中年とオブジェ

美術館・街で見かけたオブジェ 旅先で手に入れたオブジェ オブジェの視点で世の中を楽しむ中年の日常。

豊田・奈良・京都

普段着の京都 新福菜館の中華そば

ラーメン京都からいよいよ帰りの新幹線に乗る前に、最後の旅めし。京都駅近くにあると友人べろ蔵から聞いた老舗「新福菜館」でラーメンを食べる。晩飯時で、ひとり客の男ばかり次々に入店してくる。仕事帰りの職人風や、まだこれから残業の様子のサラリーマン風など。

ビール中瓶を飲んでいると、じきに中華そばが出てきた。色の黒いスープに青ネギがたっぷり。支那竹とチャーシューも醤油色に染まっている。「竹入り中華そば」というのを頼んだので支那竹がたっぷり。かなりしょっぱそうに見えるのだが、スープを飲んでみると、鶏がらがベースの意外に普通の味。醤油の風味はあるが塩辛いということは無い。麺によく絡むスープだ。

京都で食事といえば、つい特別なものを特別な店でと構えてしまいがちだが、こうした普段着の食事もいいものだ。京都駅の大階段には大きなクリスマスツリーが飾りつけられ、輝いていた。

新福菜館新福菜館

京都タワーにはじめてのぼる

京都タワーその存在が気になり続けながら、なかなか近づく機会が無い場所というものがある。何度となく京都に来ているのに、足を踏み入れたことの無い場所。誰もが気になっているのに、近づかないスポット。

それが京都タワーだ。

今回、早めに京都駅に戻ってきたので、ついに京都タワーにのぼることにした。タワー下のビルの1階は土産物屋街。修学旅行生をターゲットにしたチープでレトロなグッズの集積が、昭和の空気を濃厚に漂わせている。そしてビルの最上階まで行くと、タワー展望台へのエレベーターがある。ここからは有料。タワーから眺める薄暮れ時の京都の眺めはなかなかのものだった。展望台には無料の望遠鏡が多数設置され、京都の名所を遠望することができる。まさに現代の洛中洛外図が広がる。間近に見下ろす京都駅も巨大だ。

京都タワー展望台偽ビリケンさん舞妓はん






展望台自体は控えめのイルミネーションで飾られ意外におしゃれ。しかし、タワーを降りてくると、雑然とした空間にコンピューター手相占い、等身大の舞妓はん人形偽ビリケンさん・・・。タワーというのは何でこうB級テイストになってしまうのだろうか。「バカと煙は高いところが好きだ」というけれど、「高いところにのぼりたい」と思った時点で、人は日常的な分別を脱ぎ捨て、非日常な次元にトリップしてしまうのであろう。ビリケンさんが通天閣以外にもいたなんて知らなかったなあ。通天閣からクレームはつかないのだろうか。京都タワー。古都1000年の夢も覚めるナイスなスポットであった。地下にあるという大浴場、いつか入ってみたい。

京都タワー

狩野永徳展

狩野永徳展今年は京都に美術マニアが集った年として記憶されるだろう。春の相国寺、若冲展。そして秋の京都国立博物館、狩野永徳展。若冲展は昨年、「動植綵絵」が一堂に展示されると知ったときから是非観にいこうと決めていた。狩野永徳展はこれのみで京都に行くほどには惹かれていなかったのだが、訳あって「唐獅子図屏風」だけはどうしても観たかった。

私の母校である県立高校は伝統的に学校行事が盛んで、中でも体育祭は一大イベントだった。全校が4組に分かれ、いわゆる運動競技以外に、野外演劇や巨大なパネル画制作でも競い合った。1年生のとき始めてパネル画制作に参加したのだが、ベニヤ板十数枚の大画面に描いたのが、永徳の唐獅子図だった。放課後、毎日暗くなるまでカラーコピーした下絵とにらめっこしながら、唐獅子を模写した。黒と金が渦巻くたてがみを描くのに苦労した思い出がある。

実際、実物を目にして、唐獅子図屏風の巨大な迫力に圧倒された。そして永徳の筆さばきの力強さ、一気呵成に描いたかのようなスピード感に驚いた。やはりこの絵は、高校生がちまちまと模写しても到底表現できない高みにある天才の業だったのだ。

