6868ef18いかに若くして独 立(主任)研究員(Principal Investigator: PI)になり、任期制ではなく、定年制のポジションを得、より多くの競争的研究資金(グラント)を獲得できるかが成功の分かれ目になる昨今のアカデミアの 世界では、少数の精鋭が大講座で丁寧に育て上げられてきた時代とは明らかに違った処世術が必要とされます。昨今のアカデミアの世界で長く活躍できるために は、どのように振舞うべきかについて、Nature Biotechnologyの4月号にて取上げ られていました

アメリカでは、毎年約79%のポスドク(博士研究員)が定年制のアカデミックポジションを求めて、そのキャリアをスタートさせるわけですが、そのうちその目標を達成できるのはわずか30%程度だそうです(出典)。そう、この供給過剰の時代を如何に生き抜くべきか。第4回ロックフェラー大学ポスドク年会の会場で行われた、現役のポスドクや大学研究職員へのインタビューをまとめたものがその内容です。

 

質問:科学者としてのキャリアを継続していく上で最も必要だと思うものは?

回答(研究員):研究を、試薬、器具、人材を効果的に使い、高い費用対効果で効率良く遂行する能力

回答(学科長):優秀な学生を集められるような、魅力的な研究室を作る能力

インタビュアーの感想:科学に対する情熱や創造性をいつまでも持ち続けられる能力

 

大学職員のポジションを獲得できる平均年齢が38歳、最初のNIH・R01グラントを獲得できる平均年齢が42歳であるアメリカ(出典)において、如何に魅力的な採用候補者になれるかは重要なポイントです。

 

質問:きびしい競争の中で、より良い職を見つけるために必要なことは?

回答(学科長):論文業績、研究経歴、推薦書

回答(研究員・ポスドク):学会やセミナーなどで形成される人的ネットワーク(これは、ある程度以上のポジションについているPIなどは軽視する傾向がある。)

コメント:インタビューに応じたすべての研究職員が口をそろえて言うのは、上司や同僚とのコミュニケーション能力だそうです。有力なポスドク候補になるために、学部生の指導経験や夏休みのインターン経験などは、あまり考慮されないようです。

 

質問:職探しで重要視すべきポイントは?

回答(学科長):学科長や上司の個性、将来展望、人格

回答(研究員):研究室立ち上げ資金、大学の立地条件(優秀な学生やポスドクを集めやすい)

ポスドク:研究職員の質

コメント:驚くべきことに給料は、どの人も最も考慮しない項目になっていたとのことです。

 

継続的に研究室を維持し続けていくためには、研究のトレンドに乗ったり、ネットワークに頼ったりするのも時には必要かと思われますが、実際はどうなのでしょうか。

 

質問:昨今流行のトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)についてどう考える?

回答要約:「NIHグラントのターゲットとして重要」という意見から「グラント申請書を見栄え良くするために必要」という意見まで様々ですが、押しなべて、「ある程度は重要」ということのようです。ポスドクは、研究職員に比べて、論文投稿や研究資金獲得のためにより重要視する傾向があるようです。

 

質問:昨今流行のメガ・サイエンス(巨大共同研究)についてどう考える?

回答要約:85%のポスドクと64%の研究職員が、今後益々その必要性が高まると感じているようです。

 

これまでの師弟関係という縦のつながりに加えて、今後は同僚の研究仲間といった横のつながりが重要になってくるようです。孤高の研究者というのは、もうすでに死語になっているようです。では、昔ながらのこんな関係はどうでしょう。

 

質問:ポスドク時代のボスとの共同研究についてどう考える?

回答要約:薦められないが、完全にダメだというのでもないとの回答が大半を占めたようですが、問題なのは、その共同研究がいくら成功しても、そのオリジナリティーはあくまでもボスにあり、そこからひとり立ちした若いPIの独立した業績とは認められないということです。そして、これは、定年制の職を得る際の重要なポイントとなるようです。

 

研究者はポスドク時代に、研究以外の非常に多くのことを学ぶ機会に恵まれます。それは、学生の指導、人の使い方、コスト管理まで多岐に渡ります。そんな多忙なスケジュールの中で、本来の目的である科学に対するモチベーションを維持し続けられるのでしょうか?

 

質問:もしこれらの研究以外のスキルをポスドク時代に一切身につけなかったら、それは不利な要素になりえるか?

回答(研究職員):不利にはならない。これらの技術は、その気になれば簡単に身につけることができる。それより重要なことは、論文をレビューしたり、グラント申請書を書いたりする機会を積極的に求めるように努めること。そして、ポスドク時代に絶対に身につけなければならないスキルとは、反証可能な仮説を伴った問題提起ができる能力であり、重要なことはその課題を遂行するために最低限必要なスキルにだけ集中すること。

 

さすが、アメリカ式ですね。ある意味、最短期間で最低限使える新兵を育てるブートキャンプのような様相です。ここで鍛え上げられたポスドクがPIになって最初にすべきことは、独自性のある研究課題を立ち上げること。そしてそれを成功させたら、次にはネットワークを駆使して、巨大共同研究プロジェクトを立ち上げるか、それにもぐりこむこと。このあたりが、成功する術のようです。積極的に戦地に赴け、しかしその途中で弾に撃たれて死んでも、それは自己責任だ。というようにも聞こえるのは私だけでしょうか・・・最後まで生き残れたらラッキーくらいに考えたほうが気が楽かもしれませんね。