中年とオブジェ

美術館・街で見かけたオブジェ 旅先で手に入れたオブジェ オブジェの視点で世の中を楽しむ中年の日常。

原広司

こどもの日





採集地 丹沢(国民宿舎丹沢ホーム)

隠れ家現代建築 丹沢ホーム




丹沢の山中にある国民宿舎丹沢ホームを今夏再訪した。京都駅ビル・札幌ドームなどを手がけた原広司による設計。建築的な側面については以前こんな記事を書いた。→原広司の丹沢ホーム







食堂の横の谷のような大階段がなんと言ってもインパクトがあるのだが、今回はこの大階段を上った裏手にある別棟に宿泊したため、デザインばかりでなく動線としての機能にも優れていることに気づかされた。また渓流側にある玄関口から、この階段を吹き抜ける川風の心地よいこと。

夜は夕食後、食堂のテーブルに陣取り持ち込んだチーズなどつまみにワインをオーダーしたのだが、なんと立派なワインクーラーで供され驚いた。山の宿の洒落た計らいに、そうか、ここは宿舎オーナーの住まう巨大な山荘に招かれたようなものなのだなと思い腑に落ちた。オーナー家族の居住スペースも、食堂の先のコーナーにレイアウトされているし、客の入浴が住んだあとに従業員も入浴。モダンで斬新な建築でありながら、デザイナーズホテルなどとは対極ともいえるこの居心地の良さは、民営国民宿舎であるこの山荘のオーナーが、自分自身の生活を愉しむ延長線上にゲストとして招かれている楽しさに負うところが大きいのである。

静かな山の夜が更けていった。



原広司の十日町ステージ・キナーレ

中庭エントランスキナーレ外観






越後妻有アートトリエンナーレの拠点施設として2003年のトリエンナーレで完成した十日町ステージ・越後妻有交流館キナーレは、原広司の設計。十日町の駅からジェームズ・タレルの「光の館」にタクシーで向かう途中、車を待たせて軽く見学する。

原広司のいつもの細部にこだわった過剰な装飾性はなく、シンプルなモダニズムで統一されている。中央の池を囲んだ口の字型、2階建てのプランは、取り立てて特徴はないが、整然と並ぶ列柱が水面に映え美しい。

建物内部には、きもの歴史館、地元物産店、日帰り温泉「明石の湯」などの施設があるが、タクシーの運転手の話では、無機的なコンクリート造のこの温泉、あまり人気はないのだという。それでもキナーレは地元でイベントがあるときは、そのスペースを活用されているようだ。

キナーレ階段室の照明は、神奈川の国民宿舎丹沢ホームのものによく似たチープなデザインで、キナーレが簡素な設計に落ち着いたのも、不十分な予算の都合もあるように見受けられた。コンクリートとガラスで構成された地味なデザインには、原広司ならではの魅力はいまひとつだった。

そのあとコンビニでビールや翌朝の食事などを買出し、タクシーは山中に向かって走っていった。

十日町ステージ・越後妻有交流館キナーレ

原広司の丹沢ホーム

丹沢ホーム秦野から丹沢山中へと車を走らせる。久しぶりの大自然の緑が美しい。ヤビツ峠を越え、しばらく下っていった渓流沿いに、丹沢ホームはポツンと建っていた。

原広司設計のこの国民宿舎については、ネット上にも建築サイドからの情報がほとんど見つからなかった。果たして予算に制約があるだろう小さな建築に、原広司の設計力はいかに生かされているのだろうか。木漏れ日を受けた玄関を入ると、吹き抜けの明るく広々した食堂と、まるで京都駅ビルを思わせる大階段が目に飛び込んできた。これは想像以上に凄い。

京都駅ビルの竣工が1997年。丹沢ホームの竣工が1996年だから、この大階段のアイデアは、ほぼ同時期に規模をちがえて構想されたものなのだろう。列柱の並ぶ廊下は、宮城県図書館とデザインが共通している。この階段の分を客室にしたら倍の部屋が取れる。この宿舎の御主人も自らそう認めていた。それでも実現したこのスペースには、グランドピアノも置かれていて、結婚式などのイベントにも使われるのだという。

この日は丹沢山中とはいえ、ものすごい猛暑。水着に着替え宿舎の前の渓流で水を浴びた。川遊びなどするのは学生の時以来だ。真夏の渓流の水はきれいで冷たくて極楽気分。

外観大階段客室











食堂食堂俯瞰渓流






列柱大階段の花客室廊下






客室は大階段をあがって、空中回廊のように伸びる廊下に沿って並んでいる。食堂の吹き抜けの上部に斜めに高くなっていく空間に配されている。しかし、エアコンの無いこの宿舎、客室の暑さは半端ではなかった。建物全体の熱気が部屋に上がっていく上に、窓は茶室風に小さく風通しが悪い。さすがにデザイン優先の現代建築の弱点も思い知らされた。夜には川風で気温も下がり、何とか扇風機の涼で眠ることができたけれど。宿舎のおばちゃんも「うちは天然暖房だからね」とあまりの暑さにやけ気味に言っていた。実際、この暑さは問題で、竣工の後に屋根に散水装置を設置したほど。それでも今年の夏のような暑さには焼け石に水だ。

共同風呂は3人も入れば一杯の小さなもので、浴室と脱衣所の仕切りも無い最小限のスペース。洗面所もトイレも共用。テレビもないし携帯は圏外。アメニティーがどうのとのたまう客にはとてもお勧めできないが、丹沢の山中にこんな空間があろうとは楽しいではないか。この大階段を一番楽しんでいたのは子供たち。キリスト教の団体の子供たちが林間学校で宿泊していたのだが、大階段でわいわい遊んでいた。

山小屋としてはじまった丹沢ホームの歴史。2代目の宿舎を大学院生だった原広司に依頼したのが始まりで、今の3代目の建物に建替えたのだという。夏の暑さにはまいったが、新緑や紅葉の時季に訪れたら素晴らしい環境だろう。自然の中で現代建築。楽しい夏の休暇だった。

丹沢ホームHP

京都駅ビルの大階段

大階段数年前、久々に京都を訪れ、新しい京都駅ビルをはじめてみたときには驚いた。金子修介監督のガメラ3部作の「ガメラ3邪神覚醒」では、このビルがガメラの格闘の舞台となりめちゃくちゃに破壊されるのだが、たしかに大怪獣にふさわしい巨大な建築だ。

原広司の設計は、いつものごとく照明器具やオブジェなどの細部にいたるまで独特のデザインセンスで徹底され、巨大なのに大味なところが無い。改札口の上に谷のように落ち込む大階段の生み出す空間は強烈だ。建設の際には、京都の景観にそぐわないという批判も多かったそうだが、現代建築好きにはたまらない。旅の最後、最終の新幹線の時間まで、この大階段で缶ビールを飲んで過ごした。夜は予想以上に薄暗くて、鴨川の河原の夜にも通じる居心地のよさを感じる。

京都の街に生み出されたこの新しいパブリックスペースは、古建築・近代建築・現代建築が入り混じった建築都市京都にふさわしい、魅力ある空間だ。

京都駅ビル1京都タワー京都駅ビル2
プロフィール

テツ

「中年とオブジェ」とは赤瀬川原平の名著「少年とオブジェ」へのオマージュである。美術、オブジェ収集、エリック・ドルフィーを愛好する。

Archives
Subscribe with livedoor Reader
Recent Comments
Recent TrackBacks
ブクログ
blogram投票ボタン
QRコード
QRコード
アクセスカウンター
  • 累計:

  • ライブドアブログ