中年とオブジェ

美術館・街で見かけたオブジェ 旅先で手に入れたオブジェ オブジェの視点で世の中を楽しむ中年の日常。

丹沢

隠れ家現代建築 丹沢ホーム




丹沢の山中にある国民宿舎丹沢ホームを今夏再訪した。京都駅ビル・札幌ドームなどを手がけた原広司による設計。建築的な側面については以前こんな記事を書いた。→原広司の丹沢ホーム







食堂の横の谷のような大階段がなんと言ってもインパクトがあるのだが、今回はこの大階段を上った裏手にある別棟に宿泊したため、デザインばかりでなく動線としての機能にも優れていることに気づかされた。また渓流側にある玄関口から、この階段を吹き抜ける川風の心地よいこと。

夜は夕食後、食堂のテーブルに陣取り持ち込んだチーズなどつまみにワインをオーダーしたのだが、なんと立派なワインクーラーで供され驚いた。山の宿の洒落た計らいに、そうか、ここは宿舎オーナーの住まう巨大な山荘に招かれたようなものなのだなと思い腑に落ちた。オーナー家族の居住スペースも、食堂の先のコーナーにレイアウトされているし、客の入浴が住んだあとに従業員も入浴。モダンで斬新な建築でありながら、デザイナーズホテルなどとは対極ともいえるこの居心地の良さは、民営国民宿舎であるこの山荘のオーナーが、自分自身の生活を愉しむ延長線上にゲストとして招かれている楽しさに負うところが大きいのである。

静かな山の夜が更けていった。



古民家 岸邸

岸邸宮ヶ瀬から厚木への帰り道の途中に、厚木市指定有形文化財の古民家があると知り、寄ってみた。豪壮な門構えのなかに、どっしりした木造2階の母屋と土蔵。屋根は瓦が重々しい寄棟造だ。

かつての庄屋の屋敷だったという岸邸は、柱が太く、重厚な、力強い建築。室内に入ると、欄間などの細かい細工に目を奪われる。階段を登って2階に上がって驚いた。西側の窓は、真っ赤なガラスがはめ込まれた、美しい市松模様のデザイン。創建当初からの意匠だそうだが、和の空間にモダンなテイスト。鈴木清順の映画にでも出てきそうだ。レトロな洋室も風情がある。

明治24年に建築されたという岸邸には、北側の部屋には天窓も造られ、その合理性・機能性も先進的だ。生活にもモダンなものを取り入れていたようで、当時使われていたオーブンやタルト型、挽肉器などが展示されていた。見学無料、他に見学者も無く、ひっそり佇む隠れた名建築だ。

身近な丹沢周辺に、建築・食の魅力的なスポットを再発見した今回の小旅行。神奈川も捨てたもんじゃないと楽しんだ2日間だった。

外観2外観1装飾彫






天窓階段洋室






古民家岸邸

田舎町の絶品ランチ あん梅

あん梅あん梅店内白和え






焼魚野菜サラダ出汁巻き玉子






宮ヶ瀬ダムを後にし、近くの半原のひなびた市街へ。これもネットで気になった店、「あん梅」を探す。近くで店に電話を入れようやく見つかった。駐車場に車を停め向かった店は、どう見てもたんなる平屋の民家。

くたびれた鄙家に上がると、座敷にテーブルが並び、壁には品書きがズラリ。名物だという鰻重でもと思っていたのだが、ウナギは昨日売り切れてしまったそうで、お盆休みのため仕入れが無い。そこでおまかせの2000円のコースを頼んだ。

つぎつぎに出される料理のレベルの高さは、失礼ながら予想外の驚き。カンパチの幼魚「しょっこ」のお造り、出汁の澄んだ鶏と豆腐の紙鍋、上品な白和え、木の芽味噌をあしらった焼魚。自家農園で作った野菜サラダはバルサミコの旨み。締めの出汁巻き玉子で完全にフォールをとられた。地元の菓子屋の和菓子もつき、大満足。この値段で、これほどの内容とは凄い。

