中年とオブジェ

美術館・街で見かけたオブジェ 旅先で手に入れたオブジェ オブジェの視点で世の中を楽しむ中年の日常。

ヤノベケンジ

都現美をまわって思ったことなど

ヤノベケンジビートたけしのコラボレーションによる新作巨大オブジェが登場ということで、期待と不安ない交ぜに久々の都現美へ。わたくし、ビートたけしのアートとの関わり方については積極的に嫌いである。自分の書き溜めた絵画作品で静かに個展やってるころはまだよかったけど。

ヤノベさん、こんな半端な仕事やらない方がいいよ。井戸の中から頭に斧のささったジャイアントトらやん頭部の縮小版みたいなのがひょろりと起き上がって、口からたらたら水がこぼれる……

はっきりいってトらやんファイヤーや、発電所美術館の大洪水、第五福竜丸や福島空港にサン・チャイルド設営した作家のやる仕事じゃあないでしょ。




MOTアニュアル2012「風が吹けば桶屋が儲かる」でグッときたのは、田村友一郎下道基行のふたり。

田村の美術館の所蔵品を利用しての美術展内美術展の企てもいいのだが、地下3階駐車場の闇の中に仮構された日本家屋の悪夢のような印象が今も心に残る。冥界めぐりのような儀式めいたマニュアルによるインスタレーション体験は、この場所の歴史の重層性に思いをめぐらしつつ遊戯性を帯びている。この家の表札や、口にくわえさせられる懐紙の意味は、自分で確かめるのがよいでしょう。ダクトの振動が伝わるのかカタカタと微震を繰り返す家屋の中に佇んでいると、現在と地続きの不安な気持ちを呼び起こされもしました。




台湾やサイパンに遺された日本統治時代の神社の象徴「鳥居」のある風景を写真で切り取った下道基行。鬱蒼とした茂みの中に佇立し、公園の中で倒れベンチのように人々に腰掛けられ、静かな写真がいっそうその場所に積み重なった時間の存在を伝えています。原爆を投下した爆撃機の出撃基地であったテニアンに遺された鳥居の写真には、なかでもズシリとしたインパクトを受けました。下道が各地の戦争遺跡を撮影した一冊「戦争のかたち」を、ミュージアムショップで買い求めました。


私自身、忘れられない鳥居のある風景があります。1980年代終わりごろ日本各地の旧炭坑町の廃墟を探し求めたときに、長崎の島の炭坑、崎戸でその鳥居に出会いました。町が消え去った荒れ野の中にぽつんと鳥居だけが遺されていたのです。






よく見ると奉献したのは「鮮人一同」。戦前戦中に建立されたものなのでしょう。


風桶展、全般には深い印象はありません。何も展示室に出品しない田中功起が「裸の王様」に感じられるのは、私のセンスが古いのでしょうね。


常設についても簡単に。展示室冒頭の鹿子木孟郎の関東大震災のスケッチ連作にはじまり、新海覚雄の労働者像がヘビーに展開。スタイリッシュな亀倉雄策のポスターのコーナーで「原子エネルギーを平和産業に!」と「Hiroshima Appearis」が対峙して展示されているのは圧巻でした。静かな中に、主張の込められた常設展になっていると思います。

「アートと音楽」?一応観ましたが特にいいたいことは……

あけましておめでとうございます





中年とオブジェ
今年もなんだかワケのわからないブログを目指して
気ままに更新いたします。
どうぞ、よろしくお願いします。

今年が私たちにとってよき日々であることを願って
たのしく過ごしてまいりましょう。

第五福竜丸とヤノベケンジ









夢の島にビキニ環礁で被爆した第五福竜丸を保存する展示館がある。今年5月から、ヤノベケンジのサン・チャイルドやトらやんがこの第五福竜丸展示館に登場した。かつて死の灰が降り注いだ甲板に、鮮やかな黄色い放射能防護服「アトムスーツ」を着たトらやん達が並んでいる。6月24日には、閉館後の展示館でヤノベケンジと美術評論家の椹木野衣によるトークと、ヤノベの絵本「トらやんの世界 ラッキードラゴンのおはなし」をモチーフにしたライブ演奏が行われた。

トークの中で印象に残った言葉をいくつか拾ってみる。

ヤノベケンジ
・「サン・チャイルド」を構想したとき、恥ずかしいものを思いついてしまった。こんなべタなものをつくるのはまずいとも思った。アートではシニカルな表現のほうがかっこいい。でも今は恥ずかしいほどにポジティブなものを作るべきではないか。

