ひつまん。

カテゴリ: 感動・感涙

鬼さん、どちら / 有永イネ アリナガー
小学館『月刊IKKI』(2014年7月号ー11月号)
全1巻

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 【レビュー】
学生・日常 / ビター・ファンタジー / シリアス / 短編連作

三千人に一人程度、頭部に”角”状の突起がついた、「鬼」のいる日常。
差別や迫害を避けるため、彼らは「先天性頭部突起症」という症名を与えられ、
「鬼」という呼称や、「鬼ヶ島」「桃太郎」などのおとぎ話も規制対象となった。 
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保護され支援され、あるいは時に哀れまれ蔑まれ、とかく異分子扱いされる「先天性頭部突起症」。
彼らの葛藤と苦悩を通して、人間の持つ強さと弱さを描く、短編連作のファンタジーオムニバス。

第一篇は、とある少女と、その同級生の「鬼」の二人を軸に始まります。
「鬼」であるがゆえに周囲に気を遣われ孤立している少女・崎みちる。
「鬼」は身体が弱いという偏見から、ゴミ捨てのくじびきにも参加せず体育も常に見学だけ。
同級生・相模ゆいこは、崎に対する特別扱いが納得いかず、本音を尋ねてみるが・・・

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 「あちら」と「こちら」、二人の女子高生の悩みと交流を描いた第一話。
この一話だけで買って良かったと確信できるくらいには惹き込まれました。

全5編の短編連作形式で、「先天性頭部突起症」の人々を通してこの作品は様々な問いかけをしてきます。
「個性」って何ですか、「区別」と「差別」はどう違うんですか、強いとか弱いとかってなんですか。


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なんで頭に角があるかないかで苦しまなきゃいけないんですか。
角がなければ普通の人間なんですか。

鬼として異端扱いを受けてきた崎が、 他の”鬼”や”普通の人”、あるいは鬼じゃないけど普通じゃない人たちと
関わる中で、自分の角をどう捉え、どう答えを出すのか。

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最終話はまたはじめの二人にスポットが当たります。
ラスト十ページの展開は、なんというか胸にストンと落ちてくるような不思議な感覚でした。 


「角」は現実にはありえない、わかりやすい視覚的シンボルですが、
このテーマは身近の様々な物事に置き換えて考えさせられます。

久々に、人生観を変えられそうなパワーのある作品に出会ったなという感想です。

綺麗でちょっとほろ苦くて、でも優しくて安心するファンタジーものということで、
タビと道づれ』(たなかのか / マッグガーデン)
『まじめな時間』(清家雪子 / 講談社)
『イヴの時間』(原作・吉浦康裕 画・太田優姫 / スクエアエニックス)
『空想郵便局』(朝陽昇 / マッグガーデン)
『ミガワリメーカー』(恩田澄子 / 講談社)
『トゥインクル・キャンディ』(雲之助 / 祥伝社)
現代魔女図鑑』(伊咲ウタ / 一迅社) 
バックトゥー ザ★ヒーロー』(鬼灯 / 徳間書店)
『夜さん』(佐藤ミズ / 徳間書店)
あたり好きな人に特にオススメしたい逸品です

魔女の心臓 / matoba

スクエアエニックス『ガンガンOnline』(2012年3月ー連載中) 
現在6巻刊行 

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【レビュー】
ダークファンタジー / 旅・放浪

一話~数話完結のダークファンタジー。一貫して、主人公の魔女・ミカの旅路を描く。
ガンガンOnlineにてWeb連載中で、一話~三話と最新話を読むことができる。
  ※リンクはPC用。スマホユーザーはアプリ『ガンガンOnline』ダウンロードで無料試読可能。

昔々、魔女という生き物がいました。
心臓を失くし、空の胸腔を抱いて生と死の境界を渡るあわれな不死の魔女でした。
やがて魔女は人々に疎まれ 今はもうおとぎ話の中にしかいなくなってしまいました。


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主人公の旅人・ミカは外見こそ幼気な少女だが、正体は数百年前に心臓を実の妹に奪われ、
心臓を取り戻す為に妹を探し彷徨い続けている”境界の魔女”。
 
