血液悪性腫瘍患者に対するインフルエンザワクチンの効果

倉井です
そろそろインフルエンザワクチン接種を開始した施設が多いと思います
免疫不全の患者に対するインフルエンザワクチンの効果
1回うちか2回うちどちらがいかなど質問を受ける機会も多いと思います
血液悪性腫瘍患者にワクチン接種を行った研究が出ていたのでまとめてみました

Hugues de Lavallade
Repeated vaccination is required to optimize seroprotection against H1N1 in the immunocompromised host
Haematologica 2011:96(2) 307-

背景
2009年のインフルエンザ流行により免疫不全者へのワクチン接種キャンペーンが行われた
今回の研究の目的は、血液悪性腫瘍患者の2009H1N1ワクチンの効果を明らかにすることである

研究デザインと方法
97人の成人の血液悪性腫瘍患者に2009H1N1ワクチンを接種し、液性と細胞性免疫反応を測定し25人の対照群と比較した
21日をおいて2回の接種を行った
抗体価は初回の接種からday0,21,49日目にHI法で測定した。細胞性免疫反応はday0と49に測定した

結果
接種後21日目までに防御抗体レベルである1:32以上となった患者はコントロール群100%、B-cell悪性腫瘍患者で39%(P<0.001),同種骨髄移植患者で46%(p<0.001),慢性骨髄性白血病で85%(P=0.086)であった。
2回目の接種後ではB-cell悪性腫瘍患者で68%(P=0.008),同種骨髄移植患者で73%(p=0.031),慢性骨髄性白血病で95%(P=0.5)であった。一方でT細胞の反応は対照群と比較し差はなかった

結論
血液悪性腫瘍患者では2回接種が推奨される。

末梢静脈カテーテル関連血流感染症でカテーテルのグラム染色は役に立つか?

 末梢静脈カテーテル関連血流感染を疑った際、末梢ラインのグラム染色を行ったことはあるでしょうか?

グラム染色を行うことで、早期に菌の推定が可能となるかもしれません。
末梢ライン感染におけるカテーテルのグラム染色の有用性について述べた論文です

Aygun G, Yasar H, Yilmaz M, Karasahin K, Dikmen Y, Polat E, Sidan A, Altas K.

The value of Gram staining of catheter segments for rapid detection of peripheral

venous catheter infections.

Diagn Microbiol Infect Dis. 2006 Mar;54(3):165-7.

 

末梢静脈カテーテルの感染率は低いが、使用する患者数は多い

抜去された全ての末梢静脈を前向きに200111月から2002年4月まで調査した

抜去後、末梢カテーテル(PVC)の先端を切り、検査室に送付

カテーテルはチョコレート寒天培地で半定量(roll plate)と定量(1mlでフラッシュ)培養とグラム染色を行った

131人、147PVCが対象となった

定量培養で14(9.5%)PVCが陽性。内訳はCNS 6, Acinetobacter baumannii 2, 緑膿菌、MRSA,Klebsiella pnemoniae, Enterococcus polymicrobial

グラム染色の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は100%, 95.4%, 70%, 100%

末梢カテーテル関連血流感染症を疑った場合、グラム染色は最も早く菌の同定ができる信頼性の高い手段であるといえる。

腫瘍熱のまとめ

【はじめに】

 悪性腫瘍により惹起される発熱を腫瘍熱とよびます。がん診療において腫瘍熱と思われる発熱をみることは珍しくありません。今回は腫瘍熱の特徴、腫瘍熱と診断するためのプロセスとマネジメントについて解説します。

 

 

CQ1)腫瘍熱のメカニズムについて分かっていることを教えてください

 腫瘍熱が発生するメカニズムははっきりと分かっていませんが、宿主マクロファージまたは腫瘍そのものより産生されるTumor necrosis factor(TNF), Interleukin(IL)-1, -6, interferon(INF) などがプロスタグランジン(PG)を誘導し、視床下部に作用し体温のセットポイントを上昇させると考えられています。(1)

 

CQ2)腫瘍熱はどのがんで起こりやすいのですか?またその頻度についておしえてください

 ホジキンリンパ腫、白血病などの血液悪性腫瘍、腎細胞癌、副腎腫瘍、骨肉腫、心房粘液腫,大腸癌、肝細胞癌、すい臓がんなどが発熱しやすいがんとして知られています。ただその他の腫瘍においても転移巣がある場合(特に肝転移)や進行期においては発熱を伴うことがあります。つまり腫瘍熱はほとんどのすべての腫瘍で鑑別に上がります。(2)

 がん患者は様々な原因で発熱します。(図1)最も多い原因は感染症であり60%程度と報告されています。残りの40%を非感染性の原因が占めます。(3)

 非感染性の発熱を原因別に見ると、27%が腫瘍性、18%が薬剤性、原因不明が30%でした。つまり悪性腫瘍患者の発熱のうち真の腫瘍熱は10%程度ということが分かります。(4)また古典的不明熱の中の腫瘍熱の頻度は17%程度という報告があります。(5)

 

注:図1をこの周囲にいれてください。

 

CQ3)典型的な腫瘍熱とはどのような特徴を持つのでしょうか?