「洛中洛外図屏風」の何千という人物を描きこんだ細密な画面は、細部を楽しんでも、全体に広がる金雲のバランスを楽しんでも、飽きることが無い。人ごみを掻き分けてではなく、余裕を持って鑑賞してみたいものだ。

晩年の大作、「檜図屏風」の複雑怪奇にうねる大木には、霊性が宿ったかのような存在感が感じられた。

人物の描写、岩・樹木・水の奔流、どれをとってもその筆致の鮮やかさに目を奪われた。静的なイメージを抱いていた狩野派絵画が、こんなに生き生きとしたものであったとは、展覧会を観てこそ得られた印象だ。

京都国立博物館しかし、平日の午後で1時間待ちの行列。若冲・永徳の展覧会は、その混雑においても並大抵ではなかった。唐獅子図屏風との対面に、高校時代パネル画作成に熱中した秋の日々を思い起こし、今回の旅も終わりが近づいてきた。

平等院のウンチュー

鳳翔館内部宇治平等院の宝物館、「鳳翔館」が抜群によいと評判を聞き気になっていた。友人のべろ蔵もマイミクのlunechouさんも感動したという。奈良から京都への帰路、立ち寄ることにした。奈良―京都間の移動は近鉄を利用する人が多いのだが、この沿線、普通の郊外の住宅地なのである。JR奈良線の方がローカルムードが味わえて私は好きだ。

10円玉でおなじみの鳳凰堂、久しぶりに見たがやはり思いのほか小さい。軽やかな造形、精緻な木組みの造り込みが美しい。そしてお目当ての鳳翔館。モダンな箱型のコンクリート造で、安藤忠雄ばりの現代建築だ。屋根に載っていた鳳凰の実物も展示されているのだが、圧巻なのは雲中供養菩薩たちを展示した空間。暗い展示室のなかにライトアップされたガラスケースが並ぶ様子は、東博の法隆寺宝物館にも通じる美しさ。手に手に楽器を持ち、流れるような質感の雲に乗ったウンチューたちが楽しい。

雲中供養菩薩本来、鳳凰堂の内陣で阿弥陀如来を取り囲んでいた雲中供養菩薩。鳳翔館で間近に鑑賞できるのはありがたい。ちなみに鳳凰堂にも雲中供養菩薩は残されていて、内陣の見学は別料金で時間指定の定員制なのでご注意を。鳳翔館はお寺の宝物館の新しいスタイルの先駆けになるのではないだろうか。仏像はお堂の中で本来の姿で観るのが一番だとは思う。しかし防災上の問題、鑑賞の充実という面から、宝物館というあり方は必要なことだ。興福寺国宝館も鳳翔館並にリニューアルしてもらいたいな。

平等院

建築マップ「鳳翔館」

四天王フィギュアをゲット

四天王フィギュア奈良のジャズ・バーで出会ったUさんから教えられた、興福寺南側の土産物屋街の一軒、三楽洞に立ち寄った。なんでも取り扱う大きな土産物屋なのだが、店員に「仏像フィギュアありますか」と尋ねると店の隅のコーナーに案内された。戒壇院四天王・天灯鬼・竜灯鬼・興福寺の金剛力士など、どれもよくできている。三楽洞のオリジナルだそうで、食玩の仏像フィギュアとは出来が違う。高さ10センチほどで1体700円だ。一番のお気に入り、戒壇院四天王を4体ゲットした。踏みつけられる邪鬼まで再現されているところが憎い。

このあたりの土産物屋では、昔から仏像のレプリカや仏面は扱っていたのである。ただちょっとした工芸品で、値段は高かった。みうらじゅんは、7万円する大きな阿修羅像を大人買いしたことがあるという。フィギュア全盛の今、元祖フィギュアともいえる仏像のミニフィギュアが登場したのはもっともなことだ。

仏像フィギュア。奈良土産の新定番である。もっと種類が増えるといいなあ。

三楽洞ホームページ

旧JR奈良駅

旧JR奈良駅レトロな駅舎はいいものである。旧JR奈良駅は、屋根の相輪がシンボルの、寺院風の洋風建築。これも帝冠様式の一種なのであろうか。この駅舎、奈良駅の高架化工事の計画により取り壊す予定だったそうだが、市民の保存運動の成果で解体が回避されたらしい。その代わり元の場所から数メートル引き家されたという。現在は仮囲いで周囲を封鎖されているが、いずれ改修工事をして内部も公開されるのだとか。現役ではなくなったとはいえ、こうした風格ある近代建築が遺されることは意義あることだと思う。

