2015年06月12日

「(予備試験ルートについて)法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれ」とは何なのか

第22回 法曹養成制度改革顧問会議(平成27年6月11日開催)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai22/index.html
【資料4】法曹養成制度改革推進会議決定(案)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai22/siryou4.pdf

<本件に関する報道例>
司法試験合格率「7割以上」 法科大学院改革など政府案(2015.6.11 21:59 産経ニュース)
http://www.sankei.com/affairs/news/150611/afr1506110051-n1.html
『法律の専門家を養成する制度の改革について検討する政府の法曹養成制度改革推進室は11日、法科大学院修了者の司法試験合格率の目標を「7割以上」とする改革案をまとめた。関係閣僚会議で7月15日までに正式に決定する。改革案によると、政府は平成27〜30年度を法科大学院集中改革期間と位置づけ、各法科大学院で各年度の修了者の司法試験の累積合格率がおおむね7割以上となる教育を目指す。また、合格率が平均の50%未満▽定員充足率が50%未満▽入試の競争倍率が2倍未満−などの客観的な指標を用いて法科大学院の評価を厳格化。その結果などを受けて調査を行い、法令違反があった場合には、学校教育法に基づき、改善勧告や組織閉鎖(閉校)命令を段階的に実施することを明記した。法曹への“抜け道”と問題視されている予備試験については、法科大学院改革に合わせて必要な制度的措置を検討するとした。』


重要な内容が盛り込まれている「法曹養成制度改革推進会議決定(案)」ですが、法科大学院の認証評価の厳格化と閉校命令については、すでに当ブログでも取り上げ済みですので、ここでは触れません。

やはり、注目せざるをえないのは、予備試験に関する部分だろうと思います。

この点、法曹養成制度改革推進室は予備試験の受験資格制限は困難との見解をすでに明らかにしており、当面は予備試験の運用に関しては大きな変化はないだろうと楽観していましたが、
予備試験への圧力は相当なものがあったのだろうと思います。
「必要な制度的措置の検討」が含まれてしまったことの意味は重く、決して油断できる状況ではなく危機感を持たなければならないものと、認識を改めました。

「法曹養成制度改革推進会議決定(案)」で、予備試験について言及した部分を、以下引用します。

『予備試験は、経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための途を確保するためのものであるところ、出願時の申告によれば、毎年の予備試験の受験者の過半数を占める無職、会社員、公務員等といった者については、法科大学院に進学できない者あるいは法科大学院を経由しない者である可能性が認められ、予備試験が、これらの者に法曹資格取得のための途を確保するという本来の制度趣旨に沿った機能を果たしていると考えられる。他方で、予備試験受験者の半数近くを法科大学院生や大学生が占める上、予備試験合格者の多くが法科大学院在学中の者や大学在学中の者であり、しかも、その人数が予備試験合格者の約8割を占めるまでに年々増加し、法科大学院教育に重大な影響を及ぼしていることが指摘されている。このことから、予備試験制度創設の趣旨と現在の利用状況がかい離している点に鑑み、本来の趣旨を踏まえて予備試験制度の在り方を早急に検討し、その結果に基づき所要の方策を講ずるべきとの指摘がされている。
これらを踏まえ、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を堅持する観点から、法科大学院が期待されている当初の役割を果たせるようにするため、前記のとおり、平成30年度までに、文部科学省において、法科大学院の改革を集中的に進めるものとする。他方、法務省において、法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者について、試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがあることに鑑み、予備試験の結果の推移等や法科大学院修了との同等性等を引き続き検証するとともに、その結果も踏まえつつ予備試験の試験科目の見直しや運用面の改善なども含め必要な方策を検討し、法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者の法曹としての質の維持に努めるものとする。また、司法試験委員会に対しては、予備試験の実態を踏まえ、予備試験の合格判定に当たり、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう配慮することを期待する。さらに、平成30年度までに行われる法科大学院の集中的改革の進捗状況に合わせて、法務省において、予備試験の本来の趣旨に沿った者の受験を制約することなく、かつ、予備試験が法曹養成制度の理念を阻害することがないよう、必要な制度的措置を講ずることを検討する。』


看過できない文言が含まれていると思います。

まず、「法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者について、試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがある」というのは、何を言っているのでしょうか。
どのような弊害があるというのでしょうか。
私にはさっぱり分かりません。

実際、法曹養成制度改革推進室がとりまとめた「予備試験制度の現状に対する批判と再批判」の一覧の中では、法科大学院教育へ与える悪影響についての記述はありますが、「法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがある」という指摘は、批判の中に見当たりません。
突然降って湧いた議論のように思います。

「法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者の法曹としての質の維持に努める」というのも、悪い冗談にしか聞こえません。
法科大学院修了生と比較して、予備試験合格者の圧倒的な司法試験成績を見れば、質の維持に努めなければならないのはロー修了生のほうであることは、明らかではないでしょうか。

