今や連休真っ只中。世の中のお休みモードをいいことにちょっと疑似科学系のネタをひとつ。もうすでにご存知の方も多いかと思いますが、アメリカではここひと月ほどの間、ちょっとした話題になっていた映画『Sirius』が4月22日に公開になりました。日本でもネット配信されたものを有料で視聴できるようです。まずは、冒頭の映画予告編をご覧ください。



そう、これは、アメリカ人が大好きな政府陰謀説ものの、ノンフィクション映画です。アメリカ政府が旧来のエネルギー資源から得られる既得権益を守るため、宇宙人からすでに得ている未知のテクノロジーを意図的に隠していると告発する内容みたいです(実際の映画を見ていないので、まちがっていたらごめんなさい)。


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で、話題になっているのは、この陰謀説を裏付ける証拠のひとつとして、そしてすでに地球にやってきている宇宙人として、『Sirius』の中で取り上げられている体長15センチほどのヒト型のミイラ(上写真)です。今から10年ほど前に、南米チリ・アタカマ(Atacama)砂漠のゴーストタウンLa Noria(19世紀後半、硝酸塩の採掘でにぎわったこの町に、1835年にチャールズ・ダーウィンが訪れたという記録があるそうです)で見つかったこのミイラ、それゆえ後にAtacamaの「Ata(アタ)」と名づけられ、発見後はいくつかの所有者の手を経て、2009年、最終的に『Sirius』の仕掛け人Steven Greer博士の手に渡ったという、いわくつきの代物です。


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Greer氏のひとつ前の所有者で、大金持ちの実業家であり、UFO研究家でもあるRamón Navia-Osorio氏が、Ataを最初に科学的に分析した人だといわれています。当初、分析を個人的に依頼された多くの科学者は、キャリアに傷がつくのを恐れ、依頼を断ったため、Navia-Osorio氏は2004年の7月、Ataをスペインの王立科学アカデミーに持ち込み、科学者の分析を受けることに成功しました。その結果は、2つの報告書にまとめられましたが、多くの科学者が活字に残る言葉を慎重に選んだ結果、Ataが一体何者なのか歯切れの悪いものになったと当のNavia-Osorio氏はご不満のようです。


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それでも、1つ目のX線による骨格分析の報告書では、Ataが鳥の骨格を使って作ったようなまがい物ではないこと、2つ目の法医学報告書では、Ataがおそらく15週齢のヒトの胎児のミイラであり、古くてもせいぜい数百年前のものだろうと結論付けています。これらの結論を受けて、Navia-Osorio氏は、Ataが宇宙人のミイラだとは断定できないという立場をとっています。


それでも、その後AtaをGreer氏に手渡す際に言ったとされる「AtaのDNA配列は未知の生物のものだった」という言葉がその後独り歩きし、解析した研究者の名前はおろか、解析した研究機関の名前も伏せられたまま、『Sirius』の番宣でも何度も取り上げられるようになり、人々の間に物議をかもしたというわけです。まあ、いい宣伝にはなったようですが。


そして、公開日、ふたを開けてみれば、映画は何とAtaのDNA配列は完全にヒトのものと一致したとの内容。今までの情報は完全に釣り宣伝だったわけです。映画の中で新たにこの解析を請け負ったのが米スタンフォード大学医学部教授Garry Nolan氏です。


同氏によれば、AtaのDNAは、およそ数十年前のものと新しく、保存状態もよい上に、大量に存在したため、ゲノムDNA配列解読は17.7倍のカバーレートですんなりとうまくいったそうです。当初予想していた、数万年前の類人猿の骨からもDNAを抽出できる技術をもつ古人類学者の手は借りなくても済みました。さらに、同時に行ったミトコンドリアDNAの解析では、Ataの母親はほぼ間違いなくチリに住む、土着のインディオだったことが明らかとなりました。


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では、Ataの15センチという大きさについてはどういう解釈が可能なのでしょうか。Nolan氏の同僚で、小児骨異形成が専門のRalph Lachman氏は、肋骨が正常より左右1本ずつ少なく、頭蓋骨が異常に変形したAtaが、これまでに見たどの骨異形成症とも異なると率直に述べています。しかし、小児にしか存在しない膝小僧近くの骨の密度から、驚くことにAtaが6-8歳まで生存していた可能性が示されました。また別の可能性として、早老症の胎児だったとも考えられますが、該当する遺伝子変異が見つからなかったことから、その可能性は低いとも述べています。


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ニューヨーク・ストーニブルック大学病院の古人類学者で解剖学者でもあるWilliam Jungers氏は、もっと単純に、この形態異常はミイラ化したときのアーティファクトで、実際は何の遺伝性の異常も存在しないのではないかとコメントしています。


Nolan氏も、これだけでは科学的根拠としては乏しいと認めており、引き続きAtaの形態異常の研究を続け、いつかはその成果を論文としてまとめたいとのこと。映画の中での最後のコメントは、「もっとコメントしたいが、(これ以上は憶測になるので)できない。」というものだったそうです。


DNA解析の結果から宇宙人ではないことが明らかになった今、もうこれ以上関わらなくてもいいように思うのですが、根っからの研究者気質なのでしょうか、Nolan氏の興味は、宇宙人かどうかを超えてさらにその先へと行ってしまったようです。Ataが精巧な作り物だったらどうする?という問いに対して、「もしこれが作り物だったら、これを作った人こそ宇宙人だ」ともコメントしているようですが、ちょっと心配ですね。


参考資料:

Background of UFO documentary’s humanoid alien revealed, OpenMinds(Ata発見の経緯)

Analysis of the Atacama humanoid alien, OpenMinds(初期の学術的調査)

Sirius filmmakers release Atacama humanoid sex and age, OpenMinds(公開前の釣り宣伝)

Scientist says Atacama humanoid is human but still a mystery, OpenMinds(Ataの真実)

Bizarre 6-Inch Skeleton Shown to Be Human, ScienceNOW(Ataの真実)