横浜の黄金町エリアのアートスポットとして異彩を放ってきた竜宮美術旅館が、地区の再開発のためまもなく解体されることになる。黄金町バザールをはじめ、数回のアートプロジェクトの折に訪れてきたが現在開催中の「RYUGU IS OVER!!」がまさに最後の企画展。戦後まもなく建築され、増改築を重ね変遷してきたこの建物。初めて訪れた時にはそのキッチュでいかがわしい空間のチカラに圧倒されてしまい、展示されたアート作品がなんとも脆弱に思えたものだ。その後展示も回を重ね、この空間を生かした作家の仕事も感じられるようになり、またカフェスペースの居心地のよさにも馴染んできた。





最後の企画展の参加作家は全14組。玄関のガラス戸や取っ手からすでに作品が仕込まれている。カフェにあったカウンターは取っ払われ、壁面には淺井裕介がコーヒーで描いたペインティングが。そのほか建物のいたるところに作品が仕掛けられているのだが、作品が空間の異形に負けてしまうこともなく、アートが突出しすぎることも無く、なんだかちょうどいい湯加減なのである。たとえば温かいコタツに入って眺める武田陽介のブライトな写真とか。

今回一番気になったのは、雑然とした物置部屋で上映されていた丹羽良徳のヴィデオ作品。「自分の所有物を街で購入する」というタイトルの通り、駅ホームのキオスクで購入した雑誌をそのまま手に持ち書店に入り込み、レジでさっき買った自分の雑誌を提示しまた代金を支払い、そのあとまた別の書店に移動して同様に自分の「所有物」を購入するという行動を淡々と記録する映像だ。尺が長くてちょっと冗長なところもあるが、このナンセンスな行為につき合わされているうちになんとも不可解な気分にとらわれてきた。自分の「所有物」を買うことにより、本来新しく購入されたはずの商品の代価はどこに消えていくのだろうか。新しい商品が不在なのに貨幣のみが支払われ、見せかけ上は商品と貨幣の交換が行われる。一見日常的な何気ない行為の中に、ルールの脱臼が仕掛けられ、それが玉突きのように連鎖していく。






帰りにグッズ売り場で竜宮美術旅館のペーパークラフトを手に入れた。この異形の建物が束の間、アートと共存し姿を消していく。ぬるい空気の展示がそこはかとなく「日常」のもろさを思わせ、祝祭的であることよりもひとつの時代の終わりを印象づける。そんな竜宮の最後だった。






※会期は3月18日(日)まで。開館は月・金・土・日なのでご注意を。