djb今回は、本当に久しぶりですが「疑似科学?」のカテゴリーで、最近公表され物議を呼んでいるある有名な論文をご紹介します。この論文の著者である、米コーネル大学のダリル・ベム教授(写真)は、「自己知覚理論」と呼ばれる正統な心理学理論で60年代後半に一世を風靡した、若き新進気鋭の心理学者でした。

そんな彼が超心理学に関わるようになったのは、プリンストン精神物理学研究所で乱数発生装置を用いた超心理学実験に没頭していたチャールズ・ホノートンとい う超能力肯定派に協力を依頼されたからだと言われています。学生時代にマジシャンのアルバイトで学費を稼いでいたベム教授はトリックにも通じ、実験データ の統計処理もお手のものということで白羽の矢が立てられたというわけです。意欲ある若者が独自の方法論を携えて、敢えて異端の科学に挑戦する、当時の超心 理学研究は、まさにそんな新たな息吹が吹き込まれようとしていた時代でもあったのです。

それから約40年、今では超能力と言えば、それはあまりに陳腐化し、TVのバラエティー番組やコメディー映画のネタになるのが関の山なのですが、ベム教授の真理を追究する情熱は40年前と少しも変ってはいませんでした。今回彼は、まっとうな心理学の一流専門誌『Journal of Personality and Social Psychology』に掲載予定の論文PDF:購読無料)の中で、8年の歳月をかけて行った9つの超心理学実験の結果を発表したのです。彼は、論文の中で9つのうち8つの実験において、統計的に有意な超心理現象を確認できたと報告しています。

その実験内容の一部は、すでに他のニュースサイトで も取上げられていますが、ここでは、他ではあまり取上げられていない別の実験について、その内容を簡単にご紹介しましょう。過去に起こった出来事が未来に 起こる出来事に影響を及ぼすというのは当たり前のことですが、逆に未来に起こったことが過去に起こったことに影響を及ぼすことってありえると思いますか? 例えば、試験が終わった後に猛勉強したら、試験の成績が上がったとか。この実験結果は、そんな不思議なことが起こりうるかもしれないと示唆しているのです。

100人の大学生からなる被験者は、コンピュータ画面上に順次現れる48個の単語を、ひとつづつ暗記するように指示され、その後どれだけ暗記できたのかを書き出すテストを受けます。テストの後、引き続き何名かの大学生は、最初の48個の単語の中からコンピュータがランダムに選び出した24個の単語を推測して書き出すように指示されます。この24個 の単語を当てる作業は、暗記できた単語をもう一度復習するという意味合いをもちます。試験の後の猛勉強に相当するでしょう。でも、テストはすでに終わって いるのですから、常識的に考えればこの復習作業を行った大学生と行わなかった大学生で、最初のテストの結果に差が出るはずはありません。

ところが実験結果は、復習作業を行った大学生が、復習作業でコンピュータが選び出した24個の単語を最初のテストで正しく暗記できていた頻度は、復習作業を行わなかった大学生が、その同じ24個の単語を最初のテストで正しく暗記できていた頻度より高かったというのです。事後に行われた復習作業が、それ以前の過去に行われたテストの結果に影響を及ぼした、とでも言うような結果です。

このような、現代科学の常識に真っ向から挑戦したベム教授の実験結果には、手厳しい反論が 寄せられているのも事実です。しかし、今回彼が行った実験結果が、まっとうな科学専門誌に掲載された理由のひとつとして、彼が徹底的に実験主義にこだわっ たという事実が挙げられます。実験主義とは、誰もが追試可能であり、適切にコントロールされた実験を通して仮説を検証するという姿勢です。反証可能である ことが科学の大前提であることを考えれば、ベム教授のこの論文は、たとえその結論が一見荒唐無稽に見えようと、科学論文としての最低限の体は成していると 言えます。あとは、多くの科学者に追試されることで、それが真実かどうかが明らかにされるというわけです。現在、すでにひとつの追試実験結果が公表されていますが、どうもベム教授の実験結果は再現できなかったようです。う〜ん。前途多難かもしれませんね。

(本記事は、111日付でニュースサイト『スゴモリ』に掲載された記事を本ブログ用に改変したものです。)