しかし、この店の真価は夜のアラカルト料理でこそ発揮されるようだ。経木に書かれたお品書きをちらちら見てみたのだが、朝びき鶏の料理各種、相模湾の鮮魚、自家製大根とアワビの煮物、ボタン海老のこのわた和えなどなど、酒を飲みながら楽しんでみたい魅惑の料理が並んでいる。

あちこちで料理の修業をした息子さんとお母さんがやっている家族経営の店で、夜は予約を入れれば貸切で宴会ができるという。横浜あたりから、近くに宿をとって泊まりがけで飲みに来る常連もいるとか。

丹沢の田舎町にこれほどの料理屋があろうとは、ほんとに驚いた。これはメンツを集めて是非一席もうけてみたい。注文が入ってからさばくというウナギも食べてみたいなあ。酒には白焼きがいいかな。

こんな店との出会いが、まさに旅めしの楽しさである。

あん梅

巨大な宮ヶ瀬ダム

宮ヶ瀬ダム1平成13年に完成した宮ヶ瀬ダムは、高さ156メートル、最大幅400メートルの巨大構造物だ。ダムに沈んだ中津川の渓谷は、子供の頃遊びに来たり、学生の頃キャンプしたりした思い出の場所。水没区域からは281戸が移転したという。ダム前面の急斜面を上下するインクラインは、この日調整中で、残念ながら乗ることができなかった。かわりに、ダム内部を貫通するエレベーターで下まで降りて、巨大な全容を見上げた。このダムは大きさばかりでなく、その造形も量感にあふれ美しい。一度、放水しているところを見てみたいものだ。

宮ヶ瀬ダム2ダム階段インクライン






宮ヶ瀬ダムHP

丹沢天然ビヤガーデン

天然ビヤガーデン夕食ワインとチーズ






丹沢ホームにて。夕食前のひと時、渓流からの川風が心地よい玄関先に腰かけ、缶ビールを飲む。目の前には、夕暮れ時の木立の緑。最高の天然ビヤガーデンである。横浜から車でわずか1時間半で、こんな旨いビールが楽しめるのだから幸せだ。

宿の夕食も、予想以上に旨かった。決して豪華ではないけれど、上品で加減のよい味わいに満足。やはり、岩魚の塩焼きと山菜は山の夕食らしくていい。1泊2食6500円は安い!夕食は合鴨の陶板焼きも選べて、常連は赤ワインを飲みながら楽しむらしい。丹沢ホームにはビールのほかに赤ワイン・白ワインのボトルも用意されているのだ。

夕食後、風呂に入って、まだ暑い客室ではなく食堂で持参した赤ワインとチーズをちびちびと。酒はほんとは持ち込み料を取るのだが、おばちゃんが見逃してくれ、ワイングラスも貸してくれた。

この吹き抜けの食堂の空間は実に気持ちがよい。窓の外は夜の闇。団体客の子供たちも就寝し、山の中の静かな夜を愉しんだ。

原広司の丹沢ホーム

丹沢ホーム秦野から丹沢山中へと車を走らせる。久しぶりの大自然の緑が美しい。ヤビツ峠を越え、しばらく下っていった渓流沿いに、丹沢ホームはポツンと建っていた。

原広司設計のこの国民宿舎については、ネット上にも建築サイドからの情報がほとんど見つからなかった。果たして予算に制約があるだろう小さな建築に、原広司の設計力はいかに生かされているのだろうか。木漏れ日を受けた玄関を入ると、吹き抜けの明るく広々した食堂と、まるで京都駅ビルを思わせる大階段が目に飛び込んできた。これは想像以上に凄い。

京都駅ビルの竣工が1997年。丹沢ホームの竣工が1996年だから、この大階段のアイデアは、ほぼ同時期に規模をちがえて構想されたものなのだろう。列柱の並ぶ廊下は、宮城県図書館とデザインが共通している。この階段の分を客室にしたら倍の部屋が取れる。この宿舎の御主人も自らそう認めていた。それでも実現したこのスペースには、グランドピアノも置かれていて、結婚式などのイベントにも使われるのだという。

