中年とオブジェ

美術館・街で見かけたオブジェ 旅先で手に入れたオブジェ オブジェの視点で世の中を楽しむ中年の日常。

新潟・富山

クリスマスブーツ





採集地 新潟(水と土の芸術祭)

富山の薬売り

ようやく、新潟・富山を巡った2007年末のアート道楽ツアーのレポート終了。アート道楽といいつつ、あいかわらず旅めしの話ばかりになってしまった。最後の画像は富山駅前のオブジェ「富山の薬売り」

子供のころは、我が家にも置き薬の入った薬箱があった。さて、現在「富山の置き薬」業界はどうなっておるのか、などといったことは詮索しないのが「中年とオブジェ」のお気楽なところである。

富山の薬売り

魚津の職人 ねんじり亭

ねんじり亭お通し









冬の富山、最後の旅めしは魚津の居酒屋「ねんじり亭」。日曜日も営業していて(我々が選ぶような居酒屋には珍しいのだ)、5時開店のところを4時半から飲ませていただけるようお願いできた。おかげで帰りの列車までゆっくり2時間以上ある。

モダンな構えの小さな店。カウンターで出迎えてくれたのは、柴咲コウのような目力のある女の子。ご主人の娘さんだ。カウンター横に、筑紫哲也の色紙が飾ってあった。お通しは黒い重箱の中にずらりと色鮮やかな小鉢が並べられた中から、ひとり2種類選べる。生ビールを飲み、お通しをつまみながらお品書きを見る。刺身はおまかせの盛り合わせにした。

奥で魚をさばいていたご主人が、刺身盛り合わせを出しに来て、魚の種類を説明してくれた。まだ富山湾であがっていないブリを除いて、全て魚津港の地魚。市場が休みの日曜日だったせいか、期待が大きすぎたせいか、ちょっと鮮度が物足りない。

白海老と山芋揚げは、ほくほく熱々でビールに合う。この店のすごいのは日本酒の品揃え。富山の純米吟醸を中心に、酒にも詳しいご主人の嗜好が貫かれている。しかし、私はどうもフルーティーな香りのする吟醸酒が好きでないのだ。正直にご主人に伝え、オリジナルの「旨酒ねんじり」をいただく。これは満寿泉の生酒。この時期までに瓶の中で熟成が進んでいるので、どっしりした飲み口。なまこ酢に酒が進む。焼物をなにかと頼むと「ホッケなんかどうですか」という。魚津にまで来てホッケかと早合点すると、魚津で揚がった地物だという。数も少なく、市場で練り物業者が買いあさってしまうので、魚屋にも出回らないのだそうだ。毎朝、市場に買出しに行くというねんじり亭のご主人ならではのメニューだったのだ。ふっくら焼けた生のホッケは皮まで香ばしく食べられる。チェーン居酒屋のホッケとはものがちがうのだ。

刺身盛り合わせホッケ塩焼き









ホタルイカ沖漬鮭親子丼









「これ飲んでみて」と、ご主人がラベルもない1升瓶からコップに1杯酒をついでくれた。軽いのみ口ですいすいいけるが、飲んだ後カーッとくる。蔵元でもらってきた火入れ前の仕込みたて生酒だという。「これが出来立ての酒の味ですよ。度数も高いんです」思わぬ旨い酒に、ホタルイカの沖漬を頼んだのだが、これがまた目からうろこだった。シャーベット状に溶けかけたものをシャリシャリしているうちに食べろという。食べなれた沖漬のように濃厚な味ではなく、ホタルイカの旨みが生きた薄味。半解凍なので、くったとせず歯ごたえが楽しめる。勝駒純米も飲み、ほろ酔いになり、締めは旅の贅沢と鮭親子丼を半人前づつもらう。自家製のイクラ醤油漬は上品でプチプチ。

「これ、うちの井戸水。飲んでみて」と出されたお冷が、甘く旨い。やはり立山の伏流水の旨さがあってこその、富山の酒の旨さなんだなあ。「ついでにこれは水道水。これはどう?」といって出された水道水も、旨いのだ。

