2014年06月27日

日弁連が政治的意見を表明することの是非

日弁連が提言や意見書といった名目で政治的意見を公表することがたびたびありますが、このことの是非は以前から議論となってきました。
従来は「強制加入団体である日弁連と、会員個人の政治信条との関係」という枠組みで論じられていたと思いますが、現在では異なる視点での議論が必要だと感じています。

というのも、現在では役所や企業に勤務する組織内弁護士(インハウス)が急増しているからです。
この状況で、従来と同じ議論では済まない局面も出てくるだろうと私は予想しています。

これまでで言えば、インハウスといえばきわめて例外的な存在でしたし、実際にインハウスとなった弁護士は強烈な個性を誇る人が多く、所属組織と対等に渡り合える人材が多く占めていたと思います。
しかし、近年の急増しているインハウスは、必ずしもそういう人たちばかりでなく、組織の従業員・サラリーマンとしての性格が強いものになっています。

そういう会員が急増しているという現実の中で、日弁連が政治的意見を表明することが会員のコンセンサスを得られるのだろうか?と、私自身強く疑問に感じているのです。


このことをあらためて認識させられたのは、6月26日付で送られてきた「日弁連速報」のFAXです。
6月19日の理事会にて「リニア中央新幹線計画の慎重な再検討を求める意見書」というのが取りまとめられ、関係機関に提出されたことが報告されています。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2014/140619_4.html

この意見書の要旨をまとめますと、
「‘逎▲襯廛垢鬟肇鵐優襪粘咾ことなどによる自然環境に対する悪影響低周波音や強い電磁波発生のおそれ9事に伴う残土等処理等の問題げ畭腓陛杜肋暖餃ジ鯆無ヾ悗箸靴討琉汰汗など、様々な懸念が指摘されていることから、リニア中央新幹線計画を慎重に再検討すべきである。」
という内容になっています。

ここは人によって大きく考え方が分かれるところかもしれませんが、私個人の意見としては、日弁連が人権保障の担い手として、懸念や問題点を指摘することは構わないと思っています。
具体的には、自然環境への悪影響、低周波音や電磁波の懸念など・・・これらを指摘することには異論がありませんが、そこから「リニア計画の再検討」まで踏み込むべきなのでしょうか。
リニアを建設するかどうかは、まさに政治問題であって、それは国民が判断することだと思います。
日弁連が言うべきことは、「電磁波の影響をきちんと調査するべきである。もし悪影響があるのなら、その影響を除去ないし最小限とする取り組みをすべきである。」という範囲にとどめるべきだと思うのです。

同じ問題は、過去に当ブログでも「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」について触れたことがありますが、原発被害者の救済や原発の安全性確保を訴えることはともかくとしても、「脱原発」にまで踏み込むことは、私の感覚では行きすぎです。


いまやJR東海にも企業内弁護士が複数名所属しているという時代です。
もちろん、日弁連がこの意見書を公表したことによってJR東海の企業内弁護士が会社から不利益を受けたり、弁護士登録をやめるよう圧力を受けるということはないだろうとは思います。
ただ、日弁連の意見と企業の立場が相反するということも、これから起こりうるのではないかと…。このことはいわば、「利益相反関係」に類似した問題を引き起こす可能性があると考えます。

具体的にどのような形で問題が顕出するかは、なかなか予想しずらいですが、
卑近な例で考えてみますと、たとえば企業内弁護士の弁護士会費は会社が負担しているケースが多いのです。となると、企業から「自分らが実質負担している会費で、日弁連はこのような政治活動をしているのか」という不満が出てくる(?)可能性は考えられるのではないかと思います。

インハウスにとって、弁護士会費の負担をどう企業に説得するのか、弁護士登録の意義をいかに理解させるのかは、切実な課題となりつつあります。
企業にとってみれば、「法曹有資格者」であれば十分で、弁護士登録など不要ではないか。会費負担も重いし、公益活動義務も邪魔である・・・ただでさえこのように言われかねない中で、日弁連が政治的意見を公表することが企業側にどう受け止められるのか。
これはあくまでも一例でしかありませんが、「日弁連と企業という異なる組織に属することによる対立(緊張)関係」は、これから様々な場面で発生するように思われ、今までは想定しなかった新しい問題が噴出するかもしれません。