・(核の問題、発電所美術館の大洪水などの仕事に対して)僕は預言者ではないけれど、もしも神様がそうした能力を与えていたのなら、これからは災厄を呼ぶようなものは作れない。

・チェルノブイリでアトムスーツを着て廃墟めぐりをしたとき、まだそこに住む人々に出会った。自分はアトムスーツのパフォーマンスという自己表現のために、この人たちを犠牲にしてしまったのではないだろうかとショックを受けた。福島に自分がアトムスーツを着て乗り込まないのも、チェルノブイリでの後悔からの想い。

椹木野衣
・日本のサブカルチャーは原点であるゴジラや、宇宙戦艦ヤマトの放射能除去装置など、核と放射能と被爆の歴史である。鉄腕アトムや仮面ライダー、ドラえもんなどは原子力の平和利用。

・放射能に対してはサブカルチャーの蓄積から免疫があった。地震の問題は実は大きな問題で、今一分後に大地震が起こるかもしれない。世界に原発が増え続け、世界各地で地震の多発期に入ったと思われる今、我々は震災の事後にいて、それに対応するばかりではなくて、これから起こる更なる災害に対する想像力を持たなければならない。

・(ヤノベのサン・チャイルドに対して)震災後を見すえて作品を作るのはまだ早いのではないか。今サバイバルの方がリバイバルより必要な状況に帰っているのではないか。

二人の対話は、阪神・淡路大震災、オウム真理教、東海村臨界事故、さらには戦後のアメリカから日本への原発の輸入の構造にも及び、現在まだわれわれが渦中にある東日本大震災以後にいたる状況を、ヤノベの表現活動の軌跡と重ねて考えさせられる内容だった。

トーク&ライブ終了後、夕闇の中に立ち上がるサン・チャイルドがライトアップされた。

2011年3月16日にヤノベケンジは「立ち上がる人々」と題したメッセージを発している。その一節。

今ここに芸術が必要か?の問いにはっきりと答えたい。今でこそ必要だ。と。

絶望の嵐の中に敢然と足を踏ん張り、前を見据え立ち向かう力を芸術は与えてくれる。
勇気と希望に溢れるクリエイティビティは生きることへの尊厳を意味する。


※第五福竜丸展示館でのヤノベ作品の展示は7月1日(日)まで

ヤノベさんについては過去何度もこのブログでとりあげていますが、「自閉」から「暴力性」への移行についてはコチラの記事でふれました。

ヤノベケンジ―ウルトラ

ヤノベケンジのサン・チャイルド




2月26日、岡本太郎の誕生日に青山の岡本太郎記念館を訪れた。企画展「ヤノベケンジ:太陽の子・太郎の子」の最終日。雑然とした冬の記念館の庭に、鮮やかな黄色い放射能防護スーツを着た「サン・チャイルド」がそびえていた。

6メートルを超える巨大な像は、記念館に近づいたときすでに塀の外から姿をのぞかせていた。大きいだけではない。サン・チャイルドは実にいい顔をしているのである。脱力系の愛嬌あるトらやんに対し、希望に満ちた若々しい表情のサン・チャイルド。





岡本太郎記念館内部には、いたるところにトらやんたちが出現し、おなじみ太郎の人形に向かい合って、空也上人ポーズのアトムスーツを着たヤノベケンジ人形が突っ立ている。その異形に太郎がたじろいでいるかのようだ。岡本太郎のアトリエを訪問するというよりも、ヤノベケンジが太郎を乗っ取ったとでもいうべき構図。かつて「太陽の塔乗っ取り計画」を敢行したヤノベが、またしても太郎ジャックを仕掛けたのだ。

サン・チャイルドは大阪の万博記念公園、岡本太郎記念館を旅したのち、大阪の阪急南茨木駅前のロータリーに設置され3.11に除幕式が行われたそうである。茨木はヤノベケンジの出身地である。

3.11、原発事故、アトムスーツ、トらやん、そしてサン・チャイルド。ヤノベケンジの仕事には、先鋭なアーティストが持ちうる、世界のありようを予見する異能を感じずにはいられない。






2010年に富山の発電所美術館で行われた「大洪水」も、今思えば、そんな世界のダークサイドを見通してしまうヤノベの異能が発揮されたインスタレーションであった。洪水に飲み込まれる人家らしき建造物の姿が今にして3.11の大津波のヴィジョンと結びついてくる。この企画展自体、もし実施が3.11以降であったならば自粛もしくは展示内容に干渉がなされたに違いない。

来るべき世界を予見し、乗り越えていこうとする意思。ヤノベケンジはダークな妄想力、異能に支えられた稀有なアーティストである。

空也上人 フィギュアになる!