帰りに、魚津の駅前にあった石碑にこんな言葉を見つけた。

長生きしたけりや魚津に
おいでうまい空気に水がある


「ねんじり」とは、地元の言葉で舌平目のことだそうだ。これが有明海だと「くつぞこ」となり、瀬戸内では「げた」と呼ぶ。ねんじり亭のご主人は、まさに酒と魚の職人で、そのこだわりは並大抵の物ではない。北陸というと「のどぐろ」と気軽に喰いたくなるが、地物ののどぐろは居酒屋などでは到底出せない高価な浜値なのだと教えられた。九州あたりのものを安く出している店が多いのだという。「一種の偽装ですよ」とご主人は厳しい。

今回の旅、いろいろ居酒屋を巡ったが、ねんじり亭には、たしかにレベルの違いを感じた。しかし、一番くつろげたのは、やはり富山の親爺かな。最後には結局、居心地の良さが、私にとっての居酒屋の良さを決めるのだ。

ねんじり亭ホームページ

魚津の廃墟 日本カーバイド

操業を終え、魚津の町に佇む廃墟

日本カーバイド

巨大建築ありそドーム

ありそドームありそドーム内部









展望台よりアリーナ









魚津の町外れに巨大な建築物を見つけた。ありそドームと名づけられたその建築は、巨大な体育館・展望塔・産業展示室などからなる複合施設で、田んぼに囲まれて、異様な迫力でそびえたっている。波打つ屋根・巨大な柱が圧巻だ。

富山湾の別称を有磯(ありそ)というそうで、ありそドームと名づけられた。魚津の居酒屋の主人に聞いたところ、もともとはワールドカップ・バレーの誘致のため建設されたそうなのだが、市民の役にもたたず、建設費・維持費も膨大な、税金の無駄遣いと批判されているという。

この日、巨大でゴージャスなアリーナでは、おばちゃんたちがバドミントンの大会をやっていた。

高層の展望塔からの眺めは見事で、立山連峰をひかえた魚津の全景を目にすることができる。この展望塔、名目上は「交流学習室」とされており、建設計画上、ただの展望塔では都合が悪かったので名前だけごまかしたような気がする。

これほど無駄に巨大な建築は、見ていてむなしくなってくる。造形的にはなかなか面白いのだが・・・

ありそドームホームページ

天然記念物 埋没林博物館

埋没林埋没林ドーム









皇族写真蜃気楼ハイビジョンシアター









旅の最後に魚津の町にやってきた。夕方から居酒屋で飲んで最終の乗り継ぎで帰宅する予定なのだが、それまでの時間、魚津の見所を探る。

天然記念物の魚津埋没林博物館へ。

埋没林とは、文字どおり“埋もれた林”のことです。
埋没林は日本、あるいは世界の各地で発見されています。
林が埋もれる原因には、火山の噴火に伴う火山灰や火砕流、河川の氾濫による土砂の堆積、地すべり、海面上昇などさまざまなものがあります。
埋没した年代もさまざまで、数百年前から数万年前のものまであります。
魚津埋没林は、約2,000年前、片貝川の氾濫によって流れ出た土砂がスギの原生林を埋め、その後海面が上昇して現在の海面より下になったと考えられています。
埋没林は、その森林が生育していた場所全体が地下に密閉され、木の株だけでなく種子や花粉、昆虫などが残っているため、過去の環境を推定する大きな手がかりとなります。

(埋没林博物館ホームページより)

水の中に沈んだまま保存されていたり、地上に露出していたり、ようは巨木の切り株を観察するために、お金のかかった博物館が作られている。ライトに浮かび上がる水中の埋没林は幻想的だし、埋没林を覆うドーム建築は未来的だが、10分もあれば見終わってしまうと富山のジャズバー「ジェリコの戦い」で聞いていた通り。

しかし、さすがに天然記念物で、昭和天皇・今上天皇・皇太子・秋篠宮と皇族オールスターズが来館している。写真を拡大してお確かめあれ。

埋没林だけでは間が持たないためか、富山湾の名物、蜃気楼をハイビジョンシアターで鑑賞することもできる。季節・気候が合えば、博物館の展望台から実物を拝むこともできるという。