腫瘍が大きかったり、他臓器に浸潤していたり、壊死を伴う場合に見られます。体温の高さ(腫瘍熱でも40℃近く出ることもあります)や熱型から感染性の発熱と区別するのは困難です。ただし40℃を超えるような発熱でも患者さんの状態は比較的よく、頻脈や意識レベルの変化を伴うことは稀です。悪寒や戦慄を伴うことも少なく、たまたま体温を測ったら熱があり、思った以上に高くてびっくりしたというのが腫瘍熱の典型像です。熱感や寝汗・発汗はよく見られる症状です。手術や化学療法でがん自体のボリュームが減少すれば解熱するのが通常ですが、時に腫瘍量が減少した後も数ヶ月は熱が続くこともあるとされます。(2)

 

CQ4) CRPや赤沈は腫瘍熱と感染症による発熱の鑑別に使えるのでしょうか?CRPが高いと感染症という印象がありますが。

小規模ですが56例の感染症症例と10例の腫瘍熱の症例でCRPと赤沈を比較した研究があります。その結果はCRPや血沈は腫瘍熱と感染の鑑別には使えないという結論でした。(6

 

CQ5)腫瘍熱とどうやって診断したらいいのでしょうか?診断の流れを教えて下さい。

Chang らは以下の基準を満たす症例を腫瘍熱と定義しています。(7)

1.     1137.8℃以上の熱が出る

2.     2週間以上続く

3.     身体所見や各種培養検査や画像検査で感染が否定されている

4.     薬剤熱や輸血による反応が否定されている

5.     適切な抗菌薬を7日以上使用しても改善しない

6.     ナプロキセンにより解熱している

 

 

 これらをみてわかるようにまずは感染症の除外が重要です。

 

CQ6)がん患者ではどんな感染症が多いのでしょうか?どのように感染症のフォーカス(感染臓器)をつめればいいのでしょうか?

 がん患者において感染症のフォーカスを詰めるポイントは3つあります。

1.頻度の高い感染症を知り、見逃さないような診察を行う

2.がんの存在部位、デバイス挿入部位は感染を起こしやすい

3.好中球減少時、ステロイドや鎮痛薬使用時は所見が出にくいため、より注意深い診察が必要

 

表1にがん患者で起こりやすい感染症をまとめました。血液悪性腫瘍、固形がん患者いずれも肺炎、尿路感染症、血流感染症、皮膚軟部(創部)感染症で9割を占めます。患者をみた場合にはまず少なくとも頻度の高い上記4つがないかは確実に除外します。尿路感染や血流感染症は問診や身体所見では診断が付きにくいため、血液培養や尿培養が手がかりとなります。

 

がんのある部位は管腔の閉塞など解剖学的異常が生じるため感染を起こしやすくなります。例えば気管の閉塞→無気肺、尿管の閉塞→水腎症、胆道の閉塞→胆管炎などが挙がります。またデバイスが挿入されている場合、同部位に関連した感染症を起こしやすくなります。例えば中心静脈ライン→血流感染、尿道カテーテル→尿路感染、脳室シャント→脳室炎などが挙がります。構造異常がある部位には感染症が起こりやすいため、注意して診察を行います。

また好中球減少時、ステロイド使用例、麻薬などの鎮痛薬使用例では自覚症状や他覚所見が乏しいことがあり注意が必要です。特に好中球減少時では好中球の反応が乏しいため、髄膜炎や腎盂腎炎でも髄液中の細胞数や尿中の白血球は当てに出来ません。肺炎でも膿性痰や胸部X線異常が出にくいことが知られています。微細な症状・所見を軽視しないことが重要です。

 

CQ7)ナプロキセン(ナイキサン)テストとはどういうものでしょうか?