最近の仏像フィギュア化ブームもすごいもので、とうとう六波羅蜜寺の空也上人像なんていうマニアックなフィギュアが登場した。口から飛び出す「南無阿弥陀仏」の六字をあらわすという六体の小さな阿弥陀仏まで再現されている。このフィギュア、インテリア小物として仏像を飾って欲しいというコンセプトで大小さまざまな有名仏を再現しているメーカーの商品なのだが、空也上人の鬼気迫る清貧なるお姿は、物欲にまみれたおのれの部屋の姿に対していやおうなく反省をうながすのだ。

きれいに片付いたモダンな部屋の中に置かれたなら、仏像も上質なインテリア小物になりうるのか?私のようにオブジェにまみれた生活では実感がわかないが、お洒落な空間に空也上人はちょっと困るでしょう。

ヤノベケンジも、アトムスーツを着た空也上人スタイルの等身大の自己像を作品にしているが、空也上人像の過剰な造形は、ヤノベのサービス精神旺盛な関西仕事と通じている気もするのである。

2010年 私のお気に入り アート

大洪水5


目黒区美術館の炭鉱展で燃え尽きた昨年末いだいた、2010年のアート体験には満足できないかもという杞憂は、なかなかの収獲の前に杞憂に終わりました。
今年の収獲ベスト5と、次点の5展を振りかえります。

1位 ウィリアム・ケントリッジ―歩きながら歴史を考える(東京国立近代美術館)
・今年のナンバーワンはケントリッジ以外ないでしょう!東近美で鑑賞後、パフォーマンスが観たくて広島まで遠征してしまった。南アフリカの歴史・社会に対して政治的文脈でメッセージを発する作家という認識しかなかったのだが、ステレオスコープなどの光学装置の探求など、人間の視覚自体を考察する作品に触れた収獲。アニメーションに対しても、残像による錯視効果という根源的な次元で創作に臨んでいるのだと理解できた。同時代の作家としてフォローしていきたい深く器の大きいアーティストだ。

2位 ヤノベケンジ「MYTHOS」/第2章「大洪水」(発電所美術館)
・まさしく想像力の見取り図としてのアートを体現する壮大で精緻な模型。圧倒的神話的暴力。

アートこそはこの世界の成り立ちを抽出して写し出す「模型」を造る営為であると思う。たとえば自然の猛威である大洪水を、反復可能で安全な模型化した発電所美術館のヤノベケンジ。
「中年とオブジェ」2010.9.15

3位 森村泰昌・なにものかへのレクイエム(東京都写真美術館)
・エントランスホールで上映したミシマが旧作ながらやはりカナメではないかなあ。森村泰昌のこれまでの手法の達成と、これからの展開を期待させずにはおかない多くの萌芽を見出した展覧会。

4位 長谷川りん二郎展(平塚市美術館)
・未知の画家との出会い。ひとつの小宇宙を観察するひそやかな愉しみ。
この展覧会のレビューは、今年書いた展覧会評のなかでも、意が尽くせる文章にできたと思っている。

たぶん彼はモノの内部にどんな「意味」がかくされているのか
追求したいのではないのだ
ただ内部と外部を分かつことで成り立つ
モノの構造そのものを
画面に定着させたいのだと思う
「中年とオブジェ」2010.6.11

5位 鴨居玲 終わらない旅(そごう美術館)
・絵画はここまで深く、残酷に人間の表層を剥ぎ取り、その内奥をさらけ出せるものなのか。
絵画を突き詰めすぎたはての画家のあがきの激しさに戦慄した


古賀春江の全貌(神奈川県立近代美術館葉山館)
・水彩画からキュビスム、クレーの影響、シュールなコラージュ絵画から晩年に至る一人の作家の表現の変遷を読み解く醍醐味を感じた展覧会。とくに精神病者の描画さえを渉猟して自らのモチーフとして再構築した諸作品には、新たなる図像を模索し続けた古賀の憑かれたような執着を感じた。