魚津には他に見るところもないためか、観光客はぼちぼち来館していた。天然記念物とはいえ脱力感を誘うB級スポットだ。

魚津埋没林博物館ホームページ

まるたかや 謎の赤割

まるたかや牛島本店赤割と串









中華そば冬の旅の最終日、富山県立近代美術館を午前中見学し、昼飯は富山駅の外れにある、まるたかや牛島本店でラーメン。この店魚津にも支店があって、最初旅の最終目的地魚津で食べるつもりだったのだが、前夜にジャズバー「ジェリコの戦い」で、富山の本店のほうが旨いと聞かされ予定変更したのだ。

日曜昼時のまるたかやは人気店らしく、小さな店内は客でいっぱい。カウンターのみの席の一角にもぐりこんだ。事前に調べた情報では、ラーメンのほかにおでんも出していて、豚バラを煮た「串」というメニューが名物だという。そのほか「赤割」という赤ワインと焼酎で作る謎のドリンクがあるというのでトライしてみた。「ワインを3割で」と指定すると、店のおばちゃんは「はい、7・3ね」と返した。通はそう注文するらしい。

甘辛の味噌をかけた豚の串は意外にあっさり味。酒のつまみにはいい。赤割の「赤」とは赤玉ポートワインのようなものらしく、7割が焼酎でもかなり甘みを感じる。

個性的なサイドメニューに対して、中華そばはシンプルな鶏がらスープが旨いなかなかの味。麺は細めだ。しかし、スープを飲みすすめるうちに、やはり結構しょっぱさを感じてくる。富山ブラックの常識を超えたしょっぱさとは別次元だが、けっしてあっさり薄口のスープではない。富山人は、しょっぱいラーメンが好みなのだろうか。

カウンターに置いてあったカリカリの「脂カス」を入れてみると、スープを吸ってぷにゅぷにゅになり、尾道ラーメン系の背脂が楽しめる。脂カスとニンニクを加えると、ややしょっぱめのスープの口当たりがバランスよくなった。

富山にこんな個性派のラーメン店が多いとは、今回の旅ではじめて知った。麺類というのはご当地の個性が強く発揮されるジャンルのように思う。

さぬきうどん
豚骨ラーメン
ちゃんぽん・皿うどん
味噌煮込みうどん
沖縄そば

地元の人が日常食として食べる麺類に、極端な個性が表れるのは、それらが主食ではないためもあるかもしれない、などと考える。食生活に欠かすことはできないけれど、メインではないというポジションに、嗜好品的な性格が出てくるのだろう。

マイナーな富山ラーメンも、全国区になる日が来るかもしれない。富山ブラックはひっそりしていてほしいが。身体に悪いから。


まるたかやHP

富山県立近代美術館 現代アートの常設展

富山県立近代美術館1981年に開館した富山県立近代美術館は、近年増えてきた地方の近代美術館の先駆けとも言える美術館だが、これまで訪れたことがなかった。私が訪問した日、企画展は行われておらず、常設展のみを鑑賞した。うわさに聞いていたそのコレクションは、ピカソ・マティス・エルンスト・ミロあたりから始まり、名だたる現代アートの作家が勢ぞろいしている。

フォンタナ・シーガル・ウェッセルマン・クライン・ジャコメッティ・ステラ・ニコルソン・ウォーホル・白髪一雄・草間彌生・李禹煥・・・

まさに現代美術を代表する作家たちを俯瞰できるコレクション。シーガルの等身大彫刻、イヴ・クラインのインターナショナル・クライン・ブルーのオブジェ、草間彌生のオブセッションを感じる立体作品など見ごたえがあった。

しかし、全般に受ける印象は、良くも悪くも教科書的。すでに評価の定まった現代美術作品の集積には、資料的価値ばかりを感じてしまい、感性に響いてくるものが弱い。スペース的にも都現美の常設展のような遊びは求められない。

富山県立近代美術館が、いちはやく現代美術のコレクションに力を入れた背景には、富山市出身の美術評論家・詩人・シュルレアリストである瀧口修造のサジェスチョンがあったのだと、常設展を案内してくれたボランティアガイドの方から教えられた。

その瀧口修造のコレクションの展示コーナーがあるのも、この美術館の魅力。小さいながらも、彼の愛した小品や、彼自身の作品・関連資料が常設で展示替えされているようで、瀧口ならではの小宇宙を感じることができる。

