デザイン言語2.0 ―インタラクションの思考法』という本に、「形成外科のデザイン」という章があります。執筆者は、小林正弘さんという方です。

この記事では、このブログで作成したデザインの枠組みを意識しながら、形成外科でのデザインの見方を考えていきたいと思います。

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形成外科でのデザイン

本文からデザインに関わる部分を引用していきます。また、形成外科とは何かについても、引用していきます。
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私は、形成外科を専門とする医師です。研究として、コンピュータを使った手術計画、つまり、「デザイン言語」に則して言えば、「手術のデザイン」に取り組んできました。[...]
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次に、形成外科の説明です。整形外科と美容外科との違いをもとに説明がありました。
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形成外科は、体表の形態の変形・欠損を扱います。先天的なもの、がんなどの手術で顔面や乳房などを切除したときに生じるもの、あるいは、外傷によって生じるものなどがあります。整形外科は、形成外科と名前は似ていますが、内容はまったく異なり、体表でなく、もっと深いところを扱います。整形外科は、骨や関節など運動器を扱う外科で、いわゆる骨折や捻挫、腰痛などを扱います。
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ここで重要なのは、形成外科は「体表の形態」を扱うという点です。また、どのような「体表の形態」なのかというと、「変形・欠損」したものであるということです。

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美容外科は、正確に言うと形成外科の一領域です。形成外科が、異常な状態を正常な状態に戻すものであるのに対し、美容外科は、正常の範囲内でより美しい状態に変化させます。どちらも、体表の形態を扱うことに変わりはありません。[...]
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ここでは、「体表の形態」を使うという点では、形成外科も美容外科も違いはないということです。というのも「体表の形態」を扱うという共通点をもとに、形成外科でのデザインで言えることは、美容外科でも言えるかもしれないからです。

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次に、形成外科とデザインについてお話します。意外と思われるかもしれませんが、形成外科では「デザイン」という言葉を非常によく使用します。二通りの意味があります。実際の使用例で紹介します。一つは、手術前のカンファレンスの時に、指導医が、研修医に、「どのようなデザインで手術をするの?」と尋ねます。もう一つは、手術室において、術者が若い医師に、「デザインしておいて」とか「デザインしてみて」と言います。
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二つのデザインがあるということです。

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前者の「どのようなデザインで手術するの?」は、「どのような手術計画を立てますか。」の意味です。医療における「デザイン」には、一般の日本語における狭い意味とは異なり、「計画を立てる」という意味があります。[...]
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形成外科での一つ目の「デザインすること」とは「手術計画を立てること」ということです。より一般的に言えば、「デザインすること」とは、「計画を立てること」という見方です。

もう少し引用します。
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正常でない形を正常に直すのが形成外科医の仕事ですが、患者さんの状態は、症例により、非常に多くのバリエーションがあり、それぞれに対して最良の手術方法は異なります。消化器外科の手術、たとえば、胃癌を切除する手術の場合、手術書にはどこをどうやって切開して、どの血管をどこから何センチのところで結 紮してと、具体的に細かい記述があります。手術は、その「マニュアル」に沿って行うのが一般的です。しかし、形成外科の手術はそうはいかず、その患者さんの欠損や変形の状態によって最適な手術方法を選択する必要があります。従来の手術方法では対応できず、新しい手術方法を考案する必要さえあります。そのために、手術方法を選ぶ、さらに、選択した手術方法を細部においてどのように行うのかを検討することが、良好な結果を得るための大切な要素となります。形成外科において、手術を「デザイン」することは非常に重要です。
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ここで重要なのは、「手術」をデザインする、という点です。後に、「顔」をデザインする、と書かれている部分があるからです。

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後者の「デザインしておいて」の「デザイン」は、患者さんの手術部位に、実際に手術(切開)するラインを引く作業を指します。本来、術者がすべきことですが、勉強の意味を含めて若い医師に、「デザインしておいて」と言うことがあります。もちろん、最終的には術者が確認して、必要があれば修正します。
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形成外科での二つ目の「デザインすること」とは、「患者さんの手術部位に、実際に手術(切開)するラインを引く作業」ということです。