古屋誠一 メモワール.(東京都写真美術館)
・精神を病み自死した妻の写真をもとに、妻の死後、その記憶を紡ぎなおしつづける作家の営為に、
心震わせられた展覧会。個の記憶から出発して、写真とは何かという命題にまで照射する光を垣間見た。

椿昇 GOLD WHITE BLACK Complex(Think Spot KAWASAKI 旧日本鋼管体育館)
・朽ちた暗い体育館のなかに横たわる巨大ミサイル。短期間のプロジェクトに立ち会うことができた幸運。この空間でしか成り立たない「場」の力を生かした強力な企画だった。

特別展 長谷川等伯(東京国立博物館平成館)
・松林図屏風が、宮沢賢治の「月夜のでんしんばしら」にオーバーラップしたり、何かを描いているのではなく、具象を飛びぬけて描線そのものが自由なイメージをかきたてる体験をした。もはや「古典」の一語で回収することができない。

音が描く風景/風景が描く音 鈴木昭男・八木良太展(横浜市民ギャラリーあざみ野)
・小さな、軽やかな、シンプルな、知的で身体的な二人展。さらりとしていて味がある。

ミサイル


このほか、青森・十和田へのアート旅も忘れがたい。(旅めしも充実してたし)

映画「ANPO」から「池田龍雄アヴァンギャルドの軌跡」への流れも印象的。池田展はまだ会期中なのでおすすめします。

今年グッと来た作品としては風間サチコ「大日本防空戦士・2670」(voca展2010)も挙げておきたい。風間さんにも聞いたのだけど3年に一作できるかどうかの力作だった。

藤森照信の樹上の茶室「高過庵」体験については、私のお気に入り建築編に組み入れます。楽しかった。


本年の「中年とオブジェ」はこれにて打ち止め。来年もよろしくお願いします。

ブログ5周年 柏手打って御礼

JR東日本通販

もうすぐ9月21日。ブログ「中年とオブジェ」もとうとう5周年を迎える。今夏の青森旅行の折、新幹線車内の通販カタログからまた珍妙なネタを入手した。光触媒の人工「さかき」と、柏手を2回ならすと15秒間点灯する灯篭。15秒って、いったいどこからわり出された長さなんだ?

先日、千葉市美術館の「MASKS―仮の面」展を観て「移動する聖地」という小文を書いたけれど、神棚というのも仮面同様、自宅に携帯する「聖地」だよなあ。本当の聖地の仮の姿。いわば「霊性の模型」に向かって柏手を打つ。だったら「さかき」や灯篭だって「模型」でいいのかもしれない。

「中年とオブジェ」も最近はアートのネタにシフトしてきているのだが、アートこそはこの世界の成り立ちを抽出して写し出す「模型」を造る営為であると思う。たとえば自然の猛威である大洪水を、反復可能で安全な模型化した発電所美術館のヤノベケンジ

宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の中には「標本と模型」のモチーフが繰り返し描かれる。午后の授業で見る「銀河の模型」。第三章に登場する「鉄道の模型」とジョヴァンニの父が学校に寄贈した「巨きな蟹の甲らだの、となかいの角だの」の標本。そしてプリオシン海岸では、学者が120万年前の化石を「標本」にするため発掘している。

標本や模型というのは、世界を知るための見取り図であろう。建築模型や設計図から、建築物の生み出す空間に思いをめぐらすように、アートを介して人は世界の成り立ちを想像する。私はアートの魅力を、「模型」としての精緻さ・巧妙さと、それが喚起する想像力の大きさに求める。

模型としての完成度のみを誇るアートでは、満足できないんだなあ。

※昨年、Twitterをはじめて以来、食い物のことをブログで書くことがめっきり少なくなった。つぶやくだけで終わる展覧会も多い。これからの「中年とオブジェ」は、どうしても考えを書きまとめたい時・写真をアップしたい時の更新となるでしょう。できは悪くても、おやっと感じられるような「模型」を作っていければと思います。

ヤノベケンジ「大洪水」 YouTubeにアップ



ヤノベケンジ×ウルトラファクトリー
MYTHOS(ミュトス)
第2章「大洪水」

2010年8月21日
下山芸術の森 発電所美術館(富山県入善町)