近年の建築にも魅力のある新しい地方美術館と比較すると、すでにアナクロな感じのする美術館ではあるが、個性ある常設展のレベルはたしかに高い。

富山県立近代美術館
瀧口修造文庫

富山の黒いラーメン 大喜駅前店

富山ブラックこの日飲んだ居酒屋「親爺」でも「あら川」でも、このラーメンのことは話題になった。そしてジャズバー「ジェリコの戦い」のマスターの語るその魔力にひきつけられ、我々は「富山ブラック」を食わずにはいられなくなってしまったのだ。

「何年かに一度、無性に食べたくなるんですよね。でも食べるとやっぱりやめときゃよかった、って後悔するんです。すごく身体に悪そうだけど、癖になりますね」

その夜は土曜日。日曜定休の「大喜」というラーメン屋にいくなら今日しかない。ジェリコのマスターに場所を教えてもらい、大喜駅前店に10時の閉店のしばらく前、乗り込んだ。

メニューには中華そばの小・大・特大の3種のみ。富山の人はこれにライスをつけて、ラーメンをおかずとして食べるそうなのだが、すでに腹がふくれている我々は、中華そばの小のみにしておいた。

やってきた中華そばは、「富山ブラック」の異名の通り、真っ黒なスープ。たっぷりのチャーシューとメンマの上に粗切りのネギ。ブラックペッパーがふんだんにかかっている。太めの麺も、メンマもスープがしみ込んで黒く染まっている。

まずスープをすすったとたん「しょっぱい」感が押し寄せる。秋田の人がしょっつるなど塩辛いものを好むというのは知っていたが、富山人もこんなしょっぱさが好みとは。ブラックペッパーも効いている。チャーシューはやわらかく、麺もコシがあり、メンマも悪くない。食べ進むうちに最初しょっぱさばかり感じたスープに、深いコクのある出汁の旨味があることがわかってきた。鶏がらベースのようだ。京都の新福菜館のスープを出汁、醤油ともに倍増したといった感じ。それにプラックペッパーがエッジを加える。

しかし、常識を超えたしょっぱさであるのは事実。思わずビールを注文した。スープはさすがに飲み干すことが出来なかった。しかし、昭和22年から続くという老舗。単なるゲテモノではない。富山に行く機会があったら、多分また食べに来てしまうだろう。今度はライスをつけて。



ホテルへの帰り道、シネマ食堂街という、よさげな小さな飲み屋の連なる路地裏を見つけた。なんとも懐かしい風景だが、いずれ再開発でなくなるのだろうな。ラーメンで満腹のため、後ろ髪をひかれつつホテルに戻った。

大喜駅前店シネマ食堂街

富山のジャズバー ジェリコの戦い

ジェリコの戦い居酒屋で飲んだ後はジャズ喫茶・ジャズバーで締めるといういつもの流儀どおり、旅行前に当てをつけておいたジャズバージェリコの戦いを探す。富山駅前の繁華街をしばらくうろつき、いかした看板を見つけビルの2階へ。ドアを開けると、目の前にきれいなカウンター。オーセンティックなバーのような雰囲気だ。しかしバックバーには、整然としたボトルの間にミュージシャンの写真。マイルスなどが飾ってある。

まずは、いつものジントニック。40代ぐらいの痩せたマスターは、話してみると気さくでフランクな方で、恒例のエリック・ドルフィーのリクエストにも気軽に応えてくれた。私の最も好きなミュージシャン、ドルフィーの演奏を旅先で聴くのが私の楽しみ。アバンギャルドな嗜好なので、店の雰囲気によっては遠慮することもあるのだが、マスターも好きだという。ファイブ・スポットのライブのVol.2を久々に聴く。ブッカー・リトルのトランペットとドルフィーのバスクラリネットが駆け抜ける1曲目「アグレッション」は本当に熱い。

せっかくなので、2杯目はホワイト・レディーをシェイクしてもらう。きりっと冷えてドライで爽やか。マスターは、年に何回も東京までコンサートを聴きに行く熱心なジャズファンで、最近はブルーノート東京のデヴィッド・サンボーンのライブに行ったとか。店名でもある、コールマン・ホーキンスの「ジェリコの戦い」もリクエスト。ほんとは自分の好みのCDを大音量でかけたいのだけれど、バーとしてやっていくには、客を見て無難な選曲をしてしまいますねえと本音も聞いた。

