もっけ / 熊倉隆敏 クマクラタカトシ
講談社『月刊アフタヌーン』(2000年8月-2009年7月)
全9巻・完結済

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【レビュー】
妖怪・伝奇  / 説話・寓話・民俗学 / 日常・シリアス

先日、妖怪漫画の第一人者として日本漫画史に名を刻む水木しげる先生がご逝去されました。
いち妖怪漫画愛好家として心より哀悼の意を表します。 

水木しげる先生の代表作「ゲゲゲの鬼太郎」を殿堂入り別枠という扱いとして
妖怪・伝奇漫画の最高傑作は何か?という話になった時、僕は「もっけ」を推します。

2クール編成でアニメ化もされており、今まで当ブログで取り上げてきた漫画の中では
群を抜いて有名どころに当たるであろうこの作品ですが、どうも自分の周囲での知名度は
それほど高くないような気がしていて・・・ 



巫覡の家系に生まれた「見える」体質の姉・静流と、「憑かれやすい」体質の妹・瑞生の姉妹が
様々な妖怪・怪異に関わりながら成長していく1話完結式の漫画。
・・・というとわりとありがちな設定に聞こえますが、この漫画の非凡なところは
妖怪そのものだけでなく、妖怪を語る上で絶対に欠かせない「人間」の風俗への考証が非常に深い点です。

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例えば「子泣き爺」といえば鬼太郎に出てくる蓑を背負って赤い前掛けをつけた
禿頭のおじいちゃんのビジュアルが浮かぶ人がほとんどだと思います。
それだけ妖怪のビジュアルを強烈に印象付けた水木しげる先生の偉大さはまあ一旦置いといて、
じゃあどういった経緯でこんな妖怪が語り継がれるようになったのか?
だいたいの妖怪は「対処法」もセットで語り継がれているけど、なぜそれで対処できるのか?
この漫画はそういった部分にスポットを当てて物語を作っています。
上記画像の「うばりおん」は第一巻の第一話にあたる話なのですが、
「うばりおん」「おぶさりてェ」の正体についての解釈が素晴らしい描写で・・・


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人は妖怪という存在に何を写して何を考えてきたのかなあ、とか。
薀蓄を絡めて紐解いたり煙に巻いたりするお話なので、
そういうのが嫌いな「考えるな、感じろ」型の漫画読みには向かないかもしれません。
僕は生粋の文系脳なもんで、こういうのを読んでて凄く楽しいと感じるのですが、

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原典を知らなくても「へえ」ってなるし、知ってればなお「ほお」ってなるような。
わりと文字数・コマ数は多い部類で、好きでも読むのにちょっと体力使うかも。
でもそれだけ没頭できる力のある作品です。

また、この作品は”人と人との関わり”を非常に重視して描かれています。
主人公を姉・妹の二人にしているのも、片方は見えるだけ・片方は憑かれるだけなのだから
勿の怪と向き合うには二人で事に当たらなければ片手落ちになるわけで。
「もっけ」というタイトルで題材も妖怪なのだけれど、あくまで妖怪を通して人がどう在るかを描いている
という印象を受けます。

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ただの綿埃や毛玉に、人の思いや想像が乗っかって名を与えられて勿怪になる。
大人になって現実的になったとして、それを切り捨てるような人間ではなく
そこまで踏まえて大事にできる人間でありたいし、昔の日本人はそういうのを凄く大事にしてたんだと思う。

妖怪という存在を信じているかと問われたらいないと思う、と答えちゃうけど
妖怪は人間の生活や風俗、精神とともに間違いなくずっと在り続けているとも思っています。
そしてそれは日本人の血を引いていたり、日本の文化に親しんできた人たちの中にも
脈々と受け継がれているものなんじゃないかなあと。


なんか漫画のレビューじゃない文章な気がするけど、総括すると
「もっけ」は傑作です。

俺が今までに読んできた完結済み漫画の中でも最上級の評価を付けた作品なので、
是非全ての漫画好きに読んで欲しいと思います。 

系統としては、
『ぎんぎつね』(落合さより / 集英社)
『夏目友人帳』(緑川ゆき / 白泉社)
『ルート3』 (みなぎ得一 / ワニマガジン)
『怪異いかさま博覧亭』(小竹田貴弘 / 一迅社→アスキー・メディアワークス)
『鬼灯の冷徹』(江口夏実 / 講談社)
あたり好きな人向け。