長い動画ですが、きそうでこない「大洪水」に翻弄される気分を感じてください。

追記:9月23日(木・祝)まで、大洪水が見られます!これは見逃せません。

大洪水@発電所美術館 神話的暴力

大洪水1
大洪水2
大洪水3
大洪水4
大洪水5
大洪水6
大洪水7


ヤノベケンジ、5トンの水で大洪水!本日8月22日最終日です。トらやんファイヤー超えた衝撃。恐るべき神話的暴力。
memeさんの「あるYoginiの日常」のレポートを是非。

追記:9月23日(木・祝)まで、大洪水が見られます!これは見逃せません。

ヤノベケンジ―ウルトラ

サヴァイヴァル・システム・トレイン

東海道ぶらり旅の道すがら、豊田市美術館ヤノベケンジ「ウルトラ」展を観た。会場に入ると冒頭に「サヴァイヴァル・システム・トレイン」が現れ、観客をこれからはじまるヤノベ・ワールドへ導いていくかのようだ。

サヴァイヴァル

ヤノベは1990年代、核の脅威とともに生きる時代の「サヴァイヴァル」をテーマに、放射能防護スーツやシェルター機能を持つ機械彫刻を数々制作した。造形的にはこの時期のヤノベ作品に、最も先鋭的な魅力を感じる。ヤノベの肥大した核への畏怖感を、「被害妄想」と呼んで済ましてしまえるのかという同時代への問題提起がその根底にはある。

赤い森

展示室「赤い森」は、カーペットの上に靴を脱いで上がることで、作品を一層親密に感じられる仕掛けになっている。無数のトらやんフィギュアが立ち並び、天井には幻想的で美しい光を放つオブジェ「ファンタスマゴリア」。こどもだけのための小さな映画館「森の映画館」も設置され、ヤノベ流のファンタジーの世界が展開される。放射能防護服「アトムスーツ」から派生して生まれた「トらやん」は、トリックスターとして、ヤノベの世界を「サヴァイヴァル」から「リヴァイヴァル」へと移行させた。しかし、表面的には被害妄想的自閉からポジティブな未来への指向へと変化したかに見えるヤノベの世界は、ジャイアント・トらやんの火炎を放射する暴力性に象徴されるように、自閉から攻撃性への移行と表裏一体の変化をしているのではないだろうか。

ウルトラ―黒い太陽

ヤノベの新作「ウルトラ―黒い太陽」は、巨大な角が突き出たドームのなかで強烈な放電が引き起こされるオブジェだ。パフォーマンス開始前には、強い電磁波により携帯電話が破損する恐れがあるので電源を切れとアナウンスがあり、観客がどよめく。

そしてその放電パフォーマンスは、すさまじい轟音をともない、恐怖さえ感じさせる暴力的なものだった。そこには、ジャイアント・トらやんのファイヤーに感じられたような人間の火への原初的な畏れと歓びといった感情とは別次元の、リアルな暴力の恐ろしさが感じられた。実のところ、当日は「ヤノベケンジ、またまた馬鹿なことやらかしたなあ」と軽くとらえていたのだが、今あの日の体験を思い出すと、背筋がぞくっとするような「暴力への恐怖」がよみがえってくるのだ。

村上春樹は初期3部作のような内省的で自閉した作品でひとつの世界を構築したあと、「ノルウェイの森」などで回復と再生の物語を展開し、やがて「ねじまき鳥クロニクル」や「海辺のカフカ」などで、圧倒的な暴力を表現の中に噴出するようになった。新作「1Q84」は未読だけれど、「暴力」というモチーフがどう展開されているのかが気になっている。

ヤノベケンジは絵本「トらやんの大冒険」のように一見ソフトで、キャッチーな世界を指向してしまったかに見えるが、ポジティブな「リヴァイヴァル」は不条理な暴力というダークサイドなしには存立しえないのかも知れない。

明るい光は、暗い影を生み出す。

黒い太陽のためのドローイング「ヤノベケンジ―ウルトラ」展は、6月21日(日)まで。最終日にヤノベのアーティストトークがあるそうです。
※会場内は撮影が許可されています。(フラッシュは不可)

トらやん火を噴く 六本木アートナイト

ジャイアント・トらやん

土曜の宵から深夜にかけて六本木アートナイトに行って来ました。ヤノベケンジジャイアント・トらやんが、ついに六本木ヒルズに出現です。六本木ヒルズ・ミッドタウン・国立新美術館など各所に現代アート作品が展示され、屋台が出て、街はアートのお祭りといった一夜でしたが、トらやんはまさに祭りの主役の御神体。巨大なのに愛らしいトらやんが、荒ぶる神に変化(へんげ)し、火炎を噴く姿は夜の闇の中、一段と美しく強烈でした。炎は観衆の心を掴み、どよめきを起こし、原始からの拝火信仰の心は現代にも生きているのだなあと思わせました。キャンプファイヤーが人を高揚させるのにも似て。