「予備試験の合格判定に当たり、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう配慮することを期待する。」というのも、これ以上予備試験の合格者数を増やさないようにとの圧力と捉えるのが素直でしょう。

「予備試験の本来の趣旨に沿った者の受験を制約することなく、かつ、予備試験が法曹養成制度の理念を阻害することがないよう、必要な制度的措置を講ずる」というのも、予備試験の本来の趣旨に沿わない者(=いわゆる「心の貧困」層)の受験は、制度的措置を講じて制約する気マンマンのようです。


これらの制度的措置が本当に取られたら、それこそ予備試験ルートの志願者はめでたく減るでしょうね。
そうしたら、いよいよ法曹を志す人たちは、いなくなってしまうかもしれません。

本当に愚かしいことです。
こんなことをやったところで、法科大学院へ人が戻ることはないのですよ。
敵は予備試験ではないって、いつになったら気付くのでしょうか。


<参考>
予備試験制度に関する意見の整理等(予備試験制度の現状に対する批判と再批判、平成26年6月6日法曹養成制度改革推進室)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai9/siryou8_5.pdf
「法曹養成制度改革推進会議決定(案)」の予備試験関連について(一聴了解)
http://ittyouryoukai.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-5b0b.html

<当ブログの過去記事>
司法試験受験者数の回復は、回数制限の緩和だけではなく、予備試験合格者の増加によって達成されるべきである(2015年4月19日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52115956.html
学者が信用を失う日(2014年7月3日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52076512.html
6法科大学院「予備試験受験資格制限の提言」に対する政治側の受け止め方(2014年6月25日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52075575.html
法曹養成制度改革推進室 予備試験の受験資格制限は困難との見解(2014年6月12日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52074078.html
辰已法律研究所が指摘する当たり前のこと(2014年6月2日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52072906.html
自分たち自身とは絶対に向き合わないロースクール(2014年5月20日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52071288.html
どう見ても法科大学院は詰んでいる(2013年3月3日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52007722.html
法科大学院の理念や必要性は、志望者に強制しないことには、了解も評価もされないことを前提にしている(2012年5月30日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/51955538.html

(感想)今年の予備試験論文合格者数について(2014年10月12日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52094654.html
(再掲)『法科大学院では多様な人材は確保できないという現実を直視すれば、予備試験に対しては、法科大学院へ進学できない事情のある人たちへ門戸を開くというそもそもの制度趣旨だけでなく、法曹への多様な人材を確保するための手段としての積極的な位置付けをしていくべきであり、いずれはそうせざるをえなくなると思うのです。法曹志望者が法科大学院を選択しない以上、これまでのように「例外ルート」という位置付けではなく、予備試験を法曹養成のメインルートとして正面から認めざるを得なくなるときがいずれ必ず来ると、私は予想します。』

予備試験を法科大学院への人材の供給源として位置付けて良いかどうか(2013年2月23日)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52006421.html
(再掲)『「法科大学院への人材供給源としての予備試験」というのは、現状の法科大学院の惨状・体たらくへの皮肉として言っている分には受け入れられますが、これを制度論として正面から認めるのは、私には抵抗があります。私の気持ちとしては、予備試験に受験資格を設けるのが妥当でないのは、予備試験の受験者・合格者を増やすことが法曹の人材多様化に貢献するから、という理由であって欲しいのです。「法科大学院」への人材を確保するためじゃない。「法曹界」の人材確保のための予備試験であるべきだし、そちらに意義と価値を認めることの方が先決だと思います。』

<追記>
予備試験の弊害より、法科大学院制度による弊害を直視すべきである
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52122053.html

schulze at 22:45│Comments(5)司法試験 | 司法制度

この記事へのコメント

1. Posted by もきゅっと   2015年06月13日 10:35
まあ弊害はローで既に習んでいる前提のため司法修習で教えない部分を予備試験経由者は学んでいないことがあるくらいですかねー。そういう意味で制度の体系に整合しないのが予備経由なのかなあ・・・
私は問題じゃないと思っていますが。
2. Posted by schulze   2015年06月13日 10:52
もきゅっと様
その弊害よりも、「ロースクールで教育するからと前期修習が廃止されたのに、ロースクールで教育していない弊害」のほうが、めちゃくちゃ大きいと思いますがね。
3. Posted by 50期代の法曹   2015年06月14日 00:18
弊害は、ロースクールに学費が入らないことだと思います(^^;;
4. Posted by 昨年の予備試験合格者   2015年06月14日 00:54
また予備試験叩きですか。
ここまで法科大学院にこだわる意味がわかりません。
5. Posted by schulze   2015年06月14日 11:49
彼らは法科大学院を守る立場なので、制度の維持にこだわるのは当然かと思いますが、なぜここまで予備試験を敵視するのかですね。

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