昔、奈良駅を見に行ったとき、駅前広場で天理教の信者たちが黒はっぴを着てうちわ太鼓を叩いていたのを思い出した。

町屋の喫茶店 春秋館

春秋館奈良から宇治の平等院に移動するため、JR奈良駅に向かう商店街でコーヒーでもと思い入った春秋館。奈良も市街地にはうなぎの寝床の町屋が残り、この喫茶店もカウンターのみの細長いつくりだった。一番奥の席に座ると穴倉のようで落ち着く。コーヒーは自家焙煎の豆で、挽き立てを1人用のサイフォンで淹れてくれる。ストロング・ブレンドがコクがありなかなか美味しい。旅先で何気なくいい喫茶店を見つけるとうれしいものである。40年続く老舗だとか。

はじめての正倉院展

正倉院展毎年秋に奈良国立博物館で開催される正倉院展。この秋奈良を訪れた折、ちょうどタイミングが合い、はじめて鑑賞した。2週間ばかりの短い期間の展示で、さすがにすごい人出。火曜の朝開館前にはすでに長蛇の列だ。それでも待ち時間なく、会場である新館に入場できた。この新館は吉村順三の設計で、広いスロープなどを取り入れたゆったりした動線が特徴的だった。外観に個性は無いが機能的。

会場内はかなりの混雑だったが、個々の展示物を近くで見るのに支障があるほどではなかった。目玉となる数点の工芸品の他には、経典や古文書など地味な展示品が多いのだが、いづれも保存状態は大変いい。正倉院の威力はすごかったのだなとわかる。華麗で細密な装飾が美しい紫檀金鈿柄香炉(したんきんでんのえごうろ)や、曲芸や奇術をする人物を描いたユニークな墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)など、チラシのデザインにも選ばれている作品はやはり印象に残った。

しかしこのような工芸品の展示にこれだけ多くの人が詰め掛けるというのも、不思議といえば不思議。前夜ジャズ・バーで出会ったUさんから「読売新聞が何年か前から主催するようになって、来場者がぐっと増えたんですよ。派手な宣伝をするんでね」と聞いた。

奈良国立博物館奈良国立博物館2仏像好きの私は正倉院展はそこそこに、本館の常設展へ。片山東熊設計のクラシカルな本館は重要文化財にも指定されている。和辻哲郎の「古寺巡礼」に登場する奈良帝室博物館の時代には、ここに法隆寺の百済観音や興福寺の阿修羅も展示されていたという。時代の流れで、多くの寺院が収蔵庫等を持つようになった現在も、奈良の寺から寄託された仏像が数多く展示された常設展は、さすが仏像天国「奈良」ならでは。昨年の東京国立博物館の「仏像」展でも見た、「試みの大仏」、東大寺の弥勒如来の個性的な姿にも再会した。

奈良国立博物館

JAZZと仏友 イタリアンレストラン&バーGentry

オーヤーヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン居酒屋「蔵」を探しているとき、ジャズの店Gentryを見つけた。ネットで調べたところでは、イタリアンレストラン&バーでジャズがBGMとなっていて、あまり食指は動かなかったのだが、蔵を出てジントニックでも1杯と思い入ってみた。カウンター席には常連らしきサラリーマン。ママと若い女の子が相手をしている。ボーカルものがかかっていたが、ちゃんとレコードをかけている。ジントニックを飲み店内を見回していると、狩野永徳の屏風絵のグッズが置いてあった。

「明日、京都に狩野永徳展観に行くんですよ」と話したのがきっかけで常連客のUさんがとなりにやってきて、あれこれ話すことになった。50代のUさんは奈良が地元で、大変な仏像マニアだった。屏風絵のグッズもUさんが持ち込んだものだったのだ。みうらじゅんのおかげで、仏像マニアも市民権を得ましたねえと語り合う。ママに「レコード、お好きなのあったらかけますよ」といわれ、ずらりと並んだレコードを見る。ミンガス「オーヤー」を選んだ。

ママが「後をよろしく」と先に帰り、女の子が残った。この店では奈良女子大の子だけをバイトに雇っているそうで、彼女も奈良女の才媛であった。「山田寺の仏頭に似てますよ」とほめたが「仏像ににてると言われると微妙ですね」と笑った。その後は、彼女もジャズはわからないというので、勝手にレコードを選び、リクエスト三昧。コルトレーン「ヴィレジ・ヴァンガード・アゲイン」までかけてしまった。