 1984Changらは腫瘍熱が強く疑われる患者でナプロキセン投与による解熱効果を検証しました。身体診察や検査から感染症の存在を除外した上でナプロキセンを1250mg 12回投与を行いました。腫瘍熱の患者では15人中14人がナプロキセンに反応し12時間以内に解熱したのに比べ、感染症の患者5例はいずれも反応はなく、膠原病の患者2例はpartial responseを認めました。(9)

 その後Changらは研究を続け、50例の腫瘍熱のうち46例が完全解熱したのに比べ、感染症症例13例と膠原病4例では完全解熱例がなく、ナプロキセンテストの感度92%,特異度100%と発表しています。(10)

Changらは診察や検査、エンピリックな抗菌薬投与などで腫瘍熱の可能性が非常に高い症例に対しナプロキセンテストを試みています。事前確率の高い症例においてこのテストは有効であるといえます。

不明熱の鑑別にナプロキセンテストが使えるかを試みた研究があります。事前の感染症除外診断を行わず、2週間続くがん患者の発熱にナプロキセンテストを始めとするNSAID(インドメタシン、イブプロフェン)投与を行いました。結果、真の腫瘍熱患者でナプロキセンが著効したのは55%(6/11)、感染症と膠原病など非腫瘍熱患者の奏効率38%(25/66)と両者で有意差はありませんでした。事前に除外診断が十分行われていない患者にナプロキセンテストを行ない、腫瘍熱か否か判断しようとしても失敗するということがわかります。(11)

 

CQ8)解熱したらナプロキセン(ナイキサン)は中止できますか?中止後熱はでませんか?

 ナプロキセンテストに反応した症例を3-7日にナプロキセンを中止したところ、24時間以内に3/4が再度発熱したと報告があります。(10

 

CQ9)ナプロキセン(ナイキサン)以外の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やステロイドは効果がありますか?

 十分なデータは揃っていません。アセトアミノフェンやアスピリンは効果が弱いことはわかっています。

症例が48例と少ないですがナプロキセン500mg/dayとインドメタシン 75mg/dayとジクロフェナクナトリウム75mg/dayのランダム化比較試験があります。3薬剤とも同等の解熱効果が得られましたが、ナプロキセンは他の2剤に比べ解熱までの時間が早かったことが報告されています。(12

ステロイドについては熱の原因が感染症でも腫瘍熱でも解熱するため、腫瘍熱の鑑別には不向きです。またステロイド(ヒドロコルチゾン100mg/day かそれ以上の投与量)とナプロキセンの比較試験では、ナプロキセン投与群で90%が解熱したのに比べ、ステロイド群では完全解熱が見られたのは50%にとどまりました。(13)

 

【おわりに】

 

【参考文献】

(1) 吉川哲矢、関正康、松島雅人:腫瘍熱. 治療92(8): 1977-1981. 2010

(2) Johnson M.  Neoplastic fever : Palliat Med. Jul; 10(3):217-24.1996

(3) Chang JC. Neoplastic fever. A proposal for diagnosis.: Arch Intern Med. Aug;149(8):1728-30.1989

(4) Toussaint E, Bahel-Ball E, Vekemans M,et al.  Causes of fever in cancer

patients  (prospective study over 477 episodes). Support Care Cancer. Jul; 14(7):763-9.2006

(5) Mourad O, Palda V, Detsky AS. A comprehensive evidence-based

approach to fever of unknown origin. Arch Intern Med.  Mar 10; 163(5):545-51.2003

(6) Kallio R, Bloigu A, Surcel HM. C-reactive protein and erythrocyte

sedimentation rate in differential diagnosis between infections and neoplasticfever in patients with solid tumours and lymphomas.

Support Care Cancer. Mar;9(2):124-8.2001

(7)Zell JA, Chang JC. Neoplastic fever: a neglected paraneoplastic syndrome.

Support Care Cancer. Nov;13(11):870-7. Epub 2005 Apr 29.2005

(8) Yadegarynia D, Tarrand J, Raad I, Rolston K. Current spectrum of bacterial infections in patients with cancer. Clin Infect Dis. Oct 15;37(8): 1144-5.2003

(9) Chang JC, Gross HM. Utility of naproxen in the differential diagnosis of

fever of undetermined origin in patients with cancer. Am J Med. Apr;76(4):

597-603.1984

(10) Chang JC. How to differentiate neoplastic fever from infectious fever in

patients with cancer: usefulness of the naproxen test.

Heart Lung. Mar;16(2):122-7.1987

(11) Vanderschueren S, Knockaert DC, Peetermans WE, et.al.Lack of value of the naproxen test in the differential diagnosis of prolonged febrile illnesses.Am J Med. Nov;115(7):572-5.2003

(12) Tsavaris N, Zinelis A, Karabelis A, et.al. A randomized trial of the effect

of three non-steroidanti-inflammatory agents in ameliorating cancer-induced

fever. J Intern Med. Nov;228(5):451-5.1990

(13) Chang JC. Antipyretic effect of naproxen and corticosteroids on

neoplastic fever. J Pain Symptom Manage. Summer;3(3):141-4.
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