私のこの懸念は、従来からの弁護士や一般民事事務所の弁護士ほど理解を得にくいかもしれないと感じています。
ともすると、「だからインハウスに独立性なんぞを求めるほうが無理なのだ。企業に弁護士を採用させようとする増員政策が誤りなのだ。」と片付けられてしまって、思考が止まってしまう恐れがあります。

しかし、この問題を軽視していると、会費の使途・会の運営の在り方だけにとどまらず、日弁連の強制加入制度や弁護士自治の議論にまで影響するであろうと思うのです。


<本記事のつづき>
「続・日弁連が政治的意見を表明することの是非」
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52077288.html

schulze at 17:40│Comments(14)企業法務 | 司法制度

この記事へのコメント

1. Posted by 黒猫   2014年06月27日 19:21
インハウスに限らず,企業の顧問弁護士でその企業には逆らえないという人もいますし,今からリニア開業を見越して飯田で独立開業した弁護士もいるようですし,その種の不満は今後どんどん高まっていくでしょう。
一方,ベテランを中心に日弁連は人権活動をやる団体だという固定観念に囚われている弁護士が相当数いることも事実であり,司法改革賛成派と反対派の如何を問わず,日弁連が人権活動に対し消極的になれば,その種の弁護士が強い不満を唱えるでしょう。
日弁連の会長選挙などで熱心に動くのはその種の弁護士なので,執行部としてはそうした声を無視することもできないのです。
どっちにせよ,日弁連の待ち受ける運命は空中分解しかない,ということになると思いますが。
2. Posted by ブルーノート   2014年06月28日 00:40
ご意見は誠にごもっともであると思いますが、個人的な感想と致しましては、schulze先生や黒猫先生のような、私よりお若い方々の中には、リベラル派と呼ばれる人たちの活動に対して、強いアレルギーを覚える方が実に多いのだなあ…、ということです。やはり、私より年下の人たちほど、保守化・右傾化の進んだ初等教育・中等教育を受けておられるからなのでしょう。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものです。「右へ右へと草木もなびく」時代なのですね。鉄道の世界でも、労働組合潰しが重要な目的のひとつだった国鉄の分割民営化から四半世紀以上が経ち、ストライキもなくなり、全てのJR社員が、「物言えば唇寒し」的な状況に置かれています。怖い世の中だ…と思うのは、私だけでしょうか。
3. Posted by Yamada   2014年06月28日 03:07
起こってしまった戦争による被害救済の活動はしてもよいが、戦争が起ころうとしているとき阻止しようとする活動は一切するべきではないということになるのでしょうか?
4. Posted by 黒猫   2014年06月28日 08:00
今は右翼・左翼といった概念が意味を失って,保守派・リベラル派といった言葉を使うことが多くなりましたが,従来と違って保守だからこう考える,リベラルだからこう考える,といった定式は通用しなくなっています。
私が保守とリベラルのどちらに分類されるのか分かりませんが,個人的には脱原発,秘密保護法反対,解釈改憲反対(ただし,集団的自衛権をすべて否定する趣旨ではない),TPP反対,死刑制度賛成,リニアは中立といったところです。一方,明らかな保守派といわれる政治家でも,原発に反対している人はいます。
そういう時代に,日弁連が特定の政治的立場を取るのが当然という考え方は,もはや通用しないということです。
別に,初等・中等教育が保守的・右傾的だったわけではありません。私個人としては,むしろ高校・大学時代に見た左翼の堕落ぶりに呆れ返った経験の影響が強いような気がしています。
5. Posted by 関西・弁   2014年06月28日 09:03
年齢はアラフォーですが、新司世代です。
以前から、日弁や単位会による政治的な意見表明が気になっていました。

