妄想日記…
こんな日々がわずかでもあったのかなーて。

そしてあの2人の舞も、比喩ならば共に過ごした夜もあったかもしれない…。中将は夜の屋敷に走り込んだのかもしれない。

それこそ、内海にいたるための河にたどり着くまでにも、身を隠した夜もあったのかな…。紫の脚で歩けるわけないし


月の明るい夜も、月が隠れてしまっている夜も、ずっと2人で過ごしてきた。

実は夜が好き。
日が落ちると外には出られない。外には鳥や蝶。草木は四季で衣替えをし、毎日面白い発見があり退屈しない。
でも兄様は日の出てるうちはお出かけになることも多いし、何か難しいお話をしていることもある。

困ったことがあると、すぐに兄様を訪ねてくるひともいる。
“貴方様が直にお話を聞かなくとも”怒っている家のものもいる。
兄様は優しいから、誰が困っていても直にお出向きになりお助けになる。
そんな兄様が好きだけれど、あまり遊んでくださらないのは寂しい。出来れば近くにいて欲しい。

だから、夜は好き。
夜は兄様を独り占め出来る。

この屋敷は自分と暮らすために兄様が建てられたものだと聞いた。
街の賑わいからは少し離れるけれど、私は大好き。
でも来たばかりの頃は夜は暗く、知らない動物の声がして怖くてひとりで眠れなかった。
何度も兄様と一緒に寝てもらううちに、寝具は同じ間に用意してもらえるようになった。
でも使ったことはなくて、毎晩、当たり前にその腕の中で眠っている。

近頃、兄様はお元気がない。
物憂げにどこかを見ていたり、部屋にお籠りになることが多くなった。
お元気になって欲しいのに、どう声をかけたらいいかわからない。
前はもっと色々なお話しを聞かせてくださったり、読み書きを教えてくださったりした。家のものの目を盗んで2人で虫を捕まえたり、食べられる実を探しにいったりしたのに。

日が沈み、お椀型の月が兄様の横顔を照らしている。柱に手をかけると綺麗なお顔がこちらを見てくれた。
「どうした?」
自分がまだ寝ないのかと訴えれば、ため息交じりに寝所に入ってきてくれる。
やっぱり夜が好き。

当たり前のように自分の寝具ではなく横に滑り込めば、呆れたように眉を下げられた。
「…お背が高くなったのに…」
お叱りと思うには、あまりにもその声が優しくて、拗ねて甘えたくなってしまった。
重いのかと責めれば、溶けてしまいそうな柔らかな微笑みを浮かべ、腕を広げてくれた。

目尻と唇の形に一瞬見惚れた。
その腕の中へ飛び込む。自分のための場所。
細身に見えるが、自分とは比べものにならない力強い腕。

ふさぎ込んでいたと思えば、裏庭で太刀を振るっていたことを自分は知ってる。「光君様がそんな野蛮なことをしなくとも…」と嘆く家のものもいるが、自分はその姿を美しいと思う。兄様は脚も早く、腕は銀色の光の矢を作る。
兄様はどんな時も綺麗。

鼓動がなぜか早くなる。頬が熱い。
気恥ずかしくて、気づいてくれるなと思うが、どこかで気がついて欲しいと思う自分がいる。
視線をあげたら目線が絡み優しさが滲む。

髪を好かれた。くすぐったぐらい優しい指。
細められた黒目がちな鳶色の瞳。
その寂しげな光から、目をそらせない。

「もう寝なさい」
優しい腕。背丈は近くなったのに、より感じるようになった自分とは違う逞しい胸。
こちらを見てくれない時に感じる焦ったさとは違う、腕の中にいるのに感じるこの疼きはなんだろう

早く早くと急かす声は、誰に対して?
兄様? それとも私自身?
早く捕まえたい 側にいる私を見て

次の朝が来る前に