明日の昼飯のために、おすすめ情報を聞いてみてラーメンの話になった。「富山ブラック食べましたか」とマスターが熱くそのご当地ラーメンのことを語り始めた。結局、「ジェリコの戦い」を出た帰り、我々は「富山ブラック」を体験することとなったのだが、その話はまた別エントリーで。

カウンター

珍味で地酒 あら川

あら川珍味盛り合わせ









ニギス塩焼き黒作り









いよいよ春もやってきたが、また冬の旅の話。富山の夜、1軒目の居酒屋「親爺」で4時から飲んでいたので、店を出てもまだまだ早い。2軒目は珍味でも肴にちびちび熱燗でも飲もうというわけで、すぐちかくのあら川へ。

長いカウンターのはじの席、板場に立つご主人の向かいに座る。おやじ客ばかりの「親爺」にくらべ、老若男女、客層もにぎわいがある。壁にはびっしりサイン色紙。渡辺香津美のサイン入りエレキギターまであるのには驚いた。たまに来店するそうだが、若いご主人はジャズなどさっぱり聴かないのだという。カウンターの上の下がり壁からは、いろいろ不思議な干し物がつるしてある。この店は、手のかかる自家製珍味で評判なのだ。

珍味盛り合わせは、スズキとマグロの卵のカラスミ風・ブリの内臓の酢味噌和え・イカのコノワタ和えなど。おすすめの酒、ちょっと雑味のある満寿泉の無濾過原酒と相性抜群である。大衆魚ニギスの塩焼きは、味は淡白だが脂がのっている。富山名物昆布締めを応用した、地鶏の昆布締めもいただく。これは滋味。ホタルイカの沖漬けは、今年仕込んだ分は終わってしまったそうで、イカの黒作りをもらう。肝だけでなくイカ墨まで混ぜ込んだ塩辛だ。濃厚なイカ墨が旨い。

予約客も多く、満員の店内は活気があるが、しみじみ飲める雰囲気でないのは残念。それでも休みなく包丁を振るうご主人から、酒や魚の話を楽しくうかがうことができた。お土産におすすめの珍味の店も紹介していただき、翌日はいい買い物をした。黒作りとホタルイカ沖漬け。自宅で日本酒とあわせおいしくいただいた。

「あら川」は刺身も種類豊富でおいしそうだった。大量に魚をさばくからこそ手に入る珍味の素材。珍味三昧できるのも人気店ならではなのだ。「今度は1軒目に来てくださいね」とご主人。でも4時からやってる老舗「親爺」には勝てないかな。

老舗居酒屋「親爺」 冬の魚

親爺「アート道楽ツアー」といいながら、冬の富山に来たからには、日本海の魚を楽しまなくては。最初の居酒屋はなんと午後4時開店の「親爺」で決まりだ。(画像は帰るときに撮ったもの。来店時はまだ明るかった)

50年以上の歴史を持つという「親爺」。建物こそ新しいビルになっているが、カウンター席に座れば、清潔で凛とした落ち着いた雰囲気が感じられる。オヤジさん・おかみさん・息子さんの家族で切り盛りし、皆さんとても気さくで、はじめてでも和める。4時を過ぎたばかりで、カウンターには早くも客が並んで活気がある。

ちょっと通ぶってふくらぎ(ブリの子ども)の刺身をお願いすると、「今日は13キロもののぶりが入ってますから、ふくらぎと食べ比べなんかどうですか?」と息子さん。出てきたのは、ぶりの腹側と背側・ふくらぎ。実にきれいな色だ。ぶりの腹側は大根おろしを添えて食べる。そうすると脂の乗り切った身が軽さを加えますます旨い。ふくらぎはぶりに比べ歯ごたえがあり、フレッシュな旨さがある。臭みもしつこい脂もない天然ものの寒ぶりはやはり格別。

最近、佐藤浩市がコマーシャルで食っているせいで、「ぶりしゃぶやってますか」という問い合わせが多いという。「養殖だったらしゃぶしゃぶもいいけど、天然ものは刺身が一番。もったいないよ」とオヤジさんは言う。

