仕事をしながら、自分の「作品」として、『Hot Dog』のような写真集を作ることに情熱を傾けていた渡辺克巳とは、いったいどんな写真家だったのか。あらためて疑問が沸いた。

 出版ジャーナリズムの世界で活躍するカメラマンたちは、フォトジャーナリズムを志すタイプか、職人として腕の冴えを見せるタイプに大別できるように思う。

 しかし、渡辺克巳の写真は、フォトジャーナリズムがめざす「訴求力の強さ」とは別の味わいを持っていたと思うし、「職人」に徹した写真もあったには違いないが、そこからハミ出していく部分が多かったのではないかと思う。

 そうでなければ、『Hot Dog』のような特異な写真集はできないだろう。

 「偲ぶ会」で披露された渡辺克巳についてのエピソードは、仲間や後輩たちから愛された仕事人としての渡辺克巳の姿を語ったものだった。むろん、これは一人の人間としての渡辺克巳を偲ぶ会なのだから、それで不足があるはずもない。被写体となった歌舞伎町の面々がかけつけ、愛情を込めて故人について語ったことも印象深かった。新宿を愛し、新宿の住人たちに愛された写真家、渡辺克巳。これもひとつの、渡辺克巳の真の姿だろう。彼らは「ナベさん」と遺影に語りかけていた。

 しかし、ぼくのなかで、写真家・渡辺克巳の謎は解けていない。いや、むしろ、謎は深まったといえるだろう。

 渡辺克巳が終生、魅入られたようにどっぷりと浸かっていた「写真」とは何だったのか? 彼にとって、写真はなぜかくも魅惑的だったのか。そして、なぜ、被写体は新宿でなければならなかったのか。なぜ、作品をまとめることに執着心を持ち続けることが出来たのだろう?

 もう、直接、本人に聞くことはかなわない。

 渡辺克巳とは何者だったのか? 故人と一面識も無い、ただの「ファン」がこのようなことを書くことは僭越だとは思いつつも、渡辺克巳という写真家の全体像に迫りたいという欲求が抑えきれない。自分の力でどこまでできるかわからないが、一人の写真家に近づくための旅を始めたいと思っている。

渡辺克巳さんを偲ぶ会
日時:平成18年4月9日(日)午後1時〜3時
会場:主婦会館「スイセンの間」千代田区六番町十五・JR四谷駅麹町口正面
発起人:桑原史成、勝尾聡、菊池信夫、酒井猛、鈴木伸男、鈴木重造、武居大三、田邊順一

Hot dog
渡辺 克巳著
ワイズ出版 (2001.11)
通常2-3日以内に発送します。


★関連記事↓
追悼 写真家・渡辺克巳(裏の裏は、表…に出せない!)
*記事の末尾に「偲ぶ会」についても言及あり

scanners_photo
Comments(0) TrackBack(0) 写真家・渡辺克巳 | 

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字