13日目の大一番は貴景勝ー熱海富士と言い切ってよかろう。貴景勝は自力で熱海富士に並ぶチャンスだし、熱海富士は大関に勝つことで優勝に大きく近づく。そんな一番で大関の貴景勝が勝利。熱海富士と貴景勝が3敗で並んだ。

■全力で挑めた熱海富士
熱海富士は今持てる力を出し切れただろう。二字口に戻り、悔しさなのだろうか思い切り自分の下がりを外した熱海富士。そこに何の思いがあったのかはわからないが、何か、まだ自分の力不足を思い知らされたような表情にも写った。だが、今はまだこれでいいだろう。ここ数日の貴景勝は充実している。そんな貴景勝に力いっぱいぶつかってその力を知ることができた。月並みな言い方だが、この負けは次につながる負けだ。とはいえ勝負自体は貴景勝が力の差を見せた相撲だったようには思う。立ち合いは両者思い切り当たったが、熱海富士は必死の全力での当たり、貴景勝も同様だが、貴景勝は次の手が出やすい余裕のある全力の当たり。熱海富士はとにかく強く当たる。同じ全力の当たりでも貴景勝は次の手が繰り出しやすい当たりをしていた。何かそこに両者の差があったようには思う。熱海富士は敗れたが、これでいいだろう。幕内2場所目の若手が大関に自分の全力を出し切った。12日目の大栄翔戦についても同じことを書いたが、今は勝てない。でもいつか勝てるときがくる。それを感じさせる清々しい取組でもあった。それにしても貴景勝のここにきての充実ぶりも見逃せないわけで、そんな貴景勝相手に十分の相撲を取れた熱海富士もまた素晴らしかった。

■若元春に食らいついた剣翔
剣翔の役力士戦を見たいと一昨日に記したが若元春戦が組まれた。昨日の敗戦で優勝争いからは脱落気味だった剣翔だったが、いい相撲を見せてくれた。立ち合い左上手を引けたかのように見えたが、若元春が回しを切ると、その回しは最後まで取らせてもらえず、そこに若元春の巧さを見たが、下手一本で若元春の攻めを凌ぐ剣翔もなかなかのものだった。取組自体は若元春の完勝に近い相撲になったと思うが、こういう相撲を取れるのなら。以前は十両の主、十両で勝率5割の力士。そんな力士が30歳を過ぎて幕内の下位にはいつもいる力士になっていたが、何か、そこを抜け出して番付を上げてくるのではないかという期待感を持たせる。はっきり言ってしまえば、ここから剣翔が上位陣を倒すとか三役に上がるなんていうのはまだ見えはしないが、それでも平幕下位に居座る力士でもないとも思えてくる剣翔だ。

■高安の精いっぱい
高安は熱海富士に敗れたことで意気消沈でもしたのか、何か気力が失せているようにも見えてしまう。まだ優勝のチャンスは残されているわけだが、仕切りから含めてもはや優勝を狙うような力士には見えなかった。昨日は錦木に勝つことができたが、高安の強さを見せられた勝ちではなかった。「あきらめた」と言ってしまえば聞こえは悪いし、本人にそのつもりはないのだろうし、とにかく目の前の一番での勝利を目指すというのはどの力士にも共通して言えることなのだろうが、優勝を狙い位に行く力士のオーラは全くなかった。厳しいかな、これが高安だ。よくプレッシャーに弱いということが言われる力士ではあるが、プレッシャーを感じる以前の問題だ。はっきり言えば高安を見ていてがっかり感が強い。自身が勝って、貴景勝が熱海富士に土をつければ3人が3敗で並ぶ展開。チャンスは残されていた。だが、他力の部分もあるにせよ、そのチャンスをつかみに行こうという気迫は見られなかった。高安が充実しているときの高安のオーラはすごい。そしてそれを幾度も見ている。だからこそ、結果論でもあるが、この勝負、高安に勝ち目はなかった。そう感じずにはいられない取組だっただろう。

■朝乃山は御嶽海戦、14日目は正代戦
番付はやや離れているが朝乃山に御嶽海戦が組まれた。平幕同士でこの両者が戦う姿は積極的に見たいとは思わないが、注目ではあった。御嶽海は大関時代の強さは失われている。さすがに平幕11枚目まで番付を落とせばそれなりに成績は残してくるし、それゆえに組まれた朝乃山戦だとは思うが、朝乃山もまだ強さは見せていても今場所は大関3人に3敗したのが現実だ。両者の一番いい時を考えれば物足りない面は否めないが、それでも朝乃山は今の御嶽海になら圧倒できるところは見せてくれた。御嶽海も物足りないと言えば物足りないが、朝乃山が大関に戻る気なら、絶対に負けてはいけない相手だっただろうし、その相手に強い相撲を見せられたことは非常に良かったと思う。そしてその朝乃山は14日目は正代戦。朝乃山は復帰後、すでに正代と2回対戦し2回とも勝っているが、これもまた負けてはいけない相手だろう。今の朝乃山は事実として大関に在位していた実績があるが「20代後半の三役を目指す平幕上位の力士」とみるならば、(自分も元大関とはいえ)御嶽海や正代に負けてる場合ではない。三役に上がるためには枠の関係もあるし、番付運もあるので、一概に何勝したら上がれると言い切れるものでもないが、(2枚目の9勝で筆頭どまりはどうなのかとも思うが)目指すは残り2番も連勝で2桁白星だろう。大関戦はともかく朝乃山の強さは見せられているのだから、最後、あとは大関に勝てれば自分が大関に上がることも十分に見えてくる。そういう相撲を見せてほしい。

■残り2日、負けないこと。
大関が終盤にこの相撲を見せられたら貴景勝がたとえ4敗したとしても優勝を果たすことが勤めなのではないだろうか。だが、序盤どうにもならなさそうだった大栄翔がここにきて星を盛り返してきている。その大栄翔には貴景勝戦がまだ組まれていない(14日目の結果次第で千秋楽が貴景勝-大栄翔になる可能性は十分にあろう)ことも考えれば大栄翔にもチャンスは残されているともいえるだろうが、もう貴景勝が残りすべて勝って決める。これがスマートのようには思う。熱海富士も連敗したとはいえ、まだ先頭に立っており、貴景勝がどうなろうと、自分がすべて勝てば優勝だ。それをつかみ取るために、最後決定戦で貴景勝が待っているなんていう図式もあるだろうが、勝てばいいのだ。それは貴景勝戦が残されている大栄翔についても言えることだ。机上の計算なら「5敗」にも可能性があったりもするのだが、そんなおかしな場所にしなくていい。貴景勝と熱海富士がもう1敗したとしても、優勝の可能性は残されている。だが、誰が優勝しても。その優勝者に求めたいことは、ここから先、1つも負けないこと。それが今場所の最後、私が求めることだ。