この店の名物が、カウンターの中の大きなおでん舟に仕込まれたおでんだ。カニ面すりみ(つみれ)をいただいた。カニ面というのは、香箱ガニの1杯の身をほぐし、カニ味噌、香箱ならではの卵と和え甲羅に詰めたものをおでん舟で温めた逸品。カニの風味と薄口の上品なおでん出汁の旨みが渾然となり、繊細な美味だ。すりみはイワシだけでなくアジも加え臭みがおさえられ、ボリュームたっぷり。

寒ぶりカニ面











タラ塩焼きゲンゲ汁











焼物はタラの淡白さを楽しむ塩焼き。焼加減が絶妙で香ばしい。しかしこの店の真価を最も感じたのは、締めに頼んだゲンゲ汁だ。ゲンゲとは身体のまわりがぬるぬるとしたゼラチン質の深海魚で、以前金沢で干物を焼いたのは食べたことがあった。しかしこのぬるぬるした食感を楽しむには汁物しかない。そう断言させる抜群の旨さであった。ほんのり甘めで醤油味の出汁にたっぷりのネギ。ゲンゲの旨みがひき出されたスープをもちろん完食。こんな地元ならではの珍魚を美味しく食べるのが、旅めしならではの楽しみだ。

「親爺」は富山の地酒も豊富に揃っている。洒落て高価な吟醸酒ばかりではなく、純米の普通酒を燗で楽しめるのが私の嗜好にはぴったり。どっしりとした三笑楽が気に入った。

オヤジさんは遠来の客を喜んでくれ、いろいろなお話をうかがった。店には一切色紙などが飾られていないのだが、私が料理の心の師と仰ぐ「壇流クッキング」の壇一雄も度々飲みに来たのだとか。常連さんが持ってきたアケビをおすそ分けしてもらったり、帰りには「夜食にでも食べて」とおかみさんにおにぎりをいただいたり、ほんとに温かいもてなしを受けた。長い間人々に愛され続ける居酒屋の真髄を垣間見た。富山に行ったら真っ先に駆けつけたい店である。

親爺ホームページ

内藤礼「母型」展@発電所美術館

発電所美術館光の館の十日町・発電所美術館の入善(にゅうぜん)、両駅に停まる数少ない特急列車の1本に乗り入善へ移動。さびしい小さな駅前からタクシーで10分ほどの発電所美術館へ向かう。

周囲は富山に典型的な散居村集落で、田園の中にポツリポツリと防風林に囲まれた家々が点在する。

発電所美術館は取り壊し予定だった古いレンガ壁の水力発電所をリノベーションした美術館で、開館は1995年。その存在は以前から気になっていたのだが、何しろ辺鄙な所在なので訪れる機会がなかった。

しかし昨年、秋から冬にかけて内藤礼「母型」展という個展が企画されていると知り、このチャンスに旅することにしたのだ。

「母型」展は究極のストイックなインスタレーションだった。画像は普段の発電所美術館の内部を写したもので、奥にタービンや計器類が並ぶほかは、ガランとした空間が広がっているが、今回の展覧会場の風景、ほとんどこの画像のまま。そう、何もないのだ。

会場内では靴を脱ぐように指定があって、冷たい床の感触をじかに感じる。私はどうせならばと靴下も脱いで素足になってみた。冬の凛とした空気がはりつめた空間に身体が溶け込んでいく。

まず、気がつくのは中2階になったフロアに展示された美しい青い写真の連作「母型」。そして会場の数箇所に小さな水のたまった場所があることがわかる。天井からしたたり落ちる水滴が集まっているのだ。このタイトルも「母型」。フロアの隅に置かれた椅子に腰掛け、静かな空間にしばし佇む。

しかし、この他の作品が見つからない。やがて天井や窓の並んだ壁を見上げていて、中空にはり渡された細い糸が、数本光を受けているのを捉えることが出来た。これが「恩寵」。床のどこかにペンで描かれているらしい「世界に秘密を送り返す」という作品は、とうとう見つけることができなかった。作品が見つからない美術展。こんな体験初めてだ。

「母型」展を鑑賞する者は、結果的にこの発電所の遺構である空間を隅々まで味わい、そこに流れる歴史に包み込まれることになる。発電所美術館という特異な場の持つ力を、これほどまでに繊細な手つきで引き出して見せた内藤礼。