28日午後10時からのヤノベのトークでは、お馴染みのトらやん誕生秘話から、大阪万博の時、太陽の塔の目の中に立てこもった伝説の「目玉男」のインタビュー映像、ヤノベ自らがアトムスーツを着て太陽の塔に登るドキュメントなども大スクリーンで上映。

ジャイアント・トらやんの足元には、アトムスーツ・元祖トらやん数体・太陽の塔の大型モデル、そして岡本太郎の等身大人形(青山の記念館で会えるやつ)などが並び、コアな雰囲気に満ちていました。ヤノベのトークの後は太郎の「手の椅子」にヤノベと平野暁臣(岡本太郎記念館館長)の2人が腰掛け、万博・太郎というヤノベの創作のルーツをめぐって対談。

ファイヤーファイヤー ファイヤー

そしてメイン・イベントは深夜0時半から始まりました。赤い服のダンサーの女の子が舞い、白服の宗教がかった男達の登場。そして「ファイヤー」です。冷え込んだ夜でも、トらやんが火を噴くとほわっと暖かさが!

その後、ミッドタウンの芝生広場を埋め尽くした光る風船の群れを眺め、国立新美術館の前で石川直樹のボロボロになったカメラとフィルムに見入り、再び六本木ヒルズに戻ると、深夜2時のトらやんイベントが始まりました。ファイヤーのあと、なんと、巨大な動力つきの台車に運転手が乗り、トらやんがヒルズアリーナの会場からゆっくりとお練りを始めたのです。これが「トらやんウォーキング」だったのか。高層ビルをバックに夜のヒルズを悠然と移動するトらやんの巨体。ヤノベケンジの妄想炸裂。驚きました。

会場の片隅にいたヤノベケンジを見かけ声をかけると、彼は「まるで怪獣映画みたいやろ」と不敵な笑みを浮かべ答えてくれました。「横須賀のときみたいにヤノベさんのシャウトを期待してたんですよ」と話すと、「今日はやらない。アーティストとしての立場もあるから。あの日は台風も来てたし、特別だったんや」

ウォーキングヒルズに巨大ロボ

深夜の六本木から車を運転して帰宅。(六本木ヒルズの駐車場はこの夜、無料でした!配布されたガイドブックと駐車券をヒルズ・カフェ前の受付で見せれば無料に。気がつかない人多かったんじゃないかな)あの後、さらに強力なパフォーマンスが行われたのかどうかはわからない。豊田市美術館のヤノベケンジの「ウルトラ」展、行かないわけには行かないな。

それでは動画で「ファイヤー&ウォーキング!」



※横須賀美術館でのファイヤー体験記はこちら

〈生きる〉展

私たちを夢見る夢ジャイアント・トらやんの火炎放射を見たくて出かけた横須賀美術館だが、開館記念企画の〈生きる〉展は、9人の多彩な作家の作品が展示され楽しかった。大作「私たちを夢見る夢」などの新作に、人物表現の深まりを感じさせる小林孝亘(たかのぶ)は、ポップな中に静謐で精神性を伝える美しさがある。2000年の作品、「Forest」の木漏れ日に輝く静かな緑の描写も印象に残った。

舟越桂の彫刻はまさにバロック的な展開を深め、妊娠したように腹部の膨張した女性や、乳房と男根を持つ両性具有の人物を克明に彫り上げる。かつての文学的で静的な表現から、音楽的で官能的な表現へ。これからの作品はどうなっていくのだろうか。

ばかばかしいオブジェやパフォーマンスの記録を見せたのは木村太陽。マネキンの頭から掃除機のノズルが伸び、尻が掃除機本体につながっているという珍妙なオブジェや、床屋の練習用の頭部オブジェを壁に詰め込んだ作品など、面白いけれど、グロテスクでちょっと品がない。

石内都は、手術跡のある女性のヌードなどを被写体にした写真でさすがの風格。

トらやんフィギュアヤノベケンジは、トらやんのフィギュアを大量に行進させたインスタレーションとジャイアント・トらやんの抜群の存在感で、完全に他の作家を圧倒。火炎放射イベントも決行したし、今回の〈生きる〉展はヤノベの反則勝ちか。

