images皆さん は、夏の暑い日、せっかく冷蔵庫で冷やした飲み物の温度をできるだけ長く保つ方法をいくつご存知ですか?氷を入れる。正解、でも飲み物は薄まってしまいま す。「溶けない氷」を入れる。これも正解、でも「溶けない氷」はまだそれほど一般的じゃないかもしれません。断熱コップに入れる。確かに正解、でもちょっ とお金がかかりそうです。米ワシントン大学の大気圏科学教授Dale Durran氏は、もっと簡単に誰でもできる方法があるのだと、Physics Today誌4月号に発表しています(購読無料)。


水などの液体は気化すると周囲から気化熱を奪います。逆に、凝結(結露)すると凝結熱を与えます。Durran氏は、2-3年ほど前、大学での講義中に、気化熱の例は身近にたくさんあるのに対し、凝結熱の身近な例がほとんどないことに気づいたのだそうです。するとふと冷たい飲み物を入れたコップの結露がその例になるのではないかと思いつき、ドラマ「ガリレオ」の主人公、湯川学准教授さながら、手近にあったナプキンに走り書きの計算を始めました。


0℃に冷やされた350ml缶の表面(底面積を除いて290 cm2)にできた厚さ0.1mmの結露水(2.9g)のもつ凝結熱は600 cal/g。この熱量は、缶に入った350gの水の温度を最大で4.9度上昇させる・・・という具合に。


コップの結露にこれほどの凝結熱を発生させる力があることに驚いた Durran氏は、実際の水の温度の上昇に、この凝結熱による寄与がどのくらいあるのかを実験で確かめようとしました。意外なことに、これまで周囲の気温による温度上昇と、この結露による温度上昇を区別して測定した人はいなかったようです。


ただ、理論専門だった同氏には、当時実験するための設備も予算もなかったため、同僚の実験屋Dargan Frierson准教授を仲間に引き入れ、彼の所有する、ほとんど使われたことのない地下室のユニットバスを使って、まずは簡単なお手製実験から始めたのです。そして、この予備実験の結果は大成功。Durran氏も大いに手ごたえを感じたのですが、一方で便座の上に置かれた手作り装置によるデータが、一流学術誌に採用されることは難しいこともわかっていました。


装置

そこで、両氏は、近くの大学にいる同僚にも実験の再現性を確かめてもらい、これらの結果を同じくらい暑いけれど湿度の少ないシアトルで計測した結果と比較したりもしたようです。しかしやはり厳密に制御された条件下での計測の必要性を感じた両氏は、大学の倉庫に眠っていた、最後に使われたのが数十年前という、1950年代製の代物とおぼしき加温加湿装置(左写真)を調達しました。さらに、全米科学財団(NSF)から科学教育支援活動費として得た研究費で、二人の大学生を雇い、昨年の夏、ようやく最後の実験に取り掛かったのです。


水の入った缶を氷水で冷やした後、温度、湿度を制御した装置にセットし、5分後に結露の量(これにより凝結熱による温度上昇分を計算)と、上昇した実際の水の温度を測定するという実験を繰り返した結果、缶内の水の温度の上昇は、その半分が、周囲の気温によるもので、残りの半分が凝結熱によるものだとわかったのです。つまり、結露を防ぐだけで、温度の上昇は半分に抑えられるというわけです。


具体的には、実際2003年の7月8日に、気温43℃、露点35℃という記録的な高温、多湿に見舞われたサウジアラビアのDhahranという町を例にとると、この条件下では、0℃の水の温度は、5分間で18℃上昇しますが、結露を防ぐだけで、9℃までの上昇に抑えられることになります。



こちらの動画は、Durran氏らが所属するワシントン大学の大気科学教育支援グループが作成した、今回の研究結果を少しばかり誇張して見せたものです。早く冷やそうとして、うっかり凍らせてしまったコーラを、100℃のドライオーブンと、同じく100℃の蒸し器に入れたとき、どちらが早く溶けるかというものです。答えはもちろん・・・あとは動画でお確かめください。


というわけで、冷たい飲み物の温度をできるだけ長く保ちたいなら、こまめに結露を拭き取るか、結露しないように断熱ジャケットを着せるといいことがわかります。実際、断熱ジャケットの保冷効果は、その断熱性に加えて、結露を防いでいることによる効果が大きかったんですね。おそらく断熱効果はほとんどなくても、水の表面張力を下げる表面処理などで結露しにくくした結露防止ジャケットを作れば、断熱ジャケットほどかさばらず、安いものができるかもしれません。


参考資料:

ワシントン大学プレスリリース