Phage【細菌も自己と非自己を区別する】

4月13日・ワイズマン研(イスラエル):

2010年CRISPR(クリスパー)と呼ばれる、細菌の獲得免疫機構が報告された。獲得免疫とは、外来の異物との接触によって後天的に獲得した、外来抗原の記憶に基づく抗原特異的な免疫反応で、外来抗原に対し非特異的に反応する自然免疫とは対をなす免疫機構のひとつだ。高等動物にしかないと思われてた獲得免疫が細菌にもあったとしてこの発見は驚きをもって迎えられた。

CRISPRはどちらかというとゲノム編集技術としての知名度の方が高いが、それはこの免疫反応機構を応用した技術であり、CRISPR自体は元々、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatの略で外来(いくつかは自己も含む)DNA抗原の配列を記憶した遺伝子座位の名前なのだ。

今回、このCRISPR免疫システムの中で、これまで不明とされていた、細菌が自己と非自己のDNAを区別するメカニズムが明らかになった。メカニズムの鍵となるのはDNA複製フォーク(複製前の2本鎖DNAが1本鎖DNAにほどけるときにできる分岐点)の停止と、DNA複製フォークから逆行して2本鎖DNA修復を行うRecBCDタンパク質複合体のChi部位での停止の2つ。

前者の停止は多いほど、後者の停止は少ないほど、DNA抗原記憶は形成されやすいことがわかった。外来のウイルスゲノムは、宿主側の細菌ゲノムと比べて、複製サイクルが早いので前者の停止が多く、一方Chi部位が少ないので後者の停止は少ないことから、外来の非自己DNAの方が宿主自身の自己DNAよりも抗原記憶されやすいというわけだ。

余談になるが、このCRISPRリピートを初めて発見したのが、現九州大学教授の石野良純氏であることをご存知だろうか。ただし1987年という大昔だ。最近同氏の講演を聞く機会があったのだが、もし当時この重要性に気づいていればと笑っておられたのが印象的だった。ただ、ノーベル賞は第一発見者にとことんこだわることで有名だ。もしかしたら、数年後CRISPR技術がノーベル賞を取ることになれば、石野氏が共同受賞するかもしれない。いただいた名刺は大切に保管しておこう。

一方CRISPR技術に関する特許の方は、巨大な利権が絡むだけあってすんなりとはいかないようだ。2012年の夏にCRISPR技術を初めて報告したカリフォルニア大学と、2013年初頭にCRISPR技術のヒト細胞での応用に初めて成功したと報告したブロード研究所の間でドロ沼の争いが始まった。ブロード研究所のグループは、彼らの研究がカリフォルニア大学のグループとは独立に行われ、2012年初頭にはCRISPR技術の開発に成功していた(が、ヒト細胞への応用まで視野に入れていたため最終的な報告が遅れた)と実験ノートのコピーを証拠として提出し特許を得た。これに対しカリフォルニア大学が異議申し立てをしているという図式だ。先発明主義のアメリカらしい争いだが、アメリカも日本やその他先進国同様洗願主義に移行することに同意しており、その流れに逆行する形の今回の特許が最終的に認められるのかどうか注目されている。

冒頭写真は、細菌(右)に感染するウイルス。

Rotem Sorek et al. CRISPR adaptation biases explain preference for acquisition of foreign DNA. Nature, April 2015 DOI: 10.1038/nature14302