images浸透圧の原理としてWikipedia日本語版にはこう書かれています。


半透膜、すなわち溶媒(小さな分子)だけを透す膜で隔てられた2室に溶媒・溶質が同じで濃度の異なる2つ の溶液があると、濃度の低い(溶質分子の密度が相対的に低い)溶液から濃度の高い(溶質分子の密度が相対的に高い)溶液に移動する溶媒分子の数は逆向きの ものより多くなる。これは、低濃度溶液中の溶媒分子の方が、高濃度溶液中の溶媒分子よりも、溶媒自身の密度が高く、拡散の原理に従って、溶媒分子が [高]→[低]へと移動することによっている。結果として、溶媒は溶質濃度の高い溶液の方へ移動し、平衡状態に達するまで続く。


米・バードカレッジ物理学教授Eric Kramer氏によれば、この説明、実は間違っているのだそうです。

J. W. Gibbsが1897年に化学ポテンシャルによる浸透圧の熱力学的原理を発表し、その後1951年には、Freedmanらによって浸透圧を生み出す分子メカニズムが明らかにされている(Joos,G. and Freeman,I.M. (1951) Theoretical Physics, (2nd edn), Hafner Publishing, pp. 586–587)にもかかわらず、特に生物・化学系の研究者の間では今もってこのような間違った理解が根強いことについて、Kramer氏は「物理学者が60年以上もの間、化学者とこの問題について十分な話し合いを持たなかったことは驚きに値する」とコメントしています


では、間違いはどこにあるのでしょう?


Kramer氏らは、Trends in Plant Science誌4月号の中で、最も根強い間違いは、浸透圧の原動力が、物質の拡散にあると考えられている点だとしています。物質は濃度の高い場所から、低い場所へ、拡散によって移動します。したがって、溶媒である水の濃度が、溶質が溶けることによって薄められる結果、溶けている溶質の濃度が低い、すなわち水の濃度が高い場所から、溶けている溶質の濃度が高い、すなわち水の濃度が低い場所へ、水分子が拡散によって移動します。これが、浸透圧の力となるという考え方です。上記、Wikipediaの記述でいうと、


これは、低濃度溶液中の溶媒分子の方が、高濃度溶液中の溶媒分子よりも、溶媒自身の密度が高く、拡散の原理に従って、溶媒分子が[高]→[低]へと移動することによっている。


というくだりが間違いだというわけです。実際、水の拡散だけによる力は、浸透圧の1/2から1/6程度の力しか生み出さず、さらには、溶かす溶質によっては、水の水素結合を切断することによって、逆に水の濃度を濃くする逆に水の濃度が濃くなったと同等の効果を与える場合もあるからなのだそうです。


では、正しい解釈ではどうなるのでしょうか?


Kramer氏らによれば、濃度の異なる水溶液を隔てる半透膜にあいた穴は、溶質が通過するには小さいので、溶質はこの半透膜にぶつかるたびに跳ね返されることになります。この跳ね返された勢いは、溶質の周囲の粘性によって、溶媒分子も一緒に跳ね返された方向に動かすのだそうです。するとたまたま半透膜の穴から顔を出しかけた溶媒分子も一緒にその勢いで引っ張り込まれることによって移動するというのが、正しい解釈のようです。溶質濃度が濃い側の方が、多くの溶質が膜にぶつかり、跳ね返される結果、溶媒を引っ張り込む力も強くなり、その結果、溶質濃度の低い方から高い方へ溶媒が移動するというわけです。溶質が半透膜にぶつかるのは、溶質のランダムな運動、すなわちブラウン運動によるため、浸透圧の原動力は、このブラウン運動にあると考えられるようです。


参考資料:

Newswise, Dick Jones Communications, “Everything You Know About Osmosis Is (Probably) Wrong