この日は丹沢山中とはいえ、ものすごい猛暑。水着に着替え宿舎の前の渓流で水を浴びた。川遊びなどするのは学生の時以来だ。真夏の渓流の水はきれいで冷たくて極楽気分。

外観大階段客室











食堂食堂俯瞰渓流






列柱大階段の花客室廊下






客室は大階段をあがって、空中回廊のように伸びる廊下に沿って並んでいる。食堂の吹き抜けの上部に斜めに高くなっていく空間に配されている。しかし、エアコンの無いこの宿舎、客室の暑さは半端ではなかった。建物全体の熱気が部屋に上がっていく上に、窓は茶室風に小さく風通しが悪い。さすがにデザイン優先の現代建築の弱点も思い知らされた。夜には川風で気温も下がり、何とか扇風機の涼で眠ることができたけれど。宿舎のおばちゃんも「うちは天然暖房だからね」とあまりの暑さにやけ気味に言っていた。実際、この暑さは問題で、竣工の後に屋根に散水装置を設置したほど。それでも今年の夏のような暑さには焼け石に水だ。

共同風呂は3人も入れば一杯の小さなもので、浴室と脱衣所の仕切りも無い最小限のスペース。洗面所もトイレも共用。テレビもないし携帯は圏外。アメニティーがどうのとのたまう客にはとてもお勧めできないが、丹沢の山中にこんな空間があろうとは楽しいではないか。この大階段を一番楽しんでいたのは子供たち。キリスト教の団体の子供たちが林間学校で宿泊していたのだが、大階段でわいわい遊んでいた。

山小屋としてはじまった丹沢ホームの歴史。2代目の宿舎を大学院生だった原広司に依頼したのが始まりで、今の3代目の建物に建替えたのだという。夏の暑さにはまいったが、新緑や紅葉の時季に訪れたら素晴らしい環境だろう。自然の中で現代建築。楽しい夏の休暇だった。

丹沢ホームHP

二宮の蕎麦屋 オリベ

オリベ今年の夏は旅には出る予定が無かったのだが、近場の丹沢に前から気になっている建築があった。原広司設計の国民宿舎、丹沢ホームだ。だめもとでお盆に入ってから電話してみると、なんと15日だけ空き部屋があるという。急遽、丹沢ホームへ1泊2日の小旅行となった。

丹沢とはいえ、旅のめしは1回たりとも妥協したくない。旅めし派のこだわりで、急いでめし情報をリサーチ。往きの昼食に選んだのは二宮の蕎麦屋オリベ。小田原厚木道路の二宮インターは百合が丘という住宅分譲地の中にあるのだが、その住宅街の1軒に店を構える、隠れ家のような店だった。

1階が店舗、2階が住居で、小さくこざっぱりした店内。窓辺に洒落た陶器が飾られている。厨房のカウンターには、なんと活き車エビが泳ぐ水槽が。冷やし鴨南蛮には、新鮮で旨みの濃い鴨肉がたっぷり。かき揚げ天せいろは、4種のそばから好きなそばを選べる。そばの実の芯のところを使ったという白いそばに柚子を練りこんだ「ゆずきり」を選んでみた。腰があり繊細な香りのする上品なそばだった。かき揚げには小エビ・タコ・三つ葉などが入っている。サツマイモ、茄子なども揚げられ、さくっと食感がいい。お値段も結構いいのだが、東京・横浜から車でそばを食いに来る客の多い、隠れた名店のようだ。

たっぷりの蕎麦湯と、和菓子で仕上げ。旨い蕎麦屋は蕎麦湯もちがうなあ。小旅行最初の食事に、すっかり満足した。

冷やし鴨南蛮かき揚げ天せいろお菓子
プロフィール

テツ

「中年とオブジェ」とは赤瀬川原平の名著「少年とオブジェ」へのオマージュである。美術、オブジェ収集、エリック・ドルフィーを愛好する。

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