sn-malariaマラリアと いう病気がハマダラカという蚊の媒介する原虫によって引き起こされることはよく知られていますが、意外に知られていないのが、マラリアの中間宿主はヒトで あり、蚊は最終宿主だという点です。マラリア原虫はハマダラカの体内でしか有性生殖できず、さらにそこで無性生殖も行い、約1万倍に増えると言われていま す。では、なぜハマダラカはマラリアで死なないのでしょうか?実は、ハマダラカの中にも感染で死んでしまうものもいるそうで、正確にはほとんど死なないと 言ったほうが正しいでしょう。いずれにせよ、ハマダラカの体内では、マラリア原虫の増殖を制御している何らかのメカニズムがあるのは確かなようで、それが 何なのか今までよくわかっていませんでした。しかし、Science誌の9月10日号に掲載された論文により、その一端が明らかになったようです。

蚊などの昆虫の免疫システムは、ヒトなど脊椎動物のそれと異なり、免疫記憶(一度かかった病気にはかからない)は形成されないと考えられていました。しかし、今回の論文では、一度マラリア原虫に感染したハマダラカは、2度目の感染に対して、一度も感染したことのないハマダラカよりも10倍以上感染しにくいことがわかりました。つまり、2回目にハマダラカの体内に入ったマラリア原虫は、蚊の体内でほとんど殺され、有性生殖の機会も激減したというのです。

と ころが、不思議なことに、細菌だけを殺す抗生物質を与えたハマダラカでは、この免疫記憶が見られなかったのです。ということは、この免疫には、蚊の体内に 元々いた細菌の働きが必要であったことがわかります。さらに調べてみると、マラリア原虫はハマダラカに感染した後、蚊の腸で増殖し、それによって蚊の腸壁 が破壊され、そこから少しずつ漏れ出た蚊の腸内細菌が、継続的な免疫反応を誘導し、そのせいで2度目の感染に強い(免疫記憶が形成される)のだということがわかりました。

こ れらの結果により、脊椎動物における、免疫グロブリンを介した免疫記憶とはそのメカニズムがまったく異なってはいるものの、ハマダラカにもマラリア原虫に 対する免疫記憶のような状態を誘導できることがわかったことから、研究者らはさらに、一度感染したハマダラカの体液を、一度も感染していないハマダラカに 注射し、ワクチンのような効果があるかどうかを調べました(写真)。すると、ワクチンを注射されたハマダラカの約4割は、これまで一度もマラリア原虫に感染したことがなかったにも関わらず、それに感染することはなかった、つまり確かにワクチンの効果があったことが証明されました。

今後は、このワクチンに含まれる免疫成分が何なのかを特定し、それを虫除けスプレーのように噴霧することで、ハマダラカ自体をマラリア原虫の感染から防ぐことが考えられています。マラリアなんて日本とは無関係と思われるかもしれませんが、日本にもかつて土着マラリアが存在していたことはご存知でしたか?最近のように、日本もこれだけ暑く、亜熱帯化するようになると、かつての土着マラリアが、再び蔓延するやもしれず、マラリアとの戦いが、決して他人事ではなくなる日がやって来るかもしれません。