Uさんからは、仏像フィギュアを売っている土産物屋の情報も教えてもらい、翌日戒壇院四天王のフィギュアを手に入れることができた。最後はUさん持込のアイスクリームをみんなで食べ、店を後にする。

駅に向かう道を歩きながら「今日はいなかったけど、マスターがいたらあなた今晩は帰れないところでしたよ」とUさんが言う。あのレコード棚を見ても、マスターは相当のジャズ者だとわかる。JAZZと仏像の楽しい夜になった。

居酒屋「蔵」の絶品鯖寿司

蔵雨の月曜日、近鉄奈良駅からしばらく行った商店街の外れにある居酒屋「蔵」に5時半頃入る。古びた店内にはまだ他には客がいなかった。古い蔵を再生した居酒屋で、コの字型のカウンター席のみ。カウンターの真ん中におでん舟が湯気を立てている。50年以上続く老舗だ。となりは寿司屋で、居酒屋で飲む客も頼むと寿司を届けてもらえたそうなのだが、今年5月に寿司屋は閉店してしまったという。「うちにも鯖寿司がありますのでよかったらどうぞ」と若い店員に言われ、締めは鯖寿司にしようと決める。

まずは生ビールに串かつ。からっと揚がった牛ヘレだ。名物だというきも焼きには半人前があり、頼んでみるとかなりのボリューム。様々なモツの部位が混ざっていて、万願寺唐辛子の緑がアクセントに。山椒がかけられスパイシーで、酒のあてにぴったりだ。ポツリポツリとカウンターに客が入り、にぎやかになってきた。2階の座敷で宴会の学生たちも集まってくる。奈良の地酒がいろいろあるので、最初は燗を飲む。結構甘口。すっきりした酒をと冷酒も飲んでみた。おでんは薄口の出汁が旨い。「ひろうす」というのを頼んでみるとがんもどきのことだった。ホタテの昆布〆も量が多いというので半人前にしてもらう。甘くねっとりとして旨みが濃い。

客層は、常連が半分、観光客が半分といったところか。

串かつきも焼き松前寿司






いよいよ締めの鯖寿司。松前の昆布を載せているので松前寿司と呼んでいるそうだ。好みの量を切ってくれるというので、2貫お願いした。出てきた寿司のでかさにびっくり。2貫で、こぶしほどもボリュームがある。鯖は肉厚で脂がのり、浅締めで生に近い。となりで飲んでいた女性2人客が、この寿司を見て思わず「それすごいですね。何ですか?」と尋ねてきた。ご主人にあとで聞いたのだが、この日は特にいい鯖が手に入ったのだとか。春に京都で食べた老舗の鯖寿司にも劣らない、絶品だった。こういう風情ある居酒屋は、ひとりで飲んでいてもじっくり楽しめる。これからもこのまま続いてほしい名店だ。

居酒屋「蔵」

奈良町カフェ よつば

よつばチャイよつば店内






カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した「殯の森」(もがりのもり)の河瀬直美監督に「沙羅双樹」という映画がある。奈良町という、奈良市内の街並みでロケされていてる。古い民家や商店、建て替えをした新しい家などが雑然と並んだ、細い路地の入り組んだ街で、最近はカフェやレストランなど洒落た店が増えているのだという。
  
午後から降りはじめた雨の中、「よつば」というカフェを探した。興福寺からだいぶ南に離れた街並みの古い木造二階家が「よつば」だった。引き戸を開けて靴を脱ぎ座敷に上がる。座卓席とカウンター席があり、家具や照明をアンティークでまとめ、落ち着いた雰囲気。アート系の雑貨がたくさん置かれている。あたたかいチャイを飲んだ。お茶菓子付だ。

BGMはラウンジ系の静かなもので、古い大きなステレオから聴こえてくる。店の女の子に聞くと、ステレオは飾りで、中に新しいオーディオを入れているのだという。夜の目的の居酒屋の開店時間までしばらくのんびりした。