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心臓を奪われた彼女には”死”がなく、胸にあるのは虚無の空洞。
喋るランタンのルミエールを連れ合いに、自らの死を求めて国から国へと渡り歩く。


旅先で関わる人間たちは、一様に生きているか死んでいるかのどちらかで、
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先に逝く者を悼みつつどこかほんの少し「死ねること」を羨ましく思ってしまったり、
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かつて共に旅した一座に再会し、自らの存在を確かめ直したり、
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生を苦しむ者、死んで楽になる者、或いはその逆。
 そんな中で、ミカは一人だけ生でも死でもない存在として歩き続ける。

物語の系統としてはファンタジーで、数話完結のオムニバス形式ですが
一貫してテーマに「死」と「生」という言葉が関わってきます。
テーマは重いですが、話の構成としては
ほっこり6:不思議3:ダーク1
くらいな感じで、全体的には癒されたり綺麗な話が多いです。

わりと軽快なコメディタッチの会話も多く、たまに漏れ出すミカのお茶目っぷりも
いいアクセントになっています。

寡黙な少女がお喋りな不思議ツールと一緒に様々な国々を旅して回る、という設定は
『キノの旅』に通じるところがあるかもしれません。 


絵柄は少女漫画のような印象も受けますが、特に違和感とか不快感は無く
書き込みも多くて画力については文句無しという印象。
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 個人的にこういう一枚絵すごく好きです。

 
現6巻刊行で、そろそろなぜ妹がミカの心臓を奪ったのか、妹が何処にいるのかなど
物語の核心がちらほらと語られ始め、クライマックスに向けて加速しつつある印象。
全8から10巻くらいで綺麗に完結してくれれば僕としてはベストに思えます。 

改めて、Webで無料で試し読みができるので是非こちらから読んでみてください。
※スマホの方はアプリ『ガンガンOnline』をダウンロードして無料試読できます。

系統としては、
『キノの旅』(時雨沢恵一 / 電撃文庫)
『棺担ぎのクロ ~懐中旅話~』(きゆづきさとこ / 芳文社)
『少女終末旅行』(つくみず / 新潮社) 
『夜森の国のソラニ』(はりかも / 芳文社)
『タビと道づれ』(たなかのか / マッグガーデン)
『ソマリと森の神様』(暮石ヤコ / 徳間書店)
『おもいでエマノン』(原作・梶尾真治 漫画・鶴田謙二 / 徳間書店)
などが好きな人には鉄板かと。 

タビと道づれ / たなかのか
 マッグガーデン『月刊コミックブレイド』(2006年9月号-2010年4月号)
全6巻・完結済 

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【レビュー】
ファンタジー・ジュブナイル / ミステリー・サスペンス / ヒューマンドラマ・感動

(最近、”期待の新作”ばかり取り上げていたので、たまには完結済みの傑作を。)


6巻完結のファンタジー・ジュブナイル。
なんというか、すごく綺麗な作品です。
綺麗事をまっすぐ言う綺麗さと、人間のエゴ・醜さ・弱さをまっすぐ描く綺麗さと、
暗い展開や心を折りにくる展開・描写もありつつ、それでも大丈夫。と立ち上がるようなお話です。
子供に読ませたい童話やおとぎ話みたいな雰囲気と、オトナ向けのビターな重さを両立した作品。

あらすじ。

主人公・タビは、あるきっかけで学校をサボり、5年前まで住んでいた街にやってくる。
そこに居るであろう大切な人、「航ちゃん」に会いに。
見慣れた懐かしい街、変わらない道路。
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しかし、駅に着くなり妙な男子と警官に追い掛け回されるタビ。
「どうやってこの街に入ってこれた!?」
「この街はおかしいんだ」
ただならぬ様子に逃げ出すタビだが、通ろうとした道が突如崩れ落ちてしまう。

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男子いわく、この町の道は”人を食う”という。
通れない道、入口に戻るトンネル、決して辿り着かない向こう岸。 
そして、路のほかにも閉ざされたものがひとつ。
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”今日”という日を繰り返す、脱出不可能な街に閉じ込められたタビは、
ユキタと名乗る男子の「この街を元に戻す!」という願いに協力するため、
そして大切な「航ちゃん」に会うために街の事を調べ始める。

そんなタビの掌には、奇妙な紋様が刻まれていた。
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その「テガタ」は、通れない路を通るための証、願いを叶える流れ星の欠片。

きっとこの街が閉ざされたのは、誰かの願い。それは誰、そして何故?