意外にも有名作家が多くて驚いたのが常設展のコレクション。名前だけ並べると東京国立近代美術館にも負けてない。でも作品がマイナー揃いなのは仕方ないところか。萬鉄五郎・三岸好太郎・松本竣介・古賀春江などなど。ただ、常設展示室の設計があまりにモダンなので、どちらかというと近代絵画向きではない感じがする。

横須賀美術館の目玉、谷内六郎館の常設展示はさすがにいい。週刊新潮の表紙絵展が展示替をしながら長期継続する取り組みは、地味ながら貴重な試みだ。谷内六郎の初期の精神の暗部を感じさせる作品も特集コーナーで取り上げられており、谷内が単なる叙情的な国民画家といった範疇には収まらない画家であることが伝わってくる。画家宣言以降の、殊に近年の横尾忠則の絵画には、私は谷内の病んだ部分に通じる魅力を感じのだ。

The Day of TORAYAN

トらやん


















皆さん、僕が「僕らの上に」といったら「太陽を」といってください。

ヤノベケンジの指示により、ヤノベと観衆のコール&レスポンスがはじまった。

「僕らの上に」「太陽を!」「僕らの上に」「太陽を!」

ドラムス、パーカッション・パッド、サックスのリズムが加わりビートに載せてヤノベがシャウトを繰り返す。観客も声を合わせテンションがピークに達したとき、カッと口を開いたジャイアント・トらやんが、ついに火を噴いた。

数メートルに達する火炎が何度も繰り返しブォーっと噴射される。最前列で見ていたので、すごい熱波がおそってきた。顔と身体がカーっとほてる。黒煙がもわもわと展示室の吹き抜けを立ちのぼっていった。会場は歓声と拍手に包まれた。

7月14日(土)、台風が接近し波荒い海に面した横須賀美術館。「The Day of TORAYAN」と題されたイベントが行われた。「トらやん」とはもともとはヤノベケンジの父親の腹話術人形。これにヤノベのデザインした放射能防護服「アトムスーツ」を着せたキャラクターが、手に手に楽器を持ち行進し、観覧車に乗り、美術館の展示室にズラリと並んでいる。その背後には「トらやん」を巨大化したロボット「ジャイアント・トらやん」がどかんと座っている。ジャイアント・トらやんは高さ7.5メートル。足の裏には、万博記念公園と自衛隊のマークの入ったマンホールの蓋がはめ込まれ、背中には「フローラ」という巨大なラッパが取り付けられている。ガイガーカウンターが100回放射線を感知すると、このラッパが汽笛のような大きな音を響かせるのだ。

そしてこの日、ジャイアント・トらやんは火を噴いた!

※画像は、2005年の金沢21世紀美術館でのイベント時のもの続きを読む

トらやん フィギュアになる!

トらやんヤノベケンジのキャラクター「トらやん」がフィギュアになった!制作したのは青山のビリケン商会。ウルトラ怪獣のフィギュアや、オリジナル絵本、現代美術のギャラリーを手がける不思議な会社だ。「トらやん」とはもともと現代美術家ヤノベケンジの父親が使っている腹話術の人形のことで、これにアトムの頭のとんがりのような形をした、放射能防御服「アトムスーツ」を着せて作品として発表された。この「トらやん」が限定300体、シリアルナンバー入り、ヤノベのサイン入りでフィギュアとして販売されたのだ。

情報を知った私とTakaは、早速購入を予約し、ビリケン商会まで引き取りに行って来た。ギャラリーではヤノベケンジ「トらやんの世界」展が開催され、元祖トらやんをはじめ、数十体のフィギュアたちがズラリと並べられていた。

ビリケン商会オーナーといろいろお話ししたのだが、このフィギュア、ヤノベ氏も大変気に入り、販売分以外に200体が作家蔵となったそうである。横須賀美術館開館記念展で観ることができるそうだ。トらやんの次は、岡本太郎や草間彌生のフィギュアも構想しているそうで、楽しみである。トらやん、もちろん完売したそうです。
プロフィール

テツ

「中年とオブジェ」とは赤瀬川原平の名著「少年とオブジェ」へのオマージュである。美術、オブジェ収集、エリック・ドルフィーを愛好する。

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