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私たちは、「シミュレーション」するという表現も使います。模擬練習するという意味と、あらかじめ手術を試行してみて、その手術結果を確認するという意味もあります。これは、デザインと同じようなニュアンスだと思います。
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これについては、今回は議論せずに保留したいと思います。「模擬練習すること」、あるいは、「試行すること」は「デザインすること」なのかという点です。

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後者のデザインですが、デザインする際、患者さんの皮膚に線を引くための手術専用のサインペンがあります。太いものと細いものがあります。どのように切開するか皮膚の上に書いていきます。もちろんその場で考えるのではなく、術前にカンファレンス等でどのような手術法にするのかを予め決めておいて、その計画どおりに忠実に皮膚の上にマーキングを行います。外科の手術は、患者さんの前に立って、いきなり大きいメスでばっさりと切りますが、形成外科の手術は、あらかじめデザインしてから、非常に小さいメスで、その線をなぞるように切開していきます。充分な手術計画に基づき、正確で丁寧な手術を行う必要があります。いい加減な手術計画で手術に臨んでしまうと、つじつまが合わなくなってしまいます。
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ここで一つ重要だと思ったのは、形成外科での二つのデザインの関係性です。明示的には書かれていませんが、「手術計画」と書かれているので、これは、一つ目のデザインの結果のことであると思われます。二つ目のデザインは、この一つ目のデザインに基づいて行われる(行われることが理想)ということです。

次に、少し長いですが、重要な点なので引用です。
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正常な形とともに、笑顔も取り戻す

形成外科は、もともと機能ではなく形態を扱う分野です。「形態なんてどうでも良いのではないか」という意見もあります。でも実は形態は重要な意味を持っています。顔が形成外科の主な領域ですが、顔がないとどうなってしまうでしょうか。人間において、顔は非常に大事な部分です。映画『千と千尋の神隠し』に、「カオナシ」というキャラクターが出てきます。映画の中ではっきりとした説明はなされていませんが、「カオナシ」は、顔に相当する部分にお面をつけています。顔がないためにコミュニケーションがとれず、友達をつくることができないキャラクターです。この例のように、人間は、顔がないとコミュニケーションをとれなくなります。

[...] 顔を向き合わせなければ本当のコミュニケーションはできません。そして同時に顔は表情を伝えます。表情で気持ちを伝えて、相手の意見に本当に同意しているか、反対しているかが、特に言葉に出さなくても伝わります。人間には表情筋という数多くの筋肉があるのですが、これは人間だけが持つ筋肉であり、人間だけに与えられた能力です。形成外科はそのような顔をデザインするのが主な仕事なのです。

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この節のタイトルと最後の部分が重要です。
・正常な形とともに、笑顔も取り戻す
・顔をデザインする

まず後者について考えます。先ほどの二つのデザインをもとに考えてみます。
・一つ目のデザイン:
手術計画を立てること
・二つ目のデザイン:患者さんの手術部位に、実際に手術(切開)するラインを引く作業

まず、一つ目のデザインの結果は、「手術計画」であると考えられれます。これは「顔をデザイン」したことになるのでしょうか?

また、二つ目のデザインの結果は、「ラインが引かれた体表」であると考えられます。これは「顔をデザイン」したことになるのでしょうか?

この疑問に関しては最後にまた考えます。

次に、前者です。ここで読み取れるのは、正常な形(形態)が形成外科での手術の結果として目標とする状態であるということです。また、笑顔が取り戻された状態に関しても同様です。

二つのデザインとの関係性で考えてみると、これら二つのデザインを行っただけでは、まだ「正常な形(形態)」になっていませんし、まだ「笑顔を取り戻せて」いません。そうなるには、実際に手術を行う必要があります。

続きをもう少し引用します。
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美容外科のさまざまな手術後、患者さんが不満を訴えてくることがあります。本当に手術がうまくいっていない場合もありますが、そうでない場合もあります。興味深いのは、鼻の手術結果に対し患者さんは非常に敏感であるということです。正確な理由はわかりませんが、鼻に関しては非常に多くの患者さんが「ここはダメだ」などと執拗に執着します。また、乳癌などで乳房切断手術をすると、女性は女性であることに対する喪失感を覚え、強いダメージを受けることがあります。形成外科は、このような状態を克服してあげて、患者さんの笑顔を取り戻すのが目的です。正常な形を取り戻すだけではなく、患者さんの笑顔をも取り戻すのが仕事だと思っています。

