毎年恒例、今年一年の美術鑑賞振り返りであるけれど、家人の病気・介護などで外出の機会の制限された今年は、例年のように美術展に通うことがままならなかった。それでも鑑賞することのできた中から、いくつかのお気に入りを取り上げてみよう。Twitterとこのブログからの引用で構成してみる。




☆☆☆ダレン・アーモンド 追考(水戸芸術館現代美術ギャラリー)

  • ダレン・アーモンド、炭坑町出身だと知り見逃せない思いつのり、水戸芸術館に遠征することに。高嶺格以来、1年ぶりの水戸に向かう。

    ダレン・アーモンド展、映像インスタレーションとしての手応え堪能。マルチ画面を駆使して明晰な夢を見せられるような感覚。比叡山・インドなど西洋的知のフィルターを通した東洋の映像に、ケン・ウィルバーを想起。水戸芸来てよかった。明日最終日。

    水戸芸で観た「ダレン・アーモンド 追考」を反芻していて、「時間」というテーマに行き当たる。デジタル時計、数字のドローイング、映像作品におけるパラレルな時間と円環する時間。夜明け時の光をとらえた写真にも、時間を切り取る明確な意志がある。

    ダレン・アーモンドが月明かりや明け方の光景を写真で捉えるのは、それらが夜とも朝ともつかない不分明な光を見せるからであろう。その視線は単線的に割り切れない「時間」の不分明さの考察につながっている。

    『ダレン・アーモンド 追考」展の図録がようやく届いた。映像インスタレーションの構造を本というメディアに置換した6分冊は、ブックアートというべき斬新な造本による編集。6300円という高値だけのことはある。



☆☆☆佐藤時啓 光―呼吸 そこにいる、そこにいない(東京都写真美術館)

太陽光を手鏡で反射させたり、ペンライトが放つ光の軌跡を、長時間露光の大判カメラのフィルムに定着させ、その場所の風景が変容するさまを美しく写真で表現する作家、佐藤時啓(ときひろ)の個展が、東京都写真美術館で行われている。都内で彼の作品をまとめて観ることのできる充実した展示であった。

佐藤時啓の写真に私が感じるもの。それは大きくは以下の3点に集約される。

光によるランドアート・アースワークとしての試み。
クールな美しさと、うちに潜む倒錯性。
写真が「記録」のメディアとして機能すること。


  • 佐藤時啓@写美。画面に現れる幻想的美しさと、その制作過程に潜む滑稽ですらある行為。単に現実を写すのではなく、現実を変容させる倒錯性に、トーマス・デマンド等のドイツ現代写真に通じるものを感じる。彼もまた、クールな変態。



☆☆萩原義弘「SNOWY the frosty hour」(ギャラリー冬青)

炭鉱・鉱山跡の写真を撮り続けている写真家、萩原義弘さんの個展が始まった。今回は雪に埋もれた廃坑をテーマにした「SNOWY」シリーズの展示。写真集「SNOWY the frosty hour」の出版記念の写真展である。雪の白、白い日差し、月明かり、光る星、炭坑・鉱山遺構のグレートーン。モノクロームの画面には朽ちていく人工物の時間の堆積と、自然の見せる移ろいゆく時間が重層している。クローズアップで切り取られた抽象的な作品から、廃坑の構造物を俯瞰した構築的な作品まで。静かな世界だが、雪のふっくらしたフォルムが何か生命のような魂のようなものの存在を感じさせる。

萩原氏の言葉に「炭鉱や鉱山跡を廃墟だとは思っていない。人々が去り、たとえ朽ち果てようとしていても、そこには人々の存在が残っていると思う」とあるが、雪という事象を介在させることによりここには「廃墟」とか「産業遺産」といった言葉では表現できない、深い作家のまなざしが浮かび上がっている。



☆☆風間サチコ「プチブル」(無人島プロダクション) 

  • 風間サチコ「プチブル」@無人島プロダクションは19日(日)まで。会期中無休。バブル時代のくすぶりが残る頃の初期作品が、現在の状況を照射し刺激的。配布レジュメは必読の怪文&図解。

    昨日の無人島プロダクションの風間サチコさんのトーク、ディープで黒くてあっという間の2時間だった。アナーキズム・ニーチェ・植民地・縄文・進撃の巨人批判・現首相への呪詛…新年早々、濃い言霊に溢れた。



横浜トリエンナーレ2014(横浜美術館・新港ピア)

  • 横浜トリエンナーレ2014、ようやく行けた。アートフェスでは無く森村泰昌企画のテーマ展の味わい濃厚。森村自身による音声ガイドは必須と思うが、あまりに整然とした解釈には窮屈さも感じてしまう。

    横浜トリエンナーレ2014の異色のコーナー、釜ヶ崎芸術大学。興味深いのだが森村泰昌の資質とは相容れない感も。まるで太田和彦が吉田類の飲んでる店に行ってしまったかのような。森村はレーニンに扮して釜ヶ崎で作品も作っているが、どこかそぐわない印象を持つ。

    原美術館コレクション展。やなぎみわはヴィデオ作品「砂女」。私のブログの最初のエントリの個展で観て以来の再会。横トリでデコトラ舞台車のトランスフォームを観たばかりだけに彼女のこの10年の軌跡が感慨深い。自分のブログの振れ幅の小ささが情けなくもなった





そして、今年の美術界で私にとって最大の出来事は、赤瀬川原平さんの死去にほかならない。千葉市美術館の「芸術原論展」には残念ながら行けなかったが、友人に頼んで図録は手に入れ、来年の巡回先の広島市現代美術館あたりで鑑賞できればなあと願っている。

このブログでも原平さんへの追悼の記事を重ねたが、今あらためて様々な著作を読み返してみて「芸術原論展」で原平さんを回顧してみたいと思う。