よつばカフェ

戒壇院四天王 天平彫刻の頂点

広目天多聞天












持国天増長天












東大寺の広い境内の西の外れのひっそりとした戒壇院。大仏殿の賑わいとは無縁の静かなお堂。その中に、私が天平彫刻の最高峰だと思う四天王像がある。はじめて拝観したのは中学を卒業した春休み。卒業祝いに父と奈良旅行をした時のことだ。今は高い戒壇の上に置かれているのを下から見上げるのだが、そのときは目の前まで登って見ることができた。白い塑像の気迫ある表情、四体の均衡のとれたポーズ、踏みつけられる邪鬼のユーモラスな姿。その完璧な造形に魅了され、3月の冷え切ったお堂の中で1時間近く見つめ続けた。今回は1時間は過ごさなかったけれど、久々に見た四天王の素晴らしさに見仏欲が満たされ、その日はもう三月堂に行くのはやめにした。

奈良時代の仏師がどんな心性を持って、この仏像を造ったのかはわからない。その時代の人にとっての仏への信仰のリアルさは現代人には想像が及ばないものだったのだろう。しかし、この四天王をはじめてみたときからいつも思うことがある。この像を造っているとき、仏師の心の中に信仰のリアルさを超えて、純粋に造形のリアルさを求めることへの喜びが存在したのではないかと。広目天の深い精神性をたたえた峻厳とした表情の中に、信仰を超えた芸術家の欲望を感じてしまうのだ。

手塚治虫の「火の鳥 鳳凰編」の茜丸と我王の物語を、戒壇院四天王を見ると思い起こす。

三月堂














翌日、東大寺を再訪し三月堂(法華堂)へ。3メートル、4メートルの巨像が林立する強烈な仏像空間だ。暗く静かな三月堂の中に展開するこの迫力は、京都東寺と並ぶもの。最高のインスタレーションと言ってもいい立体曼陀羅だ。

東大寺ホームページ

興福寺 阿修羅の仲間、全員集合!

阿修羅豊田から名古屋に出て高速バスで奈良へ。2500円と安くて早い。久々に訪れた奈良は、駅前商店街も変わり映え無く、高層ビルの再開発などとも無縁の、静かな地方都市だ。

興福寺で、この秋の特別公開ラッシュにめぐり合わせた。国宝館では阿修羅を含む八部衆八体が一堂にそろう特別展示。横一列に並んだ等身大の八部衆にため息が出る。漆と布を使った脱活乾漆造の造形は、どこかやさしくプリミティブだ。塑像の写実性とは異なった魅力がある。当初の極彩色の仕上げはほとんど痕跡をとどめず、破損した部分も多い八部衆だが、古い仏像の美しさには廃墟の持つ美に通じるものがあると感じる。本来の輝きを失い、崩壊し、雑草が生い茂り自然と融合した廃墟が美しいように、古色の加わった仏像には、時の流れだけが与える滅びの美が備わっている。

阿修羅の正面の顔が、若いときの貴乃花関に似ているという人がいるけれど、私には夏目雅子に見えるんだなあ。八部衆は、少年のような、中性的な、不思議なみずみずしさをたたえている。

鎌倉彫刻の傑作、無著・世親像の置かれた北円堂も、ちょうど秋の開扉中。数年前、芸大美術館に出展されたことがあるが、お寺のお堂で見るお姿は格別。

興福童子そして大圓堂(だいえんどう)では、秘仏の聖観音が特別公開されていた。截金(きりかね)細工が美しいというが、遠く離れた厨子の中に置かれているのを遠くから眺めることしかできず、仔細はわからなかったのが残念。大圓堂の前庭には彫刻家籔内佐斗司氏の「興福童子」たちが並んでいた。ユーモラスでどこか不気味でかわいらしかった。

やっぱり興福寺は仏像のワンダーランドだ。

興福寺ホームページ

JR東海 興福寺サイト(画像・解説が豊富 みうらじゅんの動画あり)

豊田でペルー料理

インカへの道ユッカのフライフライ盛り合わせ






自動車産業の町、豊田市には外国人労働者が多い。街なかにはブラジル食材専門の小さなスーパーもある。そんな外国人向けのレストランがホテルの近くにあった。「インカへの道」という名のペルー料理店。

