誰が為に鋼は鳴る / 天乃タカ アマノー
 エンターブレイン『コミックビームFellows!』(2008年-2009年)
 1巻完結

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【レビュー】
ビタースイート・ファンタジー / 田舎 / 神様(和)

弟子入りしていた親方が急逝し、未熟なままに田舎の鍛冶屋を継ぐことになったケン。
腕は足りないし仕事も来ない、逆境のなか唯々鋼を打つ日々。

そんな彼の工房を、都会から引っ越してきた少女”みっちゃん”が見に来るようになる。


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彼女には『鍛冶場の神様』が視えていると言う。

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神様と少女に見守られ励まされ、再び鍛冶への情熱を取り戻すケン。
しかし、”みっちゃん”もまた心に傷を抱えていて・・・・・。


この物語は、全編を通して「選ぶ」という言葉が大きなテーマとして存在しています。
1つの道を選ぶということは、他の道を切り捨てるということと同じなのか。

大切な何かを得る為に他の大切な何かを諦めなければならないこともあるかもしれない。
1を選べば2を捨てるのか、選ばれなかったものは、未来はどうなるのか?消えてしまうの?

そんなテーマに、ケンも、みっちゃんも、そして”鍛冶場の神様”も直面し、それぞれの答えを
出していきます。

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守るために、絶対に捨てないために、一度離れることもまた選択。

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いつまでも共に歩むわけにはいかない、違う時を歩く友に、選ばれることはできないのか。
選ばれないということは捨てられるということなのか。

その時、自らの為に、友の為に、何ができるのか。

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一つの道を選び邁進して、気付かぬうちに他の道を、選んでいなかった道を
「捨ててしまっていた」のかもしれないと、気付いたら。

最後に、二人と一柱は何を「選ぶ」のか。



ほのぼのとした前半、急転直下の『選択の連続』の中盤、そして、 ひとりひとりの大きな決断。
ほんのり切なく温かく、胸が締め付けられるようでいて爽やかな和やかな結末。
三人の「決断」に至るまでの過程が丁寧に描かれているため、納得がいくというか、
胸にストンと落ちてくるような綺麗なラストです。
エピローグでの補完も完璧で、まる一巻一気に読んで幸せなため息が出るような読後感。

涙もろい自分は、改めて読み直して少し泣きました。
感動系に弱い人はハンカチ準備。

系統としては、 以前に紹介した
バックトゥー★ザ・ヒーロー』(鬼灯 / 徳間書店)
に非常に近いです。こちら嬉しいことに当ブログのレビューを見て読んでみて、
「良かった!」という声、何件か頂いております。そういった方々、『誰が為に鋼は鳴る』も
是非読んでみてください。自分はどちらの作品も、登場人物の強さと覚悟に胸打たれました。

ほか、
『タビと道づれ』(たなかのか / マッグガーデン)
『空想郵便局』(朝陽昇 / マッグガーデン)
『まじめな時間』(清家雪子 / 講談社)
ぼくらのよあけ』(今井哲也 / 講談社)
などなど、爽やか切ないファンタジー好きには外さない作品です。
また、ラブストーリーの質や絵のタッチ、ヒロインのデザインなど
『ハチミツとクローバー』(羽海野チカ / 集英社)
に通じるところも大きいです。

和のカミサマ好き、という点では
『ぎんぎつね』(落合さより / 集英社)
『夏目友人帳』(白泉社 / 緑川ゆき)
『てるてる天神通り』(児玉樹 / KADOKAWA)
あたり好きな人にもヒットするはず。

何が素晴らしいって、画力もキャラも、もちろんストーリーもさることながら、
「テーマ性」の高さが素晴らしい。
テーマがしっかりしているから、1巻という限られた短さの中でもキャラクターの機微が
細やかに伝わってきて、視点を入れ替えつつ作中時間も飛びつつもなお序から結まで
一貫したストーリーが出来上がっている。 
本当に読後感が素晴らしいと、レビュー前に改めて読んで感じました。