2004年11月29日22:14

マルコス・ツィーマーマン写真展[「NORTE ARGENTINO」−アルゼンチン北部・大地と人々−(写大ギャラリー)

マルコス・ツィマーマン
 アルゼンチンといえば、地球の裏側である。当然のことながら、なじみは薄い。『母を訪ねて三千里』は、たしかイタリアから出かせぎに出た母を追って少年マルコがアルゼンチンに渡る話ではなかったか。あとはアルゼンチン・タンゴ、そして映画『ブエノスアイレス』。いずれにせよ、遠い国である。

 アルゼンチンの写真家、マルコス・ツィーマーマン(Marcos Zimmermann)の写真展を見に行った。モノクロプリントの美しさにまず息を飲む。被写体は、アルゼンチン北部の風景と人物。土着的な風景と人物の砂粒一つ、しわ一つまで6×7カメラでくっきりと写した写真群である。

 写真のなかの世界の土ぼこりの匂いや、陽だまりの温かさをまざまざと感じるような錯覚を覚える。その国を知らないのに、それまでの経験を総動員した想像をうながす。それだけイメージが喚起する力があるのだ。

 ギャラリー・トークでマルコス・ツィーマーマン氏の話を聞くことができた。氏は映画学校を卒業後、映画のスチルカメラマンを経てローマに住む。そこで写真を学びなおし、写真家として再出発する。ローマ当時の作品は35ミリカメラによるスナップとポートレート。スライドで見せてもらったモノクロ作品は、のちの氏の作品につながる美意識がはっきりと感じられる。やがてブエノスアイレスに戻った氏は、広告カメラマンとして活動をはじめる。

 広告の仕事は氏にとって高度な撮影技術を身に付けるきかっけになり、得るものは大きかったというが、仕事で訪れたパタゴニア(アルゼンチン南部の大平原)の風景に魅せられ、ライフワークとして撮影を始める。その成果は『パタゴニア 風の大地 Patagonia - Un Lugar En El Viento 』(November 1991)という写真集として発表された。

 次なる被写体として選んだのがブエノスアイレスにも流れているラプラタ川。銀を求めて河を遡った入植者たちの夢のあと(結局、銀は出なかったのだという)をテーマにした写真集『ラプラタ川 夢の川 Rio de La Plata, Rio de Los Sue~nos: Imagenes E Historias del Rio de La Plata y Alrededores 』(December 1994)。

 そして、三部作の最後を飾るのが、今回写大ギャラリーで展示されている『アルゼンチン北部・大地と人々 Norte Argentino: La Tierra y La Sangre』(January 1999)である。ペルー、ボリビアの文化とミックスしながら独自の文化を作り上げていった北部の人々の生活がテーマとなっている。

 以上3部作を12年かけて撮影し、発表していったという。アルゼンチンという国はそのアイデンティティが揺らいでいる国だという。ヨーロッパと南米土着の文化が交じり合い、経済の乱降下に人々の生活は落ち着かない。そんななかで、アルゼンチンという国を風土と人から掘り下げようとしたのが、氏の仕事だった。実際、写真からもその粘り強い制作姿勢がうかがえる。堂々たる作品である。

 ツィーマーマン氏は言う。「アルゼンチン北部の過酷な環境の中で、貧しさのなかでも高貴さを失わない人々を撮影したい」と。都会からやってきた富裕な写真家が貧しい人々を撮影することに対して複雑な気持ちを抱きながらも、撮影することによって彼らの生活の実態と誇りを表現しようとする姿勢には共感できる。

 その土地と人々の生活について調べ、撮影し、さらに知ろうとする連続が、これらの力強い写真を作った。そして、ギャラリー・トーク中に北部の人々のあいだでポピュラーなダンス「チャマメ」を理解してもらうために、即興で通訳の女性と踊ってみせる写真家のフットワークの軽さが印象的だった。粘り強さと動きの良さが、これらの作品を作り出したのだろう。

写大ギャラリー
2004年11月24日(水)〜12月19日(日) 10:00〜20:00
期間中無休 入場無料
モノクローム 約50点

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