709622f5-sダウン症は、本ブログでも幾度となく取り上げてきましたので、改めて説明の必要はないかもしれませんが、極々簡単に言うと、ヒトの22組ある常染色体(性染色体でないもの)のうち、最も小さい21組目の染色体が、通常の母親と父親からの1本ずつに加え、さらにどちらかの親に由来する1本が増え、合計3本で1組になることによって生じる先天性の疾患です。これにより21番染色体からの遺伝子発現量が過剰となりダウン症を発症すると言われています。


しかし、ヒトの22組の常染色体に加え、最後の23組目の染色体にあたる性染色体では、正常なヒトでも、ダウン症に見られるような余分な1本がいつ悪さをしてもおかしくない状況になっていると聞くと驚かれるかもしれません。性染色体はX染色体とY染色体の2本で1組であり、男性はXYの組み合わせ、女性はXXの組み合わせであることはご存知の方も多いでしょう。


この組み合わせをよーく見ると気づくことはありませんか?男性はX染色体が1本なのに対し、女性は2本ありますよね。これって、ダウン症にみられる3本の染色体とよく似た状況だとは思いませんか?この余分な1本のX染色体のせいで、女性ではX染色体からの遺伝子発現量が過剰にならないのでしょうか?


世の女性が例外なくピンピンしているのを見ると、そこは過剰にならないようにうまく制御されていると考えるのが自然であり、事実、女性にはその余分な1本のX染色体からの遺伝子発現をほぼ完全に抑制する、X染色体の不活性化と呼ばれる仕組みが備わっているのです。


ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、ここまでの説明で勘のいい方は気づいたかもしれませんね。ダウン症の根本的治療法を。余分な1本のX染色体を不活性化できるのなら、余分な1本の21番染色体だって不活性化できるんじゃないかって。まさにそれと同じことを考え、培養細胞ではうまくいったよとNature誌の速報(電子版)に717日付けで発表したのが、米マサチューセッツ大学病院のJun Jiang氏らのグループです。


XistX染色体の不活性化に必要な遺伝子として発見されたのは、今から17年も前の1996年のことでした。またその翌年、1997年には、Xist遺伝子をX染色体以外の染色体に移すと、移された先の染色体からの遺伝子発現も完全に抑えることが証明されました。こんなにも早くからXistを、ダウン症治療、すなわち余分な21番染色体からの遺伝子発現抑制に応用できる可能性が示されていたんですね。にもかかわらず、その実現の第一歩に過ぎない今回のJiang氏らの成功にすら、その後15年以上の歳月を要することになったのです。科学の発展は一筋縄ではいかないようです。


この続き、Jiang氏らがどのように、またどの程度、余分な21番染色体を封じ込めるのに成功できたかどうかは、メディカルトリビューン誌に書かせて頂いたこちらの記事をご覧ください。