カウンターとテーブル、小上がりの小さな店内はペルーの民芸品やタペストリーで飾られ、日本人の客は我々だけ。コックも店員もペルー人らしいが、ひとり日本人のおばちゃんがいてオーダーを取りに来た。ペルーのビールがあったので飲んでみる。すっきりライトな味でなかなかいける。ペルーの名物だというユッカという芋のフライと、魚介類のフライ盛り合わせを食べてみた。ユッカはごろりと大きく、やわらかな食感で、なんとなくさといも系の甘みがある。魚介類のフライはペルーの海沿いではポピュラーな料理だそうで、イカ・小エビ・白身魚・ムール貝など盛りだくさん。唐辛子とマヨネーズを合わせたようなソースで食べると、スパイシーで旨い。

メニューには、ローストチキンや、ブラジル料理のフェイジョアーダ(豚肉と豆の煮込み)などもある。南米人らしき客たちは皆郊外から車で来ているらしく、インカコーラを飲み、ご飯もののセットを食べている。豊田市で思わぬ異文化体験ができた。

その後、名古屋名物手羽先のある居酒屋や沖縄居酒屋をはしごしたのだが、どうもぱっとしない。

最後にたどり着いたのが商店街のはずれの一軒家の「K’s Bar」。ゆったりした磨きこまれたカウンターのバックに整然とボトルが並んだ、オーセンティックなバーだ。40代ぐらいのマスターと豊田の話をあれこれする。

「豊田は文化的にもいいものがあるのに、外へのアピールが下手なんですよ。ギュウとチュウだってすごい企画なのに、人を集める工夫が足りないですね」と彼は言う。店には豊田市美術館の大きなポスターが貼ってあった。外国人の増加も急速に進んだそうで、市内の小学校ではクラスの半分以上が外国人のところもあるのだとか。

ラムベースのカクテル「xyz」にも、ブラジルの酒ピンガのカクテル「カイピリーニャ」にもフレッシュのレモン・ライムを使い、キレのある味を楽しんだ。

谷口吉生の豊田市美術館

豊田市美術館谷口吉生は美術館建築の名手だ。モダニズムを継承したストイックな造形、展示空間の構成ののびやかなリズム、部材や細部のデザインへの行き届いたきめ細かさ、家具やカフェなどアメニティーの充実。ここ豊田市美術館は規模も大きく、ダイナミックな吹き抜け空間も多用し、壮大な列柱の並ぶファサードも大胆だ。丸亀の猪熊弦一郎現代美術館と並ぶ大型作品だ。

豊田市美術館の最大の特徴は、外壁に乳白色の合わせガラスを大きく取り入れたことだろう。この壁面を透過して外光の明るさがやわらかく館内に取り込まれる。美術館建築において、外光の取り扱いは重要問題だ。美術作品の保護の観点から直射光には制約がある。たとえば兵庫県立近代美術館では、外観は大胆でモダンなガラス張りなのに、展示室はコンクリート壁に囲まれた単なる箱だ。安藤忠雄もこんなものかと物足りなかった。黒川紀章の国立新美術館は、ファサードは有機的で大胆なガラス壁が圧倒するが、展示室はやはりただのハコモノ建築。豊田市美術館でも展示室に全て外光が取り込まれるわけではないが、内と外との緩やかな連続性が感じられる。実際、今回午後から夕方にかけて滞在してみて、館内の光の環境は大きく変化した。

スレートを使った部分の壁面仕上も上質で、カフェからの眺めは実に心地よい。今までにソフィ・カル展、ヤノベケンジのキンダガルテン展、今回の篠原有司男と榎忠展と3回訪れたが、この美術館はいつも作品の魅力を格段に増幅させてくれる。アクセスは不便だが、これからも注目したい美術館だ。

豊田市美術館正面列柱側面






豊田市美術館吹き抜け展示室カフェ






昼間の豊田市美術館の画像

ギュウとチュウ―篠原有司男と榎忠展

オートバイオートバイ2ギリシャ神話ファンタジー






ボクシングペインティング大砲マシンガン






RPMアップRPM全景パトローネ






1932年生まれのギュウちゃんこと篠原有司男、1944年生まれのチュウさんこと榎忠。1960年代から活動を続けるふたりの強烈な展覧会だ。


篠原の大壁画「ギリシャ神話ファンタジー」は全長50メートル、高さ8メートルの大画面に原色、蛍光色のパンキッシュなイメージの洪水が炸裂する。豊田市美術館の日本有数の大展示室の壁3面に展開する超大作。岡本太郎の「明日の神話」より大きいのだ。そしてその壁画に囲まれて、8メートルの大きさのオートバイ彫刻がどかんと展示されている。篠原の数々のオートバイ彫刻はエネルギッシュで大好きなのだが、今回のやつは圧倒的な迫力。この作品を谷口吉生設計の立体的な観覧空間のおかげで、いろいろなアングルから楽しむことができる。

