丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中の「杉本博司 アートの起源」。昨年11月より「科学」「建築」「歴史」といったサブテーマで一作家の個展を継続するという画期的なプロジェクトが進行中なわけですが、現在その最終章「宗教」がスタートしています。会期終了は11月6日(日)。

この丸亀という街。骨付き鳥の「一鶴」本店があったり、郊外に本場さぬきうどんの名店が散在していたりしますが、正直なところ谷口吉生の名建築である猪熊弦一郎現代美術館以外には魅力に乏しく宿泊施設も少ない。

そこで今回の1泊2日の小旅行では、前日に岡山に宿泊し、翌日丸亀日帰りで横浜に帰ってくるという旅程を組んでみました。丸亀は四国ですが、瀬戸大橋のおかげで岡山からのアクセスはすこぶるよいのです。(特急で40分程)

1日目
午後ゆっくり岡山に到着。初めて歩く街なので駅前から、中心街のアーケード、路地裏の怪しげな飲み屋街など徘徊。自家焙煎の古ぼけた喫茶店などでゆったり。

この日の夕食は、比較的岡山駅に近い日本料理店「藤ひろ」で。この店、以前は「佐久良屋」という屋号の居酒屋さんを併設していたそうで、太田和彦の居酒屋紀行でも紹介されている。玄関すぐの美しい木のカウンター席に。居酒屋派の私にはちょっと敷居が高い感じだが、岡山の地モノにこだわったお任せの料理をお願いし、岡山の地酒の徳利を備前焼のぐい飲みで重ねるうちにすっかり気持ちもほぐれ、至福の酔い心地。

瀬戸内の魚のお造りでは、やはりさっと焙った鰆(さわら)であろうか。私は春が旬の魚なのかなと勘違いしていたのだが、実はこれから冬に向けて脂がのって旨みが俄然まして行くのだそうだ。この日いただいたものも十分おいしく、寒い時期に再訪したいとつくづく思う。また鱧(はも)の生刺し・卵の塩辛・骨せんべいと、鱧の上品さを堪能。ゲタ(舌平目)の煮付けにはなんとモロヘイヤが添えられ、聞けばマスターが自家菜園で作るさまざまな野菜が「藤ひろ」の卓を彩っているのだとか。

ままかりももちろん供された。しかしそれはままかり寿司とかの酢〆した小魚の印象しかもたなかった私には驚きの料理。黒く焦げるほどに焼いたままかり(さっぱという小魚)が酢に漬けられている。なんとも素朴な滋味。マスターが試みにはじめたという自家製チーズは、さっぱりした酸味とほろりとした口どけで実に日本酒に合うのである。お料理の締めには黄ニラと卵のお吸い物。岡山は黄ニラの生産日本一で、関東などでは高級食材である黄ニラが、家庭料理で普通に出回っているそうだ。とても上品な風味でした。

三種いただいた純米酒も蔵ごとに個性豊かで、おだやかで米のふくらみを生かしたのが岡山の酒の持ち味なのかなと。




帰りしな、玄関の鉄製の鬼に気がついた。純度100%に近い鉄だそうで、持たせていただいてみると小さいのに凄い重さ。「藤ひろ」もこの鬼同様、ずっしりした手ごたえのある名店。なにより温かく軽やかな接客のもてなしが、一人旅の身にはうれしかった。岡山で飲むならば絶対のお勧めです。

このあと、JAZZ喫茶としてスタートしながら、いまやオールジャンルの音楽と酒を愉しむバーとなっているという「COMMAND」に。マスターと二人、レコードを次々に聴きまくること5時間半!気がつけば深夜2時になっていました。
エリントン、ボサノバ、サム・テイラー、ハワイアン、ストラヴィンスキー、スーダン音楽・・・
私のJAZZ喫茶遍歴のなかでも、マスターの音楽知識の奥深さ・話題のぶっ飛び方において空前絶後の体験でした。




2日目



さて旅の本題である丸亀へ向かいます。丸亀駅の目の前にある猪熊弦一郎現代美術館を横目に、まずはタクシーで1000円ちょっとの距離の街道沿いにあるうどん屋「おか泉」へ。名物「冷天おろし」をいただきます。平日11時台にしてすでに店内は満員。昼時はかなりの行列必至の店。

ぶっかけうどんの上に、たっぷりの大根おろしと巨大な海老天2尾・野菜天がそそり立っております。(画像の帽子と見比べてください)本場のさぬきうどんのコシの強さはほんとに異文化体験です。もはや噛んで咀嚼できない。飲み込んでそののど越しを味わう領域なのです。




さぬきうどんに満足し、美術館に取って返し展覧会を鑑賞。この感想は別エントリにゆずります。この美術館では鑑賞の合間に是非カフェでゆっくり過ごされる事をおすすめします。ハンス・ウェグナーのYチェアーをはじめとして、名作家具が客席を彩り、屋上庭園に面した窓からは明るい光が差し込むゆったりしたスペースです。私は今回はどっかりとイサム・ノグチのソファーに腰掛けてコーヒーを愉しみました。





旅のメモ
藤ひろ 岡山市北区野田屋町1-8-20 TEL 086-223-5308
おか泉 香川県綾歌郡宇多津町浜八番丁129-10  TEL 0877-49-4422

アートの起源展に行くなら、直島や豊島・犬島あるいは倉敷の大原美術館などとからめるのもよいでしょうが、旅めし的には岡山寄りみちプラン、お勧めのひとつです。