個人的にはリベラルですが、仕事にはあまり思想信条を持ち込みたくありません。
ましてや強制加入団体が、一定の政治的思想を表明するような声明を出すのは、弁護士ならばこう考えて当然と思想信条を押しつけられているようで、違和感があります。
6. Posted by schulze   2014年06月28日 10:11
私がこのエントリーをアップした際に、私の真の意図は伝わらないだろうと覚悟していましたが、残念ながらブルーノートさんのコメントは、ある意味で私の予期していた通りの内容であると思います。表現こそ違いますが、某MLで私が流したメールに対し超ベテランの大先生からいただいた返答も、同じ考えのものだったように思います。
この問題は、個人の思想信条や保守・リベラル、右・左といったことではなく、会員の「立場」が多様化しているということなのです。もっと具体的に言えば、弁護士は権力と対峙するものという古典的なイメージがありますが、いまや行政庁内で働く弁護士もたくさんいるのです。弁護士の活動領域はビックバンのごとく広がりを続けていて、彼らがこれから弁護士会の中に入ってきて活動するというのに、いつまでも日弁連が一定の価値観に基づく特定の政治意思表明を続けられるのか、という問題です。(つづく)
7. Posted by schulze   2014年06月28日 10:13
この問題は法曹人口を激増させ「社会の隅々に法の光を当てる」という以上は、当然に予定されていたというべきでしょう。しかし、あえて今回私がこのエントリーを書いたのは、このことがもたらす意味を、司法制度改革推進派も反対派も認識していないと感じたからです。日弁連の執行部は激増政策を推進し、弁護士の職域拡大を推進しているのに、その効果がどのように自分らにブーメランとして返ってくるかを自覚していないと思うのです。
もっと深刻なのは、改革批判派のほうであるとも思います。この不都合な「現実」に目を向けようとしない人が多いと感じます。彼らにしてみれば、もともと激増政策が誤っているのだから、原因は司法制度改革にある。だからその改革をやめさせることに全力を挙げる・・・ことに満足してしまって、そこで思考が止まっているのです。これは私も以前にブログで書きましたが、たとえば法曹人口問題というのは、司法試験合格者数という「蛇口」を閉めれば解決するというものではありません。すでに水があふれていて、その水をどうするのか、という視点が必要なのに、蛇口をどう閉めるかという次元の議論にとどまっている。(つづく)
8. Posted by schulze   2014年06月28日 10:14
このように書けば、私が本エントリーを書いた真の意図が分かっていただけるでしょうか。日弁連に政治活動をやめさせることが目的ではありません。むしろ「守りたい価値が別にある」ということですよ。それは強制加入団体としての日弁連であったり、弁護士自治といったものです。それらを守っていくために日弁連はどうあるべきなのか・・・という問題提起をしているつもりですが、その私の意図を正確に理解してくれたのは、今のところ私の友人の弁護士一人だけです。
9. Posted by 司法改悪に反対する弁護士   2014年06月28日 11:31
リニア以外は日弁連の声明とされた内容につき共感できるところは多いです。
しかし、だからといって日弁連の名前で声明を出さなければならない理由など全く理解出来ません。
そのうち飽きられて、無視されると思いますが、1年365個以上の声明なんて、日弁連ってよっぽど暇なんだなと思います。
そんな無駄なことしている暇があるなら、会費を下げてもらいたいものです。

なおりリベラルとか保守とかいう言葉がありましたが、私は日弁連執行部や委員会馬鹿は極左だと思ってます。
10. Posted by 黒猫   2014年06月28日 13:41
私は,そもそも弁護士自治を「守るべき価値」とは考えていませんし,弁護士会の強制加入制度を維持すべきとも考えていませんので,Schulze先生とは意見が噛み合わないと思います。
政府による弁護士懲戒権の濫用を防止するというのなら,弁護士委員に有識者などを加えた独立委員会でも作って懲戒の審査を行わせればいいだけの話ですし,経済的に窮乏する会員が急増している現状では,会員からの会費収入に頼る「弁護士自治」という経済モデルの破綻は避けられません。
一方,日弁連の政治的活動に熱心な人は,Schulze先生と違って政治的活動をやることこそが日弁連の存在意義だと考えており,彼らの考えによれば,弁護士自治を守るために日弁連が政治的活動を控えるなどは本末転倒ということになるでしょう。
私は,そういう人たちへの説得はもう諦めています。
11. Posted by 弁護士HARRIER   2014年06月28日 14:32
schulzeさん
某MLで問題提起をしました。
以下の話は、どっかで使い回すと思いますが、ご勘弁ください。

この種の意見書について積極意見の先生も、大ベテランの先生には比較的いらっしゃいますが、議論が少しかみ合っていないような気がしています。
私のMLでの投稿時点ではあまり整理できていませんでしたが、あとで様々なご意見を拝見してから、私なりに、なぜあの意見書がイラッとしたのか、以下のように整理しました。