そのほかにもボクシングペインティングやドローイング、オブジェなどがあり、篠原のパワーに浸ることができる。篠原の今回の製作過程の映像も上映されていて、そのワイルドで大胆というか大雑把な作業には笑ってしまう。彼の解説を聞くと、大壁画の中に描かれたモチーフが理解できて、最初混沌とした色の氾濫に見えた画面をもう一度見直すと新たな発見があり楽しい。

榎忠そして、今回豊田まで遠征した大きな動機が榎忠。実は彼のことは森美術館の「六本木クロッシング2007」に出品しているということではじめて知った。ウェブでその作品を見て心が騒いだのである。昨日、「六本木クロッシング2007」を観てきたのだが、榎忠のインスタレーションのスケールにおいては、豊田のものの方が圧倒的に凄い。金属の廃材を旋盤で意味不明のフォルムに加工したパーツの膨大な集積。薄暗い展示室の中に広がるインスタレーションを見ていると、見知らぬ文明の未来都市にも見え、イスラム建築の意匠を思わせ、廃墟に出現した不思議な機械のように感じられる。総重量10トン!気の遠くなるような作業の果ての作品だ。

パトローネという写真フィルムの容器をプレスして積み重ねたインスタレーションは14トン。大砲のようなオブジェや、無数のマシンガンのオブジェも展示されている。髪の毛を頭半分そり落とした「ハンガリ」でハンガリーを旅したというパフォーマンスにはあきれてしまった。モヒカンの篠原有司男とハンガリの榎忠。このふたりを組ませたというのは抜群の企画だ。

でも、余りにもふたりの作品が強烈で、もっとそのパワーに包み込まれていたい思いが募り、企画展示室を出たときには「これで終わり?」となんだか寂しくなるような気さえした。ギュウとチュウのエネルギーは美術館には収まりきらないようなとてつもない大きさだった。

六本木クロッシングで榎忠に投票した人がいたなら、無理にでも観に行ってほしい。今年の展覧会のマイベスト10の筆頭にランクインした最高にいかした、いかれた展覧会だ。

ハンガリ豊田市美術館

六本木クロッシング2007

秋のアート遠征してきました

篠原有司男と榎忠展この秋注目していた展覧会を一気に巡る、アート遠征をしてきました。京都国立博物館の「狩野永徳展」はさすがの人気で、平日でも1時間待ち。唐獅子図屏風は圧倒的迫力でした。久しぶりに訪れた奈良ではもちろん仏像三昧。興福寺では各堂の秘仏の御開帳のタイミングが重なり、「正倉院展」も初体験。奈良土産には仏像フィギュアをゲット。しかしこの旅一番の収穫は、豊田市美術館「篠原有司男と榎忠展」でした。国内有数の大展示室の壁面を埋め尽くす篠原の大壁画と8mのオートバイ彫刻、いかしてます。森美術館で開催中の「六本木クロッシング」でも話題の榎忠は総重量10トンの金属パーツでインスタレーション。どうかしています。豊田市美術館、アクセスは不便ですが、これほどの現代アート企画展はめったに体験できないでしょう。12月24日までやっています。それでは旅の記録です。

11月4日(日)

横浜―豊橋―豊田市
豊田市美術館「篠原有司男と榎忠展」
ペルー料理店「インカへの道」(豊田は南米人が多い)

豊田市泊

11月5日(月)

豊田市―名古屋―奈良
興福寺秘仏特別公開
東大寺
ならまちカフェ「よつば」(古民家のカフェ)
居酒屋「蔵」(きも焼き・絶品鯖寿司)

奈良泊

11月6日(火)

奈良国立博物館「正倉院展」
奈良―宇治
平等院(雲中供養菩薩)
宇治―京都
京都国立博物館「狩野永徳展」
京都タワー展望台
ラーメン「新福菜館」
京都―横浜
プロフィール

テツ

「中年とオブジェ」とは赤瀬川原平の名著「少年とオブジェ」へのオマージュである。美術、オブジェ収集、エリック・ドルフィーを愛好する。

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