アートと場の静かで美しい出会いがそこにあった。

発電所美術館1発電所美術館2発電所美術館3






発電所美術館に併設されていたというレストランは、廃業していた。裏手の高台からの遠望は雄大で、かつての導水管の造形が面白い。寂しい入善の町で「玉貴」という居酒屋を見つけて、ランチタイムの刺身定食を食った。なかなかの美味。そして富山市へと、旅は続いたのである。

発電所美術館HP

光の館 アートに泊まる

光の館金沢21世紀美術館「Blue Planet Sky」直島「オープン・スカイ」に続き、新潟県十日町市の「光の館」に宿泊体験することが出来た。昨年春に直島の地中美術館で「オープン・スカイ」の日没を鑑賞するナイト・プログラムを体験し、「光の館」も是非という気分が高まっていたことに加えて、12月中旬まで富山の発電所美術館で内藤礼の個展が行われていたことが旅の決め手になった。

しかし、天井にぽっかりあいた空を見上げるタレルのこの作品、金沢・直島は観賞場所が屋外の構造になっているので雨が降っても体験できるが、新潟の「光の館」はなんと12畳の和室の屋根がスライドして空を見られるようになっているのだ。12月という天候の不安定な時季に宿泊するのは確率の低い賭けだった。

光の館に到着した午後4時頃、空は曇り空から青空に変わり、さっそく管理人の女性に屋根を開けてもらいじっと見上げた。白い雲が美しく流れる。吹きさらしの天井からは冷え切った空気が入ってくるが、部屋の暖房はダクトから強力に噴き出し快適だ。

管理人は隣接した小屋にいるが、夜は帰ってしまい、屋根の開閉も宿泊者の管理となる。荒天時の開閉による損害の賠償などについての誓約書にサインし、屋内施設の説明を受けた後は、この日は我々ふたりの貸切だった。部屋は屋根が開閉する12畳間と8畳間、6畳間。大きなシステムキッチンと広い風呂、トイレ2つなどがある。神殿のような外観・和風の内装と天窓のシステムのギャップが面白い。

光の館1光の館2光の館3






廊下外観風呂






やがて日没の時間が近づきコンピューター制御のライト・プログラムが始まった。空は曇ってきたが何とか降らずにすんだ。地中美術館の空との補色を鮮やかに使ったプログラムに比べ、シンプルなライティングの変化だが、暮れ行く空の色を切り取っただけでこんなにも深い色調の変化を体験できるとはなんとも不思議だ。淡い青から濃紺、漆黒まで、移ろう空を和室の畳に寝そべって味わえるというのは極上の気分だ。

日が暮れたあとの「光の館」の佇まいも格別。室内の調光器はタレル指定の照度に設定され、薄暗いほのかな陰影を味わう。風呂はすっかり闇の中で、浴槽に設置された光ファイバーだけが光源の神秘的な空間に生まれ変わる。24時間いつでも入れる、4人でもゆったりのこの風呂、さすがに循環バスで、塩素臭さはいまいちだったが。

夕食は山菜・野菜を中心にしたケータリングを頼んだ。冷蔵庫には新潟の地酒が各種、冷えている。

やがて降りだした雨は夜通し続き、夜明け前に一旦やんだものの、霧雨が続き、夜明けのプログラムは断念せざるを得なかった。

光の館の宿泊料金は、何人で泊まっても基本使用料2万円がかかる。(2人で泊まればひとり1万円づつの負担)これに1人当たり3000円の宿泊費、寝具・タオル代500円などが加わってくる。キッチンや食器の使用は無料なので、大人数で宿泊して宴会を楽しむグループもいるとか。ちなみに宿泊希望が何組か入ったときは、宿泊者に部屋のシェアの仕方などをまかせ同泊となることもある。(相部屋にはしないそう)

半年前から、週末は予約で埋まる「光の館」。これからますます予約困難になっていきそうな気がする。文字通りアートに泊まる体験。直島のベネッセハウスに泊まる比ではない。