 ̄杆行為である。
内容がつめられていない。稚拙である。非科学的である。
A躇佞任呂覆ぁ

このうち、schulzeさんの主たるご懸念はだと思っています。
一方で、私の主たる懸念は、も大きいですがどちらかと,メインです。
そして、当該意見書を積極に解する先生方は、,砲弔い董△修譴任睇要な場合がある、というご意見であり、それはそれで議論すべきところかと思います。

ただ、弁護士がこれだけ多様化すると、そこに様々な利害が生じます。にもかかわらず、日弁連がそのようなことをかまわず声明・意見書を漫然と出し続けるのは、弁護士が常にすべて「独立開業して特定の団体・個人からお金をもらって暮らさないフリーランス」という、司法改革推進派にいわゆる「旧来型弁護士」のことしか頭にないから、さらにいえば、「総意」のとらえ方に大きなズレが生じているせいだと考えます。この点、schulzeさんの「日弁連の執行部は激増政策を推進し、弁護士の職域拡大を推進しているのに、その効果がどのように自分らにブーメランとして返ってくるかを自覚していないと思うのです。」というご意見に強く共感するところであります。
12. Posted by 弁護士HARRIER   2014年06月28日 14:33
続きです。

それにしても、日弁連は、一体何がしたいのでしょうか。,帽覆辰届辰鬚気擦討い燭世と、たしかに、ベテランの先生方のおっしゃるような環境問題・政治的問題に、ときには首をつっこまないと行けない場合もありえるとは思いますが、それには、△慮‐擇強く求められるところだし、,砲弔い討癲日弁連の職務との兼ね合いがもっともっともっと議論されなければならないはずですが、それをせず、漫然と出てきた声明が「リニアは慎重に」。
これでは、日弁連あんたら何様?と、市民は思うと思いますし、その理由付を見ると、「弁護士は大丈夫なのか?」と思われかねない。

どうしてこういう声明が正式に出されたのか、全く理解ができません。環境問題と捉えるにしても無理がありすぎる。

そんなことをしている暇があるのなら、もっと、業務にかかわることをしてもらいたい。
それができないのに、こんな、越権的ともいうべきことにばかり首をつっこんで、日弁連がなんのためにあるのか、なくていいんじゃないか、と思った会員は相当多かったのではないかと思います(見ていない会員が多い?それならそれこそこんな声明の意味はないし、日弁連の存在意義が問われるところではないでしょうか)。
13. Posted by schulze   2014年06月29日 20:16
弁護士HARRIER先生
おっしゃる通りかと思いますが、この手の議論は、司法制度改革の推進派・反対派を問わず、年配な弁護士の方ほど議論が噛み合わない感じがします。
いま弁護士像が加速度的に拡散していること、それによりもたらされる効果について、あまり実感がないように思うのです。

HARRIER先生の整理のうち、,鉢は本質的に同じことのように思いました。要は「弁護士会とは何か。何をすべきか。」という理解に関わることだからです。もっと言えば、「弁護士とは何か」というところまで行き着くのではないかと思います。
これだけ弁護士が多様化してくると、そもそも弁護士会の役割とは何かを再構築しないといけないでしょう。このことは、これから色々なところで問題が表面化してくるはずで、たとえばHARRIER先生が以前から問題提起されている新会館建設問題なども、その一つのように思います。
14. Posted by まちべん   2016年10月15日 16:24
そもそも執行部に理念があるでしょうか。無いのです。

数百人の1億円以上プレーヤーの既得権維持(そして彼らの子息でも合格できるシステムの維持)のために、都合のいいルールを作り維持する。それが彼らの頭の中にある全てです。

(ちなみに、執行部による独りよがりな左翼的発言は、未だにある程度の組織力があるリベラル団体らに、
「日弁連の強制加入団体性は必要だ」
と思い込ませるのに有用です。実際のところ、
「日弁連は人権団体だから、強制加入団体性を維持して政治的発言をすべきだ」
と、彼らの頭の中では変換されています。
会員数維持による組織力の誇示及び高額な会費吸い上げのため、執行部に利用されている、ということには、気づかない訳です。)

インハウスが一斉に請求退会し、これに合わせて経団連が日弁連の政治的活動に対して不賛同を示す声明を発表すれば、執行部はどうするでしょう。日弁連執行部は、リベラル団体の組織力とインハウスの組織力を天秤にかけますが、執行部の所属事務所がいただいている顧問料等の収入もインハウスのお皿には乗ります。インハウスが勝つでしょう。

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