メンタルな面の紹介をしましたが、それだけではなく形態の異常は機能にも直接的な影響を与えます。先ほど紹介した漏斗胸ですが、重度の症例の場合は、絶対的な呼吸障害により手術が必要となることもあります。形態を改善することにより、呼吸機能の改善がなられます。しかし、漏斗胸のほとんどの症例は、病的な呼吸障害はなく、整容的な目的で手術を行います。ここで興味深いのは、重度の呼吸障害がなく、形を直すために手術を行うのですが、手術が終わってみると患者さんが「呼吸ってこんなに楽だったんですね」と言うことがあります。
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ここで重要なのは、「患者さん」にとって何らかの「不満」や「満足」があることです。「呼吸が楽にできて生活しやすい」などです。

また、「仕事」という言葉は使っていますが「デザイン」という言葉は使っていない点も少し気になります。

最後の引用です。
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形成外科のデザインに関して、お話をしました。形成外科は、人間の主としての顔の表面形状を扱うのですが、その対象とする範囲は、形態に留まらず、機能や気持ちにまで及びます。手術を正確に、負担が少なく、良好な結果が得られるように、手術をデザインする研究に取り組んでいます。現在の段階でできること、いまだにできないことがありますが、今後、この分野の研究が進み、より良いデザインができるものと信じています。
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ここでも、「手術」をデザインすると書かれています。先ほど、「顔」をデザインすると書かれていることも紹介しました。もう一度引用します。
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形成外科はそのような顔をデザインするのが主な仕事なのです。
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ここでは、「顔」を一般化して「体表の形態」と呼ぶことにします。

さて「体表の形態をデザインすること」と「体表の形態の手術をデザインすること」とは同じでしょうか? 「体表の形態をデザインした結果」と「体表の形態の手術をデザインした結果」は同じでしょうか? 形成外科でない他の分野のデザインを例にもう少し考えてみます。
・人が活動する空間:「空間をデザインすること」と「空間に対する操作をデザインすること」は同じでしょうか? 「空間をデザインした結果」と「空間に対する操作をデザインした結果は同じでしょうか?」
キャラクター:「キャラクターをデザインすること」と「キャラクターを生み出す過程をデザインすること」は同じでしょうか? 「キャラクターをデザインした結果」と「キャラクターを生み出す過程をデザインした結果」は同じでしょうか?

あるデザインされた結果に対して、その結果に到達する過程は一つとは限らないと考えられます。したがって、私の答えは、互いに関係はするが異なるものである、ということです。「体表の形態の手術をデザインすること」の過程においては「体表の形態をデザインすること」も行われていると考えます。

形成外科とデザインの枠組み

それでは、デザインの枠組みを用いて、形成外科でのデザインを見ていきたいと思います。
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まず、形成外科でのデザインには二つあるとのことでした。
・一つ目のデザイン:手術計画を立てること
・二つ目のデザイン:患者さんの手術部位に、実際に手術(切開)するラインを引く作業
また、両者は独立しているものではなく、手術計画に基づいて、ラインが引かれる作業が行われるとここでは考えました。ここでは、適切かどうか分かりませんが、二つのデザインを合わせて、「手術計画のデザイン」と呼びます。

また、「
体表の形態のデザイン」も「手術計画のデザイン」に暗黙のうちに含まれると考えます。

これを踏まえて、枠組みの要素がどのように対応するのかを見ていきます。

まず、「デザイナー」に対応するのは何でしょうか? 「術者」であると考えます。

次に、「デザイン」に対応するのは何でしょうか? 「手術計画」のように思えます。

次に、「モノ」に対応するものは何でしょうか? ここでは「手術計画」に基づいて手術された「
体表の形態」であると考えます。

次に、「ユーザー」に対応するものは何でしょうか? 「患者」です。ここでは「ユーザー」と呼ぶのが適切なのかどうかが疑問となります。「患者」さんは自身の
体表の形態」を利用する、とするのが適切でしょうか?

最後に、「ユーザーの満足感」に対応するものは何でしょうか? 具体的な不満や満足にどのようなものがあるのかは、本文には書かれていませんでしたが「笑顔になれる」
や「生活しやすい」などが対応するかもしれません。
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