正倉院展毎年秋に奈良国立博物館で開催される正倉院展。この秋奈良を訪れた折、ちょうどタイミングが合い、はじめて鑑賞した。2週間ばかりの短い期間の展示で、さすがにすごい人出。火曜の朝開館前にはすでに長蛇の列だ。それでも待ち時間なく、会場である新館に入場できた。この新館は吉村順三の設計で、広いスロープなどを取り入れたゆったりした動線が特徴的だった。外観に個性は無いが機能的。

会場内はかなりの混雑だったが、個々の展示物を近くで見るのに支障があるほどではなかった。目玉となる数点の工芸品の他には、経典や古文書など地味な展示品が多いのだが、いづれも保存状態は大変いい。正倉院の威力はすごかったのだなとわかる。華麗で細密な装飾が美しい紫檀金鈿柄香炉(したんきんでんのえごうろ)や、曲芸や奇術をする人物を描いたユニークな墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)など、チラシのデザインにも選ばれている作品はやはり印象に残った。

しかしこのような工芸品の展示にこれだけ多くの人が詰め掛けるというのも、不思議といえば不思議。前夜ジャズ・バーで出会ったUさんから「読売新聞が何年か前から主催するようになって、来場者がぐっと増えたんですよ。派手な宣伝をするんでね」と聞いた。

奈良国立博物館奈良国立博物館2仏像好きの私は正倉院展はそこそこに、本館の常設展へ。片山東熊設計のクラシカルな本館は重要文化財にも指定されている。和辻哲郎の「古寺巡礼」に登場する奈良帝室博物館の時代には、ここに法隆寺の百済観音や興福寺の阿修羅も展示されていたという。時代の流れで、多くの寺院が収蔵庫等を持つようになった現在も、奈良の寺から寄託された仏像が数多く展示された常設展は、さすが仏像天国「奈良」ならでは。昨年の東京国立博物館の「仏像」展でも見た、「試みの大仏」、東大寺の弥勒如来の個性的な姿にも再会した。

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