全6巻でボリューミーかつスピーディな展開、2周や3周読んだくらいじゃ気付けないほど
巧妙に張り巡らされた伏線、交差する登場人物の思惑と湧き出る謎。

先を読ませない、しかし読み返すと納得するしかないという絶妙な伏線&回収のバランスが凄まじいです。

レビューを書く時は印象的な決めゴマを抽出するのですが、この作品の大ゴマは例外無く
”伏線の完璧な回収” あるいは”予想を大きく裏切る急展開”なので、非常に選定が難しいです。
内容も具体的に書くと初見の驚きと感嘆を損ないそうで・・・。

読んだことない人は絶対に一読すべきだと思います。一読して嫌いじゃないって思ったら
何度も何度も読み直してみてください。何気ない会話の一コマやキャラの表情ひとつ取っても
「ああ、そういうことだったのか」ってなることばかりです。

マッグガーデン特有の優しい繊細なタッチと、綺麗な(恥ずかしい)セリフ回しにつられてほんわか系と思うなかれ。
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劣等感や挫折、逆恨みに自己嫌悪。読んでるこっちの心が痛くなるような描写がもりだくさんです。
でも、その痛みは人生にはつきもので、どうにか向き合っていかなきゃいけない。
弱い人間たちが、弱いなりにもがき苦しみ逃げまわりのたうち回りながら生きていかなきゃいけない。
ある意味で救いがないような、でも救われているような。

哀しい話や展開ではよくボロボロ泣く僕ですが、優しい話で泣いたのは、家中の本棚を見回しても
この作品と「バック トゥー★ザ・ヒーロー」くらいしか見当たらないです。

この作品から綺麗な部分と優しい部分だけ抜き取ったのが現在連載中の次作『すみっこの空さん』なわけですが、
僕個人としてはドロドロと爽やかのバランスが取れている作品が好きなので、『タビと道づれ』を推します。

絵の系統は
『ARIA』(マッグガーデン / 天野こずえ)
『ひとりぼっちの地球侵略』(小川麻衣子 / 小学館)
『現代魔女図鑑』(伊咲ウタ / 一迅社)
に近いかなあ。

SFファンタジージュブナイルとしては
『バックトゥー★ザ ヒーロー』(鬼灯 / 徳間書店)
『ミガワリメーカー』(恩田澄子 / 講談社)
『まじめな時間』(清家雪子 / 講談社)
『空想郵便局』(朝陽昇 / マッグガーデン)
『四月八日のまえがきに』(松井信介 / 小学館)
『流寓の姉弟』(須藤祐実 / 小学館)
あたりにも共通の雰囲気を見いだせるかと。

心にズシンとくる重さ・ほろ苦さは
『聲の形』(大今良時 / 講談社)
『ぼくらのよあけ』(今井哲也 / 講談社)
などと近いものがあります。
特に『ぼくらのよあけ』は好きな人が9割方かぶるだろうってくらい近い系統に思えます。
ほか新海誠のアニメーションとか好きな人はハマるんじゃないでしょうか。

sunny / 今村陽子 イマムラヨウコ
 少年画報社『月刊ヤングキング』(2010年5月号ー同11月号)
 全1巻完結
 
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【レビュー】
ハートフル・ヒューマンドラマ / 家族・友情・青春もの

実家を飛び出し半絶縁状態だったハルのもとに、、兄夫婦の訃報が舞い込む。
他に身寄りのないという忘れ形見・姪のあきらと、卒業までの3ヶ月という条件で
突然始まった奇妙な同居生活。
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おまけに18年ぶりに帰った家には、あきらの同級生が二人住み着いていて――