光の館ホームページ

原広司の十日町ステージ・キナーレ

中庭エントランスキナーレ外観






越後妻有アートトリエンナーレの拠点施設として2003年のトリエンナーレで完成した十日町ステージ・越後妻有交流館キナーレは、原広司の設計。十日町の駅からジェームズ・タレルの「光の館」にタクシーで向かう途中、車を待たせて軽く見学する。

原広司のいつもの細部にこだわった過剰な装飾性はなく、シンプルなモダニズムで統一されている。中央の池を囲んだ口の字型、2階建てのプランは、取り立てて特徴はないが、整然と並ぶ列柱が水面に映え美しい。

建物内部には、きもの歴史館、地元物産店、日帰り温泉「明石の湯」などの施設があるが、タクシーの運転手の話では、無機的なコンクリート造のこの温泉、あまり人気はないのだという。それでもキナーレは地元でイベントがあるときは、そのスペースを活用されているようだ。

キナーレ階段室の照明は、神奈川の国民宿舎丹沢ホームのものによく似たチープなデザインで、キナーレが簡素な設計に落ち着いたのも、不十分な予算の都合もあるように見受けられた。コンクリートとガラスで構成された地味なデザインには、原広司ならではの魅力はいまひとつだった。

そのあとコンビニでビールや翌朝の食事などを買出し、タクシーは山中に向かって走っていった。

十日町ステージ・越後妻有交流館キナーレ

2007年最後のアート道楽ツアー

光の館富山県の入善町にある、水力発電所跡をリノベーションした美術館、「発電所美術館」のことは前から気になっていた。内藤礼「母型」という企画展をこの秋からやっていると知り、はるばる訪れるならこの機会と思い立ち今年最後のアート道楽ツアーに出発した。

上越新幹線・ほくほく線経由のルート上にある新潟県十日町のジェームズ・タレルの「光の館」にも宿泊。この時季は天候に恵まれないことは覚悟で訪れたのだが、幸運にも夕暮れのライト・プログラムは体験することができた。夜明けは残念ながら雨のため屋根を開放できず。「光の館」は宿泊する和室の天井の屋根がぽっかりオープンするのである!まさにアート作品そのものに宿泊できるスポット。積りはじめの雪景色も美しかった。

発電所美術館は、入善という小さな駅からタクシーで10分ほどの田園風景の中にあり、内藤礼のインスタレーションは究極のストイックさ。直島の「きんざ」をさらに超えて一見なにもない空間の中に、微細な「もの」を発見していく体験をした。この美術館を訪れる過程そのものが一種の「巡礼」のような世界であった。しかし併設されているレストランは廃業しており、先行きは心配な美術館だ。

現代美術のコレクションと瀧口修造の展示室で知られる富山県立近代美術館の常設展はうわさどおりの充実した内容だった。

夜は富山の居酒屋で地酒と冬の魚を味わい、友人Takaとふたりの忘年会旅行でもあった。富山に個性的なラーメンの老舗が多いことも知った。内藤礼の「母型」展は12月16日(日)まで。その後発電所美術館は冬季の休館期間を迎える。

以下、旅の行程の記録。

12月7日(金)

東京―越後湯沢―十日町

十日町ステージ「キナーレ」(原広司)
光の館宿泊(ジェームズ・タレル)

12月8日(土)

十日町―入善

発電所美術館「内藤礼 母型」展

入善―富山  

親爺(居酒屋)
あら川(居酒屋)
ジェリコの戦い(ジャズ・バー)
大喜(富山ブラックラーメン)

富山泊

12月9日(日)

富山県立近代美術館(常設展)
まるたかや(ラーメン)

富山―魚津

埋没林博物館・蜃気楼ハイビジョンシアター(天然記念物脱力スポット)
ありそドーム(巨大建築)
ねんじり亭(居酒屋)

魚津―越後湯沢―東京


今年ほど地方へアートツアーを重ねた年はかつて無い。高松・直島・京都・中之条・豊田・奈良・新潟・富山。今回はそんな1年の締めにふさわしい充実した旅となった。旅で飲む酒の旨さも忘れがたい。

光の館 発電所美術館 富山県立近代美術館
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テツ

「中年とオブジェ」とは赤瀬川原平の名著「少年とオブジェ」へのオマージュである。美術、オブジェ収集、エリック・ドルフィーを愛好する。

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