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女子高生三人と同棲なんてハーレム・・・と思いきや、それぞれ何やら軽からぬ
ワケ有りのご様子。
加えてあきらは、両親の喪失以上の何かを心に秘めていて・・・。
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あきらの不自然な態度、「私は大人になれない魔法に掛かっているから」という謎の言葉。
その根底に見え隠れする”母の日記”。
何が書いてあったのか、この家で何が起こっていたのか。
もう変えることのできない重い過去を背負って、わだかまりだらけのぎこちない家で、
それでも共に家族として歩んでいく。


全7話・1巻完結ながら読み応えのある作品。
重たい設定と展開で、それでも安心感も確かにある、不思議な感覚でした。

どこか危なっかしい四人が、自分のことすら抱えきれていないのに、それでも
お互い支えあおうとする姿に胸を打たれます。

最後の一コマは、時系列的には前のコマの直後のはずですが、どうにもあきらが一気に大人びたように
見えて、「大人になれない魔法」が解けたんじゃないかなあ、と一人勝手に感じ入ってしまいました。
同様の解釈をした方と飲み語らいたいです。

涙が出るタイプの感動というよりは、胸のつかえが取れるようなほっとする締め。
600円弱でこんな素敵な気分になっていいのかなあ、と買った当初は思ったものです。

系統としては、
バックトゥー★ザ・ヒーロー』 (鬼灯 / 徳間書店)
ひまわりさん』(菅野マナミ / メディアファクトリー) 
誰が為に鋼は鳴る』 (天乃タカ / エンターブレイン)
『ミガワリメーカー』 (恩田澄子 / 講談社)
『空想郵便局』(朝陽昇 / マッグガーデン)
『イヴの時間』(吉浦康裕・太田優姫 / スクエアエニックス)
『神様がうそをつく』(尾崎かおり / 講談社)
『まじめな時間』(清家雪子 / 講談社)
あたりが好きな人向け。

特にこういう読後感爽やかな感動系ヒューマンドラマが好きなもんで、
むしろこの作品知ってたよ、好きだよ!って人は他のオススメを是非教えてください。

ぼくらのよあけ / 今井哲也 イマイテツヤ
 講談社『月刊アフタヌーン』(2011年3月ー同年12月)

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【レビュー】
SFジュブナイル / ファンタジー / ロボット

舞台は2038年、夏。 家庭用お手伝いロボット「オートボット」が普及しつつある時代。 

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宇宙やロボットが大好きな少年・ゆうまは、家に来たオートボットのナナコといまいちうまく馴染めない。
そんな折、偶然ナナコが墜落した異星からの無人探査船のAIをインストールしてしまう。

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動転するゆうまに、宇宙船は“宇宙に還して欲しい”と協力を仰ぐ。
少年達と、異星から来た『ともだち』 の一夏限りの冒険が始まる―――


近未来、夏、小学生、宇宙、ロボット。これでもかとジュブナイル作品の王道要素を詰め込みつつ、
星間だったりご近所だったり、人間?関係に葛藤しながら成長していく子供達を描いた名作。

一万二千光年の彼方から、何故宇宙船は知的生命体を求めてやって来たのか。
それは、宇宙から見ればちっぽけな地球のちっぽけな島国の、
ちっぽけな都市のちっぽけな学校の中ですら難しいこと。
探査船は何を探査しに来たのか。それが明かされるラストに、少し泣かされました。

近未来になってもなくならないであろう人間関係の難しさ、同じようになくならないであろう友情。
生々しく初々しい少年時代を見せつけられ、ちょっと眩しい気分になります。 

系統としては、
『水惑星年代記』シリーズ (大石まさる / 少年画報社)
『カブのイサキ』(芦奈野ひとし / 講談社)
『神様がうそをつく。』(尾崎かおり / 講談社)
『トムソーヤ』(高橋しん / 白泉社)
『チロリン堂の夏休み』(オオカミうお / 講談社)
『ラッキー』(村上かつら / 小学館)
『青天の碧眼』(滝島朝香 / 竹書房) 
あたりが好きな人向け。

同作者の現連載作、『アリスと藏六』も、超能力少女の心の成長と家族の絆を描いた
素晴らしいファンタジー です。